【済】IS 零を冠する翼   作:灯火011

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小鳥遊彩羽は、束博士が渾身のカスタムを加えた専用機を手に入れる。
後に第三世代、第四世代と呼ばれる技術を搭載されたソレは、果たして、これから小鳥遊彩羽をどのように導いていくのであろうか。


新型零式

 前世において私の愛機は、常に零戦21型であった。新型機である32型や52型は、まだ練度が低い新米が乗るべきものと、私自身が考えていたからだ。

 

『お前も腕はいいのだから、新型機を申請すればすぐ通るぞ?』

 

『いえ、私は21型で結構です。新型機は新米共に使わせてください。』

 

『・・・そうか、苦労をかける。』

 

 当時の上官の申し訳無さそうな顔を思い出す。ただ、それ以外にも理由はあるのだ。・・・実際問題、戦争後期の日本の生産力では、新型機の信頼性が低かったということも大いに関係していた。大空に飛び立ったはいいが、戦闘中にエンジンが停まったり、操縦桿の操作性が変わったりしては戦闘どころではないのである。

 

「うーん、どうも新型フレームとコアの親和性が上がらないなぁ・・・。ねぇ、たっちゃん、21型を動かしていて気になったことか、ない?」

 

「気になったこと・・・」

 

「そそ、些細な事でもいいからさ。」

 

 ただ、今回のIS零式の改修の信頼性は大丈夫そうである。なにせ、生みの親であり、最高の腕をもつ束博士が私の零式の改修をしているのだ。私に声をかけながらも、その手はキーボードを叩き、その眼は様々な表示を次々と確認しているようである。

 

 それにしても、零式を動かしていて気になったこと、か。性能限界、というのは元々であるから、それはおいておこう。他といえば、束博士に調節してもらった後、零式21型の反応速度が上がった反面、消耗が激しくなったことぐらいであろう。

 

「最近という意味だと、束さんに調節して貰った後ですが、反応速度が向上しました。その代わりに、パーツの消耗が激しくなっています。」

 

「あぁー。それは仕方ないよ。リミッター外したしねー。・・・それ以外になにかあるかな?」

 

「それ以外、ですか。」

 

「うんうん。最近新しく取り入れた操縦法とか。」

 

 あ、確かに、操縦方法という意味では確かに一つ心あたりがある。零式の反応速度が向上したから、以前よりもより精密に、それでいで大胆に操縦するようにしたのだ。例えば、地上滑走スレスレの距離を10センチから5センチにしてみたり、瞬間加速を連続で方向を変えながら行ってみたり。以前の零式ではできなかった起動をしてみたのである。

 

「そういえば、以前よりも反応が良くなったので、以前よりも地面すれすれ飛んでみたり、壁とかにぶつかる寸前の方向転換を遅らせたりと、ギリギリでの操縦を意識しながら行っていました。」

 

「・・・・あぁー。それで、か。うん、わかったわかった!ということは・・・うん、そうだね、たっちゃんなら大丈夫だよね!よーし!」

 

 何が大丈夫なのだろう?

 

「分散させていたエネルギーラインは、展開装甲に直結させて・・・機体サポートプログラムは削除。空力装甲とPICはマニュアル操作オンリー!で、束さん渾身の新装備、イメージインターフェースに直結させてぇっと!いよぉし、これでどうだっ!」

 

 次の瞬間、束さんの開いていたモニターの一つに、コンプリートの文字が浮かぶ。そして、他の画面の小窓にも、次々にコンプリートの文字が浮かび上がっていた。

 

「うん。新型フレーム、新型装備とコアの親和性9割超え!あとは乗りながら調整すればOKかな!」

 

 束さんはそういうと、開いていたモニターとキーボードを閉じて、体を横にずらす。そして、調整の終わったISを横目に、私に満面の笑みを向ける。

 

「・・・さぁ、ということで、たっちゃんの新しい機体の零式の完成!機体名は・・・零式艦上戦闘機になぞらえて、21型の改良ということで、零式32型、でどうかな!」

 

 白地に赤い縁取りがされたボディ。そして、流線型ながらも、どこか角ばった装甲は、まさに零式32型、といったところであろうか。だが、零式艦上戦闘機になぞらえて型番を変えたということであれば、一つ、気になることがある。

