闇の奥で、響の前にうずくまり泣き続ける赤い靴の少女。
空虚な目で、簡素な声で、余りにも彼女とは不釣り合いなまでに無感情な声で問いかけた。
なんで、ないているの?
涙を流し鼻を鳴らしながら少女は小さく答えた。
ほしがみえなくなったから。
うたがきこえなくなったから。
返された言葉で周囲を見回すように肌で感じる。
暗黒の世界。何も居らず、何も見えず、何も聞こえず……。
あまりにも広く深い世界は無限を感じられる程だった。そんな友達も居ない世界でたった独り、赤い靴の少女はいた。
なにかしなければならない。そんな想いが響の胸の中に去来する。だが力を失った身体は指の先一本すら動かすことが出来ず、冷え切った心は目の前の少女に対してそれ以上動くこともなかった。
最早何一つ言葉が出てこない。誰も居なくなった世界では……陽溜りの存在しない世界では、何もすることが出来なかったのだ。
そんな響の掌に、小さな痺れが起きた。何もない暗黒の世界で、それに満たされ感情と共に消え去ったはずの感覚の中で、その掌だけが何かを訴えるかのように痺れを感じさせていた。
なんだろうと掌を眺め見る響。そこには小さな電気の球らしき光る物体が浮かんでいた。それが何なのかまるで理解し得ぬまま、残ってなどいないはずの力でおもむろにそっと握ってみる。物体は弾け飛び、闇に消え、そしてまた響の手の中に集束した。
やがて物体は形を得る。虹色の光を蓄える青き短剣。それを響は見たことがあった。ウルトラマンエックスと大空大地がキャロル・マールス・ディーンハイムの繰るソングキラーと相対した時にその手に握り自在に操っていたもの。響たちの世界では”完全聖遺物”と定義されるもの。その名は――
――エクス、ラッガー……? でも、なんで……
困惑する響を他所に、エクスラッガーの乳白色の刀身は黄色、赤、紫、青の虹を構成する光を小さく放っていった。そしてそれを握っていた響の耳に、身体全てに、あるものが染み渡るように届いていった。
……リディアンの、校歌。
自分と大切なみんなの居場所を象徴した歌。自分が必ず守護るべきと決めた場所の一つでもある、大切なものだった。
聞こえてくる声は、自分の大好きな人たちの歌声。風鳴翼、雪音クリス、月読調、暁切歌、そして……小日向未来。
色々なことが思い出されてくる。親友である未来と共に悲しい思い出で上塗りされた故郷より遠いリディアン音楽院に入学した時のこと。板場弓美、寺島詩織、安藤創世などの自分を受け入れてくれる新しい友達が出来たこと。風鳴翼とのやや一方的な再会。内に眠っていた、かつて散った片翼の遺していた一片の羽根が鼓動と共に覚醒したこと。其処から始まった戦いと、擦れ違いと、仲直りと、数多くの人助け。立花響の歩んできた軌跡が、胸の内からその身を巡るように力となっていた。
あの日感じたはずだ。自分を支えてくれるみんなは、何時だって傍に居る。そんなみんなが自分を支える為に歌ってくれているのだと。
あの日に問われたはずだ。こんな自分を支えてくれる、大好きなみんなを守護るために、そんな傷だらけになってもまだ歌えるのかと。
そして自分は応えたのだ。
まだ歌える。
頑張れる。
戦える、と。
自然と、響の口からもリディアン音楽院の校歌が奏で流れ出していた。口遊むその歌に気付いた少女が初めて上を向き、響と目が合った。
彼女は、笑っていた。
……そのうたは、なぁに?
