無口な黒き鎧兵   作:斬刄

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この世界へやってきた異世界の者達が元のいる場所へ帰るのか否か、その期日が刻々と迫っていく。

鎧兵は鈴音達といる為に、ネロ、カリギュラの二人は守護霊としてこの世界に残ることとなった。イービルも自力で転移出来るから対して問題無い。

しかし、それ以外の二匹と一人は?

イービルから神の施しについて話してから、約3ヶ月の月日が経った。他の仲間が帰還、永住のどちらを選ぶかーー運命の日がやってきてしまった。



これからのこと

 

 

「「それじゃ、行ってきます」」

「行ってらっしゃい」

 

茉莉とカガリは学生服に着替え、玄関で椿が見送っている。朝から早起きしていた鈴音が、二人の家の前で迎えに来てくれており、二人が家から出るのを待っていた。

 

「あ、鈴音ちゃん!」

「もう新聞配達も早朝に済ませておいたから、一緒に行こう」

 

今では3人で登校し、仲良く話をしている。

彼らの側には霊体化したネロが、一緒についている。

 

あのキリサキ事件以降から、ずっと誰も死ぬこともないまま彼女達は平和に暮らしている。事件時は学校中の噂になってたが、時間が過ぎれば忘れ去られていくだけだった。

 

*****

 

学校の屋上

 

春香から昼休憩で集まるよう念話で伝えられ、ワドルディ達のことについて話していく。神が言っていた、元の世界の帰還かこの世界の滞在のどちらを選んなのかを話す。

この件に関わっている千里と亜里沙、春香の3人は浮かない顔をしていた。

「千里のとこにいる花京院さんって人は結局どうなったの?」

「やっぱり、あの人は元の世界に帰還するみたい。ここに長居すると私にも迷惑をかけるからって」

 

ここに来てからの彼は、茉莉達の魔法少女の揉め事に巻き込まれ、見返りもないまま自分の意思で助けようとしていた。

それでも少なくとも鎧兵側に加担し、かつ神に協力したことで元の世界に蘇生してもらえるというのとを知った時、見返りが欲しかったとしても十分貰っていると話していた。

 

ーーーーー

『十分です。承太郎や他のみんなの元で生きれる機会を与えて貰えるのなら』

『…どうしても、元いた世界の方に帰るの?』

『貴方達が悪いわけではありません。

もし先に出会っていたのがあなた達で、このハイエロファントのことも見えているのなら、僕はこの世界に残っていたでしょう。

 

 

だが…かつての僕は操られ、勝つことが正義だと思っていた。あの魔王の強さに心酔し、君達を裏切っていたかもしれない。

 

今の僕があるのは、エジプトへ行くまでの長旅に一緒に苦楽を共にしたかつての仲間達がいたからだ…だから、短い間だったけどお世話になりました』

『確かに短い間だったけど…貴方の力のお陰で、私達も助かったのは本当の事だから。

だから、私からも今までありがとう…元気でね』

ーーーーー

前日に千里と花京院が最後の会話と別れの握手をし、当日となった時には既に花京院は千里の家からいなくなっている。

 

千里は少し残念そうな顔をしていたが、こればかりは花京院が決めることだから仕方がなかった。

 

「それで遥香は?」

「それが…いくら部屋中探し回っても…全然見かけなくて…」

「…私もよ。

アイツ、一言もなく勝手に消えたわ」

 

ワドルディとピチューの2匹から何も連絡がないと首を振っている。もし花京院と同様にすぐに消えてしまったのなら、一言も言わずに元の世界へ帰ってしまった事になる。

 

この地球に異形の動物である自分達が存在することで、二人の迷惑になるのではないかと。この世界では存在しない生き物であり、他の人に見られて不味いことは春香達も分かっている。

 

だから、最後の最後に面倒見てもらうこともなく何も言わないまま黙って消えたのか。

 

(そっか…イービルさんや、ネロさん、カリギュラさんのように霊体化できないから…もしこのまま残っても)

 

