無口な黒き鎧兵   作:斬刄

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痛むココロ

『あの子のことをよろしく頼みます』

 

椿が言った言葉はタートナックの心にズキリと刺さっている。魔物である身なのにそんな重大事を頼まれても困るしかない。魔物が少女の世話をするということがどれだけ無理難題なものなのか。

 

ズキリと自分の胸に変な痛みを感じ、手を当てる。

彼女の話を聞いて、まだズキリと傷みが続いている。

 

こうなったら椿を何があっても死なせない為に、魔女の手から全力で守ると頑張るしかなかった。

彼女を死なせて鈴音を悲しませないためにも。

椿を死なせてはいけないんだと、考えていた。

 

しかし、彼女の頼みをタートナックが本当の意味で理解することはできなかった。

ソウルジェムが濁れば魔女になる(魔法少女の真実)を知らないのだから。

*****

 

「どう、して…」

 

椿が抱え込んでいたものは、タートナックが全力で椿を守る以前の問題だった。ツバキのソウルジェムの負荷が耐えきれなくなって魔女化してしまったことが原因で、椿は魔女になっている。

 

 

彼女は二人に向かって最期にこう言った。

『鈴音、一緒にいるって言ったのにこんなことになってごめんなさい…タートナック、鈴音のことをよろしく頼みます』

 

魔女化する寸前に二人に笑って泣いていた。彼女のソウルジェムが穢れを満たし、こうして魔女となって二人に襲っている。鈴音は絶望して足が動けずにおり、タートナックが盾で炎を防いでいた。

 

「なんで、何で…」

「それは椿が君をかばいつつ、グリーフシードも君の為に使っていたからね」

 

 

今までキュウべぇはこのことについてずっと黙って見守っていた。分かった上で何も言わなかった。

キュウべえは知ってても止めようとする気は全くなかった。

 

椿のソウルジェムの穢れが限界にきて、こうして魔女となり呪いを振りまいている。

 

「元に戻せないの⁉︎」

「無理だ、魔法少女が魔女に変異できても、魔女から魔法少女に戻すことはできない」

 

いくらタートナックが穢れを少しずつ吸い取っても、椿の方は今までグリーフシードを使わないで穢れを多く貯めていた。

 

「魔法少女が辿る結末は、魔女を生んで自らを滅ぼす。どんなことをしていてもね」

 

キュウべぇがやっていることは鈴音とタートナックだけではなく何も知らされていない魔法少女を騙していたのと一緒であった。

 

「君が今まで吸い取っていたのは魔女じゃなくて魔法少女の力を奪っていた。

 

ここで魔女になったツバキを殺して手に入れる能力は…ツバキの力ということさ」

 

魔女の攻撃は激しく、鈴音は何度も呼びかけても応えてこない。

「わたし、わたしは…」

キュウべぇは魔女になった椿を始末するか、逃げるかという選択を強いらせる。もしも逃げきれなかった時、殺らなければ、逆に殺されてしまう。

 

防戦一方になっている間、タートナックは持ってきたメモ帳を書いて、鈴音に見せた。

〔カンガエ、アル〕

タートナックはあることを閃き、思いついた。その方法はとても危険なものだが、唯一椿を助けられるかもしれないことだった。

 

*****

いつもの通り、前線にタートナックが出て、魔女に注目を向ける。魔女は炎の魔法を使い、タートナックは盾で防いでまっすぐに前進する。

 

タートナックの背後には鈴音が待ち構えて機会を待っている。椿の戦いを知っている二人は魔女がどんなことをするか大体は分かっていた。

 

タートナックは強行突破して魔女の懐に飛び込む。

「ハァァァッ!」

 

 

 

鈴音はタートナックの後ろから突然飛び出して斬りこむ。魔女は倒れ伏せ、近くにいたタートナックは走り、魔女ごと彼女の魂を同時に体内へと吸収した。

負や穢れを吸収することはできるものの負から生まれた魔女を吸収するという行為自体は自殺行為と等しい。

 

(ウグッ⁉︎)

 

ソウルジェムが穢れすぎて魔女になるのならば、逆に魔女から人に還元することは可能。魔物の体内でマイナスである魔女をゼロにさせる。

 