私の、大切な歌。
私が大好きな人たちと一緒に居ても良い場所だって教えてくれる歌。
私がいつか大好きな人たちと離れても、何度だって繋げてくれる歌。
私の――”陽溜り”の歌。
胸が温かくなってくるのが分かる。その温もりが、響に大事なことを思い出させていく。彼女が一番やりたい事である、”人助け”。その最もたることを。
泣いてる子には、手を差し伸べなくっちゃね。
そっと少女の手を取り、握り締める。響の掌が、少女の小さな手を優しく包み込んだ。
……あったかい。
みんなが、陽溜りがくれた温もりだよ。
言いながら、反対の手に握ってあるエクスラッガーを一緒に握らせた。すると少女にも、何処より聞こえるリディアンの校歌が沁み渡るように聞こえてきた。
うたが……。
聞こえるでしょ、みんなの歌。
翼さんの歌はね、とても力強くて、何処までも羽撃こうとする歌。私が一番大変な時に何回も聴いて、何度も元気を貰ったんだ。
クリスちゃんの歌は、ちょっと乱暴な言葉遣いとは裏腹にスゴく綺麗で優しい歌。まるで、クリスちゃんの心みたいに澄んでるの。
調ちゃんの歌は、想いをたっくさん投げかける歌。真っ直ぐだったり、ちょっと変化球だったり……気持ちを全部表に出すのが少し苦手な、調ちゃんらしい。
切歌ちゃんの歌は、元気いっぱいでみんなを笑顔に出来る歌。いつも明るい切歌ちゃんに当てられて、こっちまで明るい気持ちが湧いてくるんだ。
……そして、未来の歌。私にとって一番あったかい場所、陽溜りにさえずる何よりも心地良い歌。届いてるよ。遠い場所からでもちゃんと。未来はいつだって、私の傍に居てくれるもんね。
エクスラッガーの指し示す先を見つめる。其処には小さくほんの僅かに……だが確かに輝く光の滴を感じていた。
それに、今はみんなと一緒じゃないけど、マリアさんも歌ってるのが分かる。遠い闇の中で、了子さんやウルトラマンさんたちの手を離さないように、強く握り締めて。
マリアさんの歌は強くて優しくて、それでいて精一杯の想いを楽しそうに……嬉しそうに歌うの。技術が凄いって言うのもあるけど、多分それがマリアさんの”本当”の歌だと思うんだ。
何処か確信した顔で告げる響。マリアや了子、ウルトラマンたちが残したその小さな光は、この手を握る少女の眼にも映っていた。
見えなくなったと思っていた星。
聞こえなくなったと思っていた歌。
だがそれは、間違いなく其処に在った。信じる仲間たちは、誰一人欠けることなく傍に居たのだ。
いつしか少女の涙は止まり、それを見た響は嬉しそうに笑いかける。そんな彼女の顔を見上げ、少女は問い掛けた。
おねえちゃんのうたは、どんなうた?
……私の歌は、ただただ真っ直ぐなだけの歌。最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に……この胸に抱いた想いをぶつけて、誰かの為にこの手を伸ばしたいが為の歌。
特別上手なんかじゃないし、成績だって別に大したことない。でも、嘘や偽りの無い想いを乗せた歌は、きっと何処の誰とでも繋がれる。……それを、みんなから教わったんだ。
ほんとうに、どこのだれとでもつながれるの?
……分からない。駄目だったことも、無理だったこともあった。でも、だからって諦めたくないんだ。
だって、諦めたら届かないままで終わっちゃう。だから諦めずに手を伸ばすんだ。誰かが独りで泣いている限り……誰かが助けを求めている限り。絶対に、絶対。
それが、この命を繋いでくれた奏さんから託されて、その繋がった命で私が受け取ったもの……”生きることを諦めない”ってことだから。
少女の手をもう一度強く握り、優しく抱き寄せる。自分が貰った温もりを、彼女にも分け与えるかのように。
……戻らなきゃ。みんなが待ってる。世界が……其処に生きる”みんな”の大切な居場所が危ないんだ。だから――
こんな暗いところから出て一緒に行こう。そう言うつもりだった響の言葉を遮るように、少女がその姿を一瞬消した。だが即座に響の前に姿を現す少女。彼女の顔にはもう涙は無く、優しい微笑みを湛えていた。
――ありがとう。貴方を選んで、本当に良かった。
発せられた言葉の意味が理解出来ぬまま、エクスラッガーに引っ張られて何処へと飛ぶ響。赤い靴の少女は、一人変わらず暗黒の世界の中心で佇んでいる。
待って、と声を上げて手を伸ばすがそれはもう届かなかった。思わずエクスラッガーを手放そうとするが、握る右手は吸い付いたように離れない。それでもと手を伸ばす響に、少女はただ嬉しそうに微笑んだ。そしてその場で両手を握り合わせ、祈るように虚空を見上げていた。まるで、見つけた一番星に願いを託し祈るかのように。
そして響の胸に彼女の声が、祈りと願いが届く。それは余りにも単純で、それでいて響にとってはこれ以上ないぐらい明快な、己が正義を拳に込めて握る理由となる願いだった。
感覚が上昇するにつれて、響の視ているものが変わる。暗黒の世界はやがて地を越え、海を越え、空を越え……やがて見慣れたものへと変わっていった。
祈る赤い靴の少女は、その中心に居た。その居場所の名は――
「――
呟きながら目を開くと、其処には見知った四人の顔があった。翼、クリス、調、切歌だ。耳元からは未来の歌も聞こえてくる。きっと、こうやってずっとみんなで歌ってくれていたのだろう。
それはとても心地好い空間だった。贅沢とも言える。だが、いつまでもそれに浸っている訳にはいかないと言うことは、脈打つ鼓動が理解らせていた。
響の小さな声を聞いた途端、歌を止める翼たち。まだおぼろげな響きの眼を覗き込み、翼が率先して声をかけていった。
「……立花、大丈夫か?」
恐る恐る声をかける翼。もしか何か異常でもあるのではないかと心配しての声かけだったが、帰ってきた言葉は全員を安堵させるのに十分な笑顔で放たれた一言だった。