キュウべぇのように人語を交わし、しかも一般人でも視認できる。たとえ英霊として召喚されても、霊体化が出来ない上に人に見られると騒動が起きるのは目に見えている。

 

 

たとえこの世界に留まらせても、2匹には狭い空間で息苦しい思いをさせてしまうことも。

 

「私が絶望して魔女になりかけてた時に、助けてくれたことも…ピチューには感謝しきれない恩があったから」

「アタシは…春香と違って、助けてもらった事は無かったし。寧ろトラブルばっかで怒ったこととあったけど…でも…急に居なくなったら寂しいかな。

 

 

悪気は無かったことも、可愛いって思ってこともあったし、最後くらい何か言ってよ…」

短い間だったが、居なくなると大事な存在だった事を気付かされる。

千里と同様に寂しい別れだったことに、これ以上誰も何も言わなくなった。

 

「…ねぇ亜里沙、なんか胸の辺り何か入ってない?」

「ん?そういえば、ゴワゴワしてるような」

 

しばらく黙っていた時、茉莉が亜里沙の胸部辺りの違和感を発見し、指差す。

 

亜里沙が下を向いて、制服のシャツの中を覗くと小さくなったワドルディとピチューがボタンの隙間から出てきた。

 

「…ふぅ、やっと出られた。

あ、みなさん。おはようございます」

「えっ⁉︎」

「ちょっと⁉︎

あんた、元の世界に返ったんじゃなかったの⁉︎」

 

ワドルディとピチューが、元の世界へ帰っていない。2匹とも身体は傷だらけで、少し疲れ気味だった。

 

「僕らは、元の世界へ帰りませんでした。イービルさんの弟子になって、転移魔法を習得するまでは頑張ってます。

 

今のは転移失敗して、その度によく分からない場所へ転々しました。今度は、亜里沙さんの服の中に移動しちゃったみたいです。

 

僕ら二人ともあの魔導士に魔法の勉強をしてて、当分の間はコッチに住みます。

あと、時間はかかるけどイービルさんの計らいで別の方法で元の世界に移動することも考えてるからって言ってくれたました。

 

ってあれ…?僕ら、言ってなかったっけ?」

「泊まり込みでずっと猛勉強してたから、言ってないよ。心配かけさせてごめんね…」

「それにしても、相変わらず息苦しいです」

「…」

 

亜里沙は何も言わずに、胸の谷間にいるピチューから取り出す。

 

「…これ、春香」

「あっ、ありがと…」

 

謝ったピチューはそのまま春香に渡し、対して謝らなかったワドルディは、強く掴んで握っている。

 

「ねぇ…アンタ、なぁ〜に当たり前のように胸の谷間に入ってるのかなぁ?」

「アイダダダダ!何で自分だけこんな扱い⁉︎」

「あ、亜里沙ちゃん…落ち着いて」

「だってコイツが!」

 

茉莉を見て、目を背けた隙に握られたワドルディは地面に落ちる。

そのまま、亜里沙から逃げていく。

 

「「あっ」」

「ち、ちょっと待ちなさぁぁぃっ!

さっきの感動を返しなさいよぉぉぉっ‼︎」

「わにやぁぁぁぁっ⁉︎」

 

亜里沙はワドルディを追いかけ、少し経つとへたり込む。彼女は膝をついて、号泣した。

 

「本当に…心配したんだからぁぁっ」

「……えっ?」

「亜里沙と春香、本気で貴方達のこと心配してたんだよ」

「そうだったんですか…なんかすみません」

「なんか、すみませんじゃないでしょぉぉっ…」

 

春香もピチューの事を、自分の子供のように強く抱きしめている。

千里が二人にティッシュを手渡し、何とか落ち着かせた。

 

「それで?3ヶ月間ずっと、魔法のことを勉強すれば自分たちで帰還する事が可能になるからって頑張ってたのね」

「はい。イービルさんが隠れ家を用意してくれてるので、しばらくそこに住まわせてもらってます」

「あんた達、転移できるようになったらちゃんとお礼しなさいよ…」

 

カガリの頼みやら、ワドルディとピチューに魔法についての授業カリキュラムや魔導書の本を大量に用意したりと色々と用意してもらっている。

二匹と鎧兵のために時間を割いて、今でもずっと隠れ家に引きこもっている。

 

「えっと、もしかしてイービルって人…終わってからも酷使される?

