IS「零式21型」で空を舞っていた。
朝起きてIS、昼間は学校、そして夜にIS。
IS漬けの生活を送っていた彼女であるが、彼女の元に、一人の兎が訪れる。
私はISスーツに着替え、三菱の研究室の奥深くの部屋に詰めていた。というのも、今日はISの適性検査を行うらしい。正確に言えば、精密判定、という奴らしい。
というのも、どうやら私の適性は簡易測定器だと測定不能になってしまうようなのだ。理由を聞いてみれば「通常の簡易測定は様々な数値を総合してSまでの判定を出しているため、その規定数値外の場合は、判定ができなくなる。」とのことであった。
つまるところ、私は簡易測定器で測れないほど数値が低いのか、それとも逆で数値が高すぎる、ということらしいのだ。
・・・希望としてはもちろん、数値が高すぎる方を望みたい。適正というのは、どの世界でもあればあるほどに越したことはないのだ。
たとえばそれは、零戦などの戦闘機も同じである。例えば空戦に必要である、三次元把握能力は、人によって得手不得手があるのだ。私はどちらかと言うと三次元の把握については、得意な方である。相手がここにいるから、こう動く。それ故に零戦はこう動けば、相手の後ろをとれる。ということを常人よりは早く判断できるのだ。
話がそれてしまったが、つまりはIS適正とはそういうものなのであろう。ISを操る上において、ISの動きをイメージできるのか、空中機動が上手くイメージ出来るのか。意志があると言われるISコアとの同調が出来るのか。そのような、「IS乗りとしての基本的な才能」があるかどうかを見極めるのが、この適性検査なのであろう。
ちなみにではあるが、あの織斑千冬は、世界で唯一のSであると付け加えておく。
そう、ということは、もしここでS以上の数値でIS適性があると判明した場合は、非常に、非常にめんどくさいことになりそうなのだ。IS適性があることは良いが、ありすぎると、間違いなくめんどくさくなる。織斑千冬より適正が高い奴、なんて肩書は、絶対にめんどくさいことを引き寄せる肩書だ。実に、痛し痒し、だ。
「彩羽さん。準備が整いました。測定器の中へお願いします。」
そんなことを考えていると、スピーカーからアナウンスが流れてきていた。私はゆっくりと測定器へと、歩みを進める。そして、所定の位置に経つと、目を瞑り、測定が終わるのを只々待つのであった。
◆
測定器の中で静かに、かつ美しい姿勢で直立する小鳥遊彩羽を眺めながら、研究員達は次々と試験項目をクリアしていく。
「コアとの同調性・・・クリア。筋肉量・・・クリア。電気的適正・・・クリア。」
何百という項目を、一つ一つクリアしていきながらも、研究員達は、小鳥遊彩羽の異常さに、少しづつ気づき始めていた。
「・・・・クリア。チーフ、小鳥遊彩羽は何者でしょうか?数値を見てください。」
「うん?小鳥遊彩羽が異常なのは、空中機動を見ていれば判るでしょう。今更何を驚くことが・・・・。」
チーフと呼ばれた研究員は、小鳥遊彩羽の叩き出す数値を見て、驚愕の表情を浮かべていた。ナゼかといえば、その数値は、国家代表候補生と呼ばれる、比較的IS適性が高い搭乗者の数倍の数値を叩き出していたからだ。
「・・・ふむ、異常ですね。数値の上でも彼女は、普通のIS乗りとは違う、というわけですか。・・・とりあえず、この数値に関しては、彼女には伝えますが、外部には公表しないように。無駄な火種が増えます。」
「はい。もちろんです。」
研究員一同、画面を食い入るように見つめながら、頷いていた。そのさなかも、各種試験項目の数値で、常人の数倍と言える数値が、画面には表示されていくのであった。
◆
「・・・ということで、小鳥遊彩羽さん。貴女は一言で言えば、異常です。」
真面目顔なチーフに、正面切って異常ですと言われた私はどうすればいいのだろうか。確かに、説明を効く限りでは、私は異常である。ある意味望んだ通りではあるが、それにしたって、常人の数倍の数値とは。
「特に電気的適正とISコアとの同調率が異常ですね。例えて言うならば・・・・」
チーフは少しだけ間を置くと、私の目を見つめながら、ゆっくりと口を開く。
「・・・まるで、2人の人間がISを操っている。といったところでしょうかね。」
少しだけドキッとした。2人の人間がISを操っている。確かに、間違いではない。現世の私「小鳥遊彩羽」と、前世の「零戦乗りの男」としての私。人生を2回繰り返している私は、確かに「2人の人間」と言えなくもない。
「まぁ、そんなことは現実にはあり得ないのですがね。ま、小鳥遊彩羽さん。このことは社内でも極秘扱いです。貴女のIS適性が世に出てしまえば、貴女は良くてモルモット扱いでしょう。まぁ、その場合は食い扶持には困らないでしょうが。」