 

「零式32型・・・良い名前ですね。ただ、そうなると一つ気になることがあります。」

 

「なにかなー?」

 

「零戦の場合、機体の改良が前の数字、発動機の改良が後ろの数字になりますよね。」

 

「そうだねー。流石零戦パイロット!詳しいね!」

 

「ありがとうございます。それで気になったのが、零式の機体改良されたことによって21型の前の数字が2から3になったことは判ります。ですが、発動機にあたる所の1が2に変わったのは、何か意味があるのでしょうか?」

 

「いいところに気づくね!じ・つ・は!エネルギーラインと機動力を出すブースター、そして、操縦方法が別物になっているのだ!」

 

「・・・はい?」

 

「ま、説明しても判らないと思うから、一回乗ってみて!」

 

 

 私は束博士に言われるがまま、零式32型を装着していた。起動前ではあるが、装着感が気持ちが良い。そして、私はそのまま各レバーの位置を確認する。右腕の操縦レバーは21型とほぼ一緒だ。だが、いくつかのスイッチが消えている。左手の出力レバーも同様だ。・・・これでは、マニュアル操作時に不具合が出そうだ。と考えていた時に、束博士から声が掛かる。

 

『いい?たっちゃん。基本的には21型と操縦方法は一緒だよ。ただ、32型の特徴としてハイパーセンサーの拡張であるイメージインターフェースっていう装備を搭載したの。今までよりも、直感的に、素早く、機動力・空力・PICを操れるように調整してあるよ。あと、これも新装備なんだけど・・・展開装甲も付けてあるからね!』

 

 なるほど、そのイメージインターフェースというのが、消えたスイッチの代わり、という事か。より直感的に操縦できるというイメージでいいのかな?ま、それはいい。飛べばきっと判るはずだ。だが、もうひとつの新装備、展開装甲とは一体何なんだろう?

 

「・・・展開装甲、ですか?」

 

『そう、展開装甲!32型はブースターが無い代わりに、機動力を展開装甲で確保しているんだ。必要に応じてブースターにもなるし、シールドにも成るし、武器にも使えるんだ。・・・試作品だから、32型に搭載しているのはブースター機能だけ、なんだけどね。でも既存のブースターよりは低燃費で高出力!信頼性と性能は束さんが保証するよ!』

 

 必要に応じて、武器にも防具にも機動力にも、か。32型に搭載されているものは、ブースターだけらしいが、完成すればきっと革新的な装備になりそうだ。

 

「束さんが言うのであれば、きっと間違いないですね。・・・では、早速。零式32型、起動!」

 

 私はそう言うと、前方に意識を集中させる。と、いつものようにハイパーセンサーによって、360度の視界を確保する。と同時に、頭の中をかき混ぜられるような感覚が走る。目眩にも似た感覚だ。・・・そして、目眩が収まると同時に驚くべき感覚が私に襲いかかった。なんだこれは。なぜ。全ての可動部分が、私の感覚とつながっているんだ。思い通りに、PICが、ブースターが、空力装甲が、動く。

 

「・・・たばね、さん。これ、は」

 

『ふふ、驚いた?どうかな、零式32型と一体化した感覚は。これがイメージインターフェースなんだ。あくまで試作型、だけどね。ただ・・・』

 

 束さんの声が若干暗くなる。

 

『実は、問題もあるんだ。調整を間違うと感覚がフィードバックしちゃうことがあるんだよねー。束さんもデータ不足で、まだまだの未熟な技術なんだけど・・・たっちゃんなら、扱いきれると信じてる。それに、もし新装備が使えなかった時を考えて、従来の技術を使った改修パーツも持ってきてあるから!』

 

「・・・がんばります。」

 

 私はそう言うと、右手の操縦桿と、左手の出力レバーを、改めて握り直していた。ISという、素晴らしい翼の母である束博士にそう言われては、頑張らずにはいられない。

 ・・・とはいえ、この感覚に慣れるためにも、まずは空を飛んでみよう。私は、ゆっくりと目を閉じる。そして、イメージインターフェースでカスタム・ウィングを意識する。すると、装甲が音を立てて動く。どうやら、ここにも展開装甲とやらが使われているようだ。合わせて、PICと空力装甲を動かし、少しだけ足を浮かせる。