カガリが彼のマスターなら、様子見に行かなかったの?」

「様子見には行ってるよ。

魔力供給はちゃんとしてるし、最近はレッ○ブルとかス○ゼロっていう飲み物を飲んでいるから大丈夫だって」

「大丈夫じゃないよねそれ⁉︎ねぇカガリ…もしかして無理させてるとかじゃないでしょうね?」

「いやいや、イービルに無理しろって命じた覚えはないよ。鎧兵のことと、次元移動の件と2匹の先生になって多忙になってるんじゃないの?」

「なら、少しくらい休ませなさい…体を壊しちゃ元も子もないでしょ。

それに…ここに残って魔法について勉強してるのなら、私達にも出来る事があれば協力したいのだけど」

「また後で、隠れ家のこと教えますね」

 

イービルの隠れ家が分かれば、春香達が遊びに来る事もできる。

神の恩恵についても話が済みつつ、解散しようとしたが

 

「あー…多忙って聞いて思い出した。

イービルさんのもそうだけど、キュウベェもだよね」

 

亜里沙がイービルが過労だったという話を聞いて、もう1匹の事を思い出す。

この事態が発生したせいで黙って言わなかった真実が、自分に返ってきた事を。

 

「鎧兵さんが負荷を吸収してたから良かったけど…最近は働き過ぎてストレスで何回か死にかけたって言ってたし、気分悪くて吐きそうって愚痴ってたよ」

「タートナックに使い魔の召喚が出来るように、お願いしたよね。

もし出来なかったら…今頃、私達も」

「そりゃあ…アイツのことはムカつくし、潰したいけどさ…絶滅したら困る事もあるでしょ。

実際、あのガノンっていう男の正論に…私達は何も言い返せなかったし…」

 

魔法少女のシステムや、宇宙の寿命の為といったような仕組みを考えている。女の子を騙す巧妙なシステムとはいえ頭が良いことは本当の事だ。

 

「キュウベェが、鎧兵に命懸けの報復をされて、感情を得てから一気に急変したよね…」

「どんなに潰されても…代わりはいくらでもいるから無駄って感じだったし、それが今となっては1匹になっちゃったから」

「そう言えば念話の中継とかも、鎧兵さんの使い魔召喚が出来て、またすぐに扱えれるようにって話もしてたよ。

実際、何とかなったみたいで鎧兵さんもキュウベェの代役をやろうとしてるからかなり覚えること多そう」

「そうなると私達にも手伝えれること…自分の住む街を守るので精一杯だから無理か…」

 

感情を得て、システムが瓦解したことによる魔法少女達の怒号で寿命を縮める事になりかねないから、その怒りを鎮める為に代用のシステムをタートナックと協力するよう求めていた。

 

ーーー今まで魔法少女に恨まれて、無様に殺されても全然平気だったのに、今度は本気で死にたくないと感じてしまったから。そこからは、生きたいがために頭をフル回転させてどうすれば良いか必死で考えたのだ。

 

自分の身を守るために、もしタートナックの周囲にいる神浜市の魔法少女以外全魔法少女が世界中で暴走して蹂躙することを警告し、協力関係を得ることができた。

 

「鎧兵さんもキュウベェの件で、今もどこか遠くへ行ってるのよね?

鈴音達とはずっと一緒にいられないから、心配じゃないの?