「……不肖、立花響、ただいま戻りました」
その声と共に歓喜の声が巻き起こる。病室とタスクフォース司令室の二か所でだけだが、それは間違いなく響の復活を心から喜ぶ者たちの声だった。
『響ッ! 大丈夫なのッ!? ねぇ、ねぇッ!!』
「ぅひょえぇぇ!! み、未来!?」
耳をつんざく未来の呼び声に、思わず奇声を上げながら驚き身をよじる響。落ち着きを取り戻すより前にとにかく言葉を発する彼女の言葉は何処か言い訳じみている。なにも変わることのない、二人の会話だった。
『……本当に、心配したんだからね』
「……ごめん。それと、ありがとう。未来のあったかい歌、ちゃんと届いたよ。翼さんやクリスちゃん、調ちゃんと切歌ちゃんの歌と一緒に」
『うん、うん……!』
もっと話をしていたい、させてあげたい。そんな周囲の思惑に対し、状況は予断を許さぬとばかりに襲い掛かる。爆音と共に病院全体が揺れ、全員が集まる集中治療室に小さな鳥のような眼がギロリと覗き込んでいた。
「こ、これはッ!?」
「そこから離れろッ!!」
《ウルトラマンの力を、チャージします》
大地の事をさほど意に介さず病院に接近したブリッツブロッツ。外では大地が、ジオブラスターに追加ガジェットの【ウルトラブースター】を装備させた【ウルトライザー】を構え発射体勢を取る。数秒のチャージの後に携帯武器としては破格の攻撃力を持つ強化光線をブリッツブロッツに向けて発射した。
だがすぐさまそれを察知したブリッツブロッツは、胸部を展開し中央の赤い結晶体でその光線を吸収。反射するように撃ち放ち大地へと反撃していった。
「ぐあああああッ!!」
「大地さんッ!!」
爆発と共に吹き飛ぶ大地。その一部始終は、響のサルベージにも利用したジオデバイザーから聞こえており、それが皆の心を一つに合わせていった。それ以上は言葉は要らない。互いに頷き合い、響はベッドから立ち上がる。
「響さん、これ」
「着替えの方、用意完了デス!」
「ありがとう、調ちゃん切歌ちゃん! 遅刻ギリギリの生活で鍛えた早着替え、その真価を今こそ見せる時ッ!」
「馬鹿言ってねェでさっさと済ませやがれッ!」
クリスのツッコミにも笑顔で答えながら、本当にすぐに着替えを完了させる響。言うだけのことは有ると言う事だろうか。
最後にギアペンダントを首に回し付け、準備が済んだところで響は真っ先にバム星人の医師の下に駆け寄った。そして笑顔で彼の手を強く握り締め、簡単ではあるが大きな声で嬉しそうに述べた。
「みんなや私を助けてくれて、ありがとうございましたッ!!」
手を握ったまま大きく頭を下げる響。彼女はバム星人とは完全に初対面ではあるはずなのだが、彼らのややおどろおどろしい風貌に何も怯むことなく、満面の笑顔で手を繋ぎ大きく礼をした。それは医師には全くの予想外だったことで、満足に返事も出来ず曖昧な生返事をするのが精一杯だった。
そして思う。彼女はまるで、太陽のようだと。
すぐに屋上に移動して立ち並ぶ五人の装者たち。それに気付いたのか、ブリッツブロッツはその顔を彼女らの方へ向けていた。
「とりあえず、あのニーちゃんと協力してアイツをブッ倒さねぇ限りは帰れないって事か」
「まずはそこから。捨て置いたらバム星人のみんなにも迷惑がかかる」
「そんな事はさせられないのデス! 守護る為にも、帰る為にも!」
「そうだな。この場に弓と槍、双振りの刃、そして剣を携えているのは我らだけだッ!」
「往こう、みんなッ!!」
五人全員がそれぞれのシンフォギアを励起させる聖詠を歌い上げる。黄金、蒼穹、紅蓮、緋赤、翠緑――歌に乗って放たれた五つの光が少女たちに奇跡を纏わせ戦う為の戦装束へと変わる。
小さな五つの輝きが弾け飛んだ時、迫るブリッツブロッツの身体が大きく揺れて怯んだ。その光景に驚く大地。そして彼の眼前に、シンフォギアを纏った五人の少女たちが降り立った。
「大地さん、大丈夫ですか!?」
「立花さん! こっちは大丈夫。君は……」
「ええ、おかげさまで復活ですッ!」
「無駄口はその辺にしとけッ! 来やがるぞッ!!」
甲高いブリッツブロッツの叫び声。其れと共に黒い翼を広げ空中へ羽撃き飛び始めた。ヒトと相対すると何十倍の巨体、何百倍の質量を持つ破滅魔人は最も効果的にこの標的を始末する為に蹂躙と言う手段を選択したようだ。
暴風を巻き起こしつつ真上を滑空するブリッツブロッツに奥歯を噛み締める。ウルトラマンの力が使えれば、こんなヤツに後れを取ることなど無いのに、と。
「アイツ、嗤ってやがるデスッ!」
「斃せるものなら、斃してみろって……ッ!」
「ナメ腐りやがってッ! だったらコイツでェッ!!」
着地しながら嘲笑するブリッツブロッツに対し、激昂を込めたクリスがMEGA DETH FUGAを射出する。それに合わせて翼も即座にアームドギアを大型化させ、振り抜くことで蒼ノ一閃を発射した。
二つの攻撃を目視したブリッツブロッツはすぐに胸部を展開し、赤い結晶体で受け止めそれを吸収。拍動と共に強く輝きだした。
「危ないッ! みんな散ってッ!!」
大地の声に反応し、全員がその場から離れる。瞬間ブリッツブロッツの結晶体から光線が発射され、先程まで全員が集まっていたその場に直撃、爆散した。
「我らの攻撃まで吸収すると言うのかッ!?」
「ッザけんなよ! こちとらミサイルだぜッ!?」
やいのやいのと姦しい中で、大地は響から受け取っていたジオデバイザーでブリッツブロッツの分析を行っていた。やがてその分析が終了すると、彼は訝しげな顔で散った全員に聞こえるように通信をかける。
「やっぱり……。ヤツの胸に隠された結晶体は、君たちシンフォギアの攻撃エネルギー……フォニックゲイン、で良いのかな。それも吸収することが出来るみたいだ!
