絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア   作:まくやま

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Another side EPISODE 03【夢の中の獅子】

 シンフォギアを纏う少女らと地球に現れたウルトラマンたち。

 地球を恐怖と絶望に染め上げるべく現れた侵略者、異次元超人ヤプール。超獣と共にノイズを作り出し操るヤプールに対し、ウルトラマンらはシンフォギア装者を自らと一体化することにより互いの力を共有。ノイズの力を得た超獣を繰るヤプールに対し戦う術を手に入れた。

 そして激しい戦いの末に、6人の装者たちがそれぞれ一体化した5人のウルトラマンはヤプールの切り札であった究極超獣Uキラーザウルスを討ち倒し、世界の危機を救ったのだった。

 しかしその後、ウルトラマンたちから真の黒幕……黒い影法師と超時空魔神エタルガーの存在を知らされるタスクフォース一同。未だ終わらぬ戦いの空気を肌で感じ、少女らはウルトラマンたちと共に新たな力を我が物とすべく、そして自らの力を更に高めるべく特訓を敢行することを決める。

 

 

 此度の閑話は、その特訓が始まるまでの間に起きた夢物語――。

 

 

 

 

 

 

 彼は眠っていた。

 どれほど超人的な肉体を持っていようとも、彼は人間だ。生物学的には人間に相違ない。

 ならばこそ、彼にも日々の労務で肉体に貯蓄された疲労を消化する為に睡眠は必須である。そして何よりも、『睡眠もまた鍛錬の一つ』としている彼ならばこそ、質の良い睡眠を求道するのもまた必然であった。

 その屈強な身体と普段の豪放磊落さを知る者には何処か不釣り合いにも感じる圧倒的静寂。安らぎに身を任せ一切の表情を変えず、彼――風鳴弦十郎は眠っていた。

 

 そんな安らぎの中……。

 

「なにが、どうなっているんだァッ!?」

 

 叫びにも似たけたたましい鳴き声。

 それと共に此方に向けて放たれる水流。コンクリートを容易く砕くそれは、猛烈に圧力を高めたモノだと瞬時に理解る。さすがに直撃すれば一溜りもないと言うこともだ。

 紙一重で避けながら、それを放つモノとは逆方向に駆けていく弦十郎。いささか今の状況は、彼の中にある現実とは大きくかけ離れていた。

 走りながら背後を向く。目に付いたのは大きく爛々とした眼球と、紅鱗のように赤く濡れ光る体表。頭頂からはまるで眼と同じような黄色い球体に、耳のようなヒレが特徴的だと一瞬で分析する。

 そして何よりも特筆すべきはとの巨大さ。人間の中では巨躯として認められる2m近い弦十郎自身の身長を持ってしても、ゆうにその30倍はありそうなほどに、目にした相手は巨大だった。

 彼にとって一つ幸いだと思う事は、このような巨大生物――所謂【怪獣】との戦いは自らの部下を通じて見知っていた事だった。同時に不幸だと思うのは、何故一度たりともその戦場に自分が起っていなかったのかという事だ。

 百聞は一見に如かず。そして百見は一会に如かぬ。如何なる見聞よりもたった一度の会遇が自身の常識を打ち砕いてしまうのはよく理解っていたはず。それを考え一度だけ歯軋りしてしまう。

 だが悔やんでばかりいても事態が好転しないことは理解っている。理不尽は待ってなどくれない。嫌というぐらい骨身の髄に染み込んだ経験は、彼に即座に次の行動を行わせた。

 手にしたのは通信機。起動を確認するや否や、叩き付けるように通信機へ声を放っていった。

 

「緒川ァッ!! 藤尭ッ! 友里ッ! 誰か居ないのかッ!!」

 

 その声に対し帰って来たのは無慈悲な雑音。誰にもこの声が届かなかったと言う事実に、僅かな一瞬だが打ちのめされそうになった。

 だが嘆いている暇など無い。救援が呼べないのならばこの身一つで何とかするしかない。鍛と錬を積み重ね、日々の日常すらも研鑽としてきたこの身ならばなんとかなる。どうとでもしてみせる。そんな決意と共に怪獣へと振り向いた時、そこを狙い澄ましたかのように怪獣の口から放たれた水流が弦十郎へと直撃し――

 

 

 

「――ッ!!!」

 

 爆ぜるように布団を強く吹き飛ばし、静かな寝室に立ち、構えを取っていた。

 

「――夢、だったとでも言うのか……?」

 

