己を犠牲にして魔法少女の呪縛を解放することができた。
それでも死に際に見た茉莉と鈴音、二人の顔は泣いている。椿は悲しんでおり、カリギュラは口を閉ざして何も言えなかった。
ガノンドロフが鈴音を拐かし、タートナックをあんな風にさせてしまったことに絶望して、心が耐えきれないままそのまま魔女となっていく。消えようとする寸前にも彼女の悲しむ声が聞こえ、今になって馬鹿なことをしたと後悔した。
この世界において自分もまた忌むべき存在だからと、インキュベーターを道連れにした。
それなのに、少女は悲しんでいる。
どうして、何でこうなったんだろうと。
鎧兵は息を引き取り、消えていった。
ーーーーーーーー
黒い空間の中
その場所はかつてリンクによって倒されてしまった魔物達の成れの果てが沢山いる。死体の山には立っているものもいる。
鎧兵の身体は、そのまま消えようとしていた。
『お疲れさん。お前が召喚されて以降のことを見させてもらったぜ。結局俺達のような種族は報われないことがよくわかったよ。まぁ、気にしても仕方ないさ。こうなることも運命だって思わねえと耐えられないだろ?』
ブルブリンは鎧兵の経験を見て、心中察した。魔法少女だからって人間もいてもいつかはこうなるだろうなと、納得のいく最期だったと理解した。次にダイナフォスは軽々しくタートナックにこう告げた。
『マジでよく頑張ったよ。人間でもない魔物なのに様々な出会いからこんなとんでもない充実した経験をしたんだ。俺達のような連中が勇者に狩られて消えるよりも比較にならないほど充実したんじゃないの?』
彼らは勇者の命を狙うために襲ってはいるが、鎧兵が変異体であったからこそ魔法少女と仲良くなり、その物語を共にしたことが他の魔物達から珍しかった。鎧兵はそんな自分の経験談を聞くよりも、元の世界に戻れる方法を聞くが、他の魔物達は不思議そうな顔をする。
ーーー元いた世界に戻れる方法、と
『…え?』
『いや何言ってんの?』
『…本気でそう思ってるのかよ?何かの冗談だろ…』
鎧兵の質問にざわざわと他の魔物達も鎧兵の発言に、困っていた。
彼らは騒ついていた。
『なぁ?まさかとは思うが、まーた人間の為に立ち上がるつもりか?いい加減もう疲れただろう?』
『え、嘘でしょ?何の冗談だ?』
驚いた顔もいれば、何言ってんだこいつって冷たい態度をとった反応をする魔物もいる。鎧兵の生きていたいという願望に、皆が皆混乱していた。
『いやいやいや!バカかテメェは⁉︎そもそもあの世界で人間の内にある醜いものを見てきただろ?
お前何を見てたんだよ!あのカガリって女もインキュベーターに嘘を言われたからと言ってそれが免罪符になるわけじゃない。
なんせ、俺達のように無関係な人にまで手を出して、巻き込んでるわけだからな?そして自己犠牲で倒され、そんでもってここに戻って来たんだ!
お前は自己犠牲だが、俺達はガノンドロフ様に忠誠を誓って死んだ!
やめとけやめとけ!
あの世界で生きたところでそんなもん周囲からは害になるだけだ!だいたい、一体そんな体でどうやって生きていくつもりだ!
…もう用済みなんだよ、ここにいる俺達は、お前さ…何か勘違いしてると思うが、あの世界で俺達のような魔物があの世界で幸せに生きていけると思うか?
別の世界からやってきて、しかも人としてではなく魔物としてだろ?あいつら全員がお前の生還を望んでも、果たして世界はお前が存在することを認めるのか?
だいたい、魔女に召喚されたのは紛れもなく【気まぐれな】だけだぞ。
ならもうさ…流れに身を任せて、そのままゆっくりと永眠していけばいい。俺達のように三途の川に身を任せればいいんだ。そのほうがずーっといい』
鎧兵は薄々気づいた。
彼らと住む世界が異なると、当然価値観も異なる。
彼らと、自分は既に異なった場所にいると。
鎧兵は一人だけでも探し出す。確かに自己犠牲の覚悟はあったが…それでもあの子がまだ泣いていると。
鎧兵は必死に暗闇の中から脱出しようと探した、が。
『人間風情に情を写すなど、烏滸がましいにも程がある。恥ずかしいと思わないのか?』
今度は頭上にいたガーナイルが探している最中に否定する。止めはしないが、無駄だからやめろと言っている。
『それでも、この後に及んであの女をまだ救おうとするのか?
寝言は寝てからいうものだぞ間抜け』
タートナックの矛盾を論破した。
『高望みしたものを手に取ることなどできないしない。それがこちらの限界なのだから。あの女を救ったところで、次は我々の支配者であるガノンドルフ様と戦うつもりか?
魔物が少女を救うためにまた立ち上がるのか?
夢を語るのも大概にしろ
誰もが、救えるような物語には絶対にならない。貴様のような奴があの悲惨な運命を変えることなどできるわけがない。
何故なら我々も貴様と同類だからだ?
