無口な黒き鎧兵   作:斬刄

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あけましておめでとうございます。
今年は、鎧兵を初投稿でお送りします。


皇帝VS魔王

「はっ‼︎」

「ぬんっ‼︎」

 

ガノンドロフの剣を横にギリギリ回避し、軽やかに剣戟を繰り出す。一撃一撃が重く、直撃すればそれが致命的になる。

 

(セイバークラスでもないのに…この一撃はっ)

 

剣の才能まで持ち合わせ、最優のセイバークラス相手に押し勝っていた。一気に攻め込もうと懐に入っても、カリギュラのように強烈の一撃を叩きつけられかねないと距離をとっていた。

 

今度は馬と亡霊を召喚し、ネロを妨害していく。

 

「まさか、卑怯とは言うまいな?」

 

ネロは徐々に追い込まれていた。

ガノンドロフは馬に騎乗し、次々と現れる亡霊はネロを囲み、突撃していく。数の暴力に防ぎきれず、よろめいたところをガノンドロフがたたみかける。

 

一撃目は辛うじて剣先を回避し、体制を整えつつニ撃目の斬撃を防ぐ。

 

「亡霊達を相手にいつまでその悪足掻きが続くか。貴様に頼れるのはその剣のみ…仮に防げたとしても、手放して失えば女子と同然よ」

「果たしてそれはどうであろうな?」

「…潰せ」

 

その言葉を聞いた亡霊達がネロを串刺しにせんと襲いかかる。その後方で馬を駆け、トドメを刺さんとばかりに猛突進していく。

 

(所詮は小娘か…)

 

亡霊達の剣はネロに直撃し、最期にガノンドロフの手で止めを刺す。

その筈だった。

 

「侮ったな、魔王よ」

 

剣を手放してしまったのはガノンドロフだった。ネロは亡霊の剣全てを防がず、軽やかに向かい合わせで襲って来ている亡霊同士でぶつけさせ、迫り来るガノンドロフの剣を振り払う。

 

ネロが両手で剣を支えているのに対し、片手のみで降っていた剣は遠くへ吹き飛ばされてしまった。

しかも、振り払ったのは剣だけではない。

剣と共に、騎乗していた馬も斬りつけてガノンドロフを転落させる。

剣を手放し、体制を崩していている好機を見失わずに、一気に攻めようと動く。

それでも、劣勢になってもガノンドロフは笑みを浮かべている。転落しかけたところを、片手で受け身を取りつつ彼女の剣技を受け止めた。

 

 

「防がれたっ⁉︎」

「侮ったといったか…その言葉、そのまま貴様に返そう」

 

ーー剣などなくとも、潰すことなど造作もない。

 

そう言って身体を巨大化させ、魔獣へと変貌していく。巨大な猛獣が殺気立てて、雄叫びをあげる。

魔獣の背後には歪んだ空間を出現させ、消えていった。

 

(変化しただけではなく、消えた⁉︎奴は…一体ど)

 

瞬間、魔獣はネロの背後を取って空間移動し、奇襲した。

三度、洛陽を迎えても(インウィクトゥス・スピリートゥス)

 

殺気に感づき、咄嗟の判断でスキルを発動させたことによって復活する。吹き飛ばされたネロ自身何が起こったかわからず、よろめきながらも立ち上がっていく。

心臓部位を牙に貫かれたが、血反吐を吐きながらも剣を構えた。

 

「つっ…⁉︎小癪なっ!」

 

魔獣ガノンは再度転移しつつ、また姿を消そうと身を潜む。もう一度背後を狙ってくるかとネロは振り返るが、今度は真横から突進してきた。

 

「な、ぬっ⁉︎」

(これで、貴様は終わ…)

最初の突進が甘かったせいで生きながらえていることを確認した魔獣ガノンは、次の奇襲で確実に殺そうと早々に仕掛けた。

 

が、誰かが巨大な足を止めている。

確実に仕留められると思っていたが、全く動けない。魔人拳で倒れていたはずのカリギュラが復活し、ガノンの牙を掴んでいた。

 

「オオオオオオオオッ‼︎‼︎」

 

鎧兵がいなくとも、敵味方を認識できる理性は保っていた。カリギュラは声を上げつつ力を振り絞って、ガノンを横転させていく。

「ヌゥァァァァッ‼︎‼︎」

ネロのみを注視し、他は軽視していたのが魔王の誤算だった。横転した魔獣ガノンはガノンドロフへと戻り、変身で生じる砂塵で視界を妨げる。

 