チーフはそう言いながら、肩をすくめていた。
「怖いことを言いますね。それにしても・・・説明を聞く限り、今まではなかった数値なんですか?」
「えぇ。今まで一度もありませんでした。かの織斑千冬ですら、常人の1.5倍から2倍のIS適正ですから。それを考えると、やはり貴女は異常です。小鳥遊彩羽さん。」
「そうですか。ううん、嬉しいやらなんやら・・・。」
「喜んで良いと思いますよ。少なくともISに乗る上では、最高の資質を持っているわけですからね。ま、あなたの体の護衛を含めたサポートは我ら三菱が全力でさせていただきますので、ご安心を。」
チーフはそう言うと、笑みを浮かべていた。そして、そのまま矢継ぎ早に、口を開いたのだ。
「・・・あぁ、そうだ一つ忘れていました。この後、小鳥遊彩羽さんには、とある人物と会っていただきます。それまでは、零式でテスト飛行をよろしくお願いいたしますね。」
◆
さて、今この状況を一言で言い表すならば、「どうしてこうなった」である。状況を整理すれば、まずここは三菱重工のISのテストルームだ。
適性測定が終了した後、あいも変わらず、テストルームで空を舞っていた。良いデータが取れたのか、研究員さんたちも、笑顔を浮かべていたのだ。よし、このままのんびりと空を飛んでいようと意気込んでいたのだ。
・・・だが、そこでチーフが、私を個室に呼び出したのである。・・・ある人が来たので、来てくれ、と。機体のカスタムについて話がある、と。そう、ここまではよかった。
「たっちゃん!どう!?私に専用機を任せてみない!?」
「・・・私の一存で決めることではないと思うのですが・・。」
そして、なぜかわからないが、私は今、ISの開発者である束さんと1対1で会話をしてしまっているのだ。もう一度言わせてもらおう。「どうしてこうなった?」。
「いーのいーの!三菱重工は私と協力関係にあるから!それに、たっちゃんだって、今の零式21型の性能じゃ満足できなくなってるんじゃないのかなぁー?」
この束さんは、非常に人間離れをしている。頭脳明晰、文武両道、才色兼備。ただし非常識。会話している今でも、なかなかに良い体臭が鼻を突いてくる。
そして、このように、私の思っていたことを、的確に言い当ててくるのだ。
「・・・確かに、少し物足りなくはあります。」
そう、ISに乗ってはや数週間たった今では、零式21型の速度では満足できなくなっていたのだ。零戦よりも安全性や乗り心地が良いためか、もっと早く、もっと苛烈に、もっと機敏に、動きたいのだ。だが、研究員に相談しても、既に機体の性能を120%引き出している、との返答があるのみであった。
「でしょー?さっすが束さん。なんでもわかっちゃうんだから。っていうことで、これからたっちゃんの専用機を私が作ろうと思いまーす!」
「・・・これから、ですか?ですが、束さんのお時間を取らせるわけにもいかないですし。」
「もー、硬いよたっちゃん。もっと気軽にさぁー!ほら、たっちゃんがほしい性能言ってみて?束さんに遠慮はいらないから、ほら、ほらぁ!」
「そうですね・・・それであれば、性能の底上げをしていただきたいです。速度と反応速度が特に希望です。」
「なるほどねー。速度重視かぁ。うん。わかったよ!ちゃちゃっとやっちゃうねー!
そうだ、あと!色とかって希望あるかな!?」
「・・・・色?ですか。そうですね・・・。」
色、色かぁ。そういえば色なんて考えたことなかったなぁ。零戦といえば乳白色か、それか敵を欺くための深緑色ぐらいしか、なかったもんなぁ・・・。であれば、せっかく色を指定できるのであれば、少し位、派手でもいいか。
「それであれば・・・。白を基本として赤色をアクセントにして頂きたいです。」
「おっけー!紅白だね!それじゃあ・・・色は今は変えられないから、制御プログラムのアルゴリズムを変更してー・・・・。あっ、そうだ。リミッターもちょっと外してーっと。」
彼女は手元で何かのモニターをいじっているようだ。だが、素人目にはそれが何かは判らない。
「・・・・はいっ!出来る限りの調節はやっておいたから!ひとまず今は、ノーマルの零式で我慢してね!本格的な専用機は、パーツを作ってくるから、それを零式に組み込むようにするよ!零式とたっちゃんの相性もいいから、新規で造るよりもきっと良い機体に仕上がるはずだよ!それじゃーまたねたっちゃん!!ばいばい!」
束さんはそういうと、とんでもない速度で走りながら部屋を後ににしていった。・・・本当に彼女は人間だろうか?いまの去る速度も、下手をすれば高速道路を走る車並みだったような気がしないでもない。・・・嵐のような人であった。
そして、束さんが去ったタイミングで、チーフが顔を出し、私に声をかけていた。
