クセモノ狩猟団   作:和平

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白黒テーブルマナー Ⅱ

「せいやぁッ!!」

 満を持して――鋭い気合いと共に、圧倒的な重量と限界まで溜め込んだパワーでもって振り下ろされる大剣=オオアギト――永らく使い込まれているとわかる年季の入った表面/竜の顎を思わせる無骨で力強いシルエット――その強烈無比な一撃が、正面衝突目前にまで迫ったハプルボッカの鼻面に叩き込まれた。

 悲鳴を上げ仰け反るハプルボッカ――弓使いのそれとは天と地ほども差のある途方もないダメージに耐えかね転倒/まな板の上のサシミウオもかくやと言わんばかりにもがく。

 見事と言う他ないカウンター攻撃を成し遂げた大剣使い――隙を晒すハプルボッカには目もくれず、倒れたままの弓使いに肩を叩いて呼びかけた。

「おい、しっかりしろ」

 何度か叩き揺する――小さな呻き声/ナルガキャップの隙間で群青の双眸(イ ン デ ィ ゴ)が数回瞬く――無事に意識を取り戻した弓使い。

「……ッ、今……なん……?」

「構えろ、そろそろ()()ぞ」

 自分の身に何が起こったのか理解が及ばず混乱する弓使いを大剣使いが急かす――弓使いが立ち上がると同時にハプルボッカも打撃から復帰。

 そのまま反撃してくる――かと思いきや這う這うの体で撤退=エラをしまい足を引きずってエリア3の方面へ逃走。

「オアシスの方に行った……みたいだな?」

「ということは、討伐まであと一歩ってところだな。よーしよーし」

 砂の中に消えていった背を見送る大剣使い+弓使い=無理に深追いせず――エリア3がハプルボッカの休眠ポイントであることは把握済み。

「……めっちゃ体痛てぇ」

「そりゃぁ、あれだけ豪快に吹き飛ばされればな。今のうちにしっかり傷を癒しておけ」

「うい。で、どーするよ。爆弾で寝起きドッキリと洒落込むべき?」

 そう大剣使いに問うと、弓使いはポーチから応急薬を取り出し喉に流し込んだ。

「釣り上げでも寝込み奇襲でも、お前さんの好きにするといいさ」あくまでも弓使いに主導権を握らせる/2個目の応急薬を取り出す相方を気遣う。「いけそうか?」

「まあ、大丈夫っしょ。多分」弓使い=楽観的でありながら自信なさげ/また応急薬を嚥下/神妙なトーンになる声。「奇襲でいくわ。正直、あんな突進の正面に立って釣り上げる度胸はねーし」

「ははっ、四天王を(くだ)した英雄様とは思えん言葉だ」

 大剣使いが嫌味なく笑う――肩を(すく)める弓使い。

「あれはたまたま運が良かっただけだって」

 蜃気楼が揺らめく――砂原に打ち上げられたはずのガレオスはいつの間にか姿を消していた。

「そろそろ寝た頃合いだろうな」

「あーもー怖ぇよマジ帰りてーわ……」

「あと少しだ、頑張れよ」

 弱音/励まし――決着をつけるため、2人は熱い砂を踏み締め歩いた。

 

 

 

 洞窟であるが故に砂漠の日差しが届かず、加えて数少ない水場のひとつがあり小規模なオアシスを形成するエリア3――その水辺=砂から上半身のみを出して横たわり眠るハプルボッカ+ヤオザミ数匹。

「うわ、ヤオザミ……」

 弓使い=心底嫌そうに。

 大型モンスターと交戦する際に小型モンスターが介入してくると何かと厄介――特に防具の仕様上防御力では剣士に劣るガンナーにとって、致命的打撃を被る元となりかねない脅威でもある。

 ということを先程身をもって思い知らされたばかりの彼の心理としては、もうなんというかヤオザミの方からさっさと自主的にご退場いただきたい気分――しかしそんな彼の気持ちなど露ほども知らぬヤオザミたち=ハサミで地面をつついてのんびり食事。

 大剣使いはまたもや傍観――と思いきや「ザザミソもーらいっ」と無造作にヤオザミへ駆け寄り抜刀斬り一閃/ズドンと重量感のある音と共に力尽きるヤオザミ。

「バッカ、起きたらどーすんだよ!」

 小声で責める弓使い=せっかく眠ったハプルボッカが音に気付いて起きやしないかヒヤヒヤ。

「そうそう簡単には起きんさ」あっけらかんと返す大剣使い――削ぎ取りナイフを動かす手は止めず。「ほら、ヤオザミなら俺が掃除しておくから、今のうちに爆弾を置いてこい」