 先程までの状況は弦十郎にとって現実と相違なかった。吹き飛ぶ瓦礫も、浴びせられた水流も、すべて明確な感覚として彼の身全てに刻まれていたからだ。

 寝汗が酷い。まるで子供の夜尿の如くシーツに染み付いた汗を見て、彼自身も違和感を覚える。此処まで酷い発汗は、どれ程過酷な鍛錬を積んでもお目にかかる事は無かった。そして何よりも、染み込んだ汗の形がどうにも不可解な気分を大きくさせていた。

 それはまるで、今となってはおぼろげな夢の中で相対したような気がする何かに似ているような気がしたからだった。

 

 

 

 

 

「おはようございます、司令」

「おう、おはよう藤尭」

 

 移動本部に設置してある男性用シャワールーム。寝汗を流す為に立ち寄ったそこに、徹夜明けと思しき先客からの挨拶があった。

 

「そっちの仕事は片付きそうか?」

「ようやっと寝る時間を確保出来そうなぐらいには終わりましたよ。この後は少しばかり仮眠をいただきます」

 

 タスクフォースが誇る頭脳労働兼気苦労担当のオペレーター藤尭朔也は、ヤプールとの戦いで得たデータの整理や検証に、連日連夜多大な時間を費やしていた。どういう形かはともかく、それが今はある程度まで区切りは付いたのだろう。

 そんな優秀な部下に対し、弦十郎も素直に労いを口にしていく。

 

「あぁ、ゆっくり休んでくれ。面倒事ばかり押し付けてしまってすまんな」

「司令に頭下げてもらうより、まとまった休暇があれば良いですよ俺は。それに、司令はこっちより面倒な事案をやってもらったばかりですし」

 

 ヤプールとの戦いで発生した多大な被害、シンフォギア装者とウルトラマンに関する国連としての立ち位置の調整、日本内部はもちろん諸外国との外交問題……装者の少女らと善意の協力者たちに対し、弦十郎もまた自らに出来る事を可能な限りやっていた。時に実兄である政府要人の風鳴八紘や、外交筋に強い理解者である斯波田賢仁事務次官らを頼り、戦場に立つ者らを守護りながら裏の裏まで補佐してきたのである。

 装者の少女らや共に在るウルトラマンたちはそれに気付くことは無くとも、藤尭を始めとする特異災害対策機動部二課からのメンバーは弦十郎のそういった部分をちゃんと理解していたのだ。

 それを知る者の、何処か不器用な労いの言葉に、声には出さず内々で感謝を放ちながら弦十郎は藤尭に返答をしていく。

 

「まとまった休暇はしばらく難しいかもしれんな。だが臨時手当ぐらいはどうにかしておこう。とりあえず今は、ゆっくり寝ておけ」

「了解です。今度の給与明細、楽しみにしてますよ」

 

 シャワールームから出る藤尭を見送り、代わって弦十郎が寝汗を流しはじめる。

 温かな流水は身体にまとわりつく不快感を押し流し、爽快感を与えてくれる。ついでに身体も隅々まで清潔にし、嫌な夢を諸共に洗い流していった。

 弦十郎がシャワールームから出る時には、豪放ながらも清潔感のある大人の男の姿……いつものタスクフォース司令、風鳴弦十郎が此処に在った。其処から始まる一日は何の差し障りも無く、ただ平穏に過ぎ去っていく。

 

 そして、その日の夜……。

 

 

 

 

「――まったく、こいつは一体どうしたもんか……ッ!」

 

 いつもと同じように睡眠の時間となり、友里や藤尭に言われて仮眠に入ったところだった。入眠は自分でも驚くほど早く、布団に入った瞬間眠気が襲い掛かってきたほどだ。

 そして弦十郎は夢を見る。奇しくも昨日と同じ、深紅の巨獣と相対する現実と程近い夢を。

 何処か水棲哺乳類のような甲高い鳴き声が弦十郎の耳をつんざく。だが今度は怯まない。一度ならばともかく二度目ならばもう不測の事態ではない。即座の心構えも出来ると言うものだ。

 

「さて、何処までやれるものかな……ッ!」

 

 拳を握り締め構えをとる。一度目の遭遇でとった行動は、即時撤退と仲間への連絡……そのどちらもが徒労に終わってしまう。それを知った上で遭遇した二度目。限られた出来る事の中で、弦十郎が選んだのは『抗戦』だった。