雪音さんのミサイルが吸収されたのも、アレがミサイルではあるものの実質的にはフォニックゲインの塊だからだと思う!」
「あの時ネフィリムの腕に食われたのと同じような理屈かよ……!」
「だったら私が接近して!」
「駄目だッ! 立花さんの使うバンカーナックルはフォニックゲインを拳から撃ち出すもの。下手にやっても威力のほとんどを食われて反射されるッ!」
響の案を両断するように却下する大地。普段から勢いと力任せの策しかしてこなかったからか、大地のような別のモノの見方をしながら共に立ち戦う者と言う存在に、彼女ら全員が奇妙だが心強い感覚を覚えていた。
そうしている間にもブリッツブロッツの攻撃は続いている。手甲から放たれる光弾は地面を抉り爆煙を上げる。そんな一方的な攻撃に業を煮やし飛び出したのは調と切歌だった。
「だったら直接ッ!」
「叩っ切ってやるデェスッ!」
瓦礫を使い跳ぶ切歌とシュルシャガナを器用に一人分のジャイロホバー形態、【緊急φ式・双月カルマ】に変形させて飛ぶ調。対するブリッツブロッツは、空中から大きく振りかぶった二人の渾身の一撃を鋭い爪で受け止め弾き、黒い翼を羽撃かせて二人を吹き飛ばした。
「調ちゃん! 切歌ちゃん!」
「世話ばっか焼かすんじゃねぇよッ!!」
すぐさま響が切歌を受け止め、クリスが調の手を取り引き寄せて滑らせながら着地する。その場に翼と大地もすぐに合流していった。
「みんな無事かッ!?」
「な、なんとか……」
「やっぱり直接攻撃は無茶で無謀なんデスかね……?」
「ネフィリムの時はエクスドライブで無理矢理ブッ飛ばしたようなもんだしな……」
「だったら、イグナイトモジュールで……!」
「いや、それも止めた方が良い。一時威力が上がったところで闇雲に攻撃するだけじゃ防がれて跳ね返されるだけだ。
でも、俺たちの力を上手く重ね合わせればきっと勝てる! いや……」
「勝たなければいけない、か……」
立て続けに放たれるブリッツブロッツの攻撃に怯みながら、今の現状が如何に背水であるかを認識する。こうしている間にも時間は流れ、現実世界では危機が迫っているはずだ。こんなところで足止めを食う訳にはいかない。そんな想いが胸中に焦りを生み出していく。対するブリッツブロッツは時間を稼ぎながら始末できればそれでいい。それを理解しているかのように、弄るように攻撃を放っていった。
「ッそぉ! このままじゃ黙っておッ
「でもでも、ゴリ押しの通る相手じゃないデスよッ!」
「必要なのは打開の一手……いや、それ以上に勝利の一指しか……ッ!」
「有れば良いけど、攻撃が効かないんじゃなにも……」
「大丈夫ッ! だって此処に居るのは私たちだけじゃない。私たちよりもっと怪獣に詳しくて、ずっとしっかりした事を考えてくれる人……大地さんが居るッ!」
響に強く手を握られ明るい笑顔を向けられる大地。こんなに無垢な信頼を寄せられるのは記憶の中で幾つ有ったかも知れない程だ。そんな響に合わせるように、二人の握り合う手に翼たちの手が重ね握られていった。
「立花の言う通りだな。これまでの戦いを潜り抜けた我々だが、それはウルトラマンたちの力があったこそであり、それを分析してくれたエルフナインやエックスたちのおかげだ」
「そのみんなからの情報が届かない今、私たちは怪獣についてまだまだ理解らないことだらけ。だから」
「大地さんに、どうかその辺の力をお借りしたいデス! パンはパン屋って言うデスし!」
「それを言うなら”餅は餅屋”だ、ったく。……まぁ信用はしてやっからな。策が有るってんなら乗ってやる。あと他人行儀な呼び方はウザッてぇから止めてくれ」
装者の其々が笑顔で大地に語り掛ける。彼女らのその言葉が、大地はただ嬉しかった。合ってそう時間も経ってないのに、彼女らはこんな自分を信じてくれようとしている。ならばこそ、自分もそれに応えなければならない。そう強く誓いながら、大地がある言葉を呟いた。
「――ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン……」
「大空さん、それは?」
「あぁ、俺の同僚……仲間が言ってた言葉なんだ。ラグビーでよく使われる言葉で、”一人はみんなの為に、みんなは一人の為に”って意味なんだ」
「今の私たちにピッタリの言葉ですねッ!」