タートナックはこの吸収で、穢れてしまった魔女を彼の源として癒し、時間を立てて元の人間へと変えて仕舞えばいい。魔女が負で生まれるのだとするのなら、吸収するのは例外ではない。

この行為は魔物であるタートナックも危険な賭けだった。が、結果的には成功した。

 

タートナックは生きており、立つことができる。あとはタートナックの中で魔女ではなく彼女の魂を復元し、人として復活させる。

鈴音は魔女を倒したことにより能力が上書きされている。

 

「ど、どうなったの!教えて!教えてよ!」

 

魔女になった椿からはグリーフシードは落ちていない。タートナックは持っているメモに書き綴って、そのメモを鈴音に渡した。

鈴音はメモを口に出して読む。

「ツバキは、生きている。自分の身体にの中に残して、溜め込んだ絶望を取り除くために…あとは自分と彼女が身体から引き剥がされ、人として戻ることができる…本当なの⁉︎」

タートナックは頷いた。

彼女はタートナックの体内にまだ生きている。魔女を倒し、消えそうな魂をタートナックが奪取してしまい込んでいた。

〔マダ、ソノトキジャナイ〕

 

椿が人に戻るのは何日間もかかり、いきなり魔女から人間に戻すことはできない。

すまないと、頭を下げていた。

 

「ううん、良いよ。まだ生きているんだね…」

 

こうして二人だけとなってしまった。もう椿がいないために、鈴音は顔を赤くしてタートナックに抱きついている。

「あのね、一緒にいて…」

 

*****

 

「ずっと一緒にいて。一人にしないで、絶対に離さない。椿がまた戻ってくるのなら、タートナックのことと一緒にいたいの」

 

そんな言葉を聞いていくうちに椿の頼み事を思い出してしまう。

『あの子のことをよろしく頼みます』

タートナックは心揺さぶられて、苦しんでいた。

鈴音はタートナックに惚れて、愛している。一緒にいて欲しいと。鈴音は椿のことが好きでもあり、タートナックのことも好きになっていた。

 

しかし、一緒にいるという言葉に返答できない。タートナックは心を鬼にして頼みを断り、一緒に行くことを拒否して首を横に振った。

 

「⁉︎どうして、どうしてなの!タートナックの中にはツバキの魂も入っている!タートナックも、ツバキもずっと一緒にいられるのに!」

 

タートナックは離れようとしない鈴音を振り払って、一人で去って行く。

「行かないでぇ…行かないで」

鈴音は泣きじゃくりがなら、しつこくひっついている。

 

ーーひとりぼっちはいやだよ…

 

そう言いながら好きな人とこれからも一緒にいたいとせがまれる。タートナックにとって心苦しいものだった。既に身体は震えており、一度は気を許そうとするも少女を背負うことを強いれない。

 

「ま、待ってぇ!」

 

それでも泣きながらしつこく追ってくる鈴音にタートナックは強行手段をとった。

勢いよく振り払い、

 

 

「タートナック、な、んで?」

 

タートナックは大剣を待ち、鈴音を当てずに振り下ろして鈴音を脅す。

今まで黙って優しそうだったタートナックが拒絶している。

鈴音は漠然としている。剣を突き立てて、依存している鈴音を振り払った。

 

「どうして、どうしてぇ…」

 

タートナックは鈴音を置いて、霧を纏いながら同化して全力で逃げていく。

それを鈴音は泣きながら後ろ姿を見ることしかできない。

 

たとえタートナックはどんなに強い魔物であろうと、心は臆病なまま。彼女から託された責任を投げ捨て、頼みは聞き入れることができなかった。

 

人と魔物はどう考えても一緒にいてはいけない。最終的にはその子にも巻き込まれて侮蔑されてしまうからだ。

 

自分がどんなに醜い存在か。

 

*****

 

 

霧と同化してあの場から逃げる。

涙を流すことができず、胸の痛みが全く止まらない。逃げたくて仕方なかった。鎧が解けてゆき、武器を落として頭を抱える。前に隠れていた場所に向かい、山の森の中でひたすら暴れ、木々殴りつけて自分の身体を傷つける。

 

魔物はたった一人で叫んだ。

 