カリギュラは手で砂塵を振り払い、そのままガノンへ突っ込んでいくが、既にガノンドロフは脚を真上にあげ、目の前で踵落としのように地面へ叩きつける。

「沈め」

「ギ、ァァッ⁉︎」

 

脚に溜めた力は爆発を引き起こし、カリギュラを再度吹き飛ばした。脚そのものに直撃はしなかったが、爆風による火傷を負い、仰向けになっている。

 

「魔人拳で沈んだと思っていたが、辛うじて立ち向かえる気力があるとは」

「叔父上っ…!」

「次は貴様だ。一度葬ったはずだが、まさか蘇るのは予想外…だが、蘇りも必ず限りはあるだろう?」

 

ガノンドロフは剣を拾い、ネロの元へゆっくりと歩いていく。まともに戦っても複数もの亡霊を呼び出し、板挟みにされ、不死な戦いを強いられてしまう。更に魔獣へ変身しすれば、また不死界な方向から転移と奇襲を仕掛けてくる。

 

(ならば…すぐにでも劇場(宝具)を開き、早急に決着をつける)

 

これほどまでに強大な敵だと確信し、出し惜しみせず宝具を展開していく。突如頭上に現れた赤い薔薇が、二人を包み込んだ。

 

「我が才を見よ、万雷の喝采を聞け!

しかして讃えるが良い…開け、黄金の劇場を‼︎」

 

招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)

 

二人のいた場所がネロの宝具によって黄金の劇場へと変わっていく。彼女の生前に建設した劇場を再現させた空間が、ガノンドロフを追い詰める。

 

「…小娘が、これほどのまでの力がまだ残っていたか。次はどうするつもりだ?」

「天下と散れ…花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」

 

開演前に破壊すれば、宝具は発揮されない。しかし、ガノンドロフはネロが持つ宝具の弱みを一才知らず、ただ眺めているだけで無事開演されていく。

 

薔薇の花弁を撒き散らしながら、ガノンドロフに再度接近し、腹部を斬る。花弁で遮られたことで、防ぐのも遅れてしまった隙を、ネロは見過ごさない。

 

ーー喝采は剣戟の如く(グラディサヌス・ブラウセルン)

 

防御させまいと剣を掴んでいる手と腕の筋、肩の三箇所を斬りつけていく。次々と剣技を繰り出し、反撃の余裕を与えない。

 

童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)‼︎」

 

この固有結界が発動される場合のみ使用できる剣技が、魔王を斬り伏せた。今出せる最大級の剣技で斬り裂さかれ、よろめいていた。

まだ倒れていない。

 

「かつて私と対峙した勇者と同じ見事な闘志を兼ね備えてある。

覚悟のある目だ…

 

 

だが貴様の剣は、残念ながら絶命させるほどには届かない」

 

確実に仕留めることはできなかった。

ガノンドルフの身体から感じたこともない漆黒の悪意が漂い、今度はネロに接近する。既に数回もの宝具と剣技を繰り出し、疲弊している彼女にとって拳を防ぐことも回避することもままならない。

「か、はっ…」

 

魔王の拳を、そのまま受けてしまった。固有結界はまだ展開されているが、カリギュラとネロの身体は限界に達している。

更には、

 

「ネロさん…そ…んなっ…」

「すまぬ、マスター…」

 

最悪なタイミングでマスターである茉莉がやってきたことも、ボロボロの二人を見て絶望の顔をしていた。

二人のサーヴァントを相手にしても諸共しない。

彼女は全力で剣を振るい、こうして敗れている。

深傷を負ってよろめいていたガノンドロフも、今では傷が塞がっていこうとしている。

 

「その身体を、赤い薔薇と同じように赤い血を染めて散るか。

小娘の次は、お前か?」

「奏者よ…その場から、逃げるのだ…」

 

次に目を向けるのは茉莉。

手放した剣を拾い、ゆっくりと歩いていく。

ネロはまだ【三度、洛陽を迎えても】で立ち上がろうとしても、肉体が復活したところで精神面に回復していない。

 

既に、茉莉の距離は拳が届くところまで近づいている。

 

「嫌だ、逃げないっ…ネロちゃんを見過ごすことなんて出来ないよ!」

「サーヴァント…だったか?

言い方を変えれば召使いだ。

その召使いに身を挺して庇うなど、貴様の自己犠牲な行為は…実に愚かだ。

 

このままいけば貴様を、鈴音とやらと同じ魔女にすることだってできる」

 

魔王の手は、茉莉の頭を掴むことだって可能な距離だった手に稲妻を走らせ、茉莉に触ろうとするが、彼女は魔法少女へと変身して魔王の手を振り払った。

 

魔王の威圧に、唇を震わせながらも後ろに引こうとはしない。

 

「これでもまだ戦うつもりか?