響の言葉に全員が首肯する。みんなでバム星人たちを守護りつつ、生きて元の世界に帰り、そして地球に迫る危機を討ち払う。それを為すのにこれ以上適した言葉は無かった。
「俺はすぐにあの怪獣を倒す作戦を立ててみんなに伝える。みんなは出来るだけ、あの怪獣を撹乱するように動いてくれ」
「下手に攻撃を反射されても仕方ねぇからな……」
「うん。でも、エネルギーの吸収反射はあの胸の結晶体でなければ行えないはずだ。だから――」
「背後や足元……胸の内部以外の部分ならば問題は無いと」
「だと思う。さっき月読さんと暁さん……じゃなかった、調ちゃんと切歌ちゃんの放った直接攻撃には自分の爪で受け止めて弾いたところからも、わざわざ吸収反射するよりそっちの方が早いと思ったからだろうね」
トントン拍子に出て来る大地の言葉にやや呆気にとられる装者たち。この男の怪獣への観察眼と分析力は、彼女たちが思っていた以上に深いものだった。ヒトは特別興味の深いものを他者に語る時、つい言葉が早くなると言う。彼もそんな例に漏れず、ブリッツブロッツへの分析観察の結果を語る言葉はどこか早くなっていた。それをつい突き放すように声を荒げてしまったのは、クリスだった。
「だぁぁもうッ! いくらでも考えさせてやるからアタシらは攻め入るぞッ!」
「そうだな。大空さんが策を見出すまでは我らが此処を守護りつつ撹乱と攻撃に徹するッ! 往くぞッ!!」
翼の声に合わせて装者全員が散開していく。撹乱を主体とした四方八方を縦横無尽に動き回りながら、フォニックゲインを可能な限り放出しないアームドギアでの直接攻撃。言うは易いが敵もそれを理解しているのか、ブリッツブロッツの攻撃は敵の頭脳である大地に向けられるものが多い。
彼に攻撃をさせんとばかりに装者たちはブリッツブロッツに攻撃を仕掛け、また大地自身も身を隠しながら移動しながら可能な限り高速で策を思案する。この脅威を自分たちだけで討つには如何に力を重ね合わせるべきかを。
「ヤツはベムスターとは違ってなんでも見境なく吸収するわけじゃなく、飽くまでエネルギー攻撃に合わせてのみ吸収を反射を行っている……。いや、ベムスターのそれは吸収と言うよりも先に捕食と言う意味合いが強い。つまりベムスターは体内で吸収、栄養化して肉体に循環させていると考えられる。
対してヤツは結晶体にエネルギーを受けることでその部分で吸収、貯蓄、放出までを一個のプロセスとしている。エネルギーを栄養として循環しているわけではないとするならば……」
まとまっていく考えが答えへと固まり行く中、装者たちの攻撃を払い除けたブリッツブロッツがその照準を大地に向けていた。彼がそれに気付いた瞬間、ブリッツブロッツは手甲からの光弾を大地目掛けて発射した。いま其処に障害物などは無く、光弾は吸い込まれるように大地へと向かい、やがて爆発した。
「大地さんッ!!」
「クッ……貴様ァッ!!」
怒りを以て奮われる、大型化した天羽々斬のアームドギア。ブリッツブロッツの肩に一撃加えたものの、回転と共に巻き起こる風で吹き飛ばされた。
「先輩ッ!!」
「私は大丈夫だッ! だが、大空さんが……」
一瞬で重い空気になる装者たち。だが耳に聞こえた声は、その空気をすぐに掻き消していった。
『心配かけてゴメン! 俺は大丈夫ッ!』
「大地おにーさんデス!」
「でも、どうやって……」
『またバム星人の人たちに助けて貰ってね……。それより、あの敵を倒す方法が見えたッ! 説明すると――』
「日が暮れそうな話になるなら後にしてくれよなッ!」
『うっ……そ、それじゃ掻い摘んで言うけど、アイツは胸の結晶体で光線やフォニックゲインのエネルギー波を吸収して反射するけど、恐らくその吸収量には限りがある。其処を付いて、敢えて限界量まで溜め込ませる』
「でも、そんなことしたら反射が物凄いことになるんじゃ……」
『うん。だから危険な賭けになるけど、反射の直前……結晶体が発光している僅かな間に高エネルギーを更に打ち込み結晶体を暴発させて破壊。そこから内部を攻撃して一気に敵を倒すッ!』
大地の打ち出した案を即座に理解する装者たち。攻守を担う最大の部分であるブリッツブロッツの胸部結晶体を破壊、打倒しようとするものだった。
『結晶体へのエネルギー攻撃は俺がやる! バム星人たちも協力すると言ってくれてるから、必ず何とかしてみせるッ!』
