Fate/beyond another   作:.副会長.

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2016/12/25に、燈の桜田君に対する呼び名を修正しました
自分が本家様のを見落としていたせいなのです… 以降の桜田君登場の場面でもいくつか手を加えています


11月21日② 逃げ続ける者と踏み入れる者

「よっ。燈、何やってんの。課題?」

 

 後ろから背中を叩かれ、碓氷 燈(うすい あかり)は危うく転びそうになる。ここは大学の図書館だ。もう日も暮れ始めた頃だが利用者の数は少なくない。

 つんのめった拍子に何冊かの本を落としてしまい、近くの者の視線が集まるのを燈は感じた。

 

「--なんだ正義(まさよし)か…。やめろよ、ここ図書館だぞ」

 

 本を拾い上げながら友人を睨みつける。

 

「いやぁ、悪いな。お前見つけるとテンション上がるっていうか」

 

「なんだそれ」

 

 燈は溜息を吐いて本棚に書籍を戻した。こんな騒がしい友人がそばに居ては調べ物など進まないだろう。

 

「あれ、戻しちゃうの?」

 

「お前どうせ邪魔するじゃん…それより、話したいことあるから声かけたんだろ?外のカフェで聞くよ」

 

「話が早くて助かるよ燈クン」

 

 もう一度背中を強く叩かれ、燈は本棚に額をぶつける。自分より身長が高く、性格も社交的な桜田はキャンパス内でも人気者だ。

 そんなヤツに何故こんなにも気に入られているのか。それは高校時代からの謎である。

 

「どうせ僕の奢りだろ…」

 

「いやぁ、よくわかるな。さては超能力者か?」

 

 そう言ってさっさと出口に向かってしまう桜田を、燈は慌てて追いかけた。

 

 自由なヤツだな、全く。

 

 ため息が出る。だが不思議と嫌な気はしない。世の中にはこういう、"憎めないヤツ"が少なからず存在することを燈は知っていた。

 

 カフェは図書館の向かい側だ。時間帯的にも空いており、すぐ座ることができた。

 自分の分のオレンジジュースと頼まれたコーラを、トレーにのせて席まで持っていく。

 

「おぉ、ありがとな」

 

 テーブルは綺麗に拭かれていた。こういう気遣いのできるところが、憎めないヤツたる所以なのだろう。

 

「うん。で、話って?」

 

「そうそう、来週締め切りの脚本のことなんだけど」

 

「あぁ、なんだそれか…」

 

 燈は嫌なものを思い出し、顔をしかめた。燈と桜田は大学の演劇サークルに所属している。桜田は二枚目役者、燈は脚本担当なのだが、新舞台の脚本の提出締切が来週の土曜までなのだ。今回はオリジナルのもの、と注文されているので、燈はいつも以上に頭を悩ませている最中だった。

 

 大方、先輩の誰かから催促するように言われたのだろう。役者や監督たちからしてみれば、脚本は早く上がってくるに越したことはないのだから当然と言えば当然だ。

 

 ごめん、まだ書けていないから渡せない。

 

 そう謝ろうとしたところを桜田の言葉が遮った。

 

「途中まででいいから俺にだけ、先に見せてくれない?」

 

「はい?」

 

 照れ臭そうに言う桜田の顔を見返す。そんなことを言われるとは思ってもみなかった。

 

「いや、俺さ。お前が書く脚本好きだから、楽しみなんだ。だから我慢できなくて、少しだけでも」

 

 目の前で両手を合わせ、頭を下げる桜田に燈は戸惑っていた。自分の作品にファンがいる、というのはクリエイターにとっては等しく幸せなことだろう。だがまさか。こんなに近くに自分の書いたものを「好きだ」と言ってくれる人がいるとは。

 

 嬉しさと驚きで、燈がフリーズしているところに桜田が再び懇願する。

 

「ダメ…かな。いやいや!なんかそういう物書きにとって”未完成”ってのは見られたくないものってのはわかってるんだ!でもやっぱり我慢できないっていうか」

 

 一人であたふたする桜田の様子に燈は苦笑する。他の作家はどうか知らないが、燈自身は確かに”完成品”しか他人に見せたくない。確かその話を桜田にしたな、と思い返しながら、リュックサックからノートパソコンを取り出した。

 

「別に構わないよ、お前なら」

 

 コンピューターを立ち上げ、画面を親友の方へ向ける。制作中の彼にしては珍しく、今回の作品には自信があった。題名(タイトル)は『ロストメモリー』。

 

 ありきたりな内容ではあるが、記憶喪失になった青年が過去を追い求めていくという話だ。青年は、過去の探索を続けていくうちに”記憶喪失前の自分”と”今の自分”との間で苦悩することになる。

 

「へえ、やっぱいいなぁ。あ、こことか好きだ。「僕は記憶がないんです。家はどこなのか、自分は誰なのか。もちろん友達の顔も分からない。だから、今の僕には貴方が初めての友人なんだ」」

 

 ノートパソコンの画面を夢中で見る桜田を横目に、燈は自分の右手を眺める。なんともないはずのその手が、不意にチクリと痛んだ。

 

 もう少し、もう少しだけ。ゲームのやめられない子供のように、燈は日常にしがみつく。

 

 

 其れでも、燈の思いなど関係はない。聖杯戦争は、すぐそこに迫っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 現代において、魔術は科学技術を追いかけている状態だという。

 

 あらゆるモノの出発点である”根源”を目指すそのあり方は、時を逆行しているようなものだ。

 

 一方、歴史学はどうだろうか。

 

 彼らは、古い出来事から新しいナニカを追い求める。過去に記された文献を読み解き、またそれを否定的な目で見ることが重要だという。

 

