【済】IS 零を冠する翼   作:灯火011

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小鳥遊彩羽がISに出会から数年。

その間にも、第二回モンドグロッソは織斑千冬の不戦敗で幕を閉じたり、ISの世代が第三世代の試作へと流れたりと、世の中は時を確実に進めていた。

彼女も勿論、成長し、ISの操縦と零戦の操縦をこなす才女へと成長していた。

そして、彼女は何の問題なくIS学園へと入学することとなるのだが・・・・。


第二章 零は気ままに空を飛ぶ
零戦は空を舞う


「東京コントロール。こちら三菱A6M2です。現在、高度4000フィート航行中。」

 

『こちら東京コントロール。三菱A6M2。高度、進路そのまま。

 以後の指示はIS学園に引き継ぎますので、海上に出次第周波数120.5MHzでIS学園との交信をお願いします。』

 

「三菱A6M2了解。進路・高度そのままで海上に出次第、120.5MHzでIS学園とコンタクトを取ります。」

 

『了解。それでは、彩羽さん、IS学園で良き学生生活を。さようなら』

 

「・・・有難うございます!さようなら。」

 

 私の操る零戦A6M2は、今、羽田空港を飛び立ち、IS学園へと向かっている。というのも、今日はIS学園の入学式があるのだ。今日はそこで、式典の目玉として「新入生による零戦の展示飛行」を行うことになっているのである。

 

 というか、入学式に私に展示飛行をお願いするって、それ、私が入学式出れないってことじゃないですか。え?入学式に出なくていい?免除?

 

 ・・・どうしてこうなった?

 

 ま、実際は千冬からのお願いなので、断る理由はないし、なによりIS学園から、私が入学するなら、ぜひIS学園上空で舞って欲しい、と、我が家に正式な展示依頼の連絡が入ったのだ。

 

 そしてなにより、展示飛行を行っていただけた暁には、在学中は零戦専用の格納庫を準備してくれる、というではないか。これはもう乗るしかない。という形で私は今、零戦のコックピットに座っている。

 

(平日はISに乗って、休日は零戦に乗る。うん、考えうる限り、最高の状況だぁ!)

 

 そう、学園に格納庫があるということは、三菱重工のIS乗りでありながら、零戦の飛行士という家業を問題なく続けられるということである。

 普段はIS学園でISについて学び、休日になり、時間が空いた時には飛行士として零戦を颯爽と飛ばせるわけだ。

 しかも、両親の計らいで、機体は我が愛機「零戦二一型」を使わせてもらっている。そして、今日という日に合わせてオーバーホールを行い、エンジンは実に良い音を奏で、機体表面も深緑迷彩を塗り直したため、太陽の光を綺麗に反射するほどにぴっかぴかである。

 

 しかし、零戦に乗っていると、鋼鉄の城から吐き出される石炭の煙が、少しだけ懐かしい。誇り高き、第一艦隊。精鋭揃いの第二水雷戦隊。空の王者たりえた、誇り高き一航戦。そして、徹底的に有利な状況を作り、物量で日本を屈服させた見事な手腕を持つアメリカの軍隊。

 ・・・敵味方含めて、あのときの猛者は、もうどこにもいないのだ。確かに、今の軍隊のほうが装備もよく、連携も取れるのであろう。だが、今の軍隊に、あれほどの苛烈な瞳の持ち主が居るだろうか?あれほど、熱い人間たちがいるのであろうか?

 あぁ、嗚呼。あの、命のやり取りをした、ひりつくような緊張感に満ち溢れた、灰色の空が少しだけ、本当に、ほんのすこしだけ、懐かしい。

 

 いけないいけない、引っ張られすぎだ、私。やっぱり零戦に乗るとどうしても、昔を思い出しちゃうなぁ・・・。

 

 それに、今、私の目に写る世界は、どこまでも青い海に、どこまでも蒼い空。あの時、私が夢にまで見た光景だ。まさに、私が思い描いた夢の世界で、我が愛機「零戦二一型」を飛ばせているのだ。そう考えると、やはり私は幸せものなのであろう。

 あの時の仲間が生きていれば、ぜひ、一言自慢したいものである。

 

----平和な空は、気持ち良いぞ----と。

 

