Fate/beyond another   作:.副会長.

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お久しぶりです 一ヶ月ぶりの投稿です

今回割と本気で悩んだのは、「サーヴァントは聖杯からどこまで知識を与えられるのか?」ということですね
結局「サーヴァントとして普通に過ごすと考えた時に必要のないものは与えられないんだろうな」で落ち着きましたが


第二幕 天の創造
11月26日 最悪の朝


 目が覚めると、そこは見慣れた景色だった。見慣れた部屋、というべきか。

 

「ここは…」

 

 自分の個人オフィスだった。将悟の今の地位は部長である。本来なら、個人オフィスなど与えられるような立場ではない。社長の女婿という立場を最大限利用して手に入れた、彼だけの”城”だった。

 

「起きたか、マスター」

 

 聞きなれない声がした。気だるそうな、けれど高貴な響きを持った声だ。眠気を帯びて少し霞んでいる視界が徐々に晴れてくる。こちらに歩み寄ってくる人影、セイバーだった。途端、将悟は不満げな表情に変わる。

 

「なんだお前か」

 

「なんだとは、冷たいマスターもいるものだな」

 

 対するセイバーは、苦笑しながら将悟に衣服を投げて寄越してきた。見ると、自分は下着一枚で何も来ていない。下着のみで、オフィスの椅子に腰掛けていたのだった。従霊とはいえ、他人にこのような姿を見られていたというのは屈辱的だ。それと同時に、将悟は違和感を覚える。何に、と聞かれれば答えようのない、胸のつかえのようなもの。

 

「…………」

 

「どうした、マスター」

 

 その呼びかけにハッとする。違和感の正体はセイバーであると。何かが違う。これはどこかがおかしいのだ。セイバーは将悟の視線に怪訝そうな顔をした。

 

「なんだマスター。俺の顔に何か付いているか」

 

「いや…」

 

 その時。将悟の右腕が一人でに掲げられた。何かに持ち上げられるような不自然な動きではなく、本当に腕が意思を持って動作したような。そして気がつく。将吾は目を見開いた。

 

「令呪が…」

 

 サーヴァントへの絶対命令権。その三画の紋様のうち、一つが消えているのだ。”使用した記憶”など、無いのに。

 

「マスター、そういえば----」

 

 何かを思い出したようで、セイバーが自分の懐を探る。その隙に、将吾は慌てて右手を隠した。令呪がないことを悟られないようにしなければ、と考えてのことだ。セイバーは挙動不審な将吾に眉をひそめるが、深く追求したりはしない。契約を結んで日は浅いが、マスターがどのような人間であるかは理解していた。

 

「マスターが目覚める前、そこの窓辺に鳥が止まっていてな。教会からの伝令だろう。足にこんなものが括り付けられていた」

 

 セイバーが見せてきたのは丸められた羊皮紙だった。将吾は、それをセイバーの手から奪い取った。もちろん左手でだ。いそいそと開いたそれには、細かく文字が書き連ねられている。どうやら手紙のようだった。

 

「どれ………なんだと!?」

 

 内容に目を通すその目が、再び大きく見開かれた。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「巫山戯るなよ!!!!」

 

 教会に怒号が響き渡る。続いて轟音。瓦礫の転がる音がする。人間が、超速で壁に叩きつけられたのだ。

 

「俺は言ったよな? もし逃せば、お前ごと殺してやると。女ってのは自殺が趣味なのか?」

 

 自らの拳で壁に叩きつけた女に向かってそう言い寄るのは、シェイ・フラガ・フィッツジェラルドだった。その後ろでは、シェイのサーヴァントであるアーチャーが腕を組んで仁王立ちしている。二人とも、神内 琴音の発言に憤っているのだ。

 

「ですから、先ほども申し上げた通りセイバーが自力で逃げたわけではないのです。マスターがあのような行動を起こすとはとても…」

 

「この女ッ」

 

 胸ぐらを掴んでいた手を思い切り振り回し、琴音を放り捨てる。このままでは殺しかねない勢いだった。アーチャーがそれを止める様子はない。

 

「お前、勘違いしているようだから教えてやるが、意識を失った人間を担ぐなんて並大抵の労力じゃないんだぞ。奴は英霊だ、それも最高位のな。それを運びながら代行者から逃れることのできる”人間”がいるわけあるか!!」

 

 シェイの背後で、アーチャーは首をかしげる。お前はできそうだがな、と小さく洩らした。状況にそぐわない、気の抜けたアーチャーの様子に琴音は頬を緩めかけるが、辛抱した。ただでさえ目の前の男は殺意に満ち満ちている。微笑んだりすれば、次の瞬間には肉塊へと変えられるだろう。

 

「しかし実際に起こってしまったことは仕方ありません。それに、彼だけに構ってもいられないのです。新たな問題が----」

 

 言うが早いかシェイの表情が憤怒に変わる。失敗した、と思ったときにはもう遅い。

 

「殺す」

 

「待てマスター!!」

 

「ごふっ!?」

 

 短く呟いたシェイは拳を握りしめ琴音に飛びかかった。その足を、今まで静観していたアーチャーが掴んだのだ。勢いを失ったシェイは当然地面に墜落する。呆気にとられた琴音は声も出ない。

 

「アホか貴様。今、こいつを殺してどうする。お前さんの立場も、これからの任務とやらにも支障をきたすのではないか」

 

「それはそうだがもっとやり方があるだろう脳筋め!!」

 

 シェイの足を掴んだまま、アーチャーはため息をついた。

 

「すまんな。あんたを始末したい気持ちはマスターと同じだ。だが、今はそのワケは聞かん。時間の無駄だしな。話を続けろ」

 

「おい、勝手に話を進めるな」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

「だから話を進めるな」

 