あれから、もう3ヶ月経ってるけど…」

 

鎧兵が家から出てキュウベェと組んで動いていることは、全員知っている。

やっと事件が終わっても、やむ終えない事情で遠いところへ行き来していた。

 

「私達のところは大丈夫、何とかやってるよ。

…もう2度と会えない訳じゃないから」

 

それでも鈴音も事件を経て、離れ離れになるのを嫌がっていたが、今となっては落ち着いている。

死んだはずの椿がいて、遠くにいる鎧兵との念話も取れているのだから。

 

*****

 

放課後ー夕暮れ

 

授業を終え、茉莉、カガリ、鈴音の3人は学校の屋上で待っていた。

何もないところから黒い霧が出現し、時間が経つにつれて実体を現す。

 

「あぁ…3人とも、念話で約束通りに待ってくれたんだね」

「あ、タートナックさんだ!おかえり!」

 

霧の中から、鎧兵とキュウべぇが出現する。

鎧兵のボディガードとして、カリギュラもお供として一緒に世界を転々としていた。

なぜそうしているのか、それは切り裂きさんの事件解決後の二日目に遡る。

 

ーーーーーー

 

キュウベェは1匹になってしまった事による影響を、念話を駆使しつつ長々と説明していく。話を聞いて納得する面々もいるが、鈴音とカガリは不貞腐れていた。

 

『僕が説得して、一緒にいられるのは3日間の準備期間まで。

それ以降は厳しいって散々説明したじゃないか。このまま何日間も野放しにしたら、この国どころか世界が滅びかねないし…だから鎧兵から離れてくれないかな二人とも』

『ずっといるって言ってたのに…それに、こうなったのだって煽ったキュウベェのせいでしょ』

『確かに、効率良くエネルギー回収ができる代物が現れたのは都合が良かった。

宇宙の寿命を長くさせる為のエンドロピーにも困らないだろうし、その鎧兵と資質を持った魔法少女達を何度も再利用していけば安泰になるだろう。

 

僕らの実験に使って、エネルギー回収の解決をしようとしたけど、それを鎧兵含め君達は許さなかった。

それはそうだ、実際僕らは魔法少女だけじゃなく鎧兵ですら物として扱おうとしてた。今まで軽んじていた僕も、こんな状況にしてしまった原因の一端だったのも否定はしないよ。

 

だけど、このまま放置してたらグリーフシードの回収もできない、それどころか世界中で魔女が大量発生することになる。

 

今いる日本だって、例外じゃない。

魔法少女達がこんな風にした元凶を探ってくるだろうし、真実を知ったら鎧兵を略奪するか、タートナックの知り合いを狙って脅してくる事だってある。

 

ガノンドロフっていう魔王も、言ってたじゃないか。 

僕を消す手段があったとしても何の解決にならない、それどころか僕を消す事で悪化していく一方になるって。

だからこんな事になっているだろ?

 

自分達の命と平和な暮らしを守り、各国で魔法少女と魔女の暴走を防ぐ為にもこれは必要な事なんだ。

分かって欲しい』

『…納得はできるけど、感情を持ってるのならもっと言い方があるでしょ』

『僕はただ、事実を言っただけだからぁあいだだだだだっ‼︎いい、いだい、ひだいって‼︎』

『あのねキュウべぇ…そう言うところだと思うよ…?』

『キュウベェト、ヤクソクシタカラ』

ーーーーー

 

キュウベェに感情を得たとしても、いきなり性格を変えることはできないだろう。

 

人の気持ちを理解しようとはせず、事態の解決してに目を向けるようにさせ、自分のことは煙に巻こうとする。そんな配慮が欠けているキュウベェの頬を、鎧兵は引っ張って躾けている。

 

以上の理由から、鎧兵がホオヅキ市に残る時間は少ない。

県外と国外へ行って、魔法少女の浄化作業に行かなければならなかった。

 

鎧兵の頑張りで使い魔の召喚と大量増加させる事にも成功し、週に2回神浜市に帰っている。

事件解決後の慌ただしい責務も、3ヶ月経ってからは峠を越えて少しずつ落ち着き始めていた。

 

「タダイマ」

「今日も、私達が無事かどうか見に来ただけなんだ」

「タートナックが新しい能力を得るまでの成長スピードの速さは認めるよ…でも、良くて使い魔を10万体増やす努力をしてもらわないと困るんだ。以前は週一の半日休みで、その場で休息を取ってるのに…どうしてもっていうから、限度で週に1日って事にしてるんだよ」

「前に事情を聞いて、休みが取れてなかったから私達怒ってたよね」

「休息を取らなくても大丈夫とは言っていたが、24時間活動するのは流石にブラック過ぎぬか?