 

 特殊国立高等学校「IS学園」。インフィニット・ストラトスの操縦者及び、技術者を育成する教育機関だ。区分にある通り、国立の高等学校であり、普通の高校生のカリキュラムを進めながらも、ISについてを学んでいく学の園である。

 

 今年、その学園では、いつもと違うことが2つ、起きていた。

 

 まず一つ目。それは「世界最強」と名高いブリュンヒルデ、織斑千冬の弟である織斑一夏が入学したことだ。

 ISと言うのは、今のところ女性にしか扱えていなかった。それが何の間違いか、男性である織斑一夏が起動させてしまったのである。そして、唯一の男性適合者である彼は、強制的に学園に入学させられていた。

 つまり、まがりなりにも、IS学園に初めての「男」が入学したのだ。在学生も、彼と同じ新入生も、落ち着かない様子である。

 

 二つ目として、入学式は、毎年同じ時間に始まるのが通例だ。だが、今日に限っては、通常よりも一時間早く、式が始まったのだ。

 そして式が終了した後、在校生全員が、競技場へと集められていた。在校生からすれば、何が始まるんだろう?という疑問が浮かび、新入生からすれば、見たこともない設備を見れて感極まる、といったところである。

 

 そして、全員が集まったことを確認し、生徒会長である更識楯無がマイクを取っていた。

 

「さぁって。皆に競技場へと集まって貰ったわけなんだけど、きっと何をするのか、って思ってるんじゃないかな?気になる人は、手を上げて。」

 

 生徒会長である楯無がそう言うと、在校生のほぼ全員が手を上に上げていた。その姿を目に収め、そして織斑千冬に目配せをした楯無は、満足そうな笑みを浮かべて、口を開く。

 

「いいよ、手をおろして。やっぱりみんな気になってるんだね。それじゃあ・・・・、ちょっと、上を見てくれるかな?」

 

---上?---

 

 織斑一夏を含む、全てのIS学園の在校生は、競技場の天井を見ていた。シールドに守られているとはいえ、その先は、真っ蒼な晴天が広がっている。

 

「綺麗な青空だよね。平和で、穏やかな空。これから、君たちはこの青空を目指してIS学園で切磋琢磨していくことになる。

 在校生も、期間は短いけど、それは一緒。その最中で、心が折れそうになることもあると思う。ライバルに蹴落とされたりすることもあると思う。ISを見たり、触ったりすることが嫌になることがあると思う。

 でも、そんな時には、これから見る光景を思い出してもらいたいんだ。」

 

---ISは、空を自由に舞うための、道具だから---

 

 更識楯無がそう言うと、競技場のシールドが解除され、海の香り漂う春の風が在校生と新入生の間を縫っていった。そして、時を同じくして、遠くから聞き慣れない、しかし独特なエンジン音が響き始めたのである。

 

「・・・あれ、この音って・・?」

 

 在校生の何人かが、遠くから聞こえるエンジン音に反応する。そう、このエンジン音は数回聞いたことのある人物ならば、聞き分けることが出来る程度に独特の音を奏でるのだ。

 

「やっぱり聞いたことあるよね・・・。確か、前に行った羽田空港で・・・」

 

「うん、私も聞いたことある。確か、日本の戦闘機、だったよね」

 

 数名がそう言っている間にも、エンジン音はどんどんと大きくなる。だが、エンジンの持ち主の姿は未だに見えない。

 

「確か・・・零戦じゃなかったっけ。」

 

「あ、それだそれ。あれ・・?でも、なんで零戦のエンジン音が聞こえてくるの?」

 

 一人の生徒がそんな疑問を口にした瞬間である。

 

 競技場のスタンドぎりぎりの超低空を、栄エンジンの爆音を響かせながら、一機の零戦が勢い良く、背面飛行で飛び出してきたのである。

 

 緑色に染まった機体に、赤く丸く描かれた日本国籍を表すマークを見せびらかすように競技場上空を横切ったと思えば、ロールを行い機体を一八〇度反転させ、インメルマンターンを行う。

 その瞬間、零戦の羽から雲が引かれていた。迷いのない、美しい空中機動である。

 

「「「・・・・・!」」」

 

