Fate/beyond another   作:.副会長.

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11月26日 思惑、交差

「あれ、留守かなぁ…」

 

 もう一度インターホンを鳴らす。しかし応答はない。春は悲しげにため息をついた。その後ろには、見目麗しい女性が立っている。小柄で華奢。ふわりとしたワンピースを着て長髪をなびかせる姿はさながら深窓の令嬢だ。神々しく超人然とした雰囲気は、道ゆく人の目を嫌が応にも引いている。まさに輝くような魅力を放つ、その美女こそキャスター。真凍 春のサーヴァントである。

 

「マスター。やっぱりやめておきましょうよ。共闘なんて普通の参加者はやらないわ」

 

「何言ってるの。私は昨日だってあの人を助けたんだからきっと信用してもらえるはずだよ。それに、これはキャスターにとっても損はないはずじゃない」

 

 そう言って春はもう一度インターホンへ指を向ける。キャスターへ言った事は建前だ。何よりも、昨日の出来事を終えた燈の身が心配だった。先日の様子であれば、燈は未だ英霊を召喚していないのだろう。理由は不明だが、それは今の環境下では危険すぎる。なんとかして燈を助けたい。その一心で、春はインターホンを連打した。

 

『うるさいなあ。あれ、これはこう使うんでいいんだよな。で、はい。誰?』

 

「えっ……」

 

 春は凍りつく。その声は、どう聞いても知っている声ではなかった。春が調達した情報では、今燈はこの屋敷に一人で住んでいるはずなのだ。他の人間がいることなど、全くの想定外だった。

 

「マスター?」

 

「キャスター…いつでも戦えるように準備しといて」

 

 そう呟くや否や、春は駆け出した。もちろん碓氷邸へ向かって、だ。慌ててキャスターは追いかける。これは不味いな、とキャスターは直感で感じていた。碓氷邸の中で起こっているであろう出来事ではない。問題なのは、これからの春の行動である。

 

「ちょ、待ってマスター!」

 

「吹き飛べ!!」

 

 言葉通りだ。親指と人差し指を伸ばし----銃の形を作って家の扉へ向ける。放たれた魔弾は木製の、少し高級感のある扉を無慈悲に破壊した。

 

「なんだ!?」

 

 家の中から声がする。やはり、燈の声ではない。もっと明るい雰囲気を持った誰かだ。キャスターの持った印象では、燈は暗くて自信なさげな人物だった。屋敷に入った先にいるであろう者は、それとは真逆の存在だろう。言うなれば舞台の主役となるような。

 

「きゃっ!?」

 

 一足先に突撃して行ったマスターの叫び声がする。キャスターは決意を固めた。十中八九、敵も聖杯戦争の参加者だ。直接的な戦闘はしたくないが、ここまで来たら仕方がない。

 

「宝具、展開」

 

 言葉とともに、元着ていた服が弾けるように消えて十二単が現れる。花のように開いた、着物の裾を慣れた手つきで掴むと、風の如く走り出す。駆け込んだ先にいたのは、白い軍服を着た長髪の男。

 

「やっぱりサーヴァント--ッ!!」

 

 マスターを止めなかった自分を、心の中で戒める。現に、春は敵に手首を掴まれているのだから。

 

「あ、お(まん)が…」

 

「『婚約試練:永命の糸(つばめのこやすがい)』ッ」

 

 キャスターの手によって虚空から生み出された白い物体が、春と敵へ向かって飛ぶ。目も眩むような閃光を発すると、次の瞬間に真凍 春はキャスターの腕の中に収まっていた。

 

「へ?」

 

 状況を理解できていない春を庇うように、半身になってキャスターは問う。

 

「昨日のあの場にはいなかったサーヴァント……。あなたがライダーってことね」

 

「--ほう、見ただけでわかるがか。大したもんじゃ」

 

「あなたは知らないでしょうけど、昨日英霊の集会があったのよ!!」

 

 軽口を叩きながら呪符を飛ばしていく。だが相手は相当の英霊であるようで、彼女の攻撃を軽々と避けていく。

 

「生憎、昨日の夜に呼ばれた身でな。参加できんくてすまんのお」

 

「--あら」

 

 そこで気がつく。どうやらライダーは碓氷 燈が召喚したサーヴァントであるようだ。考えてみれば当たり前の話である。しかし半ば奇襲まがいに突貫、交戦してしまった以上、今さら言ったところで信用を得るのは難しいだろう。

 

 今の所、ライダーが反撃をしてくる様子はない。牽制代わりに札を打ち続けながら、抱えている春を横目で見る。両手で顔を抑えていた。どうやら先ほどの相手の言葉で、春も過ちに気がついたようだ。歪んだ恋愛感の次は、この猪突猛進な性格をどうにかしなければ、とキャスターは謎の使命感を感じ始めるのだった。

 

「なんとか話を聞いてもらえる状況だけでも作らないと…」

 

 敷地の広い館とはいえ住宅街の中だ。下手をすれば、今にでも一般人に目撃されかねない。なおかつ相手はかなりの手練れ。唯一の救いは殺気を見せてこないことか。キャスターは、この状況を自らの能力で打開しようと思考を巡らす。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「主よ」

 

「ええ、分かっていますよ」

 

 自らの住むアパートで、相良 日向はそう言ってニュースの映るテレビ画面を消した。春日総合病院での集団死事件。これは間違いなくサーヴァントによるものだ。

 

 相良の持つ聖杯戦争、およびサーヴァントの知識はそこまで深くはない。故に、サーヴァントの、人間の魂や精神を喰らって霊基を強化する行為を相良は知らない。しかし、これは人間の手で行える所業ではないということは理解していた。