 ・・・うん、問題ない。ここまでは今までどおりだ。さて、あとはこの展開装甲とやらが、どれだけの推力と機動力を生み出してくれるのか、というところか。

 

「・・・では、飛びます!」

 

『気をつけてね!何かあったら、すぐに言って!』

 

「はいっ!」

 

 返事をすると同時に、私は操縦桿を強く握り固定、そして、出力レバーを一気に押し込んだ。すると、カスタム・ウィングの展開装甲から、おびただしい量のエネルギーが放出され、今までの零式21型の瞬間加速並の速度で、一気に機体が上昇したのだ。

 

「ぐぅっ・・・・!」

 

 思わず呻くほどの衝撃が私を襲う。同時に、体の各所のブースター・・・これも展開装甲らしい・・・を展開させながら、空力装甲を動かし、水平移動へと移行する。

 

「・・・あは、あははは!」

 

 思わず笑みが溢れる。なんだこれは。なんだこの性能は!本当に、思い通りに機体が動く!展開装甲、ブースターの方向、出力、PICの力場。全てが私のイメージ通りに動く。であれば、もっと、もっと早く、高く飛ばなくては!そう思いながら、私は一気に機体を地面に向けて加速させる。そして、地面に激突する寸前で、それこそ、地面をかすめながら、一気に機体を上昇させる。もちろん、上昇する瞬間に、瞬間加速を入れることを忘れない。

 

「ぐぅ・・・・ぅうううう・・・!いやっほおおおおおおおおおおおおおおおう!」

 

 私は思いっきり叫んでいた。これほど気持ちの良い空は、久しぶりだ!そして、ちらりと束さんを見れば、何やらぽかん、とした表情で此方を見ているではないか!もしかして、32型の性能に、驚いているのかな・・・?

 であれば、もっと、もっとぽかんとした表情をしてもらおう!

 

 

 わぁ、私は夢でも見ているのかな。

 

 イメージインターフェース、展開装甲を搭載したISをまとったたっちゃんは、さも当然のように、空を飛んでいる。

 ・・・正直に告白すると、展開装甲も、インターフェースも思いつきで、搭載してしまった新型装備。完成度も何もない、理想だけの装備だったんだ。イメージインターフェースは本来は機体制御に使うものではないし、展開装甲に至っては、本来であれば、まだ数年の検証を要するはずだったんだ。

 

 だから、実は、ちゃんとした、堅実な改修パーツも持ってきてあるんだ。どちらかというと、こっちが本命。ブースターの出力を上げて、フレームの強度も上げて、PICとアクチュエーターを強化した「零式32型」のパーツを、ちゃんと準備してきたんだ。

 

 でも、目の前で行われている事象は、そんなものを吹っ飛ばすには十分すぎる。

 

「・・・すごいなぁ、たっちゃん。」

 

 思わずぽかん、と口を開けてたっちゃんを見つめてしまった私は悪くない。本来であれば、今の零式32型はまともには飛べない、実験の意味合いが強い機体だ。誰も操作方法を知らないイメージインターフェースに、だれも操作方法を知らない展開装甲。この2つを組み合わせた、既存のISを超えようと試作したISなんだ。データの一つでも取れればいいなと、持ち込んだんだ。

 でも、目の前では、その飛べないはずの32型を完全に操っているたっちゃんがいる。あ、ほら、今も・・・アレは確か、インメルマンターン・・・をやってのけた。あ、ほら、今も瞬間加速を2回連続で・・・・。




小鳥遊彩羽
「新型・・・改修型かぁ。ちゃんと動くのかなぁ。でも束博士だからきっと大丈夫か。」

「・・・速い!小回りがきく!思い通りにすっごい動く!最高ぉおおおおおおおお!」

束博士
「試作品マシマシ!ピーキーマシンだから、いくらたっちゃんでも飛ばすことは無理だろうなぁ。まっ、本命の改良パーツあるし!物は試し!」

「What The Fuck!」


妄想捗りました。改修したものが試作部品満載の機体って、浪漫ですよね。

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