絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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EPISODE 17 【君の隣で、遠く輝く星のように】 -A-

 

 東京湾に揺蕩うタスクフォース移動本部。

 その通路を、大きな資料を抱えてよたよたと歩いている小さな姿があった。S.O.N.G.唯一の錬金技術部の長にしてそのラボを取り仕切る者であるエルフナインである。

 小さな体躯と大きな資料という不釣り合いな姿は彼女の愛らしさを増すものではあるが、同時に不安も感じてしまう。

 彼女の脇を通りすがる人らが等しくそう思っているところで、ついに足がもつれて転びそうになってしまった。

 結果としてそれは、偶然目の前にいた大きなクッションのようなものに助けられたのだが。

 

「あわわわわっ!」

「っと、オイオイあぶねぇな。大丈夫か?」

 

 思わず見上げるエルフナインの目に映ったのは、装者である雪音クリスの顔。つまるところ、転びそうになったエルフナインはクリスの大きく育ったバストが彼女を転倒から救ったのだ。

 

「ご、ごめんなさいクリスさん!失礼な真似を……」

「気にすんなよ。大したことじゃねぇさ」

 

 笑いながら何事もなく答えるクリス。その隣には同じく装者である風鳴翼の姿もあり、自然と彼女の手で姿勢を正される。

 

「だが、一人で抱えるにはずいぶん大荷物だな」

「すいません……。色々やっていたらどうしても資料が足りなくなってしまって……」

「根詰めるのも良いが、そっちもちゃんと休めよ。ギアの調整、お前にしか出来ないんだからな」

「はいっ!」

「どれ、私たちも運ぶのを手伝おう。ラボまでだな?」

「あうぅ……ずびばぜん、お手を煩わせてしまって……」

 

 謝りながらも頼るべきところは頼ろうと思い、二人に資料の一部を渡すエルフナイン。三つに分けると重さも視界もスッキリとし、自室兼ラボにまで楽に運べそうだった。

 

 数分も経たぬ内にエルフナインのラボへと到着。中に入って資料を置いたことで翼とクリスの手伝いも終わり。あとはエルフナインの作業の邪魔をせぬよう二人は外に出ていた。

 

「ありがとうございます、翼さん、クリスさん。助かりました」

「なに、私たちが出来ることなら何でも言ってくれ。エルフナインには私たちが出来ぬことで助けて貰っているのだからな」

「いいえ、そんな……。

 ……あ、それじゃあの、もう一度だけお二人に確認したいのですがよろしいですか?」

 

 尋ねるエルフナインに首肯する翼とクリス。それを見て一拍置いてから、エルフナインがやや神妙な空気を纏って口を開いた。

 

「……ウルトラギア発動に伴う心象同化による身体や精神の変調など、本当になにも影響は出ていませんか?」

「……?いや、こっちは何もないけどな。先輩は?」

「私も仔細無い。不調を感じることもなければ、エルフナインとエックスが言っていたように同調が変に続くということもないしな」

「そうですか……。でしたら大丈夫です、ありがとうございます」

 

 一度深く頭を下げ、自室に戻っていくエルフナイン。それを見送って、翼とクリスもまたそれぞれの行き先へ歩き出した。

 

「しっかし、心配性だよなアイツも」

「未知なる状態が起こすであろう不測にも対応しようとしているのだろう。頼り甲斐があるではないか」

「そりゃまぁ、そうかもしれねぇけど…。心象同化っつってもなぁ、別にアタシらがどうにかなるようなことでもねーだろうに」

『……それは、どうだろうかな』

 

 と、クリスの脳裏に猛の声が響いてくる。そのテレパスはすぐ傍にいた翼にも届いていた。

 

「センセイ?そいつはどういう……」

『クリスと私、そして翼とゼロはウルトラギアの発動に成功……つまり真なるユナイトに至った。この力は肉体だけでなく精神までも融合し、邪悪な力を光へと変えていく。

 だが、この状態がもしも万が一過度に進行してしまうと、それは――』

「――……やがて人ではなく、存在のすべてが”ウルトラマン”へと変わる……?」

 

 声に出してしまった事に驚いてしまう翼。これではまるで、ウルトラマンが人を乗っ取りその存在を歪めているかのようではないか。

 自分ら地球人と共に、この地球のために死力を尽くしてくれている者たちになんてことを…。そんな自責に苛まれてしまった。

 

「――すまない、私はなんということを……」

『気にすんな、って言っても聞かねぇか……。確かに翼の言う通り、最悪の事態って考えるとそれは出てくるかもしれねぇな。

 でもよ先生、そんな例ってあったか?』

 

 ゼロから投げかけられた言葉に、猛は返答出来なかった。光と完全に同化したことでヒトではいられなくなった前例…それは確かにあり、彼もそれをよく知っていたのだ。

 ウルトラマンヒカリと一体化し、その復讐に加担するも最後はメビウスと共に地球を守護った男、セリザワ・カズヤ。

 光を授かりウルトラマンダイナと化し、戦いの果てに無限の宇宙を駆ける悠久の旅路へと出た男、アスカ・シン。

 ウルトラマンジャックに命を救われ、数多の悲劇を共に潜り抜ける中でやがて”もう一つの故郷”を救う為に母星を去った男、郷秀樹。

 そして、もう一人――

 ……だがそれを話すこともなく、猛は自らの結論を言葉にした。

 

『エルフナインの抱く危惧はおそらくそういうことだ。ゼロ、我々も可能な限り注意をしていくぞ。

 私たちが選んだ彼女らに、ちゃんと未来(ゆめ)を掴んでもらう為にもな』

『……だな。理解ったよ、先生』

 