「仔細確認しましたッ! 雪音は大空さんと合流し、共に全力で撃ちまくれッ!」
「あいよッ! そう言うのはアタシの得意球だからなッ!」
「微力ながら私も少し加勢するッ! その後、結晶体の破壊は立花と私で行うッ! 合わせられるなッ!?」
「やりますッ! 遅れは取りませんよ翼さんッ!」
「よく言ったッ! 破壊後は月読と暁、お前たちの合体攻撃でヤツの心の臓を斬り抜けッ!」
「フィニッシャーは、私たち……ッ!」
「ヘマなんかしてられるモノかデスッ!」
『よし、各自作戦決行ッ!!』
大地の号令と共に各々が行動を開始する。響と調が四肢を、翼と切歌が黒い羽を狙いつつ気を向けるように攻撃していく。その間にクリスは大地とバム星人の戦闘部隊と合流した。彼らが携えているのはかつて自分と切歌を苦しめた大型の光線銃。それを見て思うところが全く無いわけではないが、現状を思えばそんな些末な感情は二の次だ。頼むぞとばかりに皆が頷き合い、ブリッツブロッツの胸部に照準を合わせていく。
「フルパワーでブッ放すから、少しばっか時間貰うぜッ!」
「分かった! バム星人のみんなもよろしくッ!」《ウルトラマンの力を、チャージします》
残り少ないパワーをチャージし始めるウルトライザーを構えた大地の声に合わせ、バム星人たちも歪な光線銃を一斉に構え出す。彼らも自らの生きる居場所を守護ろうと必死なのだ。誰しもが同じように。
高まるエネルギーが臨界を迎える直前、ブリッツブロッツの胸部を開かせるべく大地は即座にデバイザーへ名を呼びかけた。
「翼さんッ!」
「承知ッ! はあああああッ!!」
大地たちとブリッツブロッツの間に滑り込み、ヤツが正面を向いたと同時に蒼ノ一閃を発射する翼。狙い通りにブリッツブロッツは胸部外殻を展開し、中の結晶体で蒼ノ一閃を受け止め、反射すべく輝いていく。だが、ヤツは既に作戦にはまっていた。
「発射ァッ!!」
大地の声に合わせて彼の握るウルトライザーとバム星人たちの持つ破壊光線銃が一斉に火を吹き、ブリッツブロッツの結晶体へと吸い込まれていく。その間に大地の背後では、クリスがイチイバルを最大まで展開して放つ最高火力技である【MEGA DETH QUARTET】の発射体制を完了させていた。
「こいつももってけ全部だッ!! 釣りは要らねぇッ!!」
吸い込まれるようにブリッツブロッツの結晶体へと放たれるイチイバルの一極集中攻撃。元々は遠距離かつ超広範囲への攻撃特性がイチイバルの本領ではあるが、それ故に一ヵ所への集中攻撃で齎されるその威力はクリスの高いフォニックゲインと相まって各シンフォギアの中でも最高と評される。
四本の大型ミサイル、腰部から展開した小型誘導式ミサイル、そして両手に携えた計十二門のダブルガトリングガン。フォニックゲインを原材料とした火薬と鉛玉の大放出は、ウルトラマンを模した小型銃器であるウルトライザーの光線とバム星人たちが携え放った怪光波と共にブリッツブロッツの結晶体へ直撃していった。
それを自らの力でエネルギーに変換、溜め込み続けるブリッツブロッツ。だが幾らか撃ち込み続けられたところで、遂にブリッツブロッツがその巨体をよろめかせ後退する。胸部の結晶体は溢れんばかりに強く輝いていた。
「響さんッ! 翼さんッ! 今だッ!!」
「承知ッ!!」
「了解ッ!!」
放った大地の声に即座に反応して跳び込む響と翼。響の右腕はブーストナックルと化し、灼熱を吐き出しながら大量のエネルギーを
「阿吽の呼吸ッ! 合わせろ立花ッ!!」
「言ってること全く分かりませんが、分かりましたァッ!!」
言葉の通り響と翼はほぼ同じ場所を飛翔しながら発光を続けるブリッツブロッツの結晶体へと向かって行く。一瞬を違えれば反射攻撃でやられてしまうし、重なり合わぬ攻撃にもそう効果は得られないだろう。だがそんな事は考えても詮無き事と言わんばかりに二人の音が、”槍”と”剣”が自然と重なり合い反射直前の一瞬を捉えて同時攻撃――【
結晶体への接触と共に付けられる僅かな傷。そこへ同時に放たれた螺旋を描く破壊のエネルギーが叩き込まれ、内部に溜め込まれたエネルギーと連鎖反応を起こし爆発を起こす。思わず巨大に変えた刀身で遮る事で自分と響の身を守護る翼。爆発によって吹き飛ばされる二人だったが、胸の結晶体は間違いなく爆砕し、焼け焦げ抉られたやや痛々しい爆発痕が見えている。
