些細な2次創作である。
輪廻転生
◆
第二次世界大戦時、大きな戦果は上げては居ないが、零戦パイロットとして、ミッドウェー海戦を経験し、レイテ沖海戦までも、類まれなる経験と、少しの運によって生き残った彼。
この物語は、そんな名も無き一人のパイロットの死、から始まる。
無線から聞こえてくるのは、日本語の叫び声と機銃の発射音。そして、無線が混線しているのか、時折英語の叫び声も聞こえてきていた。
「あぁ、全く。」
自分の口からは、半分諦めたようなつぶやきが漏れる。そして、自身の乗る機体を確認するように、左右へと首を傾けていた。
戦争末期である今では、既に格闘戦以外について、馬力、速力、攻撃力、防御力、航続力共に他国に追いつかれ、旧式と成ってしまった、我が愛機「零式艦上戦闘機 21型」。
深緑迷彩を纏った愛機の翼には、敵国からはミートボールなどと揶揄される、誇り高き日の丸がペイントされている。
後方を見やれば、美しい垂直尾翼と水平尾翼が見える。自身がラダーを蹴れば、垂直尾翼が動き、操縦桿を押し引きすれば、水平尾翼が動く。それに合わせて、機体も思うように上下左右へと動いてくれる。戦争開戦時から御世話になっている21型だ。その全てが、己の体とピタリと一致している。思い通りに、動かせない道理はないのだ。
だが、私にあるのはそれだけだ。この零式艦上戦闘機は、今となっては時代遅れと言わざるをえない。思うように動いてくれても、速力が、馬力が足りず敵機を追従出来ないのだ。
20ミリが当たりさえすれば、とは思うが、発射点まで容易にたどり着くことすら難しい。
そしてなにより、今彼の機体はP-51マスタングの編隊による機銃掃射を避けきれず、羽に、胴体に、エンジンに。そして、コックピットに、多数の弾痕を残していた。
「あぁ、ままならんなぁ。」
彼は機体を確認すると、最後に、自身の体を見やる。そこには、真っ赤に染まった防寒着と、ちぎれ飛び、コックピットに散乱した自身の指があった。
「あぁ、死にたくはないなぁ。」
彼はそう言うと、右腕の残っている指で操縦桿を握り強い眼差しで、上空を飛ぶ一つの敵を睨む。
「あはは。だがもう手遅れなんだろうなぁ。 仕方無い。戦争だもんなぁ…。でも。」
そして、左腕でスロットルレバーを押し込み、エンジンの出力を最大出力へと持っていく。被弾した零戦のエンジンは異音を上げ、黒煙を上げながらも、彼の意志に追従するように、力強く零戦を引っ張り上げる。
更に、彼は一気に操縦桿を手前に引っ張りあげた。
黒煙を上げ、急激に上昇する零戦が向かう先には、零戦を落とした戦果を確認しようと、不用意にも近づいてきた、マスタングが1機。
「…でも、只では死なん。一人は持っていく。」
零戦は性能的にはマスタングには全て、負けているのかもしれない。だが、この距離から一気に上昇する零戦を避けるものなら、避けてみろ。
彼は心のなかでそう思いながら、目を最後まで見開いたまま、マスタングに向けて、機体を持ち上げ続ける。
そして見事、彼はマスタングを「撃墜」せしめたのである。
時は戦時中、1945年のことだ。彼は自身の翼と共に、風になったのであった。
◆
多数の翼が風となり、幾多の魂が沈んだ大戦から、時が流れること数十年。彼の魂は新しい体を得て、新たな人生を歩み始めていた。
「東京コントロール。こちら三菱A6M2です。現在、高度4000フィートです。展示飛行のためにミッキー通過後に、フライトレベル10まで降下を希望します。」
「三菱A6M2、P-51がまだ展示飛行中です。フライトレベル40のまま維持願います。」
「了解。フライトレベル40で待機。」
私は、零戦のコックピットに座りながら、操縦桿を少しだけ横に倒し、零戦を左へと傾ける。
そうしながら、私は東京の町を見下ろしていた。
元々の「俺」が知る東京の街とは、見た目は全く変わってしまっている。平屋ばかりだった場所には、高層建築が多数立ち並び、全く栄えていなかった新宿、池袋のあたりが今では都心というではないか。