 どこまで行っても自分たちの事までしっかり考えてくれるウルトラマンたちの言葉。少しばかり照れはあるが、それでも想ってくれているのはとても心強い。

 だが結局、先ほどの話が有耶無耶になってしまった事を猛以外の誰も気付かずにいた。

 

 未来を担う人々の心の為に、自らの存在に別れを告げてまで戦い抜いた男の事を――。

 

 

 

 

 EPISODE17

【君の隣で、遠く輝く星のように】

 

 

 

 ある日の昼過ぎ。閑散とした住宅街の中にあるcafeACEは昼の賑わいも終えて、人の掃けた店内は休憩ムードが漂っていた。

 近くを通る車や無邪気に遊ぶ子供たちの声が小さく聞こえる、そんな程度の静かな昼下がり。

 そのカフェのドアベルが鳴り、二人の少女が入ってきた。

 

「…あ、切歌ちゃん調ちゃん、いらっしゃーい」

「七海おねーさんこんにちはデス!」

「お邪魔します」

「はーい。店長呼んでくるから、好きなの選んで待っててね」

 

 調と切歌の二人に、にこやかに手を振って厨房に入っていくのはこのカフェのアルバイト店員、ウェイトレスの七海だ。

 開店当初から星司の下で働いていることもあり、既に二人とも顔馴染みになっている。勿論彼女は、調と切歌がシンフォギア装者であることや星司がウルトラマンエースであることも知らない、所謂普通の人だ。

 だがその朗らかで気さくな性格は、先輩たちや義姉とは少し違った意味で慕っていた。近しいところで例えるなら、響や未来の友人である三人の先輩たちだろうか。

 年上の友達という、自分たちにとって数少ない立場にある人だと彼女らは無意識に七海をそう位置付けていた。

 

「てんちょー、娘さん二人が遊びに来てますよー」

「誰が誰の娘だ。まったく、大学生になってもそんなんじゃ就職のときに苦労するだけだぞ七海。

 お前ももうすぐ卒業だろう、大丈夫なのか?」

「まー卒論は終わってますし。就職決まらなかったその時は、晴れてここで正社員として使ってくださいよ。割と気に入ってるんですからココ」

「馬鹿を言うな、ったく…。店番サボりすぎるんじゃないぞ」

「はーい、程よくサボってまーす」

 

 奥から聞こえてくる気楽な会話に、目を合わせて笑い合う調と切歌。まるで父と姉の話を聞く妹にでもなった気分だ。

 そうこうしている内に七海が厨房から出て来る。二人は既にトレーにパンを乗せてレジで待っていた。

 

「お待たせ、店長すぐ来るからね。飲み物はいつもの?」

「はいデス!」

「お願いします」

「あいよ、ちょっと待っててねー」

 

 言った傍からカップを用意し、コーヒーメーカーにセットする。機械で手早く挽かれたコーヒー豆がフィルターに落ちて、そのまま沸騰したお湯と交じり合いカップに流れ落ちる。

 今ではコンビニエンスストアでもよく見かける半自動のコーヒーメーカー機。手間がかからない割に美味しいし、入れる豆を変えればそれこそ本格的な喫茶店にも近付くのだ。便利な代物である。

 なおこのマシーンの導入は開店初期に七海が星司に申請して導入したとかなんとか。

 そうして待つこと一分程。本当に少ない時間で飲み物が出されてきた。

 

「はーい、切ちゃんはキャラメルマキアート。調ちゃんはカフェ・モカね。お待ち遠さま」

「わぁ、ありがとうデス!」

「ありがとうございます。それじゃ、こっちがお代で」

「うん、ちょうどお受け取りしました、っと」

 

 それぞれをトレーに乗せて貰うと、二人の目がまた嬉しそうに輝いていく。いつもの光景ではあるが、微笑ましいものだ。

 交換として二人から代金を貰い、レジの中に収めていく。と、そこで厨房の方から続いて星司が出てきた。

 

「七海、俺は――」

「ブレンドコーヒーですよね。入れときましたんでどーぞ」

「お、おう。よく分かってるな」

「何回同じやり取りしたと思ってるんですか。別のが欲しい時はいつも前もって言うでしょうに」

 

 少し呆れた笑顔で返す彼女に、星司も思わず困惑した顔で頬を掻いてしまう。よく見ているものだと、つい感心してしまったのだ。

 そんな七海からブレンドコーヒーを受け取り、当然のように調と切歌の座る席へ行く星司。不思議とこの時間が、彼にとってちょうどいい休憩時間と化していたのだ。

 一方で既に席に着いている調と切歌は教科書とノートを開き、それぞれ飲み物を啜りながら格闘中だった。

 それを邪魔しないように、星司も同席はしているものの置いてある週刊誌を手に取り適当に開き出した。

 二人の相談する声をBGMにしながら、優雅なアフターティータイムだ。日当たりが良く光が優しく入り込むこの時間帯はどうしても眠気が表に出てきそうになるが、それを堪えるためのコーヒーでもある。…はずだったのだが。

 

 

 

(……星司さん)

 

「――……夕、子……?」

 

 懐かしい声を聞いた気がしてゆっくりと目を開けた。そこに見えたのは、ジッとこちらを見つめる二人の少女の姿だった。

 

「……調…切歌……?」

「起きたデスね。あたしたちが頑張って勉強してるってのに居眠りするなんて、まったく良いご身分デス」

「でも珍しいね、星司おじさんがお昼寝するなんて」

「…ああ、悪い。寝ちまってたか俺」

 