タートナックはどこかへ誰もいない暗い場所で密かに、口を開いて悲しみながら叫ぶ。母親代わりの彼女の魂をタートナックの中に塞いで、彼女は助けることはできた。あとは自分が生きてさえいれば彼女は肉体を取り戻して復活する。

 

椿を元に戻すことは時間がとてもかかるために簡単ではないが、復活することは確実。しかし、その間に彼女の側にいることはできない。

 

 

自分は魔物、彼女は魔法少女であって人間でもある。哀れな魔物が鈴音を幸せにするなんて無理な話だった。魔物である身なのにあの子を幸せにできるわけがない。

タートナックには自信がなかった。

 

鎧を纏っているがそれは騎士でも、戦士でもなんでもない。所詮は人から嫌われた化け物、魔物である。

いくら優しい心と善意を持っていても外見を見た時点で戒められ、迫害される。

 

できればずっと一緒にいたい。

鈴音という少女の望みと椿からの頼みを受け入れたいと願った。

しかし、魔物は躊躇った。自分のせいで鈴音を不幸にさせるんじゃないかと。

いつか鈴音を傷つけ、危険に晒すことになるんじゃないかと恐怖していた。

 

矛盾した気持ちがタートナックを戒めて、気が動乱している。この世界では異質なものが現れたら、化け物だと大騒ぎになって拒絶する。

もしあの子も魔女になってしまえば自分と同じように市民からの恐怖の対象となるだろう。他の魔法少女も自分を敵とみなして襲ってくる。

もしも彼女が魔女になってしまったら必ず助けるために向かう。

これ以上は一緒にはいられない。もしも幸せになれるのならこんな自分と長くいてはいけない。

なぜなら邪魔者であり、魔物だからだ。

 

鈴音とタートナックだけではなく、そこに椿もいなければならなかった。タートナックは雨の中誰もいない場所で、いつも無口な魔物は悲しみに、苦しみに、ただひたすらに狂い、頭を抱えて悩み苦しみながら叫んでいた。

 

自分を痛めつけた拳は、手の皮膚が裂けて紫色の血が流れる。

言えようのない心の痛みが鎧兵を悩ませ、苦しめていた。

 

*****

 

キュウベェは遠くで離れて、タートナックが助けるために行ったことの全貌を見られている。

「やれやれ…驚いた。魔女になった魔法少女は元に戻れない。それなのにまさか、あんな方法で破るなんてね。

魔物だと聞いてどんなものなのか様子を見ていたけど、穢れを吸収するといい…魔女化した彼女を倒した後に、魂を奪う。しかも魂さえあれば身体を復元させることもできる」

 

以外だったのは魔物が魔女を吸い取ったことだった。しかもその魔女の穢れを体内で取り除いて、人間の身体を取り戻すというとんでもない力を持っていた。

 

しかし、キュウべぇはその力をこちらの営業に使えると思っていた。あの魔物も利用すればエネルギーが大量に確保できる。

 

タートナックが魔女を救済して、少女になった元魔法少女とまた再契約すればいい。キュウべぇの目的が何かというのは魔物は知らないために、営業を促進される可能性はある。

タートナックの存在が魔物という化け物であることが何よりの救いだった。人の身でない以上他の魔法少女達やこれからなろうとする少女が魔物のことを信用できるわけがない。

 

「あの能力(チカラ)があれば魔法少女達を何度も魔女化させて、エネルギーを繰り返し手に入れれる。

いつかはあの魔物を僕達の実験台になって利用させてもらうよ」

 

そう言ってキュウべぇはこの場から立ち去った。

この地に存在する鎧を纏った魔物を手篭めにしたいがために。

 




というわけで全く喋れないタートナックさんタイトルでしたが…無言ではなく無口となっています。
この作品のタートナックはあまり喋れない性格です。
喋る時は喋れます。
魔女化した美琴椿を救済。
しかし、タートナックは魔物なので一緒に行動するうちに他の魔法少女が襲ってきたりなど巻き込みたくないという理由と、人と魔物は相容れないという事実に苦しんで責任から逃げだという形となりました。

追記
キュウべぇにとって厄介な存在ではなく、人に戻してまた再契約させることができる都合のいい魔物という形としました。
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