【貴方は戦わなくていいからね】
ピチューは遥香のことがとても心配でならなかった。今の彼女は変な口づけが首の後ろに付けられている。彼女には家に出るのはダメだと言われたものの、ピチューは彼女の命を助けるために
(…ごめんなさい、やっぱり!)
この家から出てどうすれば良いかと考える。玄関のドアは既に遥香が鍵を閉めており、ピチューの身体では届かない。
窓も飛べばなんとかなるが、窓のそばに置いてある物が多すぎて上手く着地できずに落ちてしまい。ピチューは家中をくまなく探し回って、一階のリビングの窓の鍵が開いていたのを見つけた。
(やった!これで遥香を‼︎)
助かったのは遥香の家がマンションではなかったこと。マンションだったら窓やリビングから出ても高い所から飛び降りることはできなかった。
ピチューはリビングから出て、家から外に出ても一般市民に気づかれないように遥香の元へと探しに向かった。
「今行くからね!」
ピチューはポケモンであるため、遥香の匂いを覚えながら進んで行った。
*****
遥香の首筋に魔女の口づけがつけられている。本来、魔女の口づけは一般人につけられるもので、魔法少女に対してつけることはあまりない。
彼女は誘われるかのように魔女の住まう場所へと向かい、眼が覚めると既に魔女の結界が張られて戦っていた。
「⁉︎…ここは」
使い魔が遥香の周囲を囲み、襲って来た。
「どうやら戦うしかなさそうねっ…‼︎」
遥香は魔法少女に変身し、両手剣を構える。
魔女の方は遠くにおり、近づこうとしても使い魔が道を塞いで阻まれてしまう。遥香一人だけで倒してはいるものの一向に減る様子はない。
自分の身を守るだけで精一杯だった。
「しまっ…」
魔女の方に顔を向けると、黒い液体が放出され、彼女の身体に付着する。その液体の香りによって、彼女の意識が遠のいていった。
その香りは彼女の内にある記憶を呼び覚ました。
*****
遥香が魔法少女になる前の頃の記憶
幼い頃の遥香は、父と母に褒めてもらいたかった。自分で何事にも頑張って褒めてもらおうとするが、いつも姉が優位に立っていた。
両親が期待を寄せていたのは姉だけで、自分の成功を喜ぶよりも、姉の方が多く喜んでいることに落ち込んでいる。
優秀な姉の存在に嫌悪感があった。
(私に期待なんかしてないんだ…)
「やっぱりそこにいたのね?お父様とお母様が心配しているから帰りましょ」
夕方ごろ、遥香が公園にいた時に姉が遥香を探していた。父親も母親も心配しているから帰ろうと言うものの、反抗的な態度をとっている。
「どうしたの?そんなにご機嫌ナナメで…お姉ちゃんが聞いてあげるから言ってごらん?」
ずっと落ち込んでいた遥香に気にかけており、何かあったを聞いてくる。姉はいつもの笑みで遥香に聞いてくる。なんでも相談に乗る姉に対して鬱陶しく思った遥香は
『お姉ちゃんに、私の気持ちが分かるわけがない…大っ嫌い!』
それを聞いた姉はとても悲しそうな顔をしていた。これ以降は姉に対する仲は悪くなり、遥香は姉と顔を合わせるだけでも不愉快な気持ちになってしまった。
それから数ヶ月後、まだ姉に不満を抱いていた時にキュウべぇと出会った。
その生物は望みを一つだけ叶えると言うが、本当に願いが叶うのかという疑惑があったが、姉に対する嫉妬の方が上回っていた。
遥香にとって両親や、姉、みんなが愛してくれると思い。だから、姉に対して少し不満をぶつけても良いと考えた。
その生物に向かって、彼女は願いを言った。
「お姉ちゃんを消してほしい」
そのわがままな望みで姉は消し去られてしまった。その願いの代償を遥香が後から知ったのは、それが叶った後のことだった。
その願いによって、姉は産まれてないことにされていた。
(私は、余りにも子供だった)
自分の願いによって姉を消したことを、酷く後悔した。
その願いの結果で運命が書き換えられ、遥香以外の全員が姉に関する記憶を無くしている。願いを言った遥香本人は自分の姉のことをしっかりとよく覚えていた。
*****
その魔女は、体液を敵に付着させ、トラウマの記憶を掘り下げて魔法少女の精神を抉る能力を持っている。使い魔は襲うことなく、弱って倒れている遥香を囲っている。
まだ傷つけたりされていないが、過去の記憶に懺悔すればするほど彼女の身体が衰弱していく。
(私は他人のことなんて何も考えてなかった。魔女を倒すのだって誰かの為に思ってやってきたわけじゃない)
遥香は失くした姉の記憶を見つつも、ヨロヨロになりそうな身体で両手剣を杖代わりにして立ち上がろうとする。
委員会の責任を務め、優秀だから頼りにされている。けれど、完璧を装ったものは一点の綻びによって脆く崩れていく。
(何が完璧でリーダーなの…私は他人の事なんて何も考えてなかったんだ…魔女を倒すのだって誰かのためにやっていたわけじゃない。