 ヒトの身で怪獣に挑む。それがどれほど無謀なことか理解らぬ弦十郎ではない。現に彼は、ヤプールの尖兵とシンフォギア装者たちの戦いを何度もこの目にしてきた。しかしてその対策会議の全てに彼は係わってきたのだ。徒手空拳しか持たぬ彼が如何にして巨大怪獣を相手に立ち回るのか……その想定ぐらいは当然やってきたのである。

 

 甲高い声を上げ、怪獣は口から高圧水流を発射する。攻撃の軌道は読めていたものの、攻撃そのもののサイズがやはり怪獣特有の巨大さを持っている。無傷で躱すために取った跳躍は、彼自身の想定よりも何割か強かった。

 着地と共に今度は前に出る。強く踏み出すと共に瞬時に間合いを詰める弦十郎に対し、赤い怪獣は口から高圧水流を連続で発射していく。それを躱しながら足元で更に強く力を込めて跳躍。大きく拳を振りかぶり、怪獣の腹部へ一撃を叩き込んだ。

 

「おおおぅらぁッ!!!」

 

 直撃と共に発せられる衝撃。鳴き声を上げてよろめく怪獣。敵も想像だにしていなかっただろう。武装も何もしていないただの人間の放った拳が、自らの巨大な肉体を貫いてくるなどとは。

 思わぬ衝撃に怯み後退る。だが顔を持ち上げた時、その眼球からは痛みと怒りで輝きを増していた。

 

「奴さんも本気で仕掛けてくるか……」

 

 奇怪な鳴き声を上げながら口から吐き出されるは、今度は赤い液体。それが地面に付着した瞬間、激しい音を上げて爆発した。炸裂するコンクリートの地面に驚きを覚えながらも、対応は十分に可能だと確信する弦十郎。

 対応は出来る。だが決定打が足りない。先程の腹部への一撃は確実に通ってはいたが、それを覆してくる質量の差が互いの間にあった。事実、怪獣が激しく地響きを立てながら此方へ攻め立てると動きに大きく制限が齎される。

 それでも常識的な観点で見れば十二分以上に彼は戦えている。もし誰かがこの光景を見ていれば、誰もがその非常識な戦闘に唖然とするだろう。だが今戦っている弦十郎の観点は違う。飽くまでも『戦えている』だけなのだ。眼前の怪獣を『撃破する』為に、何度この超質量攻撃と二種類の破壊水流を回避しつつ重撃を打ち込み続ければ良いのか。考えながら動くことは出来ても、結局打開案は出て来ない。いくら規格外と揶揄されてきたとは言え、自らの身もまた『人間』であると知らされてしまう瞬間だった。

 

 

 何度目かの攻防を経て、やがて弦十郎は怪獣の動きに変化がある事に気付いた。最初は僅かだったかも知れない。だが今は確実に、此方の動きを察知して先読みするように対応している。

 彼の重撃は確実に防がれ、怪獣の攻撃は正に紙一重で避けるのが精一杯という状況になって来た。

 

(クッ、一体どうなっている……ッ!)

 

 その行動変化に、さすがの弦十郎も理解が追い付かなくなってくる。元より世の理から外れた存在を慮外の世界で相手にしているのだ、不測の事態など起きて当然在るのが必然と言って良いのは理解っていた。

 だがそうして積み重なった不測はやがて綻びとなり、遂には弦十郎の身に痛烈な一撃を打ち込まれてしまうに至ってしまった。

 

「ぐぉあッ!!」

 

 吹き飛ばされながらもなんとか空中で受け身を取り、歯を食いしばりつつ地面を捉えて滑りながら着地する。切れた口の中に溜まった血を吐き出し、再度構えをとる弦十郎。大きく深呼吸をしながら思考を巡らせ始めた。

 

(――ヤツには俺の動きが読めているのか……? いや、読めていなければあんな攻撃は出来ないはずだ。ならば、一体何処で……)

 

 先程とは打って変わって、じりじりと怪獣を観察するように動いていく。その不穏な動きに気付いたのか、怪獣は再度赤色水流を放ち弦十郎の足元を爆発させた。

 

「クッ!」

(正確さが増している……。やはり、何かあるはずだ……ッ!)