 どうすれば良いというのか。琴音は、アーチャーとシェイへ交互に視線を飛ばした。どうぞ、というように右手をこちらへ向けてくるアーチャーと、いかにも不機嫌、といった表情でそっぽを向くシェイ。琴音は話を続けることにした。

 

「昨日、サーヴァントの一人であるバーサーカーが春日総合病院を襲撃しました。マスターはいませんでしたが、おそらく魂喰いによる霊基の強化が目的だと思われます。予想外の行動でしたが、一般人への情報操作および記憶の改竄は済んでいます。しかし、これでバーサーカーが落ち着くとは思えません。このままでは聖杯戦争の秘匿に問題が…」

 

 沈黙。そんな話は二人にとっても予想外であったようで、言葉の真偽を決めかねているようだった。当たり前だ。約束を昨日の今日で不意にした者など、信頼できるはずがない。

 

「此の期に及んで、お前の話をまだ信用しろというのか?」

 

「信用するしないは別に構いませんが、あなたが魔術協会から与えられた任務には、神秘の秘匿も含まれているのでは?」

 

 信用されていないことなど、琴音にとっては想定の範囲内だ。だから弱みを突くことにした。作戦通り、シェイは苦虫を噛み潰したような表情になる。よく調教された猟犬ほど扱いやすいものはない。琴音は心の中でほくそ笑んだ。

 

「お願いできますよね」

 

 にっこりと笑う琴音と顔に皺を寄せるシェイ、精神的優位がどちらにあるかなど知れている。二人を眺めるアーチャーは、目の前の光景に既視感を覚えた。どうやら、シェイは精神的に琴音と相性が悪いようだ。

 

 これ以上琴音を相手にしても、シェイが疲弊するだけだと判断したアーチャーは、話を早急に終わらせることにした。

 

「いいだろう。その話、このアーチャーが承る」

 

「は!?」

 

 何を勝手に、と此方を睨んでくるシェイを無視してアーチャーは言葉を続ける。

 

「魂喰いをする程度の相手だ。病院一つ食い漁ったところでセイバーとは比べるべくも無い雑魚だろうよ。なに、すぐ済むさ。心配はいらん」

 

「そういう問題ではなくてだな!!」

 

「ありがとうございます。では、よろしくお願いいたしますね」

 

 琴音はゆっくりと立ち上がり、二人に向けて頭を下げた。その顔は不敵な笑みで彩られている。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「おや、もう起きているんだね」

 

「ああ、おはようライダー。一緒に朝ご飯どうかな。そんな大したものは出せないけど……」

 

 朝の七時。特にやることもなく、なんとなく食堂へ足を向けたライダーは、そこで朝食の準備をする燈と出会った。卓にはすでに二つの皿が並べられている。此方が答えなくとも、朝食は出されるのだろう。無粋なことは言わず、大人しく席につくことにした。

 

『おはようございます。7時になりました。朝のニュースをお伝えします。昨日、埋火大学にて起きた、ガス管の爆発事故について----』

 

 音にした方へ目を向けると、平べったい箱の中で人間が喋っているではないか。一瞬ギョッとするが、聖杯から与えられた知識ですぐに気がつく。なるほど、これがテレビというものなのだろう。

 

「へえ、なるほど。僕が死んで140年後にはこんなものがねえ」

 

 140年と口に出しても遠いような、近いような不思議な気分を味わっていた。記憶を掘り起こしても、この時代よりも先、もしくは同じくらいの時代に降りた覚えはない。

 

「ごめんね、サーヴァントに食事はいらないっていうのは知ってるんだけど、一人で食べるのもアレだからさ」

 

 先に食べてていいよ、と言われて置かれたのは、白い生地が茶色い枠で囲まれた"何か"だった。触ってみると白い生地は柔らかいが、外の茶色には少し弾力を感じる。

 

「これは…」

 

 一口。味気ない。口の中の水分がどんどん失われていくようだ。

 

「あ、ライダー! パンはそれを塗って食べるんだよ」

 

 ライダーは燈の指差した方向を見る。目の前には、何か得体の知れない赤い液体が入った瓶が置かれていた。恐ろしすぎる。しかしマスターのいうことすら信用しなくてどうするのか。ライダーは勇気を持って瓶に手を伸ばし、中の液体を、パンと呼ばれた食べ物の表面へ塗ることにした。量はよくわからないので、とりあえず白い表面が隠れる程度だ。

 

「なるほどね…」

 

 パンを口へ運びながら、テレビに映る映像の観察を続けた。下に大きくうつされた文字と、男性の読む情報が流されている。大きい文字は今、男性が話していることの内容の、簡単な説明のようなものだろう。シンプルだがわかりやすい構成になっていることに、ライダーは心中で感嘆する。

 

 しばらく見ていると、大きい文字が別のものに切り替わった。

 

『続いてのニュースです。春日総合病院での集団死事件ですが、事件に巻き込まれたと思われる男性の身元が判明しました。男性の名前は桜田 正義(さくらだ まさよし)さん、19歳。現在事件との関連性などを警察が調査しており…』

 

 突然、甲高い金属音が響いた。その音に、ライダーは思わず立ち上がる。燈が呆然とした様子で此方に視線を送っていた。視線を送っているというよりも、ただ此方に眼球が向いているだけのような。

 

「……マスター?」

 

 一体どうしたというのか。目は虚ろで、まるで魂が抜け落ちたかのようだ。どう見ても普通の状態ではなかった。

 

「…そだ」

 

「え?」

 

「嘘だ…」

 

 短くポツリと呟くと、意識を失ったように燈はその場に崩れ落ちる。ライダーは慌てて駆け寄った。二人の背後では、無機質なニュースキャスターの声が響き続けている

 

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