ただ、鉄道の位置や国会議事堂、皇居を眼下に見れば、あぁ確かに、ここは東京だ、と納得できる。
「三菱A6M2、こちら東京コントロール。急で申し訳ないのだが、展示飛行の変更をお願いしたい。」
「三菱A6M2、了解しました。内容は?」
「航路、及びマニューバーに変更はありません。今から10分後に、三菱重工社製のインフィニット・ストラトス「零式11型」と「零式21型」が到着。彼らの到着を以って、展示飛行を開始していただきたい。」
「三菱A6M2了解しました。インフィニット・ストラトスですか。 同じ名前を持つ、新旧兵器のコラボですね。了解。到着を待ちます。」
私はそう言いいつつ、未だP-51マスタングが展示飛行をする羽田空港を眼下に見ながら、少しだけ考えを巡らせる。
◆
『事実は小説より奇なり。』
過去より未来に転生してしまった、私の座右の銘だ。
というのも、だ。当時の私の年齢や名前は思い出せないものの、私は前世において、愛機「零式艦上戦闘機21型」と運命を共にした、日本海軍所属の軍人である。
前世の私の最後の記憶は、マスタングの機銃で撃たれ、意地になって敵のマスタングに零戦で体当たりを行い、マスタングを巻き込みながら、地面に落下した瞬間で終わっている。
そして次の瞬間、私はこの時代に生まれ落ちていたのだ。
最初は死ぬ直前に体験すると言われる、走馬灯的なものかと思っていたが
---例えば、総天然色で世界中の美しい映像がタダで見れるテレヴィジョン。
---雑音もなく、途切れることもない、トランジスタラヂオ。
---そして何よりも、噴式大型旅客機…ジャンボジェット機を見た時に
「あ、これ走馬灯じゃない。未来だ。」と確信を持ったわけだ。
そして極めつけは、幼少の頃に、白騎士と呼ばれるインフィニット・ストラトスが、数千発の噴式誘導弾…いや、ミサイルをたった一人で片付けた光景を見て
「あぁ、巴戦など既に過去の物かぁ。戦は変わったなぁ。」
などと思いながら、ここは完全に未来である、と諦めに近い納得をしたのである。
◆
羽田空港上空を飛ぶこと15分。300キロ近くで巡行する零戦にようやく、と言っては酷だが、インフィニット・ストラトスの姿が2機、正面から近づいてきていた。
私はそれらをよく、観察していく。
片方の、ベージュ色をしたインフィニット・ストラトス。眼鏡をかけた緑色の髪をしている女性が乗っているほうが、色からして、おそらくは零式11型であろう。
もう片方の、今私が乗るA6M2と同じ深緑迷彩のインフィニット・ストラトス。黒髪が美しく、やや釣り目の女性が乗るほうが、色からして、零式21型といったところか。
だが、よくよく見ても、この2機は色以外の姿形はほとんど変わらない。基本的には倉持技研の打鉄の様な姿ではあるが、機体装甲はほぼ曲面で、ラファールとも思わせる姿だ。
「零戦で空を飛ぶのも良いけれど、インフィニット・ストラトスで空を飛ぶのも気持ちよさそうねー。」
私はそう呟きながら、操縦桿を左右に動かし、エルロン切って翼を振る。すると、インフィニットストラトスの搭乗員は、それに答えて手を振り返してくれていた。
「こちら三菱A6M2。周波数は112.5MHz。展示飛行を行うインフィニット・ストラトスはそちらの2機で相違ないですか?」
「ぁ・あー、あー、聞こえますか?こちら三菱零式。 この2機で相違ない。急な申し入れで申し訳ない。」
ISを纏いながらも、軽く会釈をしてくる2人。私はコックピットから手を振り、気にするなと意志を伝える。
「三菱A6M2了解。お気になさらず。同じ三菱社製の翼ですからね。ですが、こちらは特にインフィニット・ストラトスを加えるという、フライトプランの変更等をしていません。問題ありませんか?」
「零式は問題ない。少なくともそちらよりは小回りがきく。そちらのフライトプランに合わせるさ。」