 

 攻撃を控え回避に徹しながら観察を続ける。こんな時に心強い仲間たちが居ればどれだけ良かったかと、思わず内心で愚痴を浮かべる弦十郎。だがそんな考えの中でもう一つ、彼の中で強く固まっている想いがあった。

 この事変の最中、本当にこの身一つで怪獣に挑むようなことが起きた場合、もう決してこのような引けは取らないと言う強い決意が。

 眼前の今に全力でありながらも先の先まで見据えた彼の思考と観察眼。それは遂に、決定的な要点を発見した。

 此方の僅かな所作と連動して側頭部のヒレが細かく震え、それと同時に頭頂部にある黄色い球体が発光していたのだ。怪獣とは一種の巨大生物。ヤプールが生み出した超獣だとしても所詮は兵器と生体の混合体であることは理解っている。

 つまりはあの行いこそが弦十郎の動きを先読みしていた『何か』。その器官が持つ機能がなんであるかを知る事は無いが、彼が培ってきた歴戦の直感とも言える洞察力がそれを見抜いていた。それさえ理解れば、やる事はただ一つである。

 

「ぬおおおおッ!!」

 

 地面を蹴り、怪獣の皮膚にある凹凸部分も足場と駆使して駆け上がっていく弦十郎。振り払い落とそうとする怪獣の動きにも素早く的確に対応し、叩き落とさんとする腕を蹴り、暴れるように振り回す上半身を登っていく。

 そして肩から一気に飛び上がり、遂には怪獣と目が合う――いや、それ以上の高さへと到達していた。

 

「貰うぞ、そいつをッ! おおおぉらぁッ!!」

 

 弦十郎の剛掌打が怪獣の頭部発光器官を叩き潰す。黄色の球体が貫かれ炸裂。火花と共に弾け飛びながら、怪獣はけたたましい叫び声をあげた。

 其処は急所か、違ったとしても重要な器官であることは間違いない。破壊した時の叫ぶような鳴き声、狼狽えるような身体の動きを見ても察することが出来るほどだ。だがそれを破壊した一瞬の隙……否、安堵と共に生まれてしまった、必然的な刹那の気の緩みが、大きな失態だった。

 重力に従い弦十郎が顔の前まで降りて来た瞬間、怪獣は四角い口から高圧水流を発射。彼を押し流し地面へと叩き付ける。寸でのところで防御はしていた弦十郎だったが、この水流に濡れてしまう事はもう一つの意味があった。

 立ち上がろうとしたところで思わず額を抑える。弦十郎の思考を侵食してきたのは、まるで睡魔のような深い混濁。その理由は分かっていた。此処は今”夢の中”であり、この怪獣が放つ水流には”夢から覚めさせる”という効果を持っているのだと、彼は推察していた。最初の会敵時を紐解く限り、それ以外に考えられるものが無かったからだとも言う。

 

 何とか頭を振るい足に力を込めるが、そこから立ち上がることが出来ない。抗えぬ感覚への攻撃は、いくらこの世界最強の存在とは言え決して容易に破れるものではない。

 ――いや、辛うじてでも意識を繋ぎ留めていられるだけで彼は十二分に超人的と言えた。しかしそれも長くは保たない。おぼろげな眼前にはせせら笑うかのように怪獣が小さく飛び跳ねている。

 

(くそッ……俺としたことが……ッ!)

 

 一瞬でも気を緩めてしまった自身を腹立たしく思う弦十郎。しかし、ただ思うだけでは事態は変わらない。選ばなくてはならない。眼前の敵を討てずに撤退するか、死を覚悟しての更なる抗戦かを。

 前者の場合は自らの身の安全と引き換えにこの怪獣を野放しにしてしまう事となる。生態や習性を把握できている訳ではないが、それ故にまたいつ誰を夢の中で襲うか分からぬ危険が伴う。

 後者だと危険が降りかかるのは今この身だけ。だがもしも自分が倒れてしまったら、集ってくれた仲間や部下たち、奇跡を纏う少女らや人類に力を貸してくれている異世界の戦士たちにも申し訳が立たない。

 ならば何を選択するか。一瞬の思案の末に彼がその手に握りしめたものは、たった一つのシンプルな答えだった。

 

「――情けない。なにが起きようとも諦めることなく戦ってきた者たちに対して……それを見て来た者として、”諦め”を選択しようと思うなど、情けないにも程があるッ!

