Fate/beyond another   作:.副会長.

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更新遅くなり申し訳ありません 本当は昨日までには更新したかったのですが
しかも、加筆修正することが自分の中で決まっているという…


11月25日 終

「なあマスターよ。お前、どうして奴を逃した」

 

 その問いかけに、シェイは苛立ちを覚えた。吸っていたタバコを握りつぶす。先ほどから何度も説明していることだ。惜しいと思う気持ちは自分も同じこと。なのに、何故。

 

「どうしてお前は何度も同じことを聞く! さっきから言っているだろう。教会に貸しを作るため、神秘の秘匿のためだ。元はと言えばお前のせいだぞ。それがなんだ、その言い草は。俺の立場は、戦うことしか考えなくていいお前とは違うんだ!!」

 

 アーチャーの目が見開かれる。言いすぎた、と思った。彼の弓兵がいったいどのような英霊であるか、覚えの悪いシェイですら忘れたことはなかった。だが、感情を抑えられるかどうかは別の話だ。言ってしまったことは仕方がない。

 

 覚悟を決めて、アーチャーを見据える。自分たちの主従関係が、こんなあっさり終わりを告げるとは思わなかった。来世では感情を抑える努力をしようと、そんなことを思いながら。

 

 だが。

 

「すまん」

 

 アーチャーから出てきたのは謝罪の言葉だった。巨体が、深々と頭を垂れる。その光景に、シェイは一種の気持ち悪さを感じた。今ままでの態度からしても、いくらなんでも訳がわからない。

 

「なんだお前…」

 

「すまなかったと言っている。確かに、今回の出来事は俺の蒔いた種だ。救ってくれたことにも感謝する」

 

「そうか」

 

 いったいどういう風の吹き回しだ、とも言えなかった。口先だけでの謝罪でないことは見ればわかる。ただ、不思議なのだ。なぜ、この英霊がこのタイミングで謝罪の言葉を口にするのか。

 

「俺は生前、幾度も過ちを犯した。それは偏に、自身のあり方故よ。俺は戦場以外に居場所はない。だから戦いを欲するのだ。血湧き肉躍る死闘をな。しかし…」

 

 シェイはアーチャーの人生を知らない。召喚前には調べたのかもしれないが、記憶されていない。けれど、アーチャーが語るのを聞く中で彼は思った。きっと、コイツ(アーチャー)は死ぬ前に自分のあり方を後悔したのだ、と。闘争の最中で暴れるのは確かに心躍るものだ。だがそれは常に死と隣り合わせ。本能の赴くまま、戦い続ければ、いずれ何かを失っていく。

 

「俺は息子を失ったのだ。いや、違うな。自らの手で殺した。それは俺が後先考えずにただ、戦い続けたせいだ。子を殺した時、そして自らが死ぬ時に考えたのだ。俺のような生き方が、正しいはずはないだろう、と」

 

 アーチャーは語る。それは、シェイに向けて、というより自分に言い聞かせるようなぽつぽつとしたものだった。

 

「今回喚ばれた時に思ったのだ。どうせなら生前できなかった生き方--主君に仕える武士として働こうと。だが、そう簡単に己の在り方を変えられれば苦労せぬ。「好きに戦え」というお前の言葉で、決心は吹き飛んでしまったのだ」

 

「アーチャー…」

 

「だが、もう分かった。俺の生き方の先にはやはり、破滅しか無いと。そして俺を救ってくれたマスター、お前について行こうと決めたのだ」

 

「あの時、あのままセイバーに倒されていれば俺は生き方を変える気は無かった。それが自分の運命だと、変えようの無い在り方だとな。しかし助けられた。お前にな。ならばこそ、これを最後の機会と思うことにしたのだ」

 

 アーチャーはもう一度、深く頭を下げた。下げながら、膝をつく。両手を伏せ、頭を地面に擦り付ける程、深く下げた。

 

「アーチャー、源為朝がマスターに乞う。もう一度、俺を従霊(サーヴァント)として、自らの僕として使ってはくれぬか。お前に命じられれば、この体は盾となり、槍となろう」

 

 土下座をされた。シェイは、この弓兵がここまでやるとは思っていなかった。加えて、彼は自らの真名を口にしたのだ。誠心誠意の言動であることは明らかだった。

 

「…ふん」

 

 しかしシェイは鼻で笑う。ばかばかしいことだ、と。アーチャーの言葉を踏みにじる。

 

「お前の想いなど知ったことじゃない。自分の生き方を後悔した? そうか、それは結構。だがそんなことで俺の気持ちが晴れるわけじゃない」

 

 手のひらで潰れたタバコを投げ捨てる。宙を飛んだそれは、向かいの壁にあたってぽとりと落ちた。

 

「俺とお前の関係は最初から変わらない。主従関係だ。お前が望んでいる関係だ。それをお前が無視して勝手に自滅しかけただけだろうが。俺の言葉のせいで決意が吹き飛んだ、といったな。そんな吹けば飛ぶような決意なら最初からするな、というか俺のせいにするな」

 

 先ほどの反省は何処へやら。ぽかんとするアーチャーに人差し指を突きつけ、つかつかと距離を詰めていく。その剣幕に後ずさりする巨人(アーチャー)の姿はどこか滑稽に見えた。

 

「お前のせいで俺の計画は台無しだ。僕になると言ったな。良いだろう。覚悟しておけ、こき使ってやるからな!!」

 

