クセモノ狩猟団   作:和平

3 / 4
狩人デイ・オフ Ⅰ

 山脈の陰から顔を出した柔らかい陽光が、緑豊かなベルナ村に本格的な朝の訪れを告げていた。

 起床したばかりの寝ぼけた子供/早くから起きていたムーファ飼い/開店作業に追われる武具屋のアイルー――全ての村人に等しく降り注ぐ日の光は、とある一軒家の窓にも例外なく射し、室内をほんのり照らす。

 飾り気のない石造りの素朴な内装――最低限の家具/炊事設備/天井でゆっくり回るファン/部屋の一画にまとめられた武具の数々=ガンナー仕様のナルガシリーズ防具一式+ソニックボウを始めとする(いく)(はり)もの弓。

 窯の火にかけられた小さな鍋――その中身=ムーファの乳で煮込んだ薬草入りオートミール。

 ポコポコと小さく沸き立つそれを玉杓子(レ ー ド ル)撹拌(かくはん)する男――黒檀色(エ ボ ニ ー)の髪/群青色の双眸(イ ン デ ィ ゴ)=左目に走る傷痕/童顔隠しのための(あご)(ひげ)/男性にしては比較的しなやかな体躯/差し色に(あか)が多用された服装=ユクモ風――つい先日ハプルボッカから物の見事に吹っ飛ばされた“ベルナ村の英雄”こと、龍歴院所属のハンター――その名をカズナリという。

 体に残るわずかな倦怠感=昨晩大量に摂取した酒類の影響/だがさして気になるほどではない。

 昨日は久しぶりによく飲んだなぁ――奢り主の財布に遠慮容赦なく酒瓶を10本空けたことを回想――他人(ひと)の金で飲む酒ほど美味(うま)いモンはない。

 そうこうしているうちにオートミールが本格的な沸騰(ふっとう)を開始――ミトンを手に装着し火から鍋を下ろす/オートミールを器に移す。

 2つの皿をオートミールで満たし終え――未だ起きる気配のない相方を呼びに戻る。

「ヒューゴ起きろー。朝だぞー」

 自身が寝ていたベッドの隣――ムーファの毛をたっぷり詰めたマットレスを床に敷いただけの簡易ベッドを陣取る毛布団子を揺すって声を掛ける。

 すると苦悶(くもん)の呻きと共に毛布から姿を現す男――朽葉色(ラ セ ッ ト)の髪×ベリーショート/覇気を失った暗灰色の瞳(ス レ ー ト グ レ ー)/本来は無骨で精悍(せいかん)な顔つき=今は死を間近に(のぞ)む病人のよう/インナーを纏っただけの分厚く逞しいガタイ――が、産まれたてのケルビよろしく弱々しさ全開で起床。