 思わず外を見てみると、随分日も暮れ始めて夕焼けが辺りを照らしていた。

 カフェとしてはもう集客を望めないこの時間、そろそろ閉店準備にかからなければならないなと溜め息交じりに考えていた。

 

「悪いな二人とも。せっかく来たのに、あまり構ってやれんで」

「ううん、その分勉強も進んだから」

「これで期末試験もバッチリデェス!」

「そうか。二人とも、頑張れよ!」

 

 強く声をかけながら両の手でそれぞれ、二人の頭を撫でてやる。くすぐったそうにしながらも、どちらも嬉しそうに綻んでいった。

 やがて手も離されるも、三人は変わらず笑顔で向き合っている。優しい平和な世界が、此処に広がっていた。

 そんなだから気が緩んだのだろうか…おもむろに、なんとなく調が口を開く。

 

「…あの、星司おじさん」

「ん、どうした」

「……『ゆうこ』って、誰?」

 

 別段責めるわけでもなく、小さく芽生えた好奇心を真っ直ぐに投げかけていく。繊細そうに見えて実は直情的な、調らしい尋ね方だった。

 その聞き方に星司は思わず戦慄する。一切何も悪い事をしていないのに、何故か言い訳がましくなってしまいそうな、そんな気分だった。

 

「し、調……お前、どこでその名を……?」

「おじさんが寝言で言ってたから。誰かな、って思って」

 

 思わず額に掌を当てて呻く星司。不覚だった。居眠りはもちろん、まさか【彼女】の名前まで出してしまっていたとは。

 そう自分の気の緩みに呆れ返っていると、横から切歌が首を突っ込んできた。もちろん、引っ掻き回すためだ。

 

「ちっちっちー、甘いデスよ調。きっとその人は、星司おじさんとただならぬ関係にあった人なのデス」

「例えば、どんな?」

「うえっ?えーっと…その、たぶん…甘くもほろ苦い、コーヒーのような大人の関係だったのデス!たぶん!」

「デタラメばかり言ってんじゃない馬鹿娘がッ」

 

 星司の手刀がズバッと切歌の脳天に振り下ろされる。もちろんさほど力は入れてないのだが、それでも切歌はやれドメスティックでバイオレンスだと吠え叫んでいる。割といつもの光景だ。

 その姿にどこか安堵を覚えながら改めて席に着く星司。深く腰掛けて背もたれに身体を預け、大きく一息吐く。

 なんだか、少し不思議な気分だった。

 

「……夕子とは、そんな関係なんかじゃないさ。

 よし、前に話すって言ったもんな。ちょうど良いから話してやる。…今日は、夕焼けも奇麗だからな」

 

 星司の言葉に少し不思議がりながら、調と切歌も姿勢を正していった。彼女らなりに、ちゃんと聴こうという態度の表れだった。

 それを見て少し嬉しそうに笑い、やがて星司が言葉を紡ぎ始めた。

 

「……南夕子。それが、彼女の名前だ。

 彼女との出会いは、まさに運命としか言えなかった。ある日の地球…ヤプールの超獣侵略が始まった日に、偶然俺と同じところで超獣の侵略に立ち会ってたんだ。

 俺はパン屋の配達として超獣に立ち向かい、彼女は看護師として弱い人たちを守護っていた。だが、俺たちはどちらも超獣によって死の淵に瀕してしまった。

 今わの際で俺たち二人は、ゾフィー、ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンジャック、ウルトラマンエースのウルトラ五兄弟に選ばれ、銀河連邦の証であるウルトラリングを授かり当時末弟であったウルトラマンエースと一体化した。

 そこから俺と夕子は、ヤプールと超獣の侵略から地球を防衛する為の組織であるTACに入隊し、共に戦う日々を送っていたんだ」

「その人が、前におじさんの言ってた”一緒に戦ってた人”だったんデスね」

「ああ、ヤプールの卑劣な侵略にも負けることなく、共にな。この番いの指輪が輝く時、俺と夕子はその手を重ね合わせてエースへと変身して戦ったんだ」

 

 星司の手で輝くウルトラリング。その光は強く優しく、まるで彼自身を象徴しているかのようだった。

 だが、そこでまた調が気付き、真っ直ぐ尋ねていった。

 

「…でも、それが何故星司おじさん一人に…?」

 

 当然の疑問だった。ウルトラリングは”番いの指輪”。つまり二人それぞれに与えられた物のはずだ。

 だがそれは、今は星司一人の両手に収まっている。それが意味するもの……。

 返答を口に出そうとする時、彼の顔はほんの少しだけ、遠景を思い出したかのような寂しさを思わせる笑顔をした。

 

「……ある日突然、彼女にとって最後の戦いの日が訪れた。

 かつて月に存在したといわれる文明を滅ぼし、死の星に変えた満月超獣ルナチクス…。それが地球に出現した。

 彼女は強い決意と意志を以て俺に教えてくれた。自分がルナチクスに滅ぼされた月の人間の末裔…月星人であったこと。同胞のために、そして地球のためにルナチクスを倒さねばならないことを。

 彼女の言葉を信じて、俺は夕子と共にエースへと変身してルナチクスを打ち倒した。そして、使命を終えた夕子は、同胞が待つ自分の居場所へと帰っていったんだ。

 …俺に、自身のウルトラリングを託してな」

 

 静かに語る星司の話に、調も切歌もどこか申し訳なさそうな表情に変わっていた。聞いてはいけなかったものを聞いてしまったかのように。

 