犯した罪の重さに耐えるしかない私は、そうしないと心が保てなかった。
最低な人間よ…)
あの鎧兵の存在がいなかったら自分がもっとしっかりしていなかったら千里は死んでいたかもしれない。魔女の腕からは七つの刃を展開され、弱った魔法少女を殺そうと近づく。
(あぁ…死ぬんだ。私がお姉ちゃんを消してしまった罰なんだ)
遥香は死を覚悟した。たとえ千里や亜里沙、茉莉の三人が遥香を探して助けに来ても間に合わない。
もうダメだと実感したその時、
ーーーーピチュゥゥゥッ‼︎
駆けつけた小さな黄色のネズミが高く飛び、叫んだ。ポケモンの技『かみなり』が魔女の頭上に炸裂し、魔女はグリーフシードへと変わっていく。
使い魔と結界は魔女が倒されたことで消えてしまった。
*****
一匹の黄色いネズミが遥香の元へ駆けつけてくれた。遥香は生きており、腰が抜けてその場に座り込んでしまう。ピチューのことを呆然として見ているだけしかできなかった。
「大丈夫?」
「…⁉︎そ、外に出ちゃダメだってあれほど言ったのに」
「あの、遥香のことが心配だったから。だからその、ごめんなさい」
遥香はピチューに家から出るなと言ったとに注意を無視して助けに向かったことに驚いていた。
「全く、無茶して…でも、嬉しかった」
遥香はピチューの元に向かい、強く抱きしめて頭を撫でる。彼女の過去の罪がなくなったというわけではないが、今の彼女には誰かと一緒にいてほしい気持ちで一杯だった。
「こうしてもらっていい?」
(苦しい苦しい‼︎)
抱かれていたピチューの方は遥香の大きい胸で息苦しくなって暴れている。喜んでいるというわけではなく、呼吸ができないという理由で遥香の腕から逃れた。
「苦しいってば‼︎」
「ごっ、ごめんなさいっ!優しくするからね?」
遥香は顔を赤くしている。あまりに遥香が抱き枕みたいに加減をしていなかったせいでピチューは拗ねている。
「心配かけて…ごめんなさい」
「一体、どうしたの?」
「私ね。過去のことでずっと悩んでいたの」
遥香はピチューに全てを話した。
魔法少女になる前の姉のことや、魔法少女になって不安になっていたこと、自分の判断ミスのせいで仲間を殺しかねなかったことや、完璧だと思っていた自分に情けなかったことも。
「誰も助けに来てくれないって思っていた。ここが死に場所なんだって…でも、貴方が助けに来てくれた」
「それは僕も遥香のことが大事だからだよ。完璧なんて誰にも分からないし、失敗は誰にだってあると思う…でもその失敗は絶対に無駄なんかじゃないよ。お姉さんのことだって小さい頃だったから自分だけが何もかも悪いわけじゃないと思う。それに良い面も、悪い面も含めて遥香は遥香なんだから…そんなところもあっても良いと思うんだ」
「ありがとね…それじゃあ一緒に帰ろうか」
遥香の方は全てを話すと心が安心し、さっきまで泣いていた顔がスッキリしていた。遥香はピチューを人に見られないように隠れつつ、家に連れて帰ろうとするが
「やれやれ、こんなことになるとは思わなかったよ」
「キュウべぇ⁉︎」
キュウべぇはピチューの方をじっと見つめながら出てくる。声をかけられるまでは遥香達は全然気づいてなかった。
(あれが、遥香を‼︎)
ピチューはキュウべぇは遥香の過去の話から知っている。遥香をあんな風に苦しめたのは、キュウべぇだったからだ。
「君の方はどうやら落雷や電気を出す動物のようだね?」
「君の方って…⁉︎」
「驚いてるよ。君たちの側にいる魔法少女のグループには赤色のドレスを着た人や、高校生の格好をした男の人も僕らの知らない能力を持っている。
これらが魔法少女全員に影響しているのかと思っていたけど、そうじゃないみたいだね。この現象が起きているのは君達だけのようだ」
キュウべぇは彼女ら四人の様子を遠くから伺っていたために、ネロや花京院の存在も知っている。キュウべぇは呼ばれてない間、接触せずに遥香達を観察して眺めていた。
「それと、君のソウルジェムはもう限界まで穢れきっているよ」
「えっ…?」
遥香がソウルジェムを取り出すと、前までの輝きが失っており、ほとんど黒く染まっていた。
「そうだ、グリーフシード‼︎あれっ、無い…なんで、なんで無いの⁉︎」
「ちゃんと確認しないとダメじゃないか」
遥香とピチューはグリーフシードを必死に探そうとするものの見つからない。魔女を倒したはずなのに転がっていたグリーフシードがいつの間にかなくなっている。
焦って探している遥香に変わって、ピチューがキュウべぇに話しかけた。
「遥香のソウルジェムが黒くなったら、一体どうなるのっ…⁉︎」
その点について、ずっとピチューは気掛かりになっていた。遥香からは体調が悪くなったりというようなものだったが、それだけでは済まないと悪い予感がした。