「三菱A6M2了解。あぁ、そういえば展示飛行前に、一つお聞きしたいことがあります。」
「なんだ?」
「お互いに名前ぐらいは交換したいな、と思いまして。
私は
「私は織斑、織斑 千冬だ。僚機は山田真耶。」
「ありがとうございます。ええと、チフユと、マヤと呼んでも?」
「あぁ、かまわん。」
「有難うございます。それではチフユ、マヤ。 一時ではありますが、展示飛行よろしくお願い致します。」
「こちらこそよろしく頼む、イロハ。」
チフユの声を聞きつつ、私は深呼吸を行い、目を閉じる。
これは私が昔から、それこそ前世からやってきた気持ちの切り替え作業だ。のんびりと、空を泳ぐイメージから、風を切り裂き、鋭く跳びまわるイメージへ。
無駄な思考は切り捨てろ。私は零戦だ。私は零戦だ。私は、零戦だ。
…否、私「が」零戦だ。
深呼吸をやめ、ゆっくりと目を開ける。
零戦の先端は、私の鼻先。
零戦の後端は、私のつま先。
零戦の羽の左右端は、私の指先。
感覚は、繋がった。
「東京コントロール、こちら三菱A6M2。高度4000フィートを160ノットで巡航中です。IS、零式と合流しました。展示飛行のためにフライトレベル10へと変更を要請します。」
「こちら東京コントロール。フライトレベル10への変更を許可します。周辺に他の機体はありません。フライトレベル10に変更後、そのまま展示飛行に入ってください。」
「三菱A6M2、了解しました。フライトレベル10に移行後、展示飛行、開始します。」
操縦桿を握る手に、自然と力が入る。久しぶりの全力の操縦だ。しかも、羽田空港なんて巨大な場所で飛べるんだ。
感情を高ぶらせたまま、私はエンジンスロットルを絞り、操縦桿を押しこむ。すると、零戦は思い通り、ゆっくりと降下の体制へと入っていく。
眼下には巨大な空港、見渡す限りに蒼い空。石炭の煙も、敵の銃撃もない、実に平和な空である。そして、眼下の空港の滑走路が、零戦のペラをこするほど近づいてきた、その時である。
「さぁ、零戦乗りの力、みせてやりましょうかねぇ!」
私はそう叫ぶと、操縦桿を一気に引き上げる。すさまじいGに体を持って行かれそうになるが、そんなものは関係ない。零戦は根性も必要なのだ。
そしてそのまま操縦桿をひきっぱなしにし、空港の低空ど真ん中でループを行う。
すると、また地面が近づいてきた。
普通の戦闘機なら激突するかもしれないが、私が載っているのは、最高の運動性を持つ零戦21型だ。地面に触れるか触れないかの時点でラダーを蹴り軸をずらしつつ、操縦桿を少しだけ右に倒しつつ、エルロンを動かす。
すると、零戦は面白いことに、横滑りのような形で地面すれすれを飛行していく。
そしてそのまま、滑走路の端部まで行ったとこで、操縦桿を引き上げ、インメルマンターンを行い、最低限の高度をとる。
「あっ。」
そこで思い出した。後方のISはついてきているのだろうか。少し不安になって後方を見る。するとそこには何事もなかったかのように、スモークを焚きながら、零戦の後ろを見事に追従する2機の姿があった。
何事もなかったかのように、スモークを焚きながら、零戦の後ろを見事に追従する2機の姿があった。
「おぉ、すごいすごい。零戦の軌道についてくるなんて! インフィニット・ストラトス、やっぱり乗ってみたい…なあああ!」
私はそう叫びながら、再度操縦桿を引く。今度は失速するまで上昇し、失速反転するハンマーヘッドを行うのであった。
◆
三菱A6M2、「零式艦上戦闘機」の後方に付きながら展示飛行を行っていた山田真耶は、プライベート・チャネルにて、織斑千冬へと通信を送る。
「彼女の軌道、綺麗ですね。」
「あぁ、今までジェット機の後ろについて展示飛行を行ったこともあるが、これだけ無駄のない、美しい軌道を描くパイロットは居なかった。しかもそれを、電子制御のない、戦時中の機体でよくやるものだ。」
千冬もそう思ったのか、小鳥遊彩羽の操る零戦に追従しながらも通信を返していた。