 誰も見てなかろうが、俺自身の夢の中だろうが関係ない。そんなことで諦めるようなカッコ悪い大人なんざ、誰よりも俺自身が俺を許せんッ!!」

 

 起ち上がり、拳を握り、地を踏み締めて構えを作る。

 その眼は闘志に燃え盛り、滾る魂が濡れた躰から白煙を立ち昇らせる。

 侵食する精神への攻撃。それすらも自らの意志力で捻じ伏せて、彼は起ち上がってみせたのだ。

 握った想いはただ一つ。自身が想う全ての人を守護るため、この怪獣をこの場で倒すという確固たる決意だった。

 

「俺にだって限界がある事は理解っている。だが、其処に至らぬうちに音を上げる心算は無いッ! お前は此処で、俺が倒すッ!!」

 

 そんな弦十郎の姿を見て更に吼える怪獣。だがそれにも一切怯まない彼の視界に、突如赤い光球が飛び込んできた。それを怪獣の攻撃かと思い、思わず防御姿勢をとる弦十郎。だが彼の眼前には今、まったく予想だにしなかった存在が佇んでいた。

 白銀のマントをたなびかせ、しなやかにして強靭な紅蓮の体躯と三方向へ鋭利に伸びた角を持つ銀色の顔。そして黄金の眼を持つ地球人とはかけ離れた……しかし何処か見覚えのある姿。弦十郎は思わずその名を口にしていた。

 

「――ウルトラマン、なのか……?」

 

 紅蓮の闘士は静かに、だがハッキリと肯定の意味で彼に向けて頷き、言葉をかけていく。

 

「俺はウルトラマンレオ。エース兄さんや80、ゼロが君たちの世界の人間と如何に心を繋ぎ戦ってきたのか、見させてもらっていた。……全てではないが、な」

「ウルトラマン、レオ……。しかし、何故俺の夢の中に……?」

「君たちの戦いを見ていた時に、ヤプールの齎すマイナスエネルギーが残留していることが分かった。エース兄さんたちならすぐに気付き対処すると思っていたのだが、狡猾なヤプールはUキラーザウルスが破壊された後も手を残していたのだ。

 それこそが、君が今相対している怪獣。ヤプールの残滓が生み出した夢幻超獣ドリームギラス。ヤツは夢を利用して破壊活動を行い、侵入した者の心を壊してその後はまた他の人間の夢に移ってはそれを破壊して行くだろう」

「ヤツは、人の心を蹂躙していくというのか……ッ!」

 

 弦十郎の言葉に首を縦に振るウルトラマンレオ。そしてそのまま言葉を続けていく。

 

「故に俺も、思念体ではあるがドリームギラスがとり憑いた人間と接触し、速やかにヤツを追い出そうと考えていた。そうすればエース兄さんや80、ゼロたちがドリームギラスを斃す。そう思っていた。

 だがドリームギラスにも……いや、俺ですら予想だにしていない事態が起きた。ヤツと相対したのが風鳴弦十郎、君という存在だった事だ。

 組織の長を倒せば自然に瓦解するものと悪知恵を働かせ、ドリームギラスは君に憑いたのかもしれん。だが君はそれを跳ね除けてドリームギラスに一矢報いた。いや、それどころか君の力ならばヒトの身のままでヤツを斃すことも可能なのかもしれない境地に立っている」

「どうだろうかな。意地と力……それだけで倒せるほど易い相手だとは思ってなどいないさ。だが俺にはそれを握るしか能が無いものでな。

 だからそれで戦い、俺の背後(うしろ)にいる者たちを守護ってみせる。それだけだ」

 

 弦十郎のはにかんだ笑顔を見て、レオも何かを決意したかのように右手を突き出した。赤い掌から放たれた光は弦十郎の左手に集まり、その薬指には獅子の顔を模した、赤い宝石の付いた指輪が付けられていた。

 

「これは……」

「今この場、この一時だけ俺の力を君に貸そう。ドリームギラスと対等に戦うには必要なはずだ」

「何故、俺に――」

「君の姿に、戦う姿勢に”男”を見た。それだけのことだ」

 

 それだけ言い残して消える紅蓮の闘士。それと共に光が消え、眼前には怪獣――ドリームギラスが未だ健在。

 弦十郎の左手には、まるで”獅子の瞳”が如く赤く輝く宝玉を持つ黄金の指輪が付けられている。夢の中に居て尚、今のは夢ではなかったと確信した。

 

 

 強く睨み付け、決意と魂を炎の如く滾らせていく。

 両腕を胸の前で交差させ、下へ円を描くように移動。水平に戻したところで右腕を前に突き出し、その反動を以て、強く硬く――男が自らの意地を固め握りしめた無骨な拳を、眼前の障害を打ち砕かんと突き出し、貸し与えられた一時の力を解き放つべく、彼の名を雄々しく吼え叫んだ。

 

 

「レオオオオォォォォッ!!!」

 

 

 黄金の獅子を模した指輪、その両の瞳が輝き放つとき、秘められた力は弦十郎の躰を駆け巡りその身を巨人の其れへと変えていく。

 真紅の肉体に三又の角がある銀色の頭。鳩尾に描かれた象形文字にも似た幾何学模様。先程弦十郎が見た者と寸分違わぬ紅蓮の闘士――ウルトラマンレオが、ドリームギラスの前に顕現した。

 

(――これが、ウルトラマンの力……。そうだな、これならばッ!)