それになタートナック。
既に貴様は命を落として終わったのだ。貴様の辿る物語はこれで結末となった。あの女のことは、あの世界のことは、もう素直に諦めろ』
自分と似たタートナックが目の前にいる。
しかし、何かが違う。その鎧兵はガノンドロフ城の管轄でリンクと戦い、そして破れた。
ガノンドロフに忠誠を尽くし、命令に従って人を襲う。
未練があって探そうとしている鎧兵に近づき、肩に触れて冷酷な言葉を突きつけた。
ーーお前の願望なぞ、唯の贋作なだけだ。この恥知らずの臆病者が。勇者や害する人々を倒し殺すことを強いられているのに、小娘を身体を張ってでも救うなど愚の骨頂なのが分からないのか?あんな化け物になった以上、もう誰の救いも求めていない。
求めるわけがない。救われた結果があんな形になったのだからな。
お前のせいでこんなことになった。
仮に戻れたとしても、人間でも魔物に似た魔女を救うことは貴様には不可能だ。貴様がやれることとするなら、あの少女の醜く薄汚い姿をした怪物を一思いに殺して葬ること。穢れた魂を解放させることしかできない。
浄化することも不可能だ。
穢れを取り込む?
馬鹿言え、あんな姿になった時点でもう手遅れなのは見てわからないのか?
人は、人間というものは醜い生き物だ。
彼らは共存と言いながらも、相容れない者となれば殺害し、略奪し、そうやって火種が生まれていく。
我々魔物も人を襲った、ガノンドルフ様の言う通りに…
人間の歴史はそう言ったものばかりだっただろう。
勇者も、魔法少女もまた、そんな大差変わらない。
魔物が人間を…少女を救うことなぞ無理難題なものをなぜ解決する為にどうにかしようと考える?貴様にはその道理をこじ開ける力すら持ち合わせてない。
何もないお前に一体何が出来る?
お前だってとっくに気づいているはずだ、ここがどういう場所なのか。
忘れたのか、鎧兵…お前は死んでここにやってきた。
ここが終点なんだ、もう後戻りすることはできない。
奇跡だって、起きない。
ーーー
彼らが世界に戻ることを否定していると発言しているのなら、ならばなぜあの時無関心だった鎧兵は魔女の力で、運命の悪戯のようにこのタートナックが召喚されたのか。彼女のいた環境のお陰で、穢れを取り込む力を、霧状になって姿を隠す力まで手にした。
何故、呼び出されていたのか。
何の為に召喚されたのか。
仮に理由も深い意味もなくただ単に悪戯で召喚されたとしても、それ以降の出会いには深い意味が確かにあったのだろうか。
*****
時の神殿
またここに戻って来てしまった。
タートナックは勇者を倒す為に待っている。今までのことが全て夢だったかのように。
夢にしては出来過ぎた物語を目にした。あらゆる出来事が走馬灯の様にタートナックの脳裏に過ぎる。
身体を当ててみると、中にいた椿はもういない。このままタートナックは緑の勇者リンクを待ち続け、そして戦わなければならないのか。
「甲冑…こんなものまで⁉︎」
タートナックは棒立ちになりながらも考えた。もしリンクという名の勇者を倒して生き残れたとしてもそのまま主人に忠誠を尽くし、人間を偏見な目で見下しつづけ、あぁなってしまうのだろうか。
そもそもの話人間が魔物を害だと皆したことで、勇者の存在が求められた。
魔物はガノンドルフという力の存在にすがり、忌むべき敵だってことを。リンクがここにやってきて、剣と盾を構える。
このままリンクに倒されて終わるのだろうか。生きる意味を持った今の鎧兵には勇者を倒して生き続けなければ、鈴音に会うことすらもままならない。
しかし、現実は非情だ。
鎧兵は勇者に何度も殺され、時の神殿に戻される。何をやっても無駄だということを分からさせるように。
聖剣で斬殺され、爆弾で爆殺され、弓で射殺され、あらゆる方法で何度も殺されてしまう。
英傑に立ち向かったが、撃ち破られてしまった。
(なんてしぶとい…)
鎧は剥がれ、何度も斬られてもゾンビみたいに剣を持ってまた立ち上がろうとする。リンク側から感じるものはここを守り通して見せるという絶対的な忠義ではなく、生き残って見せるといった執念心を感じとった。
リンクが戦って来たこれまでの魔物はガノンドロフに従われる従属関係のものとして、リンクをあらゆる手段を使って襲ってきた。無関係な人間も襲おうとする者達もいる。
だがこの魔物は何かが違う。
消えないまま懲りずに何度も、何度でも立ち上がろうと争っている。
それが魔王への忠誠心なのか、それとも死への恐怖なのか、見ている勇者には全くわからない。
「…」
だが、もうタートナックには剣を振る力も防ぐ力もあまり持っていない。リンクは目を瞑って、これ以上斬っても無駄だと悟った。
