Fate/beyond another   作:.副会長.

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お久しぶりです 





11月25日⑦ その男、執行者

 その時、アーチャーは過去のことを思い出していた。自分が座に迎えられる前のこと。英霊として、生まれ変わる前のこと。

 

 死を意識したのはその時が初めてだった。今でもよく覚えている。着物をはだけ、自らの懐に短刀を突き刺したのだ。そう考えてみると不思議なものだ。自ら命を絶った記憶と、遠方で王となった記憶の二つが同時に存在している。

 

 そう、あの時も同じ気分だった。もう直ぐ自分の時は止まるというのにひどく穏やかなのだ。

 

「そうか。俺はこいつに負けるのか」

 

 また自らの力に溺れたか。自嘲の笑みを口元に浮かべる。結局、自分は生前となんら変わっていない。ただ気の向くまま闘争に明け暮れ、いつか誰かに滅ぼされる。だが仕方がない。これが自分であり、自分の生き方なのだ。

 

「短いながら、血の滾る楽しい戦いをさせてもらったぞ」

 

 再び笑う。今度は豪快な、いつもの笑顔。死ぬからなんだというのだ。自分は今、目の前の相手と戦っていることがただ、とてつもなく楽しい。

 

 セイバーが再び鞘に剣を仕舞う。抜刀の構え。彼は間違いなく、自分よりもはるか昔、下手をすれば神代に生きた英雄だろう。武芸などなく、兵法などなく、ただ力任せに戦うが当たり前だった時代。そんな時代に生きていたはずのセイバーが、自分よりも余程綺麗な居合の方を取っている。

 

 それはなんだか、アーチャーにはとても滑稽に思えた。弓をつがえる。自らの全力の一撃が効かなかったのだ。何度やろうと同じこと。勝てるはずはない。ただ、武士として。二度目の生は”らしい”もので終わらせたかった。

 

 互いに見据えるは相手のみ。静寂が再来する。

 

天に笠懸し(あめの)----」

 

我が弓よ(ちんせつ)----」 

 

 張り詰める、というよりはむしろ緩い。一人は最期の一矢として、もう一人は戦意喪失した相手を介錯するだけ。ゆえに、その動きはあまりに遅い。そう、人間一人が肉薄できる程度には。

 

不滅なる呪を残す者(アンサラー)

 

 それは現存する宝具。悪を断つ光神の剣。それによってつけられた傷は、決して治癒しない。北欧のルーンの大家が残した、神代の秘宝のもう一つの形。

 

死を刻む戦神の剣(フラガラック)ッ!!」

 

 強大な怒りを込めた一撃がセイバーを襲う。人間の所業とは想像もできないような、荒ぶる殴打。完全に気を抜いていたセイバーは、なすすべもなく吹き飛んでいく。

 

 手に着けられた革手袋。それを覆うのは、水銀のような流体じみた”何か”。役目を終えたそれは、彼の手を離れ球体へと姿を変える。まるでそれは意思を持っているかのように、彼の周りをフラフラと漂っている。魔術協会の”猟犬”、封印指定執行者、シェイ・フラガ・フィッツジェラルド。

 

 彼は構えを解くと、アーチャーを睨みつけこう言った。

 

「アーチャー、お前何をしている? 俺のサーヴァントである限り、お前に敗北は許されないんだぞ」

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

『素晴らしい。初日にしてまさかここまで揃ってくれるとは、予想外でした』

 

『皆が一様に顔をそろえるとはなんと愚かな』

 

 嘲笑を含んだアサシンの言葉に、相良もつられて苦笑する。自分のつけた知識では、聖杯戦争の際にマスターが最も警戒するのはアサシンによる”マスター殺し”のはずだった、だからマスターは顔を出さず、サーヴァントは単独で、夜に戦うのである。

 

 それが今は白日の大学構内に、マスターとサーヴァントが合わせて8人。加えてマスター候補の人間と監督役までもが顔を合わせている。もはや暗殺者にとって最高の狩場であった。

 

『主よ、どうする』

 

『先ほどのような保護呪文がかけられていては面倒です。混戦になるまで待ちましょう』

 

『承知』

 

 割って入ってきたのはアーチャーのマスターだろう。サーヴァントを素手で吹き飛ばす人間がいるということには驚いたが、それだけだ。静観し、時を待てば必ず仕留める機会は訪れる。相良 日向はただ、その時を待っている。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 山内将悟は苛立っていた。一般人である彼に、英霊達の戦いは見えはしない。それでも、セイバーが”圧倒的”でないことはわかっていた。ゆえに彼はイラついているのだ。自分のサーヴァントが最強でないことに。

 

 それがいま、自分と同じ人間に吹き飛ばされていった。最初は驚いた。何が何だかわからなかった。しかし、それももう落ち着いた。後に残るのは怒りだけだ。

 

 使えない奴はいらない。

 

 だが、自分に何もできないこともわかっている。魔術の知識がないという事実だけが、彼をその場から動かさないでいる。将悟の拳が、硬く握り締められた。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「な……貴様、今頃来ておいてそれはなかろうよ」

 

 一度は死を覚悟した身だ。突然の出来事に、アーチャーは頭が働いていない。それゆえに言葉だった。無意識。自分がなぜこのような状況に陥ったのか、少しも念頭に入れていない言葉。

 

 シェイの理性が吹き飛ぶのも、当然と言えた。

 

「何? 今頃、今頃来ておいて、だと。これはお前の蒔いた種だろうが。俺が何も知らないとでも思っているのか。こいつには手を出すなと言っておいた。お前は返事もした。それがまさか一週間足らずで不意にされるとはな!! おまけになんだその様は。勝手に行動して勝手に負けるなぞ絶対に許さないからな!!」

 

 横に突っ立っている燈を指差してシェイは捲したてる。彼も相当なストレスが溜まっていたようだ。最も、今現在の怒りの大半は日本の駅でさまよった自分に対してのものを他人に向けているにすぎない。

 

「あの、そんなことより--」

 

「うるさいぞ、黙ってろ」

 

 血走った目を燈に向け、一蹴する。その迫力に燈は狼狽えた。それはアーチャーも同じようで、恐る恐るといった様子で燈とシェイの背後を指差している。

 

「おい、後ろ….」

 

「なんだうるさいぞ! 大体お前は----」

 

「いや、後ろを見ないとお前さん死ぬぞ」

 

「あ?」

 

 シェイは後ろを振り返る。つられて燈も奥に視線を向けた。なるほど、セイバーが先ほど以上の殺気で立ち上がっている。何度でも、無言で立ち上がるその姿はゾンビか何かのようだった。シェイは体をセイバーの方に向け直す。あくまで戦うつもりのようだ。アーチャーもそれを察して矢を番え始めた。

 

「そんなことより奴は何者なんだ。何度打ち込んでも立ち上がってくるぞ」

 

「知らん。俺は今、機嫌が悪いんだ。いくら奴の耐久性が高くとも、俺の死を刻む戦神の剣(フラガラック)があればいつか死ぬ」

 

 革手袋をはめた拳を握る。彼の周囲を回る球体の動きが少しだけ早くなった。ゴキリ、とどこかの関節を鳴らす。

 

「反撃開始だ。セイバーを倒すぞ」

 

 





シェイのフラガラックについては次話で解説します
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