「お、おう……」

 マイペースな大剣使いに促され仕方なく、おっかなびっくりハプルボッカへ近付く/頭部付近にこの上なく慎重な手つきで大タル爆弾Gを2個設置/速やかに離脱。

 ヤオザミの駆逐とザザミソ収集を終えた大剣使いも弓使いのいる地点へと移動。

 準備は整った――矢をつがえる/弦を引き絞る/大タル爆弾Gに狙いを定め――放った。

 鏃が突き刺さった瞬間に大タル爆弾Gが炸裂/もうひとつの爆弾も誘爆――凄まじい轟音がオアシスにこだまし、強烈な衝撃が甲殻を砕き、(あか)い爆炎が皮膚を焼いた。

 寝込みを襲われたことに驚き起きるハプルボッカ――先のハンター2人の仕業とわかるや威嚇を開始=臨戦態勢へ移行。

 弓使い――接撃ビンを弓に装填。

 大剣使い――ポーチから取り出した怪力の種を一呑み。

「見てるだけじゃなかったのかよ」

「さすがに見学ばかりじゃ飽きてきたからな。さ、早いとこ終わらせよう」

 エリア7に比べ圧倒的に狭く閉塞感のある空間――下手に立ち回るとあっという間に窮地に追い詰められかねない環境で最終ラウンドが開幕した。

 先に動いたのは大剣使い――地を蹴り、ハプルボッカへと一直線に距離を詰める。

 対するハプルボッカ――正面から走り来るハンターを迎え撃つべく大きく息を吸い込む/砂吐きブレス――あっさりかわされる。

 弓使いがほぼ真上に矢を発射――ハプルボッカの頭上から無数の矢が雨のごとく降り注ぐ――ブレスの範囲外からでも届くほどの長距離射撃=曲射。

 難なくブレスを回避し側面へ回り込んだ大剣使い――矢の雨が降り終わった直後に踏み込み抜刀斬り/次いで横殴り――ハプルボッカが首を捻じって噛みつきを繰り出すも、その遥か以前に素早く納刀/離脱していたため空振りに終わる。

 ハプルボッカが大剣使いに気を取られている隙に弓使いが接近――連射弓の威力を最も引き出す適正距離から射撃=3連射――全て命中。

 ハプルボッカの関心が弓使いへ――そのまま突進攻撃。

 何度見ても慣れない迫力に一瞬硬直するも危なげなく回避――せっせとシビレ罠を仕掛ける大剣使いを視認/Uターンしてきたハプルボッカに追われる形で罠へと走る=誘導――大剣使いが罠の設置完了=地面に展開/弓使いが走り抜けたのち、大口を開けたまま何も知らずに罠を踏み抜くハプルボッカ。

 悲鳴/硬直――シビレ罠が発する雷光虫の電気が、ハプルボッカの全身に作用し強力な拘束力を発揮――そしてここぞとばかりに叩き込まれる大技×2

 大剣使い――オオアギトで火花を立てながら地面を擦る/そのまま振り上げる/斬撃と共に衝撃波を叩きつける=大剣専用狩技〈()(しょう)(ざん)〉。

 弓使い――2本の矢を立て続けに速射/最後にありったけの矢を限界までつがえ()つ――弓専用狩技〈トリニティレイヴン〉――束になった矢が風を裂いて一直線に飛んでいき――ハプルボッカの頭蓋へ深々と突き刺さった。

 甲高い断末魔――ひとつの生命(いのち)がこの世から引き離される音/あるいは、弱肉強食の世界で生を勝ち取ることができなかった敗者の号哭(ごうこく)

 尾を引いたそれもやがて収束――小さなオアシスは元の静寂を取り戻し、群青に黄が混じる色鮮やかな腹も(あらわ)に絶命したハプルボッカの亡骸が新たな景観の一部として加わった。

「っかぁ〜……やっと終わった……」

 その場でドサリとへたり込む弓使い=安堵と疲労が混濁(こんだく)した声+表情。

「お疲れさん」

 短くも温かな労いの言葉――大剣使いが片手を差し出す。

「削ぎ取り、しなくていいのか?」

「あー、そうだった……」

 差し出された手を掴む――よっこらせ、と年寄り臭さの否めない掛け声と共に腰を上げた弓使いは、ナイフを手にいそいそと削ぎ取りを開始――甲殻を3枚ほど頂戴(ちょうだい)/残りは自然へ還元。

 そして、ハンターという職に就いてから一度たりとも欠かしたことのない習慣(ルーティン)=偉大なる生命へ対する礼儀と畏敬をもって――黙祷。

 一連の行為を静かに見守る大剣使い――やがて黙祷を終えた弓使いは、亡骸に背を向け「うっし、帰ろうぜ」と大剣使いに帰還の意を告げた。

「ああ。そうだ、お前さんの頑張りに敬意を表して、帰ったら一杯(おご)ってやろう」

「マジで? いいのか?」

「ああ、好きなだけ飲んでいいぞ」

「おっ、言ったな? スッカラカンに なって泣いても知らねーぞ?」

 弓使い――本気か軽口か判別不能な(げん)=ニヤリ。

「あっはっは、仮にも上位ハンターの財布を舐めてもらっちゃぁ困るな」

 大剣使い――鷹揚(おうよう)たる余裕の笑み。

 風で砂埃が舞う砂漠――潜口竜との戦いを制した白と黒のハンター2人は、狩りの余韻(よいん)と充足感とを抱えながら、共に同じ帰路についたのだった。

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