絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 12 【想いと誓いを繋げ鍛えて】 -B-

 

 ウォーミングアップと言う名目の長距離登坂ランニングが終わり、一行は山の中腹…まるで採石場のような場所に付いていた。

 息を整えながら身体を伸ばす者が多い中、ペースを速め過ぎたクリスとどうしても体力面で劣る調と切歌の三人は既に座り込んでしまって……いや、調と切歌は完全にぶっ倒れていた。調は真っ直ぐの仰向けになり小さな胸だけを大きく上下させて、切歌はまるでどこぞの格闘家(ヤ○チャ)のような横向きでうずくまる姿勢で。

 そんな者たちに甲斐甲斐しくスポーツドリンクや冷たいタオルを差し入れる未来とエルフナイン。特に未来は、中学の頃は陸上部に所属していたこともあり運動のマネジメントについてもある程度は分かっていた。彼女にマネージャーを頼んだのは正解だっただろう。

 

「っくしょー、逸り過ぎちまった…」

「…三人とも、大丈夫?」

「………もーいっぽもうごけないデース……」

「夏の時とは、大違い…」

「あはは、確かにそうかも…」

 

 乾いた笑いで返す未来。この夏…先だって起こった魔法少女事変の最中にも、装者全員での特訓は行っていた。

 場所は夏の太陽が激しく照らす澄み渡った青藍と広大な黄金色…つまりはサマービーチだ。

 行っていた特訓内容は、瞬発力と判断力と運動力を鍛えるビーチフラッグや、チームワークと空間認識力と動体視力などを鍛えるビーチバレーなどなど…。

 まぁ言ってしまえば夏の浜遊び。遊びを全力で行う鍛錬で得られるものもあるが、今行っている特訓と比べれば”楽しさ”の面が大きいのは言うまでもない。

 ”厳しさ”の面が強いこの特訓には幾分か心が疲れてしまうのは致し方ないだろう。まだ年端も行かぬ少女なのだから。

 

「おいおいだらしねぇぞ。まだアップが終わっただけじゃねぇか」

 

 倒れる彼女たちに口を出してきたのは人間の姿を取っているゼロだった。汗に濡れているものの、さほど息を切らしているようには見られないのはやはりウルトラマンだからだろうか。

 言いながらその場で自らの習得した宇宙空手の素振りを行う。素早く徒手空拳を繰り出す姿は、まだまだ元気が有り余っていると言った感じだ。

 そんな彼の前に一人の少女が立っていた。響だ。

 

「ゼロさん! せっかくの機会です、組み手をお願いしますッ!」

「――あぁいいぜ、来いよッ!」

 

 互いに拳を学ぶ者、交錯した視線と表情で語りたい事は即座に理解していた。

 言葉の後に一定の間合いを取っての一礼、そして構え。

 片や風鳴弦十郎直伝の中国拳法をベースとした自在型実戦格闘術。片やウルトラマンレオ直伝の凶悪な怪獣や宇宙人と相対することに特化した宇宙拳法。無限に広がる宇宙の一片で、次元空間や流派を越えた若き拳士たちが、開始の合図も無く自然とその拳を交え始めた。

 

 ゼロの猛烈な攻撃と相対する響。

 重撃を紙一重で避け、速撃は両の腕で防ぎ弾く。そうすることでダメージを最小限に抑えようと言う算段だったが、牽制の一撃ですら響の予想を超える重さがあった。

 重速を使い分け、アドリブでタイミングを変えて襲い掛かる連撃に響は防戦一方となっていた。

 

「オラッ! もっと攻めて来いよッ!!」

「クッ…! ハイッ!!」

 

 なんとか攻撃の合間を縫って振り抜かれる響の拳と脚の連撃。だがそれを、ゼロはいとも容易く回避していく。

 しかし、その優勢を維持しているはずのゼロも、攻撃に合わせて間合いを詰めては離していく響の動きに内心戦慄いていた。

 先日の戦いで響の持ち味は必殺級の爆発力を持つ一撃であることは理解っている。そして彼女自身気付いているかは不明だが、その足取りや間合いの獲り方は、一瞬の隙あらば必殺の一撃を叩き込まんとする為の布石でもあるのだ。

 故に連撃を止められない。止めたが最後、彼女の肉体は最良の間合いを陣取り瞬間的な爆発力を以て此方の急所を確実に打ち抜いてくるだろう。そんな確信があった。

 

