Fate/beyond another   作:.副会長.

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11月24日 感情、あるいは

 

 

「なあ、おい」

 

 巨大な図体の男が、口を開いた。隣にはイラついた様子でハンバーガーを食す黒服がいる。アーチャーと、マスターであるシェイだった。

 

「なあ、おい」

 

 アーチャーがもう一度言った。ここは春日港の近くにある海浜公園だ。今にもはち切れそうなTシャツ一枚の巨人と、殺気立っている黒服男という組み合わせは端から見ても普通ではなく、日曜の午前中にも関わらず、二人の周りにだけ奇妙な空間ができ上がっていた。

 

「なあ」

 

「なんだうるさい」

 

 3回目の問いでやっとシェイが返答する。アーチャーは思わず叩き殺そうかと考えるが、原因が自分にあることを思い出し、堪えた。

 

「ここ何日か、ずっと気になっていることがあるんだが」

 

「さっさと言ってくれ、答えられる範囲で答えてやる」

 

 吐き捨てるように言って、シェイはハンバーガーにかぶりついた。その横には、包み紙の山ができている。

 

 もっとも、これはアーチャーが食べた分だ。シェイが不機嫌な理由もここにあった。サーヴァントを召喚してからというもの、”英霊の食費”として、一体幾ら魔術協会に請求していることか。昨日はついに「本来、英霊に通常の栄養摂取は必須ではない。自らのサーヴァントを律することもマスターの責務である」といった内容のメールが届いていた。

 

 ”執行者”という身である自分に、こんな連絡をしてくる者といえば時計塔でもかなり高位の者だろう。しかも”メール”というシステムでだ。自分と面識がある人間の中で、現代文明を使用する高位の魔術師は一人しかいなかった。長髪の顰め面が脳裏に浮かぶ。

 

「ファック…」

 

「いつになったら暴れて良いのだ」

 

「グッ!!」

 

 思わずむせる。シェイが今、二番目に触れてほしくない場所に突っ込んできたからだ。そう、一見ただの大食い巨人に見えるが、腐っても英霊なのだった。気だるげな様子のアーチャー。しかしその目は、獲物に飢えた狩人の目をしている。

 

「待て。直に敵の方からやってくる。あと1日だけ待て」

 

「そうは言ってもな。「好きに暴れろ」と言われて琉球を出てからもう5日も経っているのだぞ。いい加減、我慢も限界というものよ」

 

 そう、5日。アーチャーを召喚してから既に5日が経過しているにも関わらず、現界したサーヴァントは弓兵を含めても僅か4騎。

 

 アーチャーほどでなくとも、シェイ自身、少なからず気を揉んでいるのは確かだった。

 

 しかし彼は戦闘狂ではない。殺意と怒りを抑え、猟犬(やくわり)に徹する。じっと、息を潜め、獲物が現れるまで待ち続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 触媒を使わない英霊召喚では、自らと相性が良いであろう英霊が選びだされる。しかし、それは必ずしも「良好な関係が築ける」こととイコールではない。そういう意味で、真凍 春(しんとう はる)の聖杯戦争は、ひとまず良好なスタートを切れたと言えるだろう。

 

「マスタ〜? どこにいるの〜?」

 

 廊下にのんびりとした声が響く。女性のものだ。衣擦れの音がする。声を上げた女性が着物を着ているのだ。それは、十二単と呼ばれる装束だった。いくつもの衣を重ね着する、平安時代の女性装束である。

 

 この世のものとは思えないほど美しい長髪の女性が、十二単を着て現代の家を彷徨っている。それがどれほど奇妙な光景であるかは、想像に難くない。それもそのはず、彼女は”此の世成らざる者”、そして真凍 春のサーヴァントなのだから。

 

「あ、キャスター!こっちこっち!」

 

 扉が半開きになった部屋から顔を覗かせ、春がキャスターに向かって手を振る。キャスターはパッと笑顔になり、可愛い足取りでそちらへ向かった。

 

「何してるの? もしかして、また燈くん?」

 

「本当に残念だけど違うわ。まあ、あの人に繋がることではあるんだけど…」

 

 そう言って高揚した様子でキャスターに見せたのは、7つの小さな水球だった。テニスボールほどのものが6つと、サッカーボール大のものが1つ、机の上で浮遊している。

 

 しかし、これが一体なんだというのか。キャスターには、水球が多少の魔力を帯びているということしか分からなかった。

 

「これは監視衛星よ」

 

「監視衛星?」

 

 聞きなれない言葉だ。聖杯から与えられた知識に”監視衛星”という言葉はなかった。

 

「これは各マスターを見張るものなの。こっちの大きいのが親機で、小さい方が子機ね。それぞれ一つにつき一人、この春日市内だったらどんな場所でも見られるわ」

 