 一方的に捲し立てられたアーチャーは、しばらくその言葉を頭の中で反芻する。そして、パッと笑顔になった。

 

「おお! そうかそうか、ありがたい。では契約は続行ということだな。これからもよろしく頼むぞマスター!」

 

 しおらしい様子は彼方へと吹き飛び、その姿は再び豪快な男に戻っている。僕になると言った者が、主人の背中をバンバンと叩いているのだ。シェイはその調子の良さに苛立ちが復活しかけるが、一方でどこか心地よいものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「----告げる! 汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に! 聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ!!」

 

 夜だ。静かな夜。燈は碓氷邸の中、開けたホールで召喚儀式を行っていた。触媒はない。己の縁と運に全てを任せ、この聖杯戦争を勝ち上がる。他者から見れば無謀な行いだ。だが、燈は思う。ここで強い英霊を呼ぶことすらできないなら、自分が生き残った意味がない、と。

 

「誓いを此処に! 我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者!!」

 

 自分は今日、アーチャーに襲われた。しかしまだ、生きている。これを天命と言わずなんだというのだ。

 

「汝、三大の言霊を纏う七天! 抑止の輪より来れ、天秤の守り手よ!!」

 

 眩い魔力の輝きが、ホールを包む。碓氷邸の窓から漏れ出る、まるで日中の太陽のような光。夜明けと間違ったどこかの飼い犬が、大きな声で吠えている。

 

 光はまだホールを覆っている。

 

 聖杯戦争の参加者たちには、サーヴァントの能力値を”視る”力が備わる。正確には、サーヴァントを見たときに感覚的な情報が流れこんでくるというものだ。ある者には山から流れる6本の河川として、ある者には具体的な数値として。

 

 碓氷 燈の感覚は、棚に並べられた本だ。召喚が終わったときに頭に浮かんできた本は、どれも平均的な厚さだった。一見、セイバーやアーチャーと比べても頼りない。燈が注目したのは、英霊の持つ”スキル”の方だった。スキル名【時代の幕開け】。この聖杯戦争であれば、無敵たり得る能力。

 

 彼は確信した。目の前にいる英霊は、強い。

 

「喚ばれて出てきてみればなんとまぁ。マスターがいるとは聞いてなかったな…」

 

 気の抜けた声を聞くまでの短い時間、その確信は続いた。

 

「え、マスターがって…え?」

 

 辺りは元の暗闇を取り戻す。強い光に当てられていたせいかまだ目が慣れないが、目の前の英霊だけははっきりと見ることができた。なにしろ純白の軍服姿だ。長髪を覆うようにハットをかぶっているのは、戦闘時に邪魔にならないようにするため、だろうか。ならば最初から短い姿でいればいいのに、と燈はそんなことを思った。

 

 サーヴァントはキョロキョロと辺りを見回し、それから初めて燈を見つけたような顔をする。燈に向けられたのは、優しい笑顔だった。

 

「見たところ君がマスターかな。僕は騎乗兵(ライダー)のサーヴァントだ。よろしく」

 

「いや、あの。よろしくお願いしますはそうなんだけど、僕もよくわかんないんだけど。マスターがいるとは聞いてないって。どういうこと?」

 

 気さくなライダーの態度に、燈は思わず慣れた口調で返してしまう。昼に見た、殺気立った彼はもういない。気弱で控えめな、いつもの碓氷燈だ。

 

「あ、いや、なんでもないよ。こっちの話さ」

 

 燈はそれ以上聞かない。サーヴァントが話そうとしないなら、それは聞かない方が良いことだ。聖杯戦争の経験はないが、彼は本能的にそう感じ取っていた。

 

「そっか…じゃあライダー、とりあえずこれからよろしく」

 

 素直に受け入れ会話を終わらせた燈に、ライダーは驚きを見せる。

 

「君は聞かないんだね。人は、自分の疑問にはもっと積極的なものだと思っていたよ」

 

「ライダーが何でもないって言ったんだから、それは聞かない方がいいことなんでしょ? もしくは聞かなくていいこと」

 

 それは、全面的な信頼の言葉だった。初対面だ。加えて、サーヴァントとマスターという主従関係である。普通ならもっと勘ぐったり、無理にでも聞こうとするものだろう。生前、多くの変人や偉人たちを相手してきたライダーだったが、燈のような人間に出会ったことはなかった。

 

「マスターはなんというか…変わっているな」

 

 今度は燈が驚く番だった。彼は、自身のことを平々凡々、ありふれた存在だと思っているのだから。

 

「僕が変わっているなんて、冗談だろ。僕は自分のサーヴァントを信頼しているってだけだよ。本当は聞きたいことはたくさんある。僕は聖杯戦争なんて、これまで名前しか聞いたことなかったし。でも…」

 

「でも?」

 

 燈はそこで一つ、大きくあくびをした。しょぼしょぼした目をこすると、ホールの恥に置かれた古びた時計を指差す。

 

「時間。さすがにもう眠いんだよね…ライダーも空いてる部屋好きに使っていいから、もう寝よう」

 

 ライダーが時計を見ると、時刻は午前2時を指している。なるほど、いくら大学生とはいえこんな時間では眠いだろう。サーヴァントに本来睡眠は必要ない、などと野暮なことは言わなくて良いだろう。ライダーは頷くと、ひとまず霊体化し碓氷邸の散策を決めた。燈も、それを見届けて自室に戻っていく。

 

 親友の死を知らぬまま。

 




午前2時って日付跨いでるじゃねえか、というツッコミはしない方向で
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