Fate/beyond another   作:.副会長.

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11月25日① 引かれ合う、その先に

「セイバー」

 

「なんだろうか」

 

 山内 将悟(やまうち しょうご)の呼びかけにセイバーは答えた。荒々しい長髪とは裏腹に、その表情は穏やかだ。端正な顔立ちをしていることもあり、一見すれば、役者かアイドルかのように映るかもしれない。

 

 もっともそれは、時代錯誤な注連縄が腰に巻かれた甚兵衛を着ていなければ、だが。はだけた胸からは鋼のような肉体が見える。素人が見ても「只者ではない」と即座に分かるような気配を醸し出している彼こそが、この聖杯戦争における最優のサーヴァント、セイバーだった。

 

 そんな英霊に向かって、将悟はぞんざいな態度で服を投げる。

 

「教会に行くぞ」

 

「そうか」

 

 ただ従順に、セイバーは着替えを受け取る。先日、教会に顔を出すことを勧めた時は無下に断られたことを、彼は覚えていた。しかし、マスターの心変わりに疑問を投げかけることはなく、また自分への態度を咎めることもない。

 

 それはひとえに、彼が”山内 将悟”という男に愛想を尽かしているからだ。もはや彼は、自分のマスターのことを”自分を現世に繋ぎ止める道具”程度にしか思っていない。これさえ我慢すれば、自分は聖杯を手に入れることができる。そう考えたが故の服従だった。

 

「早くしろ」

 

「ああ」

 

 車に乗せられながら、彼は考える。マスターが魔術師では無いためか、本来の自分よりだいぶステータスが低いことは事実だ。適当な頃合いを見計らい、脱落した他のマスターと再契約するのが得策だろう。横目で将悟の様子を伺うが、こちらには全く気を回していない様子だった。

 

 ---殺す時も簡単そうだな。

 

 ふっ、と一瞬冷めた目をするセイバー。彼にとって人間など、どんな存在であれ取るに足らないものだ。ましてや魔術師ですらなく、何の力もない素人など。

 

 それは他のサーヴァントにしても同じことだ。英霊などと言われてはいるが、所詮は元人間。血沸き、肉躍るような白熱した戦いは望めないだろうと、彼は一人落胆していたのである。これが、どうしようもないマスターに大人しく従っているもう一つの理由だった。

 

 つまらない。セイバーは今、重苦しい憂鬱の中にいる。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 単独行動。

 

 弓兵(アーチャー)のクラス固有スキルの一つである。マスターが魔力供給をしていなくとも、大概の行動は行えるという強力なスキルだ。遠距離攻撃が中心となる、弓兵ならではのものと言えるだろう。

 

『だからと言って勝手にどっか行く阿呆がいるか!』

 

『まあ落ち着け、1日だけといったのはお前だぞ』

 

 念話で怒鳴りつけてきたシェイにうんざりしながら、アーチャーは春日市を見下ろした。彼は今、市内で一番高い場所である春日ベイパーク・タワー、その頂上にいる。並外れたその視力で、獲物を探しているのだ。

 

『で、お前どこにいるんだ』

 

『教えると思うか? まあそんな本気でやりあったりはせん、ほんの小手調べだ』

 

『……面倒なことはするなよ』

 

『おう』

 

 それきりシェイは何も話してくることはなかった。「好きに暴れて良い」と言ってしまった手前、強気に出づらいのだろう。アーチャーはそれを自覚していたのである。

 

「さて、あの小僧は…」

 

 狙うはあの”写真の青年”だ。目的は一つ、シェイを困らせることだけ。無表情のマスターの顔が驚きに歪むのを想像して、アーチャーはクツクツと笑った。

 

「だいがくせい、とやらの身分らしいがどこにおるのだ」

 

 持ち前の鷹の目を光らせる。写真の青年の容姿ははっきりと記憶していた。めぼしい場所を片端から見ていくが、姿は見えない。

 

「屋内にいるやもしれんな」

 

 作戦変更。アーチャーは霊体化し、空に溶けていった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「何か嫌な予感がするの」

 

 マスターから突然そう言われたキャスターは、目を瞬かせた。数秒考え、理解する。きっとまた、碓氷 燈(うすい あかり)のことだ。虫の知らせ、というやつだろうか。

 

「あの人の…燈さんの身に何か起こりそうな気がして」

 

「あらそう? 一応、水球を注意しておくわ」

 

「うん…」

 

 春は不服そうな様子だった。キャスターはため息をつく。一体どうすれば良いというのか。

 

「いや、別に不満てわけじゃないの! ただ…」

 

「ただ?」

 

「やっぱり何でもない!」

 

 そう言って、春は工房を飛び出した。もう一度、キャスターはため息をつく。キャスターが水球を撫でると、眠そうに大学の講義を受ける燈の姿は消え去り、春の姿が映し出された。駅へ向かう道をまっすぐ走っている。まさか大学へ向かうつもりなのだろうか。

 

 春が映し出された水球は、他のマスターを監視するが為のものである。しかしキャスターは、春の危なげな様子故に、秘密裏に使用しているのだった。

 

 春の恋愛感情は、聖杯戦争に参加している限り、どこかで”排除”しなければならない。だが、召喚された直後に2時間ほど、延々と語られた「碓氷 燈トーク」によれば、聖杯戦争は春に初めて与えられた”碓氷 燈と関われるキッカケ”なのだという。

 

 今無理に引き裂いてしまえば、どうなることか。キャスターは、自らの聖杯戦争とマスターの精神状態で揺れていた。

 

「こんなのサーヴァントが考えることじゃないでしょ…」

 

 3度目の溜め息。生前、こんなに溜め息をついた記憶はなかった。2度目の生の方が精神的に疲れているという事実は、彼女のやる気を低下させるには十分だった。

 

「あーもう!」

 

 自らの綺麗な髪をかきむしる。指通りが良すぎるのか、全く乱れる様子はなかったが。

 

 今回の聖杯戦争、自分は勝たなくてはならない。勝って願いを成就するのだ。そのための最初の障壁が、まさか自分のマスターとは。多難すぎる前途に彼女はもう一度、今日最大の溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「××××××を狙いなさい」

 

「ええ」

 

 二人の女性の声が響いた。一人は手に槍を持っている。女の身長の倍はあろうかというその槍は、澄んだ魔力を放っている。その魔力を反映するかのように、女の声も明るい。対照的な雰囲気を放つのは、もう一人の女である。

 

「適当な頃合を見計らって私が止めます。くれぐれも殺さないように」

 

 凛とした、厳しい響き。槍を持つ女の明るく瑞々しい声とは違った、落ち着きをもった声である。

 

「わかってる。でもなんで? いないほうが楽なんじゃない?」

 

「まだ聖杯戦争は始まっていません。大事なのは”キッカケ”です」

 

「…ふーん」

 

 未だ納得のいかない様子の少女だったが、やがて槍をくるりと回し、くつくつと笑った。大ぶりの槍は、その回転だけで音を立て、空を切る。

 

「それが”願望”のためならば。この槍兵(ランサー)、あなたの手足となり働きます」

 

 恭しく、というよりは相手をおちょくるように。ふにゃりと崩れた一礼をして、ランサーは消え去った。

 




短いですね、すいません

聖杯戦争開幕まで、あと一話!
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