「小鳥遊さん、束博士との会談はうまく行ったようですね。」
苦笑いを浮かべつつ、口を開いたチーフ。私も合わせるように、苦笑いを浮かべながら、チーフへと口を開いていた。
「・・・うまく行ったのでしょうか?彼女のペースに完全に呑まれていたのですが・・・」
そう、結局は彼女の怒涛のテンションに飲み込まれ、まともな話が出来なかったのである。私はただ、21型じゃ性能が足りない、もっと速度がほしい。色は白と赤で。といっただけである。
正直、これだけではカスタム、つまりは専用機として成り立つはずがない。私の前世において、零戦の調節を整備員にお願いした時は、それこそレポートで数枚、多い時は数十枚の書類を提出したものだ。低速域でのトルク、ラダーの調節、ロールの速さ、風防の密閉度、無線の感度、操縦桿の遊びなどなど。数えきれるものではない。
ISとなれば、更にその項目は多いはずである。空力だけではなく、PICや墳式推進装置の調節を、全ての数値を見ながら調節せねば行けないはずだ。それが、存続機体のカスタムとなれば、更に容易ではないはずである。
「彼女が零式21型のパーツを作ると、貴女の専用機を作成すると言ったのです。うまく行った、と言っていいと思いますよ?彼女は基本的に、他人に興味がありませんからね。」
「ですが・・・。私が言ったのは、21型じゃ性能が足りない、もっと速度がほしい。だけですよ。細かいことは一切伝えられていないんです。」
「あぁ・・・それは問題ないでしょう。束博士は、本物の天才です。1の言葉から1万の情報を引き出せる方ですから、心配せずとも望んだ機体が出来上がると思いますよ。」
チーフは自信たっぷりの表情で、言葉を紡いでいた。まぁ、チーフがそういうのであれば、束さんの実力はとんでもないものなのであろう。まさに、肩書通りの天災といったところであろう。
「ま、束博士にまかせておけば、間違いはありません。小鳥遊さんは、今までどおりにISを扱って頂ければ大丈夫ですよ。」
「ううん、納得いかないような気がしますが、判りました。・・・そういえば、束さんに専用機を作ってもらうというのは、よくあることなのでしょうか?」
チーフはうーん?と、わざとらしく悩んでいた。そして、満面の笑みを作ると、私に向かって、淡々とこう言葉を発したのである。
「前例は、織斑千冬のみですね。」
ISが世に出て数年。その製作者が造る専用機。素体は別だとしても、その第二号が私ということか。
「・・・そうですか。うん、なんでしょう。がんばります。」
「はい、頑張ってください。これから小鳥遊さんには、もっともっと、ISに乗っていただくことになりそうですからね。」
とんでもないことに巻き込まれた感じがするが、ひとまずは今日も零式に乗ってデータを取り、ISの知識を頭に叩きこむこととしよう。日々の積み重ねにより、腕は少しづつ、上達していくのだ。
・・・そして、一つ心配なのは、零戦乗りに戻れるのであろうかというところである。私のISの能力は、正直抜きん出ていると言わざるをえない。転生した体だからか、はたまた、幼少より零戦に乗っていたからか。どうもこれからは、IS漬けになり、結局IS乗りとして人生を終えるような予感がするのだ。
まぁ、今から心配しても仕方がない。なるようになるか。
◆
・・・たっちゃんは素晴らしい。
彼女は、私との会話でも、一切武装の話をしなかった。なによりも。
「ISに乗ってみてどうだった!?」
---気持ち良いですねー。自由に空を泳げますから。-----
私のいきなりの無礼とも言える質問に、彼女は笑みを浮かべつつ、こう答えてくれた。彼女は、間違いなくISを正しく見つめてくれている。
それであれば。
ISの母である私は、彼女が天高く飛べる、本物の翼を創らなくちゃ駄目だ。ただ、彼女は零式をスゴク気に入ってくれている。零式のコアも、たっちゃんをすごく気に入っている。たっちゃんを載せた時だけ、コアの反応が目に見えてあがるんだ。
零式の特性を活かして、速度と反応速度を上げる。正直難しいと思う。零式は、私から見ても完成度が高い。その完成度を崩して、彼女の専用機にするために性能を引き上げるからだ。だけど、私はISの開発者「篠ノ之束」。このぐらいのこと、造作も無い。
「・・・ふふふ。久しぶりに腕がなるねー!」
さぁ、束さんの渾身の逸品を創りあげちゃおう!自由に空を舞う、彼女のために!
小鳥遊彩羽「なんだかえらいことに巻き込まれたような」
チーフ・研究員「やはり化け物か」
兎さん「気合い、いれるぞぉ!」
妄想捗りました。小鳥遊彩羽と篠ノ之束がお知り合いに。
零式カスタム、始まります。
そして、尋常じゃないIS適正。
前世と今世の魂で、ダブルライダーだ!的イメージです。