無口な黒き鎧兵   作:斬刄

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その想いを受け継ぐために

「茉莉っ…⁉︎」

(何、あいつっ…)

(身体が…思うように動かない)

亜里沙と千里、遥香達三人は、黒魔道士によって召喚された魔王に驚いている。魔女とは比較にならないほどの桁外れな魔力を放出しながら歩いている。

 

どす黒い闇が、彼を包んでいる。

茉莉達は今まで感じたこともない禍々しい魔力に触れ、鳥肌が立っている。

 

「それにしても人間に情が移って、こんな馬鹿なことをするとは。

全くもって、無駄死にだな」

「…取り消せ、今の言葉を‼︎」

 

怪我をしていても、典明はゆっくりと立ち上がる。

今の彼は再起不能になってもおかしくないくらい重傷だった。

 

「断じて取り消すつもりはない。立ち上がってたのならともかく、ここまできて奴は死に絶えだ」

 

ガノンドロフは、消えたはずの鎧の破片を持っている。その破片は鎧兵の消失によって塵になり、風とともに飛んでいく。

 

「どんな方法を使ったか分からないが、あの黒魔道士はこれを触媒にしてくれたおかげで…私はこうして蘇ったわけか」

 

その世界における物が、こうして魔王をこの世界へと導いた。勇者のいないこの世界で、この男の力を止められる脅威はいない。

目の前で食い止めようと立ち上がる彼らは、ガノンドロフにとっては雑兵に過ぎない。

何人来ても、問題なかった。

 

「見た夢も叶えられないどころか、あの哀れな少女を絶望させるきっかけになり…あんな化け物に変貌させるとは、とんだ愚図だな。

 

まぁ、奴のおかげでこうして復活できたのだけは感謝するが」

 

ハイエロハントグリーンのエメラルドスプラッシュをガノンドルフに当てる。

しかし、全ての攻撃を弾き飛ばされた。

 

「黙れっ…!」

 

彼は立ち上がった。

鎧兵を侮辱したその発言を、許すつもりはない。他の仲間は臆しているが、魔王から放つ威圧と似たものを感じたことは彼にはあった。

 

生前、DIOに恐怖を克服したことで彼の身体はまだ凛として立ち上がれる。

 

「何を怒っている?

全てはそこにいる小娘二人が原因な筈だ」

 

魔王はそばにあった白い生物を拾う。それは、狂化の影響で朽ち果てているインキュベーターの一つだった。

 

「これは確か、お前達の言う契約者のインキュベータだったか…?魔法少女の仕組みについてはあの黒魔道士を通じて大体は理解している。

 

お前達に一つ聞くが仮に彼らが消失したことで、一体誰が悲しむと思うのだろうな?」

「…どういうこと!それにインキュベーターはみんなを利用して」

 

魔法少女の絶望からエネルギーを回収して、役に立ってくれたら他の魔法少女に狩られて死ぬ運命だった。

 

それなのに鎧兵の命懸けの行為が、どうして悪いことだったのか。

先に遥香が、口を震わせて発言した。

 

「ち、ちょっと待って…今の私達は魔法少女の真実を知っている。

でも、 仮にもし真実を知らない魔法少女がいたとしたら」

「そう、真実を知らぬ無知な魔法少女だ。疑心に思わず純粋な心を持つ者なら突然消えて、いなくなったことに驚くだろう」

「そ、そんなっ…⁉︎」

 

キュウべぇを相棒だと思う人、気軽に話せれる人…親しく思っている魔法少女がいるのだとしたら死んだことに違和感を抱く。

 

「皮肉なものだな?真相を知る者が忌むべき存在を消したいと望んでも、無知な子らは親しかったその生物を殺されてどう受け止める?

 

この下らん生物のために敵討ちの為に動く者もいるだろう。お前達は端的に諸悪の根源を潰せば、それで万々歳だと思っていたんだろうな?」

「うっ…‼︎」

 

何も言い返せない。

インキュベーターの目的を知って彼女達は嫌悪感を抱き、その生物を無力化させることに成功した。このまま鎧兵が生還していれば、絶望を吸収して鈴音達はより長く生きることが可能だった。

 

しかし、今となっては悪い方向へと向かっている。

 

「結局、命をかけてやったことは厄介事を残しただけだろうに。お前達もお前達で感情的に動いた分、楽観的だったのだろう?

 

このシステムを運用していた存在を潰したらどうなるのか、潰したところで身体は元に戻ることなく未来はないこと。そして、グリーフシードの回収もままならない以上魔法少女の絶望からほかの魔女が出現するのも時間の問題だな?

この生物を玉砕した結果、この世界は悲惨な運命を辿ることとなった。

 

所詮、最後の最後まで出来の悪い魔物だったことに変わりない」

「違う!あの鎧兵は!」

「この現状を見て、そんなことがまだ言えるのか?」

 

鈴音は魔女となって暴れ、誰の耳にも届かない。インキュベーターの大量死も、他の魔法少女に知れ渡ることでそう考える者も出てくるかもしれない。

 

「確かに鎧兵の命懸けの行為が、お前の言う通り…悪い方向へと向かってしまったのかもしれない。

 

しかし、確かに一つだけ言えることがあるっ!

あの鎧兵が助けたいと思っていた天乃鈴音…彼女の心を壊したのは紛れのない貴様がやったことだっ!