そのさなかにも、小鳥遊彩羽の操る零戦は、インメルマンターン、スプリットS、ハンマーヘッド、そして極めつけには、片翼をこすりつけているのはないかと思うほどの低空で行われる、ナイフエッジをも行っていた。自由自在、変幻自在。その言葉がぴったりと合致する操縦技術だ。
「これで我が愚弟と同じ年齢とはな…。才能とはあるところにあるものだ。この
千冬は零戦の後ろにピタリと付きながら、ぼそりと独り言を呟いた。
そう、驚くことなかれ、今、千冬達の前で零式艦上戦闘機で曲芸飛行をしている人物。小鳥遊彩羽は、未だ高校生にもなっていない女子学生なのだ。
なぜ彼女が零戦に乗れるのか。それは、彼女の家系と、それに関連する、とある職業が原因である。
◆
このインフィニット・ストラトスの世界には、我々の世界にはない、特殊な職業が存在する。
名前は特に決まってない。「飛行士」、「機関士」、「運転士」様々な名前で呼ばれている職業だ。
目的はただ一つ。
「戦争中の兵器を後世に残し、戦争の記憶を色褪せさせないこと。」
つまりは、世界大戦などという、恐ろしい戦争を二度と起こさせないように記憶だけでなく、当時の兵器を保存、維持していくのが生業なのだ。
だが、その特殊性故に、会社、という形では存在していない。国の支援を受けて、その兵器に縁のある一族が、管理を担当している。
例えば、日本の戦車であれば「西住小次郎」の子孫が、
例えば、ドイツのスツーカであれば「ハンス・ウルリッヒ・ルーデル」の子孫が
例えば、イギリスのスピットファイアであれば、「ジェイムス・エドガー・ジョンソン」の子孫が
それぞれの機体を整備、運用している形である。
そして、小鳥遊彩羽の家系は、「零戦」を保管している一族の中の一つで零戦11型、22型、32型、52型などなど、多数の零戦を動態保存しているのだ。
さらに言えば、偶然にも、小鳥遊彩羽が任された零戦、零式艦上戦闘機21型は、当時の小鳥遊彩羽が乗っていた機体が修復されたものであるために、それこそ自由自在、思い通りに、機体を動かせるのだ。
その片鱗たるや、齢、十数歳。彼女が初めて零式艦上戦闘機に乗った時に、一族全員が目を見開いた。なにせ、初心者なのにもかかわらず、いきなりインメルマンターンを決めたのだ。
「新しい風だ…。」
誰が言ったか定かではないが、小鳥遊彩羽は、その言葉通り、あれよあれよというまに、女学生ながら、小鳥遊一族の中でもトップクラスの「飛行士」になっていたのだ。
◆
曲芸飛行を終えた小鳥遊彩羽が駆る零戦は、ISを伴ってゆっくりと第一滑走路へと着陸を行う。
「進入角良好、速度…約76ノット。(140km/h)」
対気速度計と高度計を見ながら、ゆっくりゆっくりと操縦桿を操作する。目指すは三点着陸だ。展示飛行の最後の最後で、バウンドなどしては締まるものも締まらない。
エンジンスロットルを絞り、エンジン出力を更に下げる。と同時に、速度計と高度計を確認すると、速力は60ノット、高さは残り3フィートを切っているようだ。
それならば、とわざと失速させるように、少しだけ操縦桿を引く。もちろんそうなれば、ゆっくりと零戦の機首は上を向く。と同時に、速度が50ノットまで落ち込み、機体に小さな衝撃が走る。
キュッ!
滑走路とタイヤのゴムが擦れる音だ。どうやら、無事に接地したらしい。そして、その後は特に大きな衝撃もなかったため、エンジンスロットルを絞りながら、徐々に徐々に、速度を落とす。
「ふぅ…。」
完全に停止した零戦のコックピットの中で、ふと左右の窓に気を配ってみれば、滑走路にISで着陸したチフユとマヤが、笑顔を浮かべながら、こちらに手を振ってきていた。
「流石最新鋭の空飛ぶ翼…。インフィニット・ストラトス。あんな簡単に零戦に付いて来るなんてなぁ…。…やっぱり、乗ってみたいなぁ。」
私はそう言うと、コックピットから、ISを纏うチフユとマヤに手を振り返すのであった。
妄想が無駄に捗りました。