彼は横を通り過ぎてそのまま宝箱へと向かっていく。閉じていた扉は何故か開かれ、宝物から回収したリンクは、横目で鎧兵を見るだけで何もせず無言で出て行った。
手を出すまでもなく、この魔物はじきに生き絶えるだろうと。
魔物は誰にもわからない相手に死を自覚させようと、気が狂うほど何度も殺されていった。
何回も何回も殺され、死に戻りしている。
生きることが無意味だということを、突きつけられる。
否定されても、それでもあの場所へ戻りたいと強く願った。こんな別れ方、中途半端な終わり方をしたくないと望んだ。
魔物は勇者に何度も挑んだ。鎧は剥がれ、盾も大剣も失い、身体を支えにしているのはレイピアだけ。
魔物は倒れて、死に間際に手を伸ばす。
ーーーこんなにも、こんなにも生きたいと願ったことがあっただろうか。
まだやり残していることがあるのに。
諸悪の根源であるキュウべえを倒しても、彼女を悲しませてしまった。
『魔物は助けを呼んだ』
【しかし誰もこなかった】
誰も手を取る人はいない。
助けてくれる人なんて誰もいない。
ましてや魔物が手を差し伸べるわけでもない。
ーー無口だから
魔物ではあるが魔物らしくないから。
奇跡なんて起きない。
現実は非情だ。
世界の平和の為に魔物を、障害を退治かつ振り払おうと戦う勇者リンクには到底わからないまま。
そんな理由が蔓延る。
魔物は手を差し伸ばして、鈴音という少女の名前を呼んだ。
しかし、誰の声も届かない。
魔物は誰も救うことなんて出来なかった。
全ては、無駄となった。
結局あの世界に追放された鎧兵には魔物以外は何もない、空っぽだった。
『貴方は助けを呼んだ』
【しかし誰もこなかった】
死の間際にいた魔物達の言う通り、その願いは叶わない。もう二度とあの少女に会うことも、救うこともできない。
勇者に虐殺され、死を受け入れさせられる。
ーーそんなことないよ
(助けは来ない)
定めを覆し、天使の羽とピンク色の長い髪をした女の子が空から降り立った。
わずかな望みが、奇跡を呼んだ。現実は非情だったという悲劇を覆す存在が、鎧兵の目の前にいる。
「この世界の魔物は、人を脅かす存在として恐れられて生きているといってもいい存在だよ。
でも貴方は違っていた…魔法少女が抱えている穢れを、その絶望を拡散せずにずっと受け止めていた貴方の力は…彼女達にとって…とても優しく、暖かく包んでくれた」
女神が魔物に手を触れると、リンクがマスターソードによって斬り付けられた傷を消した。
身体が段々と治癒されていく。
壊れた鎧も甲冑に戻り、鎧兵に装着される。
「貴方が命を張ったことでこの先の未来、多くの魔法少女はこれ以上増えることのないままの未来と、キュウべぇがいない魔法少女達が歯止めが利かずに崩れていく未来もある。
そして今でも、置いてしまった一人きりの魔女が大事な人を失ったことでずっと泣いている。
貴方の祈りが、私を呼んだんだよ?
貴方が助けて来たあの子達の救済を、あそこでまだ戦っている魔法少女のみんなを、一人ぼっちになって苦しんでいるあの子も…絶望で終わらせたりなんてしない」
かつてタートナックを召喚した魔女と一緒にいた使い魔が、リンクによって傷ついた身体を修復している。
魔物、もとい鎧兵は【決意】を抱いて復活した、
全てはあの子達のいる世界へ戻り、魔女となった鈴音を救う為に。
女神は、鎧兵にこう話す。
「鈴音ちゃんは…魔女と貴方の力に取り込まれている。
魔女だけど、そうじゃない…あれは、貴方の力も入り混じって変異した魔女なの。
だから、わたしには救うことができない。
今の彼女には人格を持っていても、暴走そのものは止められない。
その魔女を救うには貴方の力にしかできない。
これから私は…今すぐに貴方を蘇生させる。
ただし、それには条件があるの…貴方は、あの子の…天乃鈴音にある奥底にある心の闇と真に向き合う覚悟はある?」
鎧兵の答えはすぐに決まった。
頷き、鈴音とまた再開する。
ーー魔女が魔物を召喚できたのは確かに運命の悪戯だったかもしれない。魔物達からは見放しても奇跡は、鎧兵を見放さなかった。
なぜなら目の前にいる救済の神が、魔物の救いに手を伸ばした。鎧兵の生還と同時に【決意】は、鼠色のハートとして段々と形付けられていく。
ーー貴方のその力は、きっと魔法少女を救う力になるかもしれないから
鎧兵は助けてくれた女神にお礼を言い、最後に何者なのか尋ねる。
彼女は微笑ましく、こう返事を返した。
ーー
彼女の言葉から、別の本名がかすかに聞こえたような気がしたが、結局何を言ったのかよくわからなかった。
女神は鎧兵に光を纏わせ、宙に浮かせる。
ーー行ってらっしゃい
笑顔でそういい、鎧兵は戻るべき世界へと戻っていく。
大事な存在を自分のせいで失い、涙を流しながら魔女となって嘆いている少女
天乃鈴音を【