 その光景に、競技場に集まった人々は、口を開いたまま固まっていた。なぜ、いきなり零戦が来たのか、状況が全くつかめていないようだ。

 だが、その中で、織斑千冬と、いつのまにか千冬の隣に立っていた更識楯無は、飛び出してきた零戦を見つめながら小さく笑みを作っていた。

 

「見事なインパクトですね。つかみは上々です。織斑教諭。」

 

「あぁ、まさか背面で来るとは思わなかったがな。ま、零戦の展示飛行を見て、ISに乗ることだけではなく、空を飛ぶ事に憧れを持つ生徒が増えてくれれば私はそれで満足さ。さて、それではこちらは彼女を迎える準備をしよう。」

 

「既に競技場の一つは着陸用として開けてあります。」

 

「流石だな、生徒会長。では、あとは任せたぞ。」

 

「任されました。」

 

 織斑千冬は、未だに上空を舞う零戦を背にして、零戦の着陸予定のアリーナへと歩みを進めていった。更識楯無はその背中を見おくると、改めて零戦を見つめていた。

 

(綺麗な空中機動ね。電子制御のない、大戦中の機体なのに、まるで生き物みたい。小鳥遊彩羽、彩羽ちゃんか。

 ISの操縦技術も、過去の全盛期の織斑教諭を打ち破ったことがある、かなりの実力の持ち主だということだったわよね。・・・うん。今年のIS学園は、退屈しなさそうね。)

 

 更識楯無がそう思案する間も、小鳥遊彩羽操る零戦は、常にその羽に雲を引きながら、大空を気持ちよさそうに飛んでいた。

 そして、インメルマン、ねじり込み、ハンマーヘッドといった、彼女が得意とする空中機動を次々と決めていく内に、競技場の在校生は、次々とその顔に驚愕と笑みを浮かべ始めていた。

 

「・・・わ、すっごい!戦闘機ってあんなに自由に動くんだ。」

 

「すっご・・・インフィニット・ストラトスみたい・・・」

 

「あぁ、私もあんな風に飛べるようになるのかなぁ・・・!」

 

 そして、唯一の男性である織斑一夏も、小鳥遊彩羽の操る零戦二一型を見て、思わず笑みを浮かべていた。

 

(すげぇ・・・。俺も、あんなふうに飛んでみたい。あんなふうに、自由に空を・・・!)

 

 満場一致、とは行かないまでも、在校生・新入生ともに、小鳥遊彩羽の零戦二一型を見て、すこしばかり、空への憧れを、強めたようである。

 

 

 (驚いてる、驚いてる!じゃあ、サービス!シャンデルいっちゃうよ!!)

 

 私は眼下にIS学園の生徒を収めながら、最後の空中機動を繰り出していた。その名はシャンデル。水平飛行中から45度バンクし、そのまま斜めに上方宙返りして速度を高度に変える技だ。

 操作方法としては至って簡単。操縦桿を右に傾け、バンク角をとったところで、操縦桿を引けばいいのだ。

 

 そして、最後の軌道が終了後、操縦桿を左右に倒し、羽をふって挨拶をしながら、競技場を後にする。そして、IS学園の管制室へと無線を入れる。

 

「IS学園、こちらA6M2。展示飛行終了です。指示をお願いします。」

 

『こちらIS学園。お見事でした。彩羽さん。では、第二競技場の方へ着陸をお願い致します。場所は展示飛行を行った場所から、北です。

 誘導灯が接地してありますので、直にわかると思います。』

 

「A6M2、了解しました。山田教諭、お褒めの言葉、有難うございます。では。」

 

『はい。では。地上では織斑教諭が待機していますので、以後はそちらの指示に従ってください。』

 

 そして、管制官、「山田真耶」の指示の下、私は競技場を後にする。

 

(さて、北ということは・・・あれか。確かに、誘導灯が設置してある。長さにして四〇〇メートルといったところか。離着陸するには、十分かな。)

 

 私はそう思いながら、エンジンの出力と、高度を落とし、ゆっくりとアプローチを行う。競技場は広いとはいえ、長さが限られているからなるべく制動距離を短くしたい。フラップを最大にして、なるべく低い速度で着陸を行うことを心がけよう。