「おいおい二人とも、何をそんな暗い顔をしてるんだ。らしくないぞ?」

「で、でも…話してくれてるおじさんが、なんだかちょっと辛そうデス…!」

「……ごめんなさい、私が聞いちゃったから」

「なぁに言ってるんだ。ちゃんと話すって前に約束しただろ?俺はその約束を果たした。それだけだ。だから、二人が気に病むことなんかなーんにもない」

 

 不安げに見上げる二人の少女に、明るい笑顔で星司が返す。何も変わらない、いつもの姿だ。

 

「辛そうに見えたってんなら、きっとあの日を思い出したからだろうな。

 俺は、使命を終えて宇宙へと飛び立っていく夕子を、ただ真っ直ぐ見守っているしか出来なかったからな…」

 

 かつての日を思い返す。夜明けを迎える空へ飛び立つ月の妹を見送る一人きりになった星。

 悲しみはあった。不安もあった。だが、それでも戦わなければならなかった。何故ならこの身は、ヤプールの侵略から地球を守護るウルトラマンとなったのだから。

 そして何よりも、地球を故郷同様に愛した妹からもその想いを託されたのだから…。

 

「どんなに遠く離れたとしても、もう会うことはないと言われても…俺は、ずっと傍で夕子の存在を感じられていた。同胞たちと共に強く生きようとする、彼女の意志を。

 だから俺は、最後まで戦えたんだ」

 

 胸を張るように語る星司に、調も切歌もなにも言わなかった。

 その生き様に、心の強さに見惚れているようでもあった。

 

「さ、話は終わりだ。明日もまた学校なんだろ?あとの勉強は自分の家でやってこい」

 

 小さな肩を叩かれて、二人を帰路につかせる星司。話をしている間にずいぶんと日も暮れて夜になってきたのだ。

 時間はまだ夕暮れではあったが、季節はもう冬に近づく秋の終わり。日の入りが早くなるのも当然だ。

 公序良俗に反するとまで言うつもりはないが、娘か孫のような少女らを長居させて深く日の落ちた夜の道を帰らせるわけにもいかなかった。今ならばまだ大丈夫だろうと。

 その催促を受け、二人並んで空になったトレーをレジのところで閉店準備を進めていた七海に受け渡す。

 そして二人に見送られ、調と切歌はいつものように明るく別れの挨拶をして店から出て行った。

 

 その帰路を歩む中、二人の間に流れる空気はどこか不思議な感覚だった。

 

「……なんかこう、なんと言いますデスか……」

「うん……星司おじさんが強い理由、少しだけ理解った気がするね」

「まったくデス…。やっぱり大人は、一味も二味も違うのデスね」

「私たちはまだまだ子供だもの。今は、追い付こうとするだけで精一杯」

「だったらまた、一緒に頑張って走っていけば良いだけなのデス。アタシたち二人一緒なら、きっと辿り着けるデスよ」

 

 自然と調の手を握りながら、切歌が眩しい笑顔で言った。

 それに合わせるように調もまた笑顔になる。それはきっと変わることのない、二人の間柄を表しているようだった。

 互いの手を握りながらまた歩み行く。と、その道の中…灯り始めた街灯の下に、小さな何かがうずくまるような姿をとっていた。

 酔っ払いにしては時間が早すぎるし、そもそもの身体の大きさを見ても小さくて子供っぽい。調やエルフナインと同じぐらいのようにも見える。

 思わずそこに駆け寄る二人。もしこれが怪我人や体調を崩した者ならば助けを呼ばなければならない。即座にそう考えての行動だった。

 

「大丈夫デスかー?」

「どうか、されたんですか?」

 

 かけられた声にビクッと震えたのが分かる。それでも返答をせずにうずくまったまま動かなかった。不思議そうに様子を眺めていると、小さなその姿が僅かに震えているのが分かった。

 

「寒がってる、デスか…?」

「それとも、怯えてる…?」

「うぅ~…悩んでても埒が明かないデス!てぇいっ!!」

「あっ、切ちゃん!」

 

 力尽くでうずくまる者を起こし上げる切歌。勢いと共に目深に被ったコートのフードが捲り上げられ、その顔が明らかになる。

 濃緑の肌色と、白色の目。人間とやや似ている姿をしながらも、その明らかな相違点は眼前の存在が地球人でないことを物語っていた。

 

「デ、デ、デェェェース!!?」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 互いに悲鳴を上げながら切歌は後ずさり、地球人でない人間はまたフードを被ってうずくまり震えた。

 

「切ちゃん!コイツ…ッ!!」

「ま、待つデスよ調ッ!この、この人って、もしかして……」

 

 前に出てギアペンダントを握る調を制しながら切歌が思考を巡らせる。そういえばこの姿と似たような連中と、一度相対したことがあったんだった。

 それを確かめるべく、息を落ち着かせて再度近寄り声をかけていった。

 

「……あなた、もしかして……バム星人、デスか?」

 

 切歌の声を聞き、震えながらもそっと顔を上げる。そして彼女と目を合わせたのち、ゆっくりと首を縦に振った。

 

「やっぱり。どっかで見覚えがあると思ったデスよ」

「バム星人って、確か前に切ちゃんとクリス先輩と矢的先生を襲ったあの…ッ!」

「だ、だからちょっと待つデスってばぁ!!」

「どうして!?だって切ちゃん、そいつらに――」

「それはもちろんそうなんデスが、このバム星人はなんだか様子がおかしいように見えるんデスよ!