「フッ――…疾ッ!!」

「――ぬ…ッそぉ!!」

 

 やがて動きを追えるようになったのか、響の速撃がゼロの身体を掠め始めた。ならばこそ注意を更に強くし、彼女の持つ必殺の一撃に備えるべきだとも思案する。

 だがその考えがあったにも拘らず、ゼロの負けん気は上昇する熱量と共に一気呵成に勝負を付けようと加速していった。

 側頭部を狙ったゼロの空中回し蹴りが襲い掛かり、響はほぼ反射行動として両腕でそれを防御。しかし躱せなかった重撃は彼女の身体を吹き飛ばし転がす。

 

「もぉらったぁッ!!」

「――……ッ!!」

 

 そこを目掛けて突進し、打ち付けるように拳を振りかぶるゼロ。だが響の眼はその動きをハッキリと捉えており、痛みを無視して瞬時に呼吸を合わせ上体を起こす。

 振り落とされたゼロの右拳を受け流しながら半身を捻り回し、空いた胸部に自らの身体を入れ込み、震脚と共に右肩でその鳩尾へと鉄山靠を打ち込んだ。

 完璧なカウンターとして打ち込まれた鉄山靠。その衝撃にゼロは身体を吹き飛ばされて倒れ込んでしまった。

 

「ハアッ…! ハアッ…!」

「…うむ。やるようになったな、響くん」

「何をやっているゼロ!! 相手は女の子だぞ!!」

 

 星司の怒號を聞き、ゆっくりと起き上がるゼロ。口内を切ったのか、口に溜まった血液を吐き出して呆れ顔で星司へ声を返した。

 

「…エース先輩よぉ。オンナノコだからって可愛がるのは結構だが、こいつらはちゃんとした戦士でもあるんだぜ?

 まともに喰らっちまったのは多少でも嘗めてかかった俺が悪い。そりゃ確かだ。けどよ、みんなとはまだ一緒に戦うんだ。背中、預けたいじゃねぇか」

「………!」

 

 真剣な顔で語るゼロに星司は言葉を返せなかった。共に戦うと認めた者は、もはや保護する対象ではない。隣に並び立つ、仲間なのだ。

 仲間に信を置き、自らの背中を任せ託す。ゼロの語る言葉は、誰よりも彼女たちシンフォギア装者の力を認め信じていることに相違なかった。

 

「フゥッ…悪いな響、待たせちまった。さっきのヤツ、だいぶ効いたぜ」

「ハッ…ははは…。そんなに笑顔で言われても説得力無いですよぉ…」

「いやいやマジだって。俺もちょっと今の技覚えて、今度レオ師匠相手にやってみるぜ」

「だ、大丈夫なんですかそれは…?」

 

 和やかに笑いながら話すゼロだったが、すぐにその顔を引き締める。たったそれだけで周囲の空気が変わったことを、相対する響だけでなくそれを見守る弦十郎や翼たちにも即座に理解できていた。

 

「礼と言っちゃなんだが、俺も師匠から教わった技を使わせてもらうぜ。悪いが、やられっぱなしは性に合わねぇんだ」

「――分かりました、お受けします…ッ!」

 

 構えから駆け出したゼロが一足で空中に飛び、響に狙いを定める。そして全力を込めて定めた標的に向けて流星の如き激しさを溢れさせながら放たれる跳び蹴り…ウルトラゼロキックを打ち込んだ。

 それを真っ向から、両腕を十字に組む十字受けで迎え受ける響。軋む音を立てながら、彼女の腕にこれまでの組手とは桁外れの威力が圧し掛かって来た。

 

「おおおおおおっらぁあああッ!!!」

「ぐ、うぅ…ゎあああああッ!!」

 

 なんとか耐えてはいたものの、最後の押し込みを含めたゼロの必殺の蹴りが響を吹き飛ばす。先程彼が受けたカウンター鉄山靠より高い威力を思わせる激しい飛び方で、周囲は思わず騒然とした。

 だがそれよりも速く彼女の背後に回り込んだ者がいた。赤いジャージに身を包んだ巨漢、風鳴弦十郎だ。

 その大きな身体で響を受け止め、それと同時に全身のバネと後方の足を地面に打ち付ける。瞬間、彼の周囲が轟音と共にクレーター状にめり込み、その場で静止。

 常軌を逸した光景に、相対していたゼロがキメを取れずに呆然と口を開けてしまっていた。

 