鳴き声を上げるブリッツブロッツを尻目に、響と翼は後に控える者たちを力強く呼んでいた。
「調ちゃんッ! 切歌ちゃんッ!」
「斬り抜けェッ!!」
「はいッ!」 「デスッ!」
擦れ違う二人。小さな二人の眼がブリッツブロッツの傷痕を視認したと同時に、切歌の腕部装甲から楔付きの鉄鎖が射出され、外殻の開いたヤワな胸部へと突き立てられる。其処へ調のシュルシャガナが変形を重ね、禁月輪と同時に切歌の突き立てた鉄鎖を挟み込み其処を動く滑車のような形をとった。
一方で切歌は調の禁月輪の中に入り、イガリマの刃を増やしてまるで
二人肩を組み合い禁月輪の動きを安定させながら、二人が両足で邪刃ウォTtKKKの刃を力強く蹴るように押し出していく。其れはまるで、やや変則的ではあるものの二人のデュエットによって為せる合わせ技である【禁殺邪輪 Zぁ破刃エクLィプssSS】にも思わせた。
「なんとしても、これでぇぇぇッ!!」
「マァスト! ダァァァァァイッ!!」
傷痕から露出した内部の肉体目掛けて超回転する大鋸と断頭刃と化した巨鎌が合体、交錯してブリッツブロッツの胸部の窪みに入って行った。その内部で鈍い音が響き渡り、やがて背部を突き破って調と切歌が飛び出してきた。
すぐに着地して後ろを向くと、立ち尽くすブリッツブロッツの胸部にはX字に貫いた斬撃痕が見られ、心臓部を確実に断破せしめたのだと理解する。そして次の瞬間、心臓部を破壊されたブリッツブロッツはその余波の影響か自らの肉体に仕込まれていたシステムからか、心臓部を中心に爆裂。その身を粉々にしながらマイナスエネルギーと同じく黒い煙と化し、四次元空間から完全に消失した。
「ッしゃあッ! どうだ、見たかってんだッ!」
「やったデス! アタシたちみんなの力だけで!」
「斃せた……怪獣を……!」
達成感と高揚感に包まれる一同。これまではウルトラマンの力無くして勝利は有り得なかったのだ、浮足立つのも仕方ない。だがそれを引き締めるべく、声を上げたのは翼だった。
「浮かれている暇は無いぞ、まだ門番を斃したに過ぎない。大地さん、時間の方は?」
「地球の位相侵蝕完了まで、60時間を切ってる。通信はもう遮断したから、あとは帰らないと向こうの状況が把握できないね……」
「だったらすぐ帰りましょうッ! ……とは言ったものの、此処ってどうやれば帰れるんです……?」
「案ずるな、道は我々が用意する」
そう声をかけてきたのは先程まで一緒に戦っていたバム星人たちだった。
「すぐに次元を繋ぐ道を作る。だが、この世界を守護ってくれた君たちには申し訳ないが、君たちが出て行くと同時に次元の道をすぐに封鎖する」
「理解っています。邪心王の追っ手を避ける為に、ですね」
「むしろここまで協力してくれて、感謝の言葉もないです」
大地や響をはじめ、各々がバム星人たちと握手をしていく。互いに感謝を述べながら繋がっていく其れは、暗夜のような四次元空間の中でも一際輝いているようにも感じられた。
「餞別、なんて言うようなモノじゃないが、君たちが乗っていた車を可能な限り修繕しておいた。細かい専門技術部分はほとんど手を付けられなかったが、走行することは出来る。その足で普通に走るより速いだろう」
「アラミス! 良かった、本当に助かります!」
「そいじゃあサッサと行っちまおうぜ。時間もねぇんだろ?」
「そうだな。月読、暁、お前たちも早く乗りなさい」
「あ、はい!」
「すぐ行くんでちょっとだけ待っててくださいデス!」
そう返す二人と相対していたのは、少年アコルだった。三人は互いに、笑顔でその手を握り合っていた。
「アコル、助けてくれてありがとうデス」
「僕は何も……。でも、ほんの少しでも皆さんにご恩をお返しできたのならそれで十分です」
「相変わらず謙虚。だけど、アコルが動いてくれなかったら私たちは死んでいた。それも事実」
「だから、目一杯感謝するのは当然の事なのデスよ。命の恩人、なんデスから」
他でもない調と切歌にそう言われて少し照れて俯くアコル。と、思い出したように懐から小さな二つの紙袋を取り出して調と切歌に手渡した。
「これは?」