 だから…ちゃんと話ぐらい、聞いてからでも良いと思うんデス」

 

 切歌の悲しそうな表情で察する調。対話を十分に出来なかったが為に起きた悲劇は、彼女もよく知っていることである。それを鑑みると、切歌の提案を無下にすることなど出来なかった。

 自らの身を引き下がらせることで肯定の意を示す調。その顔は少し複雑ではあったが、切歌にすればそれだけでも嬉しいことだった。

 

「さっ、お話を聞かせて欲しいのデス。大丈夫、怖くなんかないデスよー?」

「……本当、ですか……?」

 

 フードの奥から聞こえてきたのは少年の声だった。おずおずと、未だ警戒の色を隠そうとしない慎重さも聞いて取れる。

 それに対し、切歌は持ち前の明るい笑顔で、照らすように彼に向けて返事をした。

 

「本当デス!…まぁそりゃ、あの時のことを思えばちょっとばかしおこな気分になるのも仕方ないデスが、だからと言ってキミに当たるような真似はしないデスよ。

 もちろん調…そこのお姉ちゃんもそうなのデス。だから、どうしたのか話してくれないデスか?」

「――……う…うえぇぇぇぇぇ……!!」

「えっえっ、な、なんで泣いちゃうんデスかぁ!?」

「あー、切ちゃん泣ーかしたー」

「調ェッ!?なぁんでそんなこと言うんデスかぁー!!」

 

 優しい切歌の言葉に、思わず泣き出してしまうバム星人の少年。思わぬ展開におろおろとしてしまう切歌と、それを諫める…と言うよりイジる調。

 ともあれこう泣かれてしまっては調としても彼に対して敵対心など持てなくなってしまう。表面上の姿形は地球人と違うものだとしても、涙を流し声を上げるその姿は何ら変わらず”人間”なのである。それに気付いたのだ。

 

「とりあえず、落ち着ける場所に行こう?」

「うぅ~……でも、落ち着ける場所ってどこデスか?」

「……それ、は……」

 

 

 

「――……で、俺のところに戻って来たわけだ」

「ごめんなさい、星司おじさん……」

「すぐに頼れる場所がここしかなかったものなのデス……」

 

 二人で頭を下げながら夜分の闖入を謝る。相手は星司、場所はcafeACE。

 七海は既に退勤しており、申し訳程度に灯りを残した店内には星司一人……と、調と切歌にとっては最もタイミングの良い時ではあった。

 さすがに二人の頼みだからと断れるわけにもいかず招き入れたのだが、連れて来た者がまさかバム星人の少年だったなどとは星司も思わなかったらしく、なんとも複雑な表情でホットココアをすすり飲む彼の姿を横目で眺めていた。

 

「……美味いか?」

「あ……は、はい……」

「そうか。それじゃ、少しは落ち着いたみたいだから聞かせてもらおうかな。君はなぜ、一人でこっちの世界で居たのかを」

 

 笑顔から一転、真剣な表情で少年と向き合う星司。そう、これが本題なのだ。聞かないことには前へ進まない。

 

「……僕は、バム星人”アコル”。この度は、本当に勝手なお願いなのですが……僕たちバム星人たちを、助けて貰えないかと思ってこちらへ来ました……」

「助けて、ほしい……?」

「どういうことなんデスか?」

「僕たちはあの日…ゴルゴダ星が破壊された後、元の四次元空間に逃げていました。その中で僕たちの種族も、もう戦うのは止めにしようと言う意見が多くなりました。

 もちろん機を伺い、再起と挑戦を掲げる大人も多かったです。ですがそれと同じぐらい、みんなは平和を求めてもいるんです」

「……それで、平和を勝ち取るために俺たちに戦意のある者らをどうにかしろと言うことか?だとするならば俺は……ウルトラマンは、その力を貸せん」

「な、なんでデスか!?」

 

 思わぬ星司の一言に驚きの声を上げる切歌。調も声は上げないもののその顔は驚きで見開いていた。

 

「俺たちが戦うのは無法の侵略者が、理不尽な災禍が現れた時だ。種族間の争いを調停するためにこの力を使うことは許されない。

 例えば戦争…。我々はどちらか一方の戦力に加担することはない。だがそれで傷つき、涙を流す無辜の民を守護する為にならばこの力を使う。

 それが、この力の意味なのだ」

 

 星司の言葉に口を噤む調と切歌。奇跡を体現したかのような存在であるが故に、その力の使い方は決して間違ってはいけないのだ。

 彼の言葉には、そんな重さが詰まっていた。

 一方でそれを聞いていたアコルは、星司の言葉にも深く納得しているように頷いた。

 

「もちろん、それは理解っています。これは僕らバム星人の話……そこを解決していただこうとは思いません」

「でも、だったら何故……」

「……皆さんに敵対した時、僕たちはヤプールの配下でした。ですがヤプールは、皆さんによって斃された。

 ですがその怨念が、今度は僕らを襲い始めたんです……」

 

 ヤプール。此方の地球に侵略の魔の手を伸ばし、先の戦いで五人のウルトラマンと六人のシンフォギア装者たちに敗北した異次元人。

 その言葉を聞いた途端、星司の顔がみるみる険しく変わっていった。忌むべき怨敵を前にした、憤怒の顔だ。

 そんな彼の顔に恐れを覚えつつ、アコルはまた言葉を続けていく。

 

「さっきも言った抗戦派の人たち……ヤプールはその人たちに目を付け、脅しと共に戦意を焚きつけていったんです。

 ヤプールの支配からは逃れられない……逃げたが最後、バム星人は一人残らず皆殺しだと……」

「ヤプール……あの、悪魔どもめ……ッ!」

「種族間の問題は僕たち自身が解決します。だから、お願いです……。僕たちを……同胞たちを、ヤプールの手から救ってください……!」

 