「………マジかよ」

「ふぅ…大丈夫か、響くん?」

「し、師匠…?」

 

 変わらぬ豪放な笑顔で響に問う弦十郎。少しばかり安心したのか、響もまた笑顔になって素直な返事をした。

 

「…大丈夫じゃないですよぉ。ゼロさんの必殺キック、すっっっごい強かったです」

「そうか。確かに、ありゃとんでもない威力だったな」

「ハイ。…でも、あんな技が使えれば、私ももう少しは強くなれますかね?」

「強さは技が全てじゃない。使う者に正しい心があってこそだ。それは、理解っているな?」

「ハイ! 私が強くなりたい理由は、大切なみんなを守るためッ!!」

「ならば良しッ! 励めよ、響くんッ!」

「ハイッ!!」

 

 麗しく美しい師弟愛。それはある種感動すら覚える光景ではあったのだが、先にゼロには尋ねておかねばならない事があった。

 

「…あの、風鳴司令?」

「おう、どうした?」

「さっきのアレ、一体何やったんだ…?アレ俺けっこー本気でやったんだけど…」

「あぁ、衝撃は全て発剄でかき消した。おかげで靴はおじゃん、ジャージもハーフパンツみたいになっちまったよ。はっはっは!!」

「……えー、うっそぉ……」

 

 豪快に笑う弦十郎に、遂にその気を抜かれてしまったゼロ。いくら地球人の大きさにダウングレードされているとは言え、流石に師から受け継いだ自らの得意技、その衝撃をほぼ無傷で受け流してしまうなどと予想だにしていなかったのだろう。

 弾け飛んだ弦十郎のジャージと靴、そして足元のクレーター。それだけでゼロ自身が手加減していなかった証明になる。手加減しなかった上で、これなのだ。

 見れば響にも骨折などの重傷は見られない。彼女の身体に与えた衝撃でさえも、発剄で掻き消したとでも言うのだろうか。

 この時、ようやくゼロは弦十郎への認識を改めた。以前翼が言っていた通り、この地球人は間違いなく地球最強の生物。下手したらこの宇宙の中でも相当強いヤツに入る部類だと。

 

「こりゃ参ったぜ…。司令、アンタがもし俺たちと同じようなデカさになってれば、俺の師匠とも良い勝負できそうだな」

「俺にはこの大きさで十分さ。ウルトラマンのデカさだと、碌に家で映画も観れないからな」

「ハッ…可笑しな人だよ、アンタは」

 

 

 

「まったくゼロのヤツ…加減と言うものを知らんのだな…」

「そう言わないでくれ、翼。確かにゼロはウルトラマンの中でもまだ若い。それ故に無茶を仕出かすこともある。だが、その漲る力でみんなを引っ張っていくのが彼の良さでもあるんだ」

 

 溜め息交じりに呟く翼を猛が少し申し訳なさそうに代弁する。気合に溢れるゼロの姿を眺める彼の横顔は、何処か懐かしみを感じているように翼には見えた。

 

「漲る若さ、ですか…。確かにそういった力には、何処か惹かれるものがあるのかも知れませんね。私も、なんだかんだで立花の持つ弾けんばかりの明るさには助けられているところもありますから」

「そうか。でも君もまだ、老成するにはいささか早過ぎると思うけどね」

「…っ!た、確かにそうなのかも、しれませんが…」

 

 にこやかな猛の指摘に思わず顔を赤らめてしまう翼。先達として、戦場の道を斬り拓く防人として後輩たちを率いてきたつもりの彼女だったが、自身もまだ二十に満たぬ少女。猛の言う通り大人と言うには未だうら若く、瑞々しい年頃でもある。

 しかし彼女自身、自らの性格に”強さ”は有っても”明るさ”は無いと思っていた。

 無論陰気でネガティブと言う意味ではなく、ただそこに在るだけで周囲を照らすことの出来る…太陽のような精神性と言うものだろうか。自分はそういうモノを持ち合わせていないと、何処かで自覚していた。

 ――始まりのあの日より、ずっと隣にそのような存在が居たから、だろうか…。

 不意に蘇る憧憬を鼻で笑い、改めて自身のパートナーたる青年を見直す。確かに、その精神性は似ているのかも知れないと、翼は意図も無く思った。

 