 その(かたわら)に無造作に置かれた武具=キリンSシリーズ+オオアギト――先日、弓使い=カズナリと共に砂漠へ赴いていた大剣使いのもの。

「おはよう」

「……おう、おはようさん」

 大剣使い=ヒューゴは掠れた声で挨拶を返すと、額を押さえて再び呻きだした。

「うぐっ……頭が割れそうだ……誰だ、俺の頭をハンマーでぶん殴っているのは……」

「完全に二日酔いしてんな。大丈夫か?」

「大丈夫なわけあるか……くそっ、もうお前さんと酒は飲まんぞ」

 カズナリを睨むヒューゴ――忌々(いまいま)しげ/弱々しげ。

「悪かったよ。や、まさかあんな早く潰れるとは思わなくてさぁ」

「お前さんが強すぎるんだよ……ああ、ちくしょう。本当にスッカラカンの一文無しになってしまった……」

「だから悪かったって」二日酔いでげっそりと青い顔をしながら嘆く相方に少なからず本心で謝罪/気遣い。「朝メシできたけど、食えるか?」

「ああ、もらおう」

 カズナリによって運ばれてくる湯気の立つオートミール×2――そのまま簡易ベッドの上で2人並んでの朝食。

「はぁ〜、隣にいるのが可愛い女の子だったら最高なんだけどな」

「奇遇だな。俺も今お前さんとまったく同じ気持ちでいる」

 オートミールを胃袋へと投下する作業の合間にささやかな軽口の応酬――男性ハンターの食欲が()せる技か、ものの数分で器が空に。

 朝食を終え、慣れた手つきで食器と調理器具を片付けたカズナリ――上着を羽織る=外出準備。

「オレちょっと出掛けてくるわ。昼には帰ってくるとは思うけど、何かあったらルームサービス通してオトモを呼んでくれ」

「わかった」

 そう言うと、まるで日光を避けるかのように再び毛布の中へとのそのそ引っ込んでいくヒューゴ――そんな彼に背を向け、朝日の眩しい屋外へ出て行った。

 欠伸混じりに業務を始める村の受付嬢と村長に軽く挨拶をして、目指すはとある人物の自宅――小さな一軒家/柵に囲まれた敷地/その中でのんびりと草を()む幾頭ものムーファたち。

 更にその中に混じってムーファを撫でている男――こちらに気付いて嬉しそうに寄ってきた。

「よう。久しぶりだな、英雄殿」

 溌剌(はつらつ)とした少年のような笑顔――この辺りでは珍しい生粋の黒髪(ジェット・ブラック)橄欖色(オ リ ー ブ)の虹彩/30代にしてはやけに若々しく凛々しい顔立ち=村の奥様方の間で密かに人気/村のムーファ飼いがよく用いる作業着。

「リーベルさんまで……やめてくれよ、その呼び方。オレは英雄なんて(ガラ)じゃねえって」

 カズナリ=渋い顔――すっかり村中に浸透してしまった仰々しい渾名(あだな)辟易(へきえき)――「まだ下位ハンターなんだからハードル上げないでくれ」と言いたいところだが村の人々の好意と尊敬を()()にするのも(はばか)られ結局主張できず(しま)いに。

 だがしかしリーベルと呼ばれた男は笑顔でカズナリの肩をバンバン叩く/彼の謙遜を意に介さず称賛。

「何言ってんだ。あの斬竜を単身討ち取ったんだ、ちょっとは誇らしくしてもいいんだぜ?」

「リーベルさん痛い痛い」

「おっと、すまんすまん。しっかし、最近ご無沙汰じゃねえか。なんだ、俺より優秀な師匠でも見つかったのか? ちょっと寂しいぞー」

 柵に肘をつきからかうような茶目っ気満載のニヤつき顔――カズナリ=小さく手を振って否定の意思表示。

「そんなんじゃねーって。集会所の方のクエストも受注していて、それで最近ちょっと忙しかったんだよ」

「はー、なるほど。頑張ってんなぁ……っとぉ、立ち話で忘れるところだった。今日は()()の片付けをしてもらうんだったな」軽々と柵を飛び越え歩き出す。「こっちだ」

 リーベルの一歩後ろを追随――家屋の裏手に位置する木造納屋へ。

 中に入ると雑然を極めた空間の歓待――埃まみれの棚/錆びたピッチフォーク/持ち手の朽ちた荷車/擦り切れたロープ/その他破損したり永らく使用された痕跡のない道具の数々――思わず某伝説に登場する、倒した獲物の亡骸を戦利品として持ち帰るとされているあの龍のねぐらを連想。

「うわ、汚ねっ」

「いやぁ、オジサン片付け下手なもんで……」

 身も蓋もない素直すぎるカズナリの言葉に頭を掻くリーベル=苦笑い。

「片付け下手ってレベルじゃねーよ。つか、片付けっつってもオレの独断でやっていいのか?」

「あー……まぁ、明らかにボロくなってる道具なんかは捨ててくれていいし、配置なんかもお前に任せるわ。どうしていいかわからん物があったら、表の方で毛刈りをしているから聞いてくれ」

 あまりに大雑把な注文――如何にも片付け下手な人間らしい緩さ/適当さ――片付けを自分が引き受けていなければもっと酷い有様へと成り果てていたのではなかろうかと危惧の念が浮かぶ。

「んじゃ、好きに片付けさせてもらうけど、文句言わないでくれよ?」

「オフの日にわざわざ来てもらってんだ。俺の方こそ文句を言われる側さ。それじゃあ、頼んだぞ」

 そう言うと、リーベルはムーファ飼いの職務を果たすため納屋を出て行った。

 独り残されたカズナリ――とりあえずその辺に()()()()()、持ち主の性格的にほとんど使用されないまま放ったらかしにされていたのであろうホウキを手に取る/散乱した物品を睥睨(へいげい)――この乱雑な空間をどこから始末してやろうかと思案した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。