また物として扱ってるなら余が許さぬぞ。

「そうでもしないと世界の均衡が崩れるんだ、分かってくれ…るわけがないか。

僕も休みたい時だってあるし、こればかりは限度がある。

反論する気はないよ」

 

キュウベェは呆れたように返事し、鎧兵は持っている武器を消す。

鈴音がソワソワしながらタートナックに近づき、ソウルジェムを手渡した。

 

「それじゃあ…約束、覚えてるよね…?

次会う時は、私を貴方の力で魔女にするって約束。暴走していた時みたいに、あの大人の姿にして欲しいの…できるかな?」

「え、魔女って…また前みたいに暴走したら」

「今度は、大丈夫だから。

もう私…今までの魔法少女じゃ無くなってる」

 

鎧兵は手を翳し、今から負のエネルギーを調整した。

黒い霧が彼女の身体を覆われ、怪物のような魔女にならず、さっきまでの中学生の容姿から大人の姿へと変貌していく。

 

前の時のように、暴れる事はなかった。

 

「あれ…本当に何も起きない」

「私の身体は、もう鎧兵さんに組み替えられている。魔女になって暴走してた私を助ける時に身体を…沢山弄ったんだよね?」

 

ソウルジェムが濁りきっても、本人の意思で姿を変えることができる。化け物にもなれば、自らが成長した大人姿に変異する事も自由自在だった。

魔女になっても、ソウルジェムの濁りが無くなれば元に戻る。鎧兵の齎した力が魔法少女のシステムを覆し、鈴音を助けたことで身体は改良された。

 

「僕は天乃鈴音のような成功事例があるのなら、ある程度の魔法少女の数人くらい構造を組み替えたっていいと思うんだ」

「キュウベェ…私のような親しい関係があって、ただ単に損得勘定で割り切ることなんてできない。

心を曝け出されても、鎧兵さんが受け止めてくれる思いが無かったらできない。

凄く簡単なことじゃ無いんだよ」

 

鈴音を救済したことで、鎧兵の能力の影響からもう元の魔法少女の身体ではなくなっていた。

それでも、彼女に後悔はない。

 

「…貴方にはこれ以上ないくらいに救われた。

こんな身体になったことも気にしてない。

頭の兜、外すね」

 

外された兜は、黒い霧となって消えていく。

そのまま鎧兵の顔を近づき、抱きしめて頬にキスをした。

 

魔女となり、ソウルジェムから放出された穢れの減りは時限式となっている。その時間一杯になるまでキスを続け、終えた頃には元の魔法少女の姿に戻っていた。

 

「鈴音ちゃんっ…あ、あのっ…だ、大胆に…」

「…離れても絶対に忘れないように、私が愛してるって証を残したかったから。

でも唇が無いから、頬にしたんだけど…嫌だった?跡も残ってて、これって魔女の口付けになるのかな」

 

鎧兵は敵として憎まれることはあっても、誰かにキスをされて強く愛されるということも今となっては分かる。

 

鎧兵の頬には彼女独自の魔力が込められ、その頬を触ったまま、動かなかった。人間からこれほどの愛情をもらった事が今まで無かったから、どう反応したら良いか分からない。

 

【今まで魔物という周りから疎まれていた存在として生きていたから、逆に誰かから親密な関係で愛されたことにかなり動揺している】

「…あれ、鎧兵さん?