「しかし、矢的先生も若かりし頃は心血に熱を滾らせし教育者として鳴らしたものとお聞きしております。やはり、あのような姿を見ると何か思うところも御有りで?」

「ははは、それを言われると恥ずかしいな。

 …確かに、私も若さに任せて無茶をしたこともあった。それに今も、大切な生徒や仲間たちの為にならこの心を燃やすことは躊躇わない。ただ、それで受けた成功も失敗も、全てが私の糧となって今がある。

 それが理解できるようになったのを老成と言うのかは、私にはまだ理解らないけどね」

 

 遠く空を眺めて語る猛の言葉には、何か大きな重みが感じられた。若輩たる我が身を反省すべしと、思わず自制してしまうほどに。

 ただ理解ることは、彼の歩んできた道もまた、生半可な物では無かっただろうと言うことだった。

 

 

 

 特訓は続き、その中休み。僅かな休憩時間を、マリアはエルフナインとエックスの二人と共に居た。

 

「…夏の時も思ったけど、本当に具体的な訓練メニューは存在していないのね…」

『そのようだな。風鳴司令の超人振りとそれを支えたと思われる訓練法を見ると、やはり此処は荒唐無稽な組織だと思わされる』

「でも、それに付いて行けているマリアさんも凄いですっ」

「ありがとうエルフナイン…。どうにかなんとか、だけどね…」

 

 パウチのスポーツドリンクを吸って飲み、思わず小さな溜め息を付いてしまうマリア。本当に、我ながらとんでもない事に付き合っていると思い返してしまったのだ。

 当然のようにジョッキに注がれた生卵を一気飲みし、冷凍肉をサンドバック代わりにぶん殴る。そこまではまだ、辛うじて響や翼から聞いていた特訓内容だ。

 だが徒手で滝の流れを断ち切らせたり、振り子のように揺らし襲い来る丸太を素手で捌いたり、岩肌を用いて三角跳びを強行したり、目隠しして四方八方から飛んでくるボールを躱したりは中々予想外も良いところだ。

 その上模造の得物や防具を装備して良いとは言え二桁にも満たない近距離から連続で投げ付けられるブーメランを捌き落としたり、轢殺の意を伴うジープに追い立てられたりされるのは流石に命の危険を感じざるを得なかった。みんなよく大怪我も無くこなして行ったものだと感心するほどだ。

 聞けばこれら訓練はゼロの師であるウルトラマンレオが行っていたものの一部だと言うし、その新手の特訓法に爛々と目を輝かせていた風鳴司令と完全に澱み曇って死んだ目をしていたクリス、調、切歌の三人との対比がとても印象的だった。

 かく言うマリア本人も、クリス達ほどではなくとも目が澱んでいたのは自覚している。特訓内容を聞いた時、その概要の理解にだいぶ時間を要したのだから。

 

『しかし凄まじかったな…。特にあのジープ。記録係としてデータを残してはいるが…クリスや切歌の阿鼻叫喚だけならただの地獄絵図で済んだものを、その合間に翼が平然とした顔で飛び回るのだから恐ろしい。

 この両極端の姿は中々にこちらの正気を削ってくれる映像だ。夢に出かねんな』

「…そういうのを一々思い出させないの」

 

 忘れてしまいたかった絵面を思い出させられてしまい、小さな怒りと共にエックスの憑依している端末を俯せに倒して軽く抑えつけるマリア。

 いつ知ったのだろうか、こうすると端末前面の液晶部分を視界としているエックスを物理的にブラックアウトさせられると言うことに。

 

『マリア!? ちょっと待ってくれ! それをされると何も見えないんだ!! 助けてくれエルフナイン! エルフナイィーンッ!!!』

 

 デリカシーの無い電脳宇宙人が必死に叫ぶも、その相方たる少女はおろおろとマリアの方を眺めているだけだった。

 自業自得。彼にはその言葉を贈ろう。

 そんな何処か愉快な空気を漂わせている彼女らの隣に現れたのは、星司だった。

 

「隣、邪魔するよ」

「えぇ、喜んで」

 