 

「困りましたね…英雄というからには、少しは筋が通っているだろうと踏んでいたのですが」

 

「英雄でも、いやむしろ英雄だからこそ人間よりも人間的であるとも言える。それ故彼らは醜い。闇に生きる我々より余程な。それは、学者である主も十分に理解しているだろう」

 

「ええ、わかっていますよ…ただ、少し期待をしていただけのことです」

 

 喋りながら、彼は寝間着から私服へ着替える。ガス管の爆発事故----セイバー達の戦闘行為のおかげで、埋火大学はしばらく休校となっていた。単位に追われる学生たちにとっては痛手となるかもしれないが、講師である相良にはむしろ幸運だ。こうして自由に動ける機会を持てるのだから。

 

「で、如何するのか」

 

 歯を磨きながらアサシンの声に耳を傾ける。霊体化はしていないはずだが姿は見えない。暗殺者のクラススキル、【気配遮断】のおかげだろう。

 

「如何する、とは?」

 

「病院を襲ったサーヴァントの対処だ。昨日の出来事なら、あの場にいなかった者だろう。つまりライダーかバーサーカーだ。見つけるのに、そう苦はないと思うが」

 

 口を濯ぎながら相良は苦笑する。自らを”道具”と称したアサシンがこんなにも饒舌に、マスターに語りかけてくるとは。アサシン自身は気がついていないと思うが、聖杯戦争という場に少なからず気が高ぶっているのだろう。

 

「何もしなくて結構ですよ。どうせ他のサーヴァントが倒してくれるでしょう。それで一人でも倒れてくれたら、儲けものです」

 

「承知」

 

 それきりアサシンの声はしなくなった。相良はクローゼットに手をかける。久しぶりの、大学以外への外出だ。いつもとは違うコートを着て出かけることにした。ファッションは、相良の密かな楽しみでもある。人類が作り上げた文化の中でただ一つ、衣服は至高のものである、というのが相良の考えだ。

 

「さて」

 

 家の戸締りは完了。靴のかかとを整えると、ハットを被って相良は歩き出した。目的地は春日教会である。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「ランサー」

 

 春日教会。目を瞑り、十字架に祈りを捧げる女が一人。誰もいなくなった教会で、琴音は”彼女”の名を呼んだ。音も無く、彼女は現れる。

 

「はいは〜い。何の用?」

 

 不服そうな様子でもなく、発した言葉のように楽しそうな様子もない。まるで棒読みだ。その眼からは、生の輝きが失われているようにも見える。だが琴音はそんなランサーの様子を気にかけるでもなく、祈りの姿勢を崩さず彼女へ命令を下した。

 

「バーサーカーを殺しなさい」

 

「あら、殺しちゃっていいの? あれは他のサーヴァントを潰す駒にもなると思うのだけど」

 

「------」

 

 しばしの沈黙。空虚な時間が流れる。ランサーは琴音に返答を促すでもなく、ただ待っている。無関心、無表情、無反応。それらが沈黙をより濃いものにする。やがて琴音が目を開いた。

 

「確かに戦力になり得ますが、それ以上に事が大きくなりすぎる。計画の為にも、魔術協会や聖堂教会に目をつけられることは避けたいのです」

 

「へえ。まあ、いいけど」

 

 不服なのか。それとも納得したのか。それさえもわからない。ここに立っているその瞬間にも、ランサーからは”彼女らしさ”が消えていっているような印象さえ受ける。琴音もそれに気がついたようで、静かに背を向けて与えられた命令を始めようと、ゆっくり教会の出口へ歩んでいくランサーを呼び止めた。

 

「待ちなさいランサー。此方へ来て」

 

 ランサーが足を止める。くるりとその場でターンし、こちらへ再び歩み寄ってくる。巨大な槍を持っていることさえ除けば、彼女はただの少女だった。

 

「ええ、そうよ。此方へ。いい子ね」

 

 琴音はランサーの頭を優しく撫でた。そう、まるで我が子に触れる様に。その手には、”二画”の令呪が刻まれている。

 

「そうよ。大人しく。まだ来てはダメ。”あなた”を思い出して。戻ってくるのよ。いいわね…」

 

 艶かしい響きで、琴音はランサーに呼びかける、二画の令呪のうち一画が薄れていく。朱い刻印が薄れるのとは反対に、ランサーの目には輝きが取り戻されていく。

 

「え、あれ、私、もしかして”出てきちゃってた”?」

 

 やがて、元の生き生きとした姿に戻ったランサーは恥ずかしげに顔を伏せた。そんな様子を見て琴音はランサーを抱きしめる。

 

「大丈夫です。元はと言えば、私が令呪をセーブしているせいなのですから。あなたはよくやってくれています」

 

「そ、そうかな…」

 

 思わぬタイミングで褒められたランサーだが、まんざらでもなさそうだ。パッと笑顔になると、琴音が抱擁を解くと同時に元気よく駆け出した。

 

「じゃ、行ってくるね!」

 

 教会の出口へたどり着くと共に、琴音の方へ手を振って霊体化する。そんなランサーを見送り、琴音は一人呟いた。

 

「早く…早くあなたにまた逢いたいわ」

 





Fate/Grand Order、とても良かったですね 面白かったし、何よりシナリオが……
もうカルデア’sみんな大好きです(名もなき職員さん達含め

感想、質問、等々ありましたら書き込みしていただけると嬉しいです なんならFGOへの愛を叫ぶ、みたいなのでも構いません


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