 そして、競技場のスタンドをぎりぎりでパスし、地上五メートル程度で、エンジンをカット。機首を上げ、そのまま、接地する。海軍式三点着陸、という感じだ。この方法が、一番距離を短く着陸できるのだ。

 ・・・少しでもミスをすると、機体が壊れてしまうのが、欠点ではあるが。

 

 それにしても、IS学園とは実に巨大だ。このサイズの競技場が幾つもある上に、講堂やプールもあるし、その上に巨大なグラウンドもある。上空から見た時ですら、その巨大さに驚いたものだ。うーん・・・このIS学園の空、自由にISで飛べないかなぁ・・・?

 

 などと思案している内に、零戦は無事に停止する。私は間髪入れずに、風防を開け、操縦席から体を外に出す。と、同時に、奥で控えていた千冬が、こちらに向かって歩みを進めてきていた。

 

「小鳥遊彩羽。流石だ。見事な飛行だった。」

 

「織斑教諭。有難うございます。」

 

 私と千冬はそう言うと、固く握手を行う。そして、千冬は笑みを浮かべながら、空いている手で私の頭を撫でてきていた。うん、千冬の手の感触は悪くはない。

 

「久しぶりだな彩羽。こうして会うのは私が負けた模擬戦以来か。三菱重工とは上手くやっているか?」

 

「お久しぶりです。千冬。あの時以来ですね。えぇ、もちろん。チーフとも良好ですし、束さんも時折顔を出してくれています。」

 

「そうか。なによりだ。それにしても、体も、操縦技術も成長したな。零戦の軌道もより一層磨きが掛かっているじゃないか。」

 

「・・・そりゃあ、束さんとチーフの期待を受けてしまっては、磨かざるをえないですよ。ISでも、零戦の操縦技術でもトップを目指します。それに、貴女に模擬戦で勝利したプライドもありますしね。」

 

 模擬戦で勝利した、といった瞬間に、千冬の顔が少しだけ歪んでいた。どうしたんだろうか?

 

「そうかそうか、それはなによりだ。・・・彩羽、時間があるときに再戦といこうじゃないか。暮桜は手元にないが、学園の打鉄で、同条件で。私は勝ち逃げは好かん。」

 

 ・・・あぁ、そういうことですか。あの模擬戦で負けたこと、実は相当悔しかったんですね?

 

「えぇ、いいですよ。今度も私が勝ったら叙々苑で。」

 

「自信満々だな・・・っと。まずい、時間がないな。彩羽。教室に向かうぞ。」

 

「了解です。っと、その前に改めまして。」

 

 私はそう言うと、姿勢を正し、織斑千冬をまっすぐに見る。

 

「少々遅れましたが、今年から特殊国立高等学校IS学園に入学することになりました。小鳥遊彩羽と申します。これから3年間、よろしくお願い致します。」

 

 付き合いが長いとはいえ、やはりけじめは大切だと思う。それに、彼女は「世界の千冬」だ。曲がり間違って第三者がいる前で呼び捨てにした日には、間違いなく面倒くさいことになる。自分へのけじめも含めた、仕切り直しの挨拶だ。

 

「あぁ、こちらこそ宜しく、小鳥遊。では、教室へいくぞ。」

 

 千冬は私を見て、少し驚いた顔をしていた。だが、流石教師。千冬は表情を引き締めると、私に向かって言葉を返していた。

 

「判りました、織斑教諭。」

 

 さぁ、挨拶も終わったことだし、これから私のIS学園の生活が始まるのだ。前世で高校生活を楽しめなかった分、思いっきり羽を伸ばして、楽しもう!




在校生・新入生「・・・なあにあれぇ!?すごいなぁ!」
楯無「綺麗な空中機動ね。ISの方も凄いと聞くし、今年はきっと楽しい一年だわ」
千冬「零戦を見て、生徒にいい影響があれば良いのだが。」

彩羽「驚いてる驚いてる!じゃあ気合入れてこんなこともしちゃう!っていうかIS学園でっけぇ!」

妄想捗りました。方向性は迷いましたが、だいたい、こんな感じです。

改めまして、皆が地上で空を見上げている間、一人空ではしゃいでる馬鹿が主人公です。

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