どうしちゃったんだろう」

「奏者よ、声をかけてみたらどうだ?」

「おーい!鎧兵さーん!」

『…』

 

鈴音にキスをされ、唇を抑えてから口も身体も全く動かない。いくら声をかけても、無反応のまま硬直してる。

 

「あ、駄目だ。全然反応しない…ちょっと茉莉、つついてみなさいよ」

「余も、つついてみるか。

つんつーん!」

 

カガリと茉莉、ネロの3人が考え込んでいる鎧兵の腹と顔をつつく。指で突かれた感触に気づいた鎧兵は、三人とも近くにいたことに驚いて後ろに転倒する。

 

『…⁉︎』

「あっ鎧兵さん、大丈夫⁉︎」

「私達が声をかけても気づかないくらい…よっぽど鈴音にキスされた事に驚いたのね」

 

鈴音の顔はみるみるうちに照れて恥ずかしそうになる。両手で口元を塞ぎ、目を合わせられずに戸惑っている。

 

「表情は全然分からないけど…私が好きって証、ちゃんと残ったままだ。

すごい恥ずかしい…でも、嬉しいな」

『コンナコトハ、イママデナカッタ』

 

鎧兵は鈴音を二度見して、もう一度キスされた頬を触っている。

 

「…君は鈴音と椿に好かれたりはしたけど、こんな風に愛を受け入れたことは一度もなかったんだね。

 

前の頃なら、愛されることを恐れてたんだろ?」

 

鎧兵はキュウベェの質問に、ゆっくりと頷く。仮に誰かと会ったとしても、神殿の侵入者を排除する魔王の命令に従っていた。

 

敵意を向けられる存在だから、前の鈴音みたいに子供っぽく親しい友好的なことも無ければ、愛してくれる存在もいない。

 

たとえ愛されたとしても、一緒にいて傷つけてしまうのではないかと一度は逃げてしまったことを忘れていない。

 

今までのことがあったからこそ、今度は求愛を逃げずに受け止めている。

 

「それにしても鈴音ってば、大胆な事を約束してたんだねー」

「…別に、良いでしょ」

「あれ?鎧兵さん、何しようとしてるの?」

 

帰ってくるまで、三人とも甘える事に我慢していた。一緒にいてあげれない鎧兵は気を配ろうと、硬い鎧を黒い霧にして消し、鈴音と茉莉、カガリの三人を抱擁する。

 

「鎧兵さんの暖かい…これ好き」

「えへへっ、なんかこうされると…鎧兵さんって、まるでお父さんみたい」

「鈴音にキスしたのなら…じゃあ、私には撫で撫でして?」

 

鈴音は鎧兵に魔女の口付けができて、身体に触れて温もりを感じてる事で幸せになっている。茉莉は笑いながらも照れ、カガリは恥ずかしげに頭を撫でて欲しいと甘えつつ、撫でた手を掴んで頬擦りさせていた。

 

「…タートナック、そろそろ時間だ。

それじゃあ、また3日後に会おう」

「もっと一緒にいたいけど、忙しないね」

「また元気でね。次会う時は椿にも抱きしめて欲しいな。

椿も絶対に喜ぶと思うよ」

「何かあれば余も駆けつける。

其方はマスターの親友でもあり、叔父上のマスターなのだからな」

「ソレジャア、マタ」

 

そう言ってタートナックは、キュウベェと共に黒い霧となり、風に流されて遠くへ行ってしまった。

 

「…私達も行こうか」

「うん」

 

三人は屋上の出入り口から降り、自分達のすべき事をする。

鎧兵がずっと家にいられるには引き継ぎをしてもらえる存在がいて、全ての魔法少女に対応できて、キュウベェの了承までと考えると当分先の話となる。

 

一緒にいられるならと鎧兵は努力し、また更に向こうへと進化していく。

その強さの果てに魔王ガノンドロフのような強者による支配ではない、かといってキュウベェのような物として雑に処理する事もない。

 

その努力は、無自覚に魔法少女も魔女も両方救う【タートナック】としての希望の象徴となる。

 

魔法少女達にとって鎧兵の存在が有名な噂となり、彼らの救済の旅路が伝説となって多くの者に語り継がれることとなるだろう。

その未来はまだ、誰も知る由もない。

 

 






ーーーーーー事件後の環境もこれまで以上に大きく変動し、仲間達が在住する決断を終える。
そうして、また更に月日が流れる。

次回、最終話。
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