それとも鎧兵を侮蔑し、鈴音という女を化け物にさせた仇討ちか?」

「鎧兵さんは、もう蘇ってる。どうやって蘇ったかは分からないけど、そのおかげで鈴音ちゃんは救われた」

 

殺してやるのが責めても情けと言わんばかりの醜い怪物と成り果てたあの魔女に、蘇っても何もしてやれないまま望み通り鉄槌を下したことを聞いて、魔王は盛大に笑う。

 

「ほぉ、あの鎧兵が蘇っていたとはな。

それで、あの鈴の怪物を一思いに消し「魔女になった鈴音ちゃんを元に戻したんだ。

ありのままのあの子を、受け入れて」」

 

しかし、その場にいなかった魔王はそう解釈しているだけで実際は鈴音は生きている。鎧兵は魔女の奥深くまで堕ち、絶望して泣き叫んでいる一人の少女を救った。

 

彼女にとって契約の時期は本当に短い間だったが、それでもネロを見捨てようとはしない。

 

「何、受け入れただと?」

「鈴音ちゃんも、カガリちゃんも救った…あの鎧兵は傷だらけになっても、それでも諦めずに手を差し伸ばした。

 

 

だから今度は…私が鎧兵さんを、ネロさんを助けなきゃいけないんだ!」

「…これでは、お前を魔女にしようにも時間はかかる。絶望させるにしても骨が折れるものなら致し方ない。

 

蘇っているのなら好都合だ、あの魔物を懐柔させるだけだ。

退かないのなら、貴様の余計な茶番に時間を費やす気もない。

魔女化することなく散ってもらう。

貴様は、余りに未熟すぎた」

 

少女は魔王の前に立ち塞がる。

魔王は剣を取り、刃を向けた。

 

狙うは少女の額につけてあるソウルジェムただ一つのみ、その宝石を貫くことでマスターの命を絶たせると同時に契約サーヴァントのネロも消える。

それを理解した上で魔王は確実に仕留めようと構えようとする、その時だった。

 

「手が、光って…⁉︎」

 

手の甲に刻まれている令呪が光りだす。

マスターの思いが、この黄金劇場とネロの持つスキル皇帝特権』が同調している。深傷を負ったネロ・クラウディウスは赤から白へと衣装が変わり、傷は癒えていた。

 

ーーまだ何も終わっていない。

 

三度目の復活と同時に、霊期が変化していく。

ネロはゆっくりと、その場に立ち上がった。

 

「…奏者よ、其方に謝りたいことがある。

倒れかけた時、もう立ち上がれないと余自身で勝手に諦めて、終わろうと少しだけ考えたことを許して欲しい」

 

衣装は拘束具へ、舞台も、落ちていた薔薇も赤から白へと変わっていく。

三度目の蘇りは、茉莉のお陰で凛として立ち上がった。

 

「余は、この絶望的な恐怖を前にしても揺るがなかった奏者の決意と期待に、そして愛に!

一層応えねばなるまい!」

 

 

舞台も変貌し、疲弊した精神も癒えていく。

本来の令呪では回復や魔力向上といった用途に使用されるが、霊期そのものを変化させることはできない。

が、目の前で起きた奇跡がネロを完全なる復活へ成し遂げる。

 

「魔王よ!

其方が相対している奏者は未熟者ではない‼︎

脅威に立ち向かい、勇敢孤高に挑まんとする少女を未熟と見下すというのなら…このネロ・クラウディウスも相手になろう‼︎

今度こそ、この舞台の本当の幕引きといこうではないか‼︎」

「さっきまで倒れていた奴が何をほざく。

ならば望み通り、幕引きとしよう。

今度は貴様らの墓場を終劇としてな…!」

空気が静まり返る。

ネロは剣に情熱の炎を、ガノンドロフの剣は紫と黒を入り混じった禍々しいオーラを纏っていく。

勝負は一瞬、黄金の劇場が消えれば魔王に勝つことはできない。

 

劇場は震え、お互いに込められた剣を両手に持ち、合間見える。

 

「魔人剣っ‼︎」

「唄え、星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)‼︎」

 

双方、最後の一撃をぶつけた。

ガノンドロフの持っていた剣は血で赤く塗れ、一太刀でネロは腹部に傷を負った。

 

(ツッ…!)