 涙目になりながら頭を下げるアコル。一瞬の間を置いて、彼の下げた頭の上に星司の大きな手が優しく乗せられた。

 上げられた顔に向けて、いつもの強く頼りになる笑顔をアコルに向ける星司。それを見て、調と切歌にもまた笑顔が開いた。

 

「ヤプールが噛んでいるとなると、見過ごすわけにはいかないな。大丈夫だ、俺たちに任せておけ」

「ビシッとズバッと、アコルのお仲間さんたちを助けるのデス!」

「うんっ!」

「――ありがとう……ありがとうございます!」

 

 涙交じりの彼の笑顔にその場が少し柔らかな空気になる。だがその瞬間、調の身体に強い拍動が起きたかと思うと脳内に異質な声が響き渡ってきた。

 アコルの声であると共に、奇妙な違和感と重低音の混じったような声。ただの一言だけだが、間違いなく聞こえてきたのだ。

『――そうだ、それでいい』と。

 

「――……ッ!!?」

「ど、どーしたデスか調……?」

「顔色が悪いぞ、大丈夫か?」

「切ちゃん、星司おじさん……。いま、何か聞こえなかった……?」

 

 調の問いに対して首を横に振る切歌と星司。ついそのまま視線をアコルにもやるが、彼の表情も不思議そうなままだ。

 だからこそ、余計に困惑してしまう。ただの幻聴かどうか、彼女には判断材料が何も見当たらなかった。

 

「……そんな……確かに、いま……」

「疲れてるんじゃないデスか……?なんだったら、アタシとおじさんだけで先に行くデスよ?」

「大丈夫!……私も、行く」

 

 思わず声を上げてしまう調。不安はあるが、自分の聞いたモノの真偽を図るためにも此処で置いて行かれる訳にいかないのだ。

 そう決意を固めたときに、また店のドアが開き鈴が鳴る。そこにはクリスと猛が並んで立っていた。

 

「クリスセンパイ!先生も!」

「来てくれたか、猛」

「ええ。バム星人となると、私たちとて無関係とはいきませんからね」

「オッサンの方には話つけといてやったよ。四次元空間に行くのは、アタシらだ」

 

 サムズアップするクリスに強く安堵する調と切歌。つい先日ウルトラギアの発動を為した二人だ、戦力として見ても信頼に値する。

 それに、一緒にいてくれることが純粋に心強くもあった。

 全員で顔を見合わせ、アコルの元に集まる。装者三人とウルトラマン二人、彼にとっては予想以上の申し分ない戦力だ。

 

「みなさん……本当にありがとうございます……!」

「お礼は終わってからデスよ。それじゃ、チャチャっと行ってやっつけるデス!」

「よぉし、みんな行くぞォッ!!」

 

 星司の掛け声に次ぐように、アコルが手持ちの機械を作動させる。バム星人の持つ空間移動機だ。

 周囲がおぼろげな光に包まれ、やがてその姿が透明になっていく。だがその時、またも調の脳裏に先ほどと同じ重低音の声が響いてきた。

 

『――だが、貴様らは不要だ』

「……!また、なの!?」

 

 声も虚しく消え去る一行。

 身体にかかる不快な重圧を越えて数秒の後に、ゆっくり目を開ける。そこは以前に切歌が見た、あの四次元空間に存在する静かで暗い街並みだった。

 

「……あの時となんにも変わってないんデスね」

 

 と思わず周囲を見回す切歌。

 建物の配置、道の在り方……朧気ではあるものの、その空間は間違いなくかつて迷い込んだ四次元空間そのものだった。

 すぐに振り返り調と星司、アコルの元に駆け寄る切歌だったが、そこでようやく異変に気が付いた。クリスと猛の姿が、この場に居ないのだ。

 

「あれ、センパイと先生は何処なんデス?」

「……理由は理解らんが、どうやらこっちに来れなかったらしい。念話が通じてるから以前のような変身の障害は無いと言っているが……」

「デッ、デェェース!?」

 

 驚きの声を上げる切歌と思わず頭を掻いて考え込む星司。だが次の瞬間、調がアコルに掴みかかっていった。

 

「あなた……!あなたが何かしたの!?」

「な、なんのことですか!?僕はなにも……僕だって、なんでこんな……!!」

「とぼけないで!さっきもまたあなたから聞こえた。『貴様らは不要だ』って声が……ッ!!」

 

 力いっぱいにアコルの肩を握る調の手が、その細い指が強く食い込んでいく。その痛みに顔を歪めながらも、当のアコルには本当に何が何だか分かっていないようだった。

 

「答えてッ!あなたは一体――」

「止めるデス調ッ!こんな時に何やってるデスかッ!!」

 

 彼女から無理矢理アコルを引き離し、庇うように身体の内側へ入れ込む切歌。彼女に対し向けられたその目は、怒りを表すように睨み付けられていた。

 一瞬それに怯む調だったがそれでも負けじと睨み返す。根拠は無いが、今のこの事態にアコルがなにか関係しているのは間違いないと思っていたからだ。

 

「どいて切ちゃん……!そいつは、危険かもしれない……!!」

「なに馬鹿な事を言ってるデスか調は!アコルは一人で助けを求めに来たんデスよ!?アタシたちがして貰ったように、助けてあげなきゃデス!」

「……私だって、助けてあげれたらいいと思う。だけど、私には今彼を信じる事が出来ない……!

