無口な黒き鎧兵   作:斬刄

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黒き鎧兵と月に魅了された皇帝

魔物は山に逃げ帰って以降、木のそばに座ったまま愕然として動けなかった。身体がずっしりと重く感じ、思うように動けない。

 

 

前までは椿を助け、鈴音を拒絶してしまった。タートナックは何ヶ月も会わずにそろそろ気持ちを切り替えて、山を降りた。が、

 

ーーー誰なの?なんで私の名前を知っているの?

 

その一言で、魔物はショックを受けた。

 

鈴音にあんなにも愛されていた筈なのにタートナックのことをすっかり忘れ去られた。魔物はそのことで、悲しんでいる。自分は彼女にとって忘れ去られてもいい存在だったんだなとガックリしていた。

 

 

山に戻り、またひきこもっている。椿と鈴音の二人以外と関与することに恐怖を感じ、逃げた。関われば、無力な自分のせいでまた誰かを酷い目に合わせてしまうと。

 

 

しかし、本当にどうでもいいと彼女は感じていたのだろうか。椿を助け、恩人となった魔物は鈴音にとっては最早大事な存在だと認識されている。それなのに、容赦なく斬りかかってくる。

 

 

『スズネ』

 

それとも、今までの思い出を抹消してなかったことにされたのだろうか。魔物の体内にある椿は、もう少し時間を立てなければ外には出すことはできない。しかし、たとえ身体がボロボロになっても彼女が復活することを伝えたかった。

 

 

魔物は夜空を眺めて、悩み考えている。自分がここに来る前までの頃は、敵が来るまでいつまでもぼーっとしていた。しかし、魔物にとってここまで思いつめていたと言うのは初めてのことだった。

 

 

善行をしたところで戒められるのは分かっている。手を差し伸べたところで鈴音に斬られてしまうだろう。

 

ーーーそれでも魔物は自分のことを鈴音が思い出してくれると信じて、分かってくれるまで争う。

 

*****

森の中、地面が発光し、そこから人が出現した。タートナックは、後ろから誰かがいると察知した。突然光の中から出てきた人は殺意が背中からじわじわと感じている。動いたその瞬間、後ろから飛びかかって襲ってきた男は頭を狙って殴ってきた。

 

タートナックは霧と同化し、反撃よりも逃げることを優先した。あの緑の勇者とは何かが違う。魔物よりも邪悪で禍々しく、猛獣のように周囲を破壊しつつ追いかけまわしている。

 

すぐに追いつかれてしまいそうになるも霧で敵を欺き、目を眩ませる。男が殴った地面は亀裂が入り、ボロボロと崩れていく。

タートナックはこのまま巻こうと逃げ続けたが、そう何度も霧を使えるというわけではない。

鈴音との戦闘で体力が消耗していたからだ。

 

『⁉︎』

 

消耗すれば霧と同化できなくなり、元の姿へと戻り、転んでしまう。男は大きな音が聞こえ、その方向に頭を向く。タートナックが転び落ちているのを発見した男は叫びながら追いかけ、強力な一撃が鎧を貫通する。大量の穢れと負を纏わせた鎧が崩れ、タートナックは身軽になる。自分の身を守るために今度は左腕にある盾を用いて猛攻を防ぐが、ヒビが入る。

(ナカニイル…ツバキヲマモル)

盾もいつ壊れてもおかしくない。腰にある剣を抜いて、反撃する。男は頬を剣で擦られ、血が流れているもののそれでも勢いは止まらない。

 

大きな木に投げ飛ばされ、止めを刺そうとする。が、彼の拳はタートナックの顔の直前までで止まっていた。

 

「汝の…体内に、いる」

 

自分を召喚したマスターをここで殺せば自分自身が消えてしまう。彼はようやく気づいた。自分を召喚したマスターがこの魔物の体内におり、同時にトドメを刺せばどうなるか。

 

この鎧の魔物の身体には自分のマスターがいるということは、このまま魔物ごと拳を貫ければ、自分を維持してくれているマスターごと殺すこととなるだろう。

 

どうしてあそこまで暴走して襲ってきたのに、ギリギリの直前で理性を取り戻したのかいるのかというのは。

 

「身体が解放されてゆく…」

それはカリギュラの穢れと負を、タートナックが吸収していたからだ。

 

『ナゼ、コンナ』

 

タートナックはそう一言尋ねた。彼がなぜこちらを襲ってきたのか意図がわからない。

「…分からない」

その意図を聞いても、狂っていたから分からないという理由しか返事が返ってこなかった。魔物が憎いからというわけではなく、少なくとも目の前にいる存在は敵だと認識して襲いかかったかもしれなかったが、今の彼はどうして襲ったかも忘れている。

 

もうタートナックのことは敵だと思っていない。彼は空を見上げた。

 

 

「月が…美しい」

 

彼は夜を照らしている月を見て、泣いていた。瀕死になりかけのタートナックにはわからなかったが、彼にはそれほど月のことで何かあったというのは伝わっている。

 

タートナックは立ち上がろうとしても身体がよろめいて、フラフラな状態になっている。足をくじいて、落ちていってしまいそうになるが、男はタートナックを掴んで助けようとした。

 

『⁉︎』

「おまえは、人ではない…が、似ている。ネロに」

そう言ってタートナックを引っ張り上げて、助けた。彼にとって似ているというのは『優しさ』だった。

 

 

『アリガトウ』

「すま…ない」

タートナックはありがとうと先に言ったものの、対して男は頭を下げた。

 

召喚したマスターを取り込んでいる魔物を敵視し、事情も知らずに襲った。

マスターのためであろうがなかろうが、殺しに向かったことは変わらない。

『モウ、キニシテナイ』

 

こうして二人は初対面ではあるがいろいろと語った。タートナックはこの世界の者ではないのと、魔女と魔法少女。この世界で出会った素敵な二人の話をし、そして二人が何者なのかを熱く語った。

カリギュラは魔物に自分の昔のことを話した。

 

ローマの物語。

自分のことを、月を愛した理由。

月の女神ディアーナ、そしてカリギュラが愛している娘のネロのことを。

 

聞いていたタートナックにとってとても新鮮だった。ローマなどという国は聞いたことがなく魔物がいた場所は神殿という狭い場所にいることしかできなかったからだ。

 

 

カリギュラはまだ狂化が無いわけではないが、タートナックは彼がとても悪い人には到底思えない。月に魅入られ暴君となったとしても、彼は娘思いの父親であったことを。

 

『テヲ…カシテホシイ』

長い時間多くのことを語り合って、握手をした。タートナックは人と接触することを恐れ、逃げてばかりだったが彼の出会いに感謝するしかない。

今まであまり喋ることをしなかったからだ。

 

カリギュラは目の前に敵を殲滅し、殺しに襲う。魔物を襲ったもののその魔物に敵意がなく、しかも魔物の身体の中にマスターがいるのならカリギュラはタートナックの言い分を受け入れた。

 

『ソレガ、スズネトツバキノタメナンダ』

「余は、従う…お前との戦いに」

 

 

こうして彼らは共に動く。

魔物は椿の身体を守り、召使は魔物と主人を守ることとなった。

 

 

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