「そんな…それでも届かなかったの」

 

少女の強い想いと奇跡によって霊基が変わったとしても、それでも魔王に届かないと茉莉は泣きそうになってしまう。だが、

 

「いいや。貴様の、お前達の勝ちだ」

 

最後の一撃に込めた剣技は、届いた。

本来の生身ならマスターソードでない剣で無ければ勝ち目などない。たとえ心臓を刺されようとも、聖剣ことマスターソードでなければガノンドロフを打倒できずに、魔王は敵を捩じ伏せることもできただろう。

 

仮にも英霊として呼び出されている身である為、切り口から多量の魔力が放出され、身体が薄れていく。

 

「三度も甦り、剣は我が身に届いてしまったか。今度の敗因は聖剣でなく、砕けてしまうこの霊体か…実に、脆い身体よ」

 

情熱の炎に覆われ、霊体化した身体は炎と共に徐々に消えていく。

 

「余だけでは勝てなかった。

叔父上のお力添えと、余と奏者の愛で…ここまで届くことができた。

 

余もまた、奏者が大好きなのだから!」

「愛か。そんな下らないもので、負け…いや、生前でも満更そうではなかったか」

 

愛という言葉で負けるなど巫山戯るなと一蹴するつもりであったが、後々考えても勇者リンクも旅を続け、魔王を討ち取らんと考えていたのは世界を、ゼルダを、その世界で生きてきた人々を愛していたからこそ、こんな形で負けてしまったのも頷けれた。

魔王は消える前に、皇帝に問う。

 

ーーー散る前に聞こう。

ーー貴様は、何者だ。

 

「ネロ・クラウディウス…ローマ帝国の第5代皇帝である」

「ほぉ、そうか…今度は勇者ではなく皇帝に討ち取られてしまったか」

 

この世界を支配できなかったのは不服ではあったが、それでも最後の一騎打ちは勇者リンクとの激闘と等しいほどの心を震わせるものだった。その結果は消えるのは二人ではなく、生前と同じ末路であったが、

 

「だが、実に悪くない戦いだった」

 

この戦いをかつてリンクと決戦の地で相対していたのを思い浮かべながらガノンドロフは、笑みを浮かべて消えていった。

 

「ネロちゃん!カリギュラさん!」

 

茉莉が二人の元へかけつき、二人の安否を心配する。

 

「余は軽傷で済んだ…寧ろ叔父上の方は酷いが、魔力を供給すれば助かるであろう」

 

茉莉は魔法少女の姿から元に戻ると、彼女の手の甲にあった令呪は奇跡の代償として、既に全て費やされていた。

さっきまで白い拘束具の格好から赤いドレスへと元に戻っていく。

「あっ…手の紋章が、それにネロさんの服も」

「奇跡は一瞬であったな。令呪三画全てを費やしても、あんな事が起こせるとは思わなかったが…しかし、鎧兵が蘇っていたとは」

「うん。魔女になった鈴音ちゃんを救ったんだ…長い戦いも終わったんだよね。

でもこれから、どうなるんだろう…」

今こうして鈴音達全員が生きているものの、キュウべぇから明かされた魔法少女の真実と今後の在り方に皆が考えなくてはならない。

鎧兵の能力、カガリの処遇について、それを助力した魔導師のこと、そして魔王が言った通り、キュウべぇの数が一匹のみとなってしまったことで他の魔法少女にも影響を及ぼしている。

鎧兵も生きていたとはいえ、他の人に魔物だとバレてしまえば、みんなと同じように平穏に生活できるのは極めて難しくもなるだろう。鎧兵以外にもワルドディ達はサーヴァントとして神出鬼没に出現しているのならば、彼らとも役目を終えて別れるかもしれない。

それでも、

 

「案ずるな、皆…誰も命を落とすことなくこうして今を守ることができた。確かに奏者の言う通り、辛いこともあるかもしれぬが…何も全て悪い事ばかりではない。

 

今後の話は失ったものを数えるのでなく、これからを笑い合って話すこともできるであろう?」

 

そう言ったネロの笑みに茉莉も少し笑って安堵する。昇っていく日の光と、その光に照らされた二人の笑顔はとても輝やいていた。

 

こうして、キリサキさん事件解決と黒魔道士によって新たに召喚された魔王の撃破と共に、長い夜が明けた。

 

 




この小説自体投稿はかなり遅いですが、もう残り数話で完結へと差し掛かっています。
最後まで読んで頂けると、幸いです。
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