あんな風にしたお前は…お前だけは絶対に許すわけにないかないっ‼︎」

「そうだな、壊したのは私だ。そこに罪悪感もなければ、あの少女に思入れもない。

 

 

あと…今頃思いついたのだが、駒の割には最後にいい仕事をしてくれた。

あんな風になったあの化け物共を、もしかしたら手駒する可能性があるということを発見したのだから。

自害する覚悟のない残りの魔法少女が絶望して、その怪物が私に下るのならこれほど嬉しいことはない」

「貴様ぁぁぁっ‼︎」

かつてハイラルで自分の城を築き上げて魔物を支配したように、今度は鈴音達のような魔法少女が魔女となって魔王が支配することも考えている。

 

「良いのか?あの魔女を放置して」

「つっ…くそっ‼︎」

 

既にピチューとワドルディが使い魔を撃破している。

鎧兵が消えてしまった以上、もう鈴音を生きて救う手立てが思いつかない。

「もう力が…」

「ここで踏ん張らないと、街のみんなが…遥香達だって!」

魔女を倒さない限り召喚する使い魔は永遠に出現する。

(クソっ…どうする⁉︎僕は、一体どうすれば⁉︎)

臆していないのは花京院だけではない。

英霊もまた、魔王が放つ威圧を恐れることはなかった。

 

「ォォォォオオオ‼︎」

 

 

背後からカリギュラがガノンドロフを相手に襲ってきた。本来バーサーカークラスにある狂化が鎧兵によって汚れを吸収していたことで、これまで落ち着いていた。

しかし、もう鎧兵はいない。

鎧兵の勇敢を死を嘲笑い、馬鹿にして侮辱した魔王に対する怒りはもう誰にも止められない。

 

 

カリギュラは怒り狂い、狂人となって襲いかかる。

急いで花京院は駆けつけようとするが、それをネロに止められた。

 

「魔王は…余と叔父上に任せよ。だから奏者と花京院は、鎧兵の想い人を託す」

「で、でもっ…!」

鈴音を、二人に任せた。

鎧兵の想い人である彼女が魔王の手足となって操られるよりも、茉莉達と花京院達で止めることを望む。暴れてはいるが、ここは任せろとカリギュラの背中は語っている。

(なんだろう…どうして胸が騒ついてるの)

しかし、茉莉にとってネロとは短い間だったが、もしかしたら、これが彼女との最後の別れになるのではないかと不安に思ってしまう。

それでも、

「そうですか…では、頼みましたよ」

「分かったよ!でも絶対に…生きて、帰ってきて!」

「うむ!奏者の想い…確かに余が受け取った!」

止められるのは二人しかいない。

そう信じて茉莉達は魔王の相手を二人に委ねた。

 

*****

 

鈴音の魔女よりもこの魔王を放置すれば、世界はあっという間に彼の支配下となる。魔を退けるマスターソードもなければ、立ち向かってきた伝説の勇者もいない。

 

「邪魔をするな狂人。

お前の出る幕はもうない」

【魔人拳】

「グ…ボッ、アァッ…」

 

何度も殴ろうとしてくるカリギュラの拳を掌で受け止め、溜めていた裏拳でカリギュラを殴り飛ばした。その拳は身体を貫くことはなかったが、たった一撃で内側の至る部分が破壊されてしまった。

辛うじてまだ生き残っているため、魔王はとどめを刺そうと剣を取り出す。しかし、

 

「今度は貴様か…」

「叔父上と友、そして奏者を侮辱することは余が許さん!」

 

ネロの剣先は首に届かず、ガノンドロフはすぐさま取り出した剣で防いだ。

互いに魔力を放出し、ネロは原初の火、ガノンドロフは賢者の剣を構える。

皇帝と魔王、二つの暴君が衝突する。

鎧兵の死によって魔女となった鈴音の悲しみは、もう止まることはない。

使い魔が暴れ、魔女も化した鈴音を救い出こともままならない。

このまま所構わず暴れ続ければ、街は使い魔によって死に絶えることとなる。

「まさか…鈴音が魔女になって私が生き残るなんて」

カガリは魔力消費が激しすぎて戦えない。

ワドルディは動けず、ピチューも電気切れで疲れきっている。もう動けるとしたら花京院典明、日向茉莉、詩音千里、成見亜利沙、奏遥香しかいなくなっていた。

生かそうとすればするほど状況は悪化していく。

 

「ねぇどうすんのよ…このまま野放しにしたら」

「この街の人達だけじゃない…他の街にも手を出して最悪は…」

「もう魔女となっている天乃鈴音を倒すしか…方法はない」

 

それを阻止するためには殺す他、方法はなかった。

かつての魔法少女がグリーフシードのために魔女を倒したように。

「鈴音ちゃんっ…!」

「彼女も…あの鎧兵以外の大事な人を傷つきたいとは思っていない。

あの魔王に操られれば…もう彼女は本当の意味で永遠に報われなくなる。

 

だから…僕達の手で終わらせましょう」

ここまで連戦続きで、彼らの体力も限界だった。魔女である天乃鈴音を操られる前に倒し、この世界を支配しようとする魔王をグリーフシードが渡る前に殺すしか方法はない。

仮に成功したとしても、もう鎧兵だけではなく鈴音本人は戻ってくることは絶対にない。

 

鎧兵の覚悟と彼女の涙を忘れないことが、茉莉達にとってせめてもの弔いだった。

 

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