 だっておかしいもの!一緒にこっちに来たはずの先生と先輩が、居ないなんて……!!」

「だからって、それをアコルのせいにするのは間違ってるデス!!機械の不調でもヤプールの仕業でも、なんでも考えられるじゃないデスか!!」

 

 どちらも一歩も引かず、それ故余計に考えが食い違う。

 珍しく、互いが互いの言葉を信用できずに睨み合う調と切歌。その間から、二人の頭を押さえつけながら星司が割り込んできた。

 

「馬鹿野郎、お前らがケンカしてどうする!特に調だ。こんなところでそんなにも冷静さを欠くなんて、お前らしくもない……!」

「星司おじさん……でも私、確かに……!」

「言い訳をするなッ!」

 

 なんとか自分の聞こえたものを説明しようとする調だったが、それは星司によってキッパリと止められてしまう。彼自身に悪意はないのは理解っていたが、それでもこの言葉は調にとって明確な拒絶と受け取られていた。

 しかしそれでも自分の感じたものを簡単に捨てられるはずもなく、調はただ悔しそうに唇を嚙み締め俯ていく。

 彼女のその顔に思わず申し訳ない気持ちになってしまう切歌。だがその時、彼女らの前にゆらりと数人の人影が現れた。現れた姿形は間違いなくバム星人の成体。だが、揺蕩う空気に普通の生き物特有の機敏さが見えなかった。

 その無機質的な空気はむしろ、ノイズやスペースビーストを連想させられる。そんな同胞の姿を見て、アコルがまた激しく怯えだした。

 

「……あ、あれは……逃げる僕を襲ってきた人たち……!」

「あっちが本命の相手ってことデスね……ッ!」

「…………ッ!」

「迎え撃つぞ二人ともッ!だがどんな理由があれ、相手は俺たちと同じ人の命だってことを忘れるなッ!」

「分かってる……!」

「人殺しなんか、全然望むところじゃないのデス!」

 

 決意を込めて襲い来るバム星人の方へ走りながら、調と切歌が自らのシンフォギア……シュルシャガナとイガリマの起動聖詠を読み唄い上げる。

 二人それぞれの奏でる歌に反応、展開されて彼女の身に纏われる緋刃のシンフォギア・シュルシャガナと翠刃のシンフォギア・イガリマ。まずは切歌が先んじて、即座に身の丈ほどもある獄鎌のアームドギアを展開し、足元を抉り目眩ましのように地面を巻き上げた。

 一瞬何が起きたのか分からずに左右をキョロキョロと見回すバム星人たち。そこを厚底の足やアームドギアの柄の部分で殴打していく。

 調もまたα式・百輪廻で足元の地面を狙い、傷つけないように地上掃射で足を止めていく。その隙を縫って掌に収まるサイズの小型自在鋸……ヨーヨー型のアームドギアで後頭部や頚部に対しての打撃を狙い放たれていった。

 同時に星司も、ゼロや80ほどではないにしろこれまで超獣らとの戦いで培ってきた格闘術で対抗する。無骨な重たさを伴う攻撃を、目眩ましで生じた隙に叩き込んでいく。

 皆がそれぞれ最も得意とする刃を封じ、いたずらに彼らの命を奪うことはしないように専念していった。

 

 一通り倒したものの、またゆっくりと起ち上がるバム星人たち。その異様な雰囲気に、調と切歌はもちろん星司にも妙な気分が湧き上がっていた。あまりにも強すぎると言うか、タフすぎる。

 わずかな焦りが心に起きたところで、突如周囲から重たい嗤い声が鳴り響いた。空間そのものを発生源としたそれには、あまりにも覚えがありすぎた。

 

『フッ、フハハハハ!!無様に足掻くものだな、北斗星司……ウルトラマンエースよ!!』

「やはり貴様か、ヤプール!」

「随分と、お早いお帰りで……」

「性懲りもなく、いつまでストーカーしてきやがるデスかッ!」

『ほざけ小娘どもがッ!!……フッ、だが貴様らは罠に嵌ったのだ。この四次元空間で、貴様らに絶望をくれてやるッ!出ろ、ノスフェルッ!!』

 

 ヤプールの声に伴い、地中から出現する巨大な異形。長い爪と牙を持ち、単純ながらも醜悪なその姿は、例えるならば皮を剥がれたネズミだ。

 フィンディッシュタイプビースト・ノスフェル……。その獣系悪魔の如き禍々しい巨体が、彼女らの前に出現した。

 

「こいつもスペースビーストか……。ヤプールめ、超獣だけでなくこんなモノまで連れて来るなんてな……!」

 

 ノスフェルの姿に気圧されないように構える三人。だがそちらに気を取られてしまった為、その隙を迫っていた者に気付かなかった。

 

「ぅわあぁぁッ!?」

「アコル!?」

 

 アコルの悲鳴に思わず振り向く。そこには彼を捕まえて、気持ち悪く笑うバム星人たちの姿があった。

 思わず飛び掛かろうとする切歌だったが、首に添えられたバム星人の手が見る見る異形へと変化……。大きな掌と長い爪が伸び、まるで相対しているノスフェルの手そのものだった。

 

「あの手は、一体……!?」

『ビーストヒューマン。ノスフェルが捕食したニンゲンに自らの細胞を植え付け、群体として操ることが出来るのだ』

「捕食……ってことは、つまり……!」

『そうだ、こいつらは屍人……ノスフェルによって生き永らえさせられている、ただの抜け殻よッ!』

「何処までも非道を……ッ!!」

『言っただろう、絶望をくれてやるとな。さぁビーストヒューマンどもよ、ノスフェルと一つに戻るのだッ!!』

 