 魔術とは真逆と言っても良いのではないだろうか。

 

 先祖から受け継がれてきた魔術刻印と知識を信じ、過去を遡る魔術師。遥か昔から記されてきた史実に疑いの目を向け、そこから新しいものを取り出そうとする歴史学者。

 

 だが、目を向けている場所は同じだ。”過去”である。

 

 過去に還れば還るほど、そこは神秘の力が強かった時代だ。

 

 歴史学者が”神秘”の末端に触れていたとしても、不思議ではないだろう。

 

 

「そういうことです。ご理解いただけましたか?」

 

 そこは古びた神社だった。参拝客はおろか、物音ひとつしないほどの夜更けだ。鳥居と社に挟まれた開けた場所に、三人の男がいる。

 

「意味がわからない…一体なんなんだ貴様は……何が目的だ」

 

 三人のうち、地面に倒れ伏している男が弱々しい声を上げた。それを見下ろす男が二人、地味な服装でメガネをかけた方が返答する。

 

「何が目的…この状況で、目的など一つでしょう。あなたの持つその刻印と、使い魔ですよ」

 

 右手に持ったカッターナイフの刃をくるりと回して、倒れている男へ向ける。刃の先から、赤い液体が滴り落ちた。その雫は、足元に広がる水たまりへ。水たまりもまた、赤い。そして、それは倒れている男の方から広がっている。

 

「な…!?やめろ、それだけは…ッ。頼む、金でもなんでもやろう。これだけは、令呪だけは…ッ」

 

 必死の懇願。この男は魔術師だった。昔は名のある一族だったものの没落し、聖杯戦争で起死回生を狙っているという、ありふれた魔術師。血だまりができるほどの深い傷を負ってなお、喋ることができているのは自身に治癒魔術をかけ続けているおかげだろう。

 

 カッターナイフを持って哀れな魔術師を見下ろす男は、しばらく何かを考え込んでいる様子だった。だが、やがてニッコリと笑い、こう言った。

 

「なるほど。これだけは、ですか。いいでしょう、その刻印…令呪ですか?それは奪わないであげます」

 

 男の言葉に魔術師は安堵する。

 

「そ、そうか。なら…!」

 

「ええ、ですから”命”の方を。できれば人は殺したくなかったんですが…残念です」

 

 残念そうな、本当に残念そうな声で、男はカッターナイフを持ち替えて魔術師の眼球に振り下ろした。

 

「な、はッ、あぁ!!あぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁあああぁあぁぁ!!!!!!!!!」

 

 叫ぶ魔術師の口を塞ぎ、今度は右胸に刃を突き立てる。一回、二回、三回、四回。やがて動かなくなった魔術師を無造作に地面に転がした。すでに男の視線は、第三の存在に向いている。

 

 凄惨な光景が繰り広げられる中で一言も発さず、かつ何をするでもなくその場にただ立っていた影のごとき存在。

 

「さて、それで。あなたが”サーヴァント”ですね?」

 

 まるで何事もなかったように。日々の会話でふと話題を変えるような軽快さで男は言った。問われた側は、そこで初めて男と目を合わせる。黒く細い目が、たった今”殺人”を犯した者の冷淡な目と交差した。

 

「そう…我こそが英霊(サーヴァント)。クラスはアサシン。して、貴殿が我が主となるものか」

 

 魔術師を刺し殺した男も異常であるが、彼もまた異常と呼べる精神を持っていた。たった今、どう見ても自分の”マスターであろう人間”が殺害されたのにも関わらず、あろうことかその当事者に「自分のマスターか」と問いかけているのだから。

 

 これには流石に男も驚いたのか、目を丸くする。

 

「なんと…まさかこれほどまでに淡白な人物だとは。生来の在り方通りといえばその通りなのでしょうか」

 

「死者に言葉は意味を成さない。ただ、目の前の生きている者に、今の我が身に相応しい問いかけをしているだけだ」

 

 事実を述べるだけ。他は何もない。ただそれだけ。自らは思考する必要のない、只の道具であることを、彼自身が一番よく理解しているからだ。

 

 男はその素っ気ない返答に苦笑する。

 

「なるほど、確かにそれは事実ですね。私の名前は相良 日向(さがら ひなた)。貴方のマスターですよ」

 

「承知した。これより我は主の影となり、手足となる。貴殿はただ、命を頭で念ずるだけで良い」

 

 単純な確認作業を終えた後、相良の左腕に令呪が浮かびあがる。流れゆく雲を思わせる、左右非対称の曲線的な図形だ。

 

 相良はそれを確認し、再びアサシンに目を向ける。

 

「一つ聞きたいことがあるのですが」

 

「遠慮なく言うが良い」

 

「貴方の聖杯への願いはなんですか?」

 

 

 沈黙がその場を支配する。アサシンが言葉に詰まったわけでは無い。言っている意味が理解できていなかったのだ。

 

「願い?願いとはなんだ。我に思うことなど無い。我らは主の道具だ。主の喜びが、そのまま我の喜びとなる。死ねと言われれば我の首を落とし、殺せと言われれば主の心臓を突くとも」

 

 極端なまでの”無私”。相良は、今度は驚かなかった。先ほどまでの会話で、”アサシンならばこう言うだろう”と予想した問いかけだったからだ。

 

 

 ーーーこれならば、私の願いは…

 

 

 相良は薄く笑った。それと同時にアサシンが闇に溶けていく。

 

 

 己の願望のために狂気に足を踏み入れた男と、道具となり人として”狂った”暗殺者の聖杯戦争が、始まる。

 

 





二人なのは別にサボりというわけではない

それにしても、サーヴァントのステータスの掲載時期をどうしようか悩んでいます
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