 説明しながら、春は小さい水球を一つずつ叩いていく。水は魔力的な力で固定されているのか、プルプルとその場で震えているだけだ。キャスターは大体理解したようで、言葉を引き継ぐように聞き返した。

 

「つまり、この親機で、子機の映像が遠隔的に見られるのね? この子たちを他のマスターたちの元へ伸ばすとか、そんな感じ?」

 

「そう! 物分りが良くて助かるわ」

 

 興奮した春はおもわず拍手をした。

 

「で、ここからが本題なんだけど」

 

「各マスターの髪の毛か何かが欲しいとか、そういうこと?」

 

「ええ… 何でわかるの」

 

 あまりの察しの良さに、今度は若干眉をひそめる。表情をコロコロ変える春にキャスターは苦笑した。

 

「私の時代は加持祈祷とか呪術とかが流行っていた時期だから。そういうのは詳しいつもり」

 

 妖艶な笑みを浮かべるキャスターに思わず惹き込まれる春だったが、はっと気を取り直す。私の想い人は、ただ一人。

 

「まあ、そういうのなら任せて。3日あればできると思う」

 

「本当? あ、ちなみにあの人のはここにあるから大丈夫」

 

 おもむろに春は、来ている服のポケットから一本の黒い毛を取り出した。惜しげもなく取り出し、水球に突っ込むあたり、何本もあるうちの一つなのだろうとキャスターは予想する。

 

 程なくして”親機”と呼ばれる水球に映像が浮かび上がった。いつの間にか、毛が入れられた”子機”が消えている。自動追尾型の魔術なのだろう。

 

「はあ… 燈さん……」

 

 春はうっとりとした瞳で水球の映像を見つめる。それを見たキャスターは、なんとも言えない気持ちになった。

 

「そのやる気を、他の方面にも出してくれればいいのだけど… 能力はあるのに」

 

「え?なんか言った?」

 

「なんでもない」

 

 マスターが碓氷 燈に向ける感情が特別なものだということを、キャスターは重々承知していた。それは聖杯戦争において最も不要なものだが、いい方向に誘導できれば”敗北”に直結するものではない。

 

 自らの聖杯戦争のために、彼女はマスターの恋心を利用する。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 目がさめると、青年は闇の中にいた。手足は動く。闇が濃すぎて見えはしないが、動いた感覚でかろうじて、自らの無事が確認できた。

 

「ここは、どこだ」

 

 声も出る。だが依然、視界は晴れない。闇というのは本来人間を不安にさせる存在のはずだ。しかし、その闇はどこか心地よく、青年はされるがまま、闇に包まれた。

 

「眠いな」

 

 まるで日向ぼっこをしているような、気持ちの良い温さに青年は微睡んでいく。

 

 惨劇を、知らぬまま。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「ん? 面倒臭いときに目覚めるやつだな」

 

 しゃべったのは人間である。しかし、声を発しているのは”人間ではないナニカ”だった。

 

「まあいい。もう一度寝ておけ」

 

 首をこきりと回した。その声は、老人、少年、若い女性、他にも無数の人間が同時に喋っているかのようだ。血溜まりの中心で佇む、ドス黒いシルエット。一振りの日本刀を持ったソレの手の甲には、真紅に輝く令呪がある。

 

 ここは春日市のどこかのコンビニエンスストア。いや、正しくは”コンビニエンスストアだった場所”だ。千切れた足、腕、首。苦悶の表情を浮かべ転がる、ミイラのような死体。そして床を覆い尽くす血液。地獄のような光景だった。

 

「お前らなあ、自分たちが悪いんだぞ? ん? 俺は大人しくすれば楽だって言っただろうが」

 

 死体を踏みつけながら、イラついた口調で喋る。堪えるものは誰もいない。ここにいるのは、彼と死体だけ。日本刀をくるくると回し、彼はコンビニの中を歩き回る。足を踏み出すたび、ピチャピチャと血が跳ねた。

 

「でもなあ、これじゃ足りないんだよ。もっと食わなきゃ、あいつらには勝てない」

 

 芝居がかった調子で、頭を抱える。彼は狂人。すすり泣き、しゃがみこむ。彼は過去に存在した英雄などではない。喚きだす。怒りに身を任せるかのように、商品棚を蹴飛ばした。人間には、感情というものが存在する。疳高い叫び声をあげ、力任せに刀を振り回した。彼のこの感情は、一体なんだろうか。

 

 

 それはおそらく、人間にしかないものだ。






察しのいい方はなんとなく予想していそうですが、シェイはとある原作キャラと血縁関係にあります
従兄弟とかその辺かな
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