 ヤプールの声に従うように、ビーストヒューマンと化していたバム星人たちが一つの肉塊となってノスフェルと同化するために飛んでいく。

 その中にはもちろんアコルを捕えていた者たちも含まれており、彼を一緒に巻き込んでノスフェルへと取り込まれていった。

 悲鳴と共に額部分のコブへ同化されるアコル。それは正しく、ノスフェルとヤプールがとった人質に他ならない。

 

「アコル!!行くデスよ調、おじさんッ!!」

「ああ!ウルトラタッチだッ!!」

 

 星司は自らの両の拳を打ち付けあい、調と切歌はウルトラリングを付けた互いの手をタッチし合う。

 輝きがその場を覆い、三人がウルトラマンエースへと変身した。

 

「ヌゥンッ!!」

 

 構えるエースと相対するノスフェルが奇声を上げてエースへと襲い掛かってくる。

 振り下ろされる鋭い爪の一撃を受け止め、弾き飛ばして空いたボディに重いパンチとキックを打ち付ける。

 対するノスフェルもそれに体当たりで反撃。身体ごとの一撃に怯むエースだったが、すぐに立て直して首筋目掛けての手刀で連続攻撃を仕掛けていった。

 

『おじさん、アコルはあの頭に!』

「ああ、ならばまずはそこを切り離す!」

 

 胸の前で両手を伸ばして向かい合わせ、腕に力を収束させる。束ねられた力を光の刃に変えて前へと突き出し放った。エースの得意技の一つであるホリゾンタルギロチンが、ノスフェルの首を胴体と分断して地面に落下する。

 一先ずこれでアコルの保護は出来た。あとは残された胴体を焼き尽くすべく、両手を伸ばして左へと上体を捻った。メタリウム光線の構えだ。

 だがその構えをとった瞬間、一体化している調の脳裏にまた異変が襲来した。視界に映るノスフェルの……頭部を失ったその肉体が透けて見える。

 そのノスフェルの胸部、すなわち心臓部分に見知った姿があった。つい先ほど、午後の放課後の来店時を始め何度も何度もお世話になってきた人……七海の姿だった。

 

『待って星司おじさん、撃たないでッ!!あそこに……あのビーストの体内に、七海さんが――』

『本当なんデスか調ッ!?で、でも、アタシには何も見えないデスよ……!?』

「俺の透視能力でも視えない……。調、なぜそんなことが理解った!?」

『だ、だって……私は見た……ううん、今でも見えているの!気を失って、あの中で……!!』

 

 振りかぶったまま動けなくなるエース。その姿をせせら嗤うように、ヤプールの声が轟いた。

 

『どうしたウルトラマンエース、撃たないのか?撃たないならばそれでも構わん。だが、頭に残された者がどうなるかは想像するに容易いよなぁ?』

「ヤプール……貴様、七海まで人質に取っていたのか!」

『……誰のことを言っているのだ?そんな戯言で、このヤプールの気でも引こうというつもりなのか?随分と滑稽になったものよ、ウルトラマンエース!!』

 

 放たれた返答に驚愕する三人。ヤプールの性格を考えれば、こちらの窮地ともなれば己が全ての画策をひけらかし、煽るように追い詰めてくるのは明白。それが七海の存在を認知していないような口振りが、更なる困惑を招いたのだ。

 調以外は誰も認識していないという事実。そこから導かれる答えは……。

 

『もしかして、影法師のヤツが調に憑いてて、それで幻覚を見せてるんじゃないデスか!?』

『そんな、まさか……』

 

 星司も内心それを考えてはいた。調らしくない感情の振れ方、自分にだけ気付く何か。それが影法師の影響というのであれば納得のいく部分だ。

 ならばこそ、自分が今すべきはアコルを助けて調の不安も払拭させるべき。それを決意した星司が改めて両腕に力を籠め始めた。

 

『星司おじさんッ!?』

「大丈夫だ調!もしお前に影法師が憑いていようとも、俺が必ず救うッ!お前の不安は、俺が消し飛ばしてやるッ!!」

『その想いはアタシだって一緒デス!調にそんなことするヤツは、アタシが切り刻んでやるデスッ!!』

『待って……お願い、待って二人ともッ!!』

 

「フンッ!!!」

 

 左に振りかぶった腕を身体の前へ戻し、L字に交差させてメタリウム光線を発射。頭のないノスフェルの身体に直撃し、その肉体を爆散させた。

 それを見届けたヤプールも、忌々しそうに鼻で笑って消えていく。そしてエースも、変身を解いて三人それぞれが変身前の姿に戻った。

 

 すぐに切歌はイガリマのアームドギアでノスフェルの頭のコブを切り裂き、そこから星司がアコルを救い出す。意識は失っているものの、彼の容態はそう大したことがないものだった。

 一方で調はすぐさまノスフェルの爆散した場所に向かい、周囲を必死で見回していた。そしてそれは、すぐに見つかった。

 瞬間身体から力が抜け、シンフォギアも解除されてその場にへたり込んでしまう調。後を追ってやってきた切歌と星司が、そこにあるものを見て驚愕に染まった。

 鼻を鳴らして涙を流す調。彼女が見ているそれは、酷い怪我と共に意識を失いその場に倒れている七海の姿だった。

 

「……なん、だと……」

「……七海、おねえ、さん……?そんな……なん、で……」

「……った、のに……」

「調……?」

「待ってって、言ったのに……!なんで……どうして、信じてくれなかったのッ!!?」

 

 調の悲痛な叫びが、戦いの後地に木霊した……。

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