 軽い言葉と共にマリアの隣に座り込む星司。一息吐いてすぐ、首や肩を動かしては伸ばしていく。

 その姿はやはり外見年齢相応の、未だ盛んなれど寄る年波には勝てぬ男の姿にしか見えなかった。

 そんな彼にマリアが声をかけていく。その話題は、自然と調と切歌のものになって行った。

 

「お疲れさま。調と切歌が色々苦労をかけてしまって申し訳ないわ…」

「なに、君が気にする事じゃないさ。俺が好きでやってるようなモノだからな。

 …だが、俺はどうにも過保護になっているような節があるようだ。ゼロのヤツに言われてハッとしたよ。

 一体化を果たしておきながら、未だあの子たちの事を隣に立つ者ではなくこの身の後ろに立たせる者だと思っているんだな」

「…ありがとう。あの子たちを、そこまで想ってくれているなんて」

 

 星司の独白に、マリアは感謝の言葉で返す。彼にとってその返答は予想外だったのか、少々驚いた顔で彼女へ顔を向けた。

 

「前に一度、あの子たちから私に北斗さんの事を話してきたの。よく怒って、でもすぐに笑って…そして、本気で心配してくれる人なんだ、と…。

 あの子たちがあんなに目を輝かせて話してくれたのは、春以来かしら…。リディアンに通わせて貰えるようになって、響やクリス、未来のような先輩に囲まれて、友達も出来て…。

 北斗さんの事を話す二人の目は、それと同じようでありながら、また少し別な喜びだって事もすぐ理解った。私やマムではどうやっても代替足り得なかった存在…”お父さん”、なんだなって」

「…ははは、俺が”お父さん”だなんてな。ガラじゃねぇよ」

「そうかしら? ピッタリだと思うけれど」

「よせやい、あんな小喧しい娘二人は俺の手に負えねぇや。

 切歌はすぐに調子乗るし我侭ばっか強請ってくるし、ちょっと怒ろうもんならすぐに口答えしてきやがるんだぜ?

 すぐ弱音を吐くし、顔と感情がコロッコロ変わるくせに俺が何度ツッコんでもいっつも楽しそうに笑ってすり寄ってくるんだ。なのに、冗談と本気の使い分けが上手いんだよな、本当に悪いと思った時はちゃんと真っ直ぐ謝ってくる。その上仲間の失態は自分がおっ被ろうとしてくるんだ。そんなんだから、叱りはすれど怒れねぇんだよなアイツは。

 調は調で表情が小さくしか変わらないから時々何考えてるか分かんなくなるんだよなぁ。そのクセ頑固で妙なところで自己主張がハッキリしてくるからこっちが畏まっちまう。

 なのにいつだって、切歌やマリア、響たち先輩や仲間や友人の為にって想いながら動いてるのが目に見えて明らかなんだよな調は。そういうところは切歌より分かりやすいんだよ。忙しくなった時に、出来もしねぇのに店の手伝いをするとか言い出してきた時はどうしたもんかと思ったもんだ。

 二人して毎日毎日飽きもせずにうちの店に来て、やれテストで良い点とっただのやれ弁当忘れたから食べに来ただのやれ暇だから話し相手になれだのやれ宿題を手伝えだの…迷惑もいいところさ。マリアの前じゃ、どれだけ猫被ってるかは知らないがな」

 

 皮肉を含めて語り終えた星司だったが、向かうマリアの顔は穏やかな笑みを浮かべていた。それはマリアの隣のエルフナインもだし、聴覚だけを働かせていたエックスも同様の感情を浮かべていた。

 そしてその口火を切ったのは、無邪気なエルフナインだった。

 

「北斗さん、そんなにもしっかりと調さんと切歌さんの事を見られていたのですね!」

「…お、俺がか!?」

「ハイっ! お二人の個性をキチンと把握されてますし、何よりお二人の事を語る北斗さんは、なんだか嬉しそうでした!」

「ぬぐ…! そ、そんなワケあるか…!」

『大丈夫かエース、心拍数と血圧の上昇が診られるぞ。今は地球人の身体なのだから、無理はし過ぎない方が良いと思う』

「余計なお世話だッ!」

 

 バァンと音を立てて表になっているエックスの憑依する端末裏面を平手でブッ叩く星司。

 中々壮絶な声で端末から『痛ァいッ!!?』と聞こえてきたが、電脳宇宙人の五感の是非については彼にはどうでもいいことだった。

 そんな姿を微笑ましく見ながら、マリアがそこから話を続けていく。

 

