Fate/beyond another   作:.副会長.

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11月25日③ 収束

 

 

「はい二人とも。ここで引き返してくれる?」

 

「ッ…!?」

 

 燈と春。二人の目の前に突然現れた少女は、可愛らしい笑顔でそう言った。巨大な刃物をこちらに向けていなければ、素直に引き返していたかもしれない。そう思うほどの、実に明るい声だった。

 

 息苦しさを感じるほどの強大な魔力。サーヴァントだ、と二人はすぐに悟った。ゆっくり近づいてくる少女から距離を取ろうと後ずさる。しかし後方からはアーチャーが追ってきているはずだ。おいそれと戻るわけにもいかない。

 

「春ちゃん、なんか策とかないの」

 

 情けないのを承知で、燈は尋ねた。もちろん自らでも頭を巡らせる。だが何も浮かばない。それもそうだ。彼が母から習っていたのは小手先の魔術のみで、戦うための手段など与えられていない。燈は、久しぶりに自らの生まれを呪った。

 

「そ、そんなことを言われても…」

 

「何話してるの? 早く戻って〜」

 

 ぶんぶんと槍の穂先を振り回して距離を詰めてくるランサー。このままでは本当にもう一度、アーチャーと顔を合わせることになりかねなかった。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 淀んだ空気。汚れた肉体。殺戮がここに。

 

「あー、あー、んっ、んん!!」

 

 喉を鳴らす黒い影は、今までのようなブレた声ではなかった。喉から絞り出すその音は、よく通る青年の声だ。

 

「は、あああぁぁぁぁ…」

 

 深く、深く、息を吐き出す。しっかりと、”声を出す感覚”を確かめる。

 

 血みどろの空間で、その作業は、どこか場違いな、異常な雰囲気を持って行なわれていた。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「困りましたね…」

 

「チッ、今度はなんだ!」

 

 山内 将悟は苛立っていた。この自分がわざわざ訪ねたというのに、春日教会の修道女は、もてなすどころか事務的な挨拶のみなのだ。その上、今度はあらぬ方向を向いて難しい顔をしている。どう見ても、将悟のことなど思考の端にも入っていなかった。

 

「落ち着けマスター。神内 琴音は監督役だ。彼女に強く当たってもいいことはないぞ」

 

「黙れ! さっきから下手に出ていれば偉そうに。こんな田舎の教会、俺が一言言えば--」

 

「申し訳ありませんが、お引き取りください。どうやらアーチャーとアサシンが問題を起こしかけているようなのです」

 

「お引き取りだと!?」

 

 ついに怒りが頂点に達した将悟は、琴音を怒鳴りつけようとするがその前に、彼女はさっさと教会から出て行ってしまう。着替えも何もせず、というところが事態の緊急性を表していたが、将悟にそんなことは知る由もない。彼は教会の座席を思い切り蹴った。

 

「くそ!! なんなんだあの女は!」

 

「そんなことよりもマスター。神内 琴音はアーチャーとアサシンの所へ向かうと言っていたが。行かなくていいのか?」

 

「なんだと?」

 

 思わず眉をひそめる。将悟には、行かなくて良いのか、という問いかけの意味が理解できなかったのだ。セイバーは溜め息をつきそうになるが、堪えた。

 

「アーチャーとアサシンが問題を起こしかけている、というのは恐らく戦闘行為のことだろう。こんな日中で戦闘を行えば当然目立つ。前も話したが魔術師にとって”神秘の秘匿”は最優先事項だ。警告か、罰則。神内 琴音の仕事はそれだろうな」

 

「それとこれと、俺になんの関係があるんだ!!」

 

 なおも怒鳴る将悟に、セイバーは憂鬱な気分が増していく。しかし、このマスターから勝手に離れるわけにもいかない。彼は言葉を続ける。

 

「アーチャーとアサシンを仕留めるチャンスだということだ。それに、あの二人を倒せば神内 琴音に貸しができる。いくら監視役といえど、複数のサーヴァントを同時に相手するのは厳しいだろう」

 

「俺に、この俺に、あの女の使いパシリをしろというのか!!」

 

「そうは言っていない。ただ、貸しを作れば今後は有利になると----」

 

「もういい。黙れ」

 

 先ほどまでとは違う、冷めた口調の将悟にセイバーはハッとする。今のは自分のミスだ。プライドの高い彼に対しては、すぐに身を引く方が正しい選択だった。焦るセイバーの眼の前で、令呪が赤く輝く。

 

「セイバー。今後一切、俺の前で喋るな。お前はただ、俺の言うことに従う機械でいいんだ」

 

 それは、本来ならばなんてことのない命令だった。高度な対魔力スキルを持ち合わせるセイバーなら、抵抗するのも容易なはずの。ただの言葉が彼を縛る鎖となったのは、山内 将悟という人間のあり方故か。上位に立ち続けることへの、脅迫的なまでの執着。

 

 セイバーは、自らの意識が闇に飲まれていくのを感じた。まるで眠りに落ちていくかのように、一つ一つ、自分が持っているはずの感覚が薄れていく。

 

「く、くくく、くははははははは!!!!!!」

 

 将悟は恍惚する。強者を虐げる喜びに。自らこそ勝者である、という実感に。

 

「…………」

 

 セイバーに、今までのような覇気は無い。身体が萎んだのかと錯覚してしまうような、それほどの変貌だった。

 

 かくして傀儡は出来上がる。最優の剣士に、もはや”心”は無い。恨めしげな目の輝きだけを残し、彼という存在は殺されたのだ。

 

 その腰には、二振りの剣が揺れている。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「美しい…!!」

 

 相良 日向は感嘆の声をあげた。

 

 アサシンとアーチャー。二人が繰り広げる戦闘。それはまるで、舞いを踊っているかのようだった。肉眼では捉えられないほどの疾さ。刃がぶつかり合う煌めき。力強く日本刀を振るう弓兵と、四方八方に飛び回り翻弄する暗殺者。

 

 剛の剣と柔の術が交差するその光景に目を奪われかけるが、不意に興味が失せたのか双眼鏡を下ろした。

 

「しかし…これもまた、争い。犠牲と絶望を生む、人間の業…ですか」

 

 その後、相良が双眼鏡を手に取ることはなかった。






部活の合宿に行っていました

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