「もしいつか、万が一お二人と再会した時に渡そうと思っていたものです。本当は何処かに飾っておくつもりだったんですけど、まさかこんな早く再開できるとは思っても見なかったので……」
「それはこっちも予想外だったデスよ……。でも、また会えて嬉しいデス!」
「うん、私も」
調と切歌の笑顔に絆されながら手渡したそれは、何の変哲もない小さなミサンガだった。切歌には翠色、調には緋色がメインとなり、そこに赤と銀加えたそれぞれ三色で作られていた。よく見ると其処には、月と太陽、そして星の装飾が縫い込まれてある。それはきっと、自分たちを救ってくれた者たちへの想いを込めて作られたのかもしれない。
それを自分の左手首に手早く器用に結ぶ調。一方で切歌は右手首に結ぼうとしたものの手間取ってしまい、何も言わずに調が代わりに結んであげた。三人が笑顔で顔を合わせ合う中、既に全員が乗り込んだジオアラミスからクリスの急かす声が聞こえてきた。
「なにやってんだお前らー! 置いてくぞー!」
「すいません、本当に大したものじゃないのに時間を取らせてしまって……」
「ううん。素敵なミサンガ、ありがとうなのデス!」
「ありがとうアコル。大事にするからね」
二人の手が離れて、肩を並べて仲間たちの下に駆け出していく。そんな背中を見ながら、アコルは胸に秘めていた想いをつい吐き出した
「切歌さん! 調さん! もし……もしもまたお会いした時は、今度はちゃんとしたかたちで……
――僕と、友達になってくれますかッ!?」
アコルの言葉に振り向く調と切歌。そこに満面の笑みを浮かべ、当然のように返答した。
「何言ってるデスかアコル!」
「私たちはもう、ちゃんとした――」
「友達だよッ!」 「友達デスッ!」
偽り無く放つ二人の言葉に、アコルは感激と共に目頭に涙を浮かべていた。そして遠ざかるジオアラミスを見ながら、その姿が消えるまで大きくその手を振って去り往く者たちを仲間と共に見送っていた。
この四次元世界で最も強く、彼女らの勝利を信じ応援しながら。
「凄いね、調ちゃん、切歌ちゃん。他の世界の友達が出来るなんて!」
「そっ、それほどでもないのデスよ。アタシたちなりに頑張った成果とでも言うのデスか……」
「私たちは誰かと手を繋ぐことのあったかさや優しさを知ることが出来たから……。それは響さんや先輩、星司おじさん……みんなのおかげです」
「ヘッ、一丁前に殊勝なこと言いやがって」
道なき道、漆黒の空間をただ真っ直ぐと走るジオアラミスの中は、装者たちによって普段からは考えられないくらい華やかで姦しい空間になっていた。
後部座席の会話を聞きながら、大地もまた異星の友を思い出す。かけがえのない絆を結んだ者達。なんとしてもこの戦いを終わらせて、帰らなければならない。そんな意気を胸の内で高めていった。それは隣の助手席に座る翼も同じ事を考えていた。ギアペンダントを眺めるように見据え、在りし者たちの事を想う。
”なんでも出来る”と言い放ったゼロと、”翼にならば託せるから”と言い聞かせるように寄越したマリア。後ろに居る後進たちや、叔父をはじめとする信を置く大人たちではなく、どこか対等に言葉を交えることが出来る相手。リディアンを卒業して以来、久しく無かったこのような相手こそが”友達”なのだと翼は不意に思った。
(アイツらも私の友達、か……。ならば、なおのこと助けないと。――そうだよね、奏)
亡き者に想いを尋ねても答えは帰って来ない。だが翼にとって、天羽奏に同意を求めると言うことは自らの信を確たるものにする為の行い。云わば”おまじない”とも言える。だが、彼女にはそれで充分だった。
話をする者、想いを固める者。其々が居並ぶ中で、運転している大地はやがて道なき道の終わりを告げる明るみを見た。この空間を出た先に待っているのは何か。果たしてどれ程に時間が残っているのか分からぬが、ただ今はアクセルを強く踏み込むだけだった。
「みんな、出るよッ!」
大地の言葉で装者たちが一斉に強い顔で気構えを済ませる。そして明るみへと出て最初に見た光景は――
「……そんな、これって……ッ!」
驚愕に呟く響。他の全員も、何処か唖然とした顔で眺めていた。
血のように赤黒く溶けた地面と、腐臭の漂う赤く染まった海と、焔だけが照らし出す漆黒の空。
世界は歪み、何処からともなく凶獣の鳴き声が響き渡る。
誰しもが思った。此処は、絶望の地だと。