「…正直なところ、心配していたの。私の目と手が届かないところで、あの子たちは元気に楽しく暮らしていけてるのだろうか、って。

 響やクリスや未来のことは信用も信頼もしている。けど、だからとて放っておけるものでもない。もし彼女らを頼れなくなった時、あの子たちに寄る辺はあるのだろうか…って。

 でも、今の北斗さんの話を聞いて安心したわ。調も切歌も、貴方と居られるのがとても嬉しい事なんだって理解ったから。本当の父親でないと理解っていても、それに相当する寄る辺を見つけたのが、きっととても嬉しいんだなって。

 おぼろげにでも両親の面影を浮かべられる私とは違って、あの二人はそういうモノを持ち合わせていないから…やっぱり何処かで、無条件に頼りたいと思える誰かが必要だったのね。

 どうしても世界を飛び回ってしまう私や風鳴司令たちではなく…近しい間柄のクリスや響たちとも、また違った意味で。

 だから、そんな存在になってくれた北斗さんには感謝しているの」

 

 どうしても慣れぬ言葉に頭を掻く星司。自らを振り返り、義兄や義弟、養父母への想いと態度を鑑みてもなお、自分がそのような存在足り得るかなど理解できなかった。

 ただ、彼の胸中にある温もりは喜びと嬉しさを示していると言うことは理解っていた。いや、ずっと覚えていたものだ。

 ”北斗星司”として唯一、この温もりを向けられる相手が居たことを忘れられるはずが無かったから。

 

「…中々、難しいな。後進には在り方を諌められたと言うのに、彼女らを誰よりもよく知る君からはそのように肯定されている。一体どっちが正しいのか、分かったものじゃないな」

「きっと、誰もハッキリとした答えが出せない問いだと思うわ。だから、ただ自分らしく…自分の想いとよろしくやっていくしかない。私はそう、思えるようになった。

 でもそんな想いが、あの子たちを蔑ろにしてなければ良いのだけれど…」

「それこそ杞憂だ。あの子たちは君を敬い愛している。君があの子たちを思っているのと同じようにな」

「そう…。ならそれは、きっと北斗さんにも同じように向けられているものだと思うわ」

「だと良いが、な」

 

 

 そんな話を、扉の向こうで聴いていた者達が居た。それは他ならぬ調と切歌であり、一緒に行動していたクリスと猛も其処に居た。

 扉を隔てながら一部始終を聴き終えた二人は、おもむろにクリスの豊かな胸にその顔を埋め込んだ。

 

「お、おいお前ら!?」

「…ゴメンナサイデス、センパイ」

「少し、こうさせてください…」

 

 鼻声だった。調も切歌も、二人揃って。

 自分たちが星司に向けていた想い、それがなんだったのかを心で理解した瞬間だった。

 孤独に生き囚われ、飯事のような家族関係を経て、其処にすら存在しなかった父と言う存在。

 導きは偶然か運命かも知らぬが、そんな男と出会えた喜びと義姉にも強く想われていた喜び。それがない交ぜになっただけなのに、目頭が熱くなり鼻汁が溜まる不可思議に支配され、思わずクリスに向かってしまったのだ。

 向かわれたクリスは思わず困惑してしまうも、猛に優しい笑顔で肩を叩かれて少し落ち着いた。そのままそっと、二人の後輩の頭を優しく撫でてあげるのだった。

 

(……親、か……)

 

 クリスの脳裏に過った二人の姿に、思わず鼻を鳴らす。

 遭遇した境遇は幸か不幸か、それを問うようなことは出来ないし比べられるものでもない。ただ思うことは、過去よりも現在の想いに重きを置こうと言うことだった。

 仲間がいて、友達もいる。尊敬する先輩も、守ってやりたい後輩も。遥か遠くより見守っているであろう両親も。だから…

 

(…アタシ、今幸せなんだろうな…)

 

 ただ、そう感じていた。肩に感じる、掌の温もりと共に。

 

 

 

 

 そうして特訓は終わりを迎える。

 日は跨いでおり、深夜と明朝の間にある時間に走り出した一行は、やがて来光と共に山の頂上へと辿り着いていた。

 昇る朝陽の眩しさを背に、星司と猛がみんなの前に出る。本来音頭を取るのは司令である弦十郎のはずだろうが、今となっては特別不思議なことも無い光景に変わっていた。

 