「そのままソウルジェムが穢れを溜め込みすぎると、最期は魔女になるんだ」
「えっ…?」
キュウべぇから告げたものは、信じられない内容だった。
ピチューの方は遥香が魔法少女になっているのだから知っているんだと思っていたが、当の本人は知らない様子になっている。
ソウルジェムによってあの禍々しい魔女へと変貌するこどに恐怖している。
「うそ、でしょ…私、そんな話聞いてない‼︎」
「本当のことだよ。魔法少女のシステムを提案しているのは僕だからね」
自分の身の危険を感じた遥香は絶望し、ソウルジェムの黒化は加速していく。このままいくと、遥香が消えてソウルジェムから魔女が生み出されてしまう。
遥香が魔女になるのは時間の問題だった。
「…私を置いて逃げて。このままだと、貴方まで巻き込んでしまう。
私は、もうダメなのかもしれない。
貴方が亜里沙達に会ったら伝えて…今までありがとうって」
「そんな!そんなの‼︎」
「助けてもらったのに、ごめんねっ…」
遥香が涙を流して、謝った。
彼女の身体を黒いものが蝕み、覆いつくそうとしている。ピチューはなんとかしようとするものの、どうにかなるすべがない。
(どうするっ…どうすれば良いんだ‼︎)
そんな時に、遥香達の周囲に黒い霧が漂う。近くにいたきゅうベェは遥香が魔女になって、その結界に巻き込まれる前に立ち去っていく。
黒い霧からは鎧兵が出現した。
「…⁉︎誰っ‼︎」
ピチューは既に身体に雷を放電して、戦う準備をしている。魔女に落雷を落としても、まだ元気が有り余っていた。
ピチューにとって鎧兵を見たのは初めてであり、敵なのかと勘違いをしている。
(まさかそれで、魔女化しそうな遥香を殺すつもりなのかっ⁉︎)
鎧兵が魔女になりかけている遥香を持っている剣で殺そうとするつもりなのかと、ピチューは絶対に近づけさせまいとした。
『…』
タートナックはその生物に警戒されたことに気づき、すぐに武装を消し、右手を差し出しながらこう言った。
『ソウルジェム…』
「えっ…」
『ジカン…ナイ。スグニ』
遥顔とピチューは不振になりながらも、鎧兵の言葉を藁にすがってても信じるしかなかった。遥香はすぐさま汚れきったソウルジェムを差し出すと、大量に溜まっていたソウルジェムの穢れがタートナックに全て吸い取られていく。
魔女になりかけの状態になっていたはずのソウルジェムが、数秒で一気に綺麗になっていた。
「嘘っ…穢れがこんなに減って。綺麗に」
普通は倒した魔女が落とすグリーフシードを使って汚れたソウルジェムを回復するのが魔法少女だったが、こんなことになるとは思わなかった。
「待って!貴方は…なんでこんなことするの。その…千里や私のことも助けてたのは、ありがとう。でも、貴方は…なんで私達にどうしてこんなことをするの?」
〔…サヨナラ〕
「あっ、待って⁉︎」
それをいった時には、既にタートナックは黒い霧に同化して消えていった。
「まさか、鈴音が襲ってきているから私達のために」
鎧兵を聞いて、最初は魔女の使い魔の召喚から呼び出されたから敵なんじゃないのかと不審に思っていたが、遥香自身や仲間である千里を助けたり、ソウルジェムの穢れを吸収してくれているのを見て段々と悪い存在であるとは思えなくなった。
「僕達、救われたんだ…あの鎧兵に」
遥香は魔女になりかけになっていたところを、駆けつけた鎧兵に救われたから。
*****
『あーあ、台無しだよ』
ソウルジェムの穢れを吸収していた鎧兵の光景をずっと見ていた少女は鎧兵というイレギュラーに許せなかった。すずねの記憶を改変させて、キリサキさんという暗殺者を出すことで、他の魔法少女を殺害させ、真相を見せることですずねは殺した罪悪感によって地獄に叩き落とされるはずだった。
少女の手には、遥香達が倒した魔女のグリーフシードを気づかれる前に取っている。
が、鎧兵の介入によって茉莉達が死ぬことがなかった。更に、花京院典明やネロなどのよく分からない人物達までいつの間にか加担している。
このままだと、すずねを絶望に落とす前にあの鎧兵に邪魔されてキュウべぇとの取引が崩れる。
『…やっぱりあいつ邪魔だね。良いところで横に入って救おうとする。このままだと計画が崩れちゃうよ。
すずねが千里を暗殺しようとしていた時だってそう。今回は魔女になりかけだったのに…もう、今夜中にすぐに始末しようか。この人数で始末できるでしょ?』
「承知した」
しかし、他に介入しているイレギュラーはその少女の方にもいた。彼女の側には、緑の杖に黒肌のした男の黒魔道士と4体のシャドーファイターがいる。
『待っててね、スズネちゃん。
貴方を絶望に落とす前に、貴方の大事な魔物を私の手で始末するから。記憶が戻ったら、どんな反応するんだろうなぁ』
そのシャドーファイターの中には、かつて緑の勇者であるリンクがそこに含まれていた。