「みんな、よく頑張ったな! 俺たちもこんな形の特訓は久し振りだったが、みんなと最後までやれて良かったと思う!」

「そこで最後…この特訓の締めに、君たち地球人と私たちウルトラマンとの絆をより強固なものとせん為に、ある言葉をみんなで合唱したいと思います」

「合唱、ですか?」

「おっ、やるのかアレ。いいじゃねぇか」

 

 意味を問う響に対し、ゼロはそれが何なのかよく知っているようだった。

 

「かつて俺の義兄…ウルトラマンジャックが地球での任を終えて去る時に、彼を慕う少年と交わした誓い。俺たちはそれを【ウルトラ5つの誓い】と呼び、後の地球でも広く伝えてくれていた言葉だ。

 まぁ言わねば理解らないこと…。先ずは俺が、手本を見せよう」

 

 そう言って自らを太陽と向き合う星司。そして大きく息を吸い、高らかに叫んだ。

 

「ウルトラ5つの誓いッ!!

 一つ! 腹ペコのまま学校へ行かぬこと!!

 一つ! 天気の良い日に布団を干すこと!!

 一つ! 道を歩く時には車に気を付けること!!

 一つ! 他人の力を頼りにしないこと!!

 一つ! 土の上を裸足で走り回って遊ぶこと!!」

 

 誓いを言い終えた星司が再度陽を背に此方へ向く。その爽やかな笑顔は、一つの達成感を感じさせるものだった。

 対するタスクフォース一行は静寂と沈黙に包まれていた。その誓いの言葉とやらに声を失った…と思ったのは幾人だろうか。その静寂を破ったのは弦十郎だった。

 

「――素晴らしい、素晴らしい誓いの言葉です…!! この言葉には、我々にとって大切なものが凝縮されているッ!」

(そうなのかッ!!?)

「確かに、腹ペコで学校には行けませんもんね…! それにお日様に干した布団は安眠を約束してくれるベストアイテム! 欠かせませんッ!」

「…ジープの特訓もありましたし、確かに車には気を付けなきゃいけません。そうでなくてもノイズに怪獣にと危険の多い世の中です」

(アレってそうだったんデスかねッ!!?)

「他人の力を頼りにしない…。それは何かに支えて貰うだけでなく、常に己が全力を賭し、そして互いに互いを支え合うと言う防人魂の至言とお見受けしましたッ!」

(いや分からなくは無いけど先輩ッ!!?)

「私たちは皆、地に足を付けて生きる者…。地球を守護るには、この足で踏み締めてその息吹を感じなければいけない…。そういう事なのね…ッ!」

(マリアまでなに言ってるデスかぁッ!!?)

「理解るかみんな…。ウルトラマンが教えてくれた、大切なことを…!」

「はい、師匠ッ!!」

「では続こうッ!! 北斗さん、矢的さん、お願いしますッ!!」

「あぁ! みんな、行くぞォッ!!」

「あの朝陽に向かって、全力でいこうッ!!」

「っしゃあ!!テンション上がって来たぜぇぇぇッ!!!」

 

 大多数が盛り上がってる中で唖然と見守るクリスと切歌。半端な常識感が齎したものだろうか、だがここでこの勢いに水を差せるほどの度胸は無かった。

 互いに顔を見合わせて、溜め息一つ。此処は合わせようと言う、声なき疎通に他ならなかった。

 

 

「ウルトラ5つの誓いッ!! ひとぉつッ!!!」

「腹ペコのまま学校へ行かぬことッ!!!」

 

「ひとぉつッ!!!」

「天気の良い日に布団を干すことッ!!!」

 

「ひとぉつッ!!!」

「道を歩く時には車に気を付けることッ!!!」

 

「ひとぉつッ!!!」

「他人の力を頼りにしないことッ!!!」

 

「ひとぉつッ!!!」

「土の上を裸足で走り回って遊ぶことッ!!!」

 

 

 朝陽に向かって吼える一同。

 木霊する声は何処へ消えるのか、それは分からない。

 

 だが一つ、分かったことがある。

 

 今この瞬間、少女たちと大人とウルトラマンの心は、声と共に一つに重なっていたと言うことだ。

 

 

 

 EPISODE12 end...

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