 

 力強く構えをとるレオ。ドリームギラスの動きを見定めるかのようにジリジリと距離を保ちつつ動いていく。そしてその緊張を破り動き出したのは、ドリームギラスからだった。

 奇声を上げながら突進するドリームギラス。振り上げ叩き下ろすその剛腕を、レオは僅かな回転動作だけで捌いてしまう。だがドリームギラスも再度逆の腕で攻撃を仕掛けていく。が、その一撃もレオに届くことなく受け止められ、その姿勢から力強い正拳突きをお見舞いされた。

 ただの一発の剛拳はドリームギラスの胸部を的確に打ち抜き、激しく吹き飛ばす。それを見ながらもなお、心静かに構えを作り直すレオ。まるで大きく深呼吸をするかのように腰を僅かに落とすが、立ち上がり起きたドリームギラスを目にした瞬間、黄金の瞳が一瞬輝くと共に、弾けるように飛び出していった。

 

「ヌゥンッ! ディヤッ!!」

 

 飛び込みからの左エルボー、着地受け身をとってからの正拳連打、そして屈んだ姿勢から即頭部を狙う後ろ回し蹴り。その全てを浴びせられ、呻きながら倒れ込むドリームギラス。だがすぐさま起き上がり、反撃と言わんばかりに口から赤色水流を放っていく。着弾すると爆発を起こすモノだ。

 レオ目掛けて連続で放たれる水流。引き起こされる爆発を連続。それをレオは、軽やかな後方転回で躱していく。そして距離をとったところで右腕を敵に向けて伸ばし、そこから赤い光線……シューティングビームを発射。ドリームギラスに直撃した光線は火花を散らして炸裂し、敵の巨体を更に吹き飛ばしていく。

 レオの猛攻を受けて倒れ込み、駄々をこねるように手足をバタつかせて足掻くドリームギラス。だがその巨体には最早起ち上がる力はなく、戦意すらも失っているのは目に見えて明らかだ。必殺の一撃を叩き込むのはこの瞬間しかないと、弦十郎の、そして彼と力を共にしているウルトラマンレオの数多の戦いにより研ぎ澄まされた直感がそれを察していた。

 

(これで終わりだッ!!)

 

 右腕を腰溜めに据え、左腕を外水平に伸ばす。そして再度構えを作った後、勢いよく天へと跳び上がった。上空はおよそ1,000mにも到達するほどの超々高度跳躍。其処から狙うはドリームギラスの胸部――心の臓に他ならない。

 急降下と共にその右足に力の全てを込めるレオ。猛り迸るエネルギーと摩擦熱で右足は赤熱化しながら激しい炎を纏い、超速を以てドリームギラスへと向かっていった。

 

「ェイヤアアァァァァァッ!!!」

 

 咆哮と共に速度を増すレオ。迫り来る真紅の輝き、まるで牙を剥き襲い掛かる獅子の如き彼の姿に、何とか起き上がったドリームギラスは身体を竦め動きを止めてしまう。瞬間、レオの一番の必殺技である【レオキック】が狙い定めていたドリームギラスの胸部に直撃。炸裂しながら吹き飛ばされていった。

 一方で着地して佇むレオ。何かを確信しながら背を向けた瞬間、背後でドリームギラスが爆発四散して消えていく。誰にも知られぬ夢幻の中、それでも人々の為に己が身を賭せる愚直な男たちが勝利を掴んだ瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、目を開く。

 暗い室内、見慣れた天井。屈強な身体には寝汗が纏わり付いているが、昨晩とは違い今朝のそれは何処か爽やかな……運動と共に流した汗のように感じていた。

 窓からは朝日が差し込み、海上を舞う海鳥の鳴き声が小さく聞こえていた。上体を起こし、窓の外を見る弦十郎。澄み渡った青い空に翳りは無く、陽光に輝く海は優しく揺らめいている。その平和な光景に一息吐きながら左手を見る。夢の中で見た獅子を象った指輪は、もう其処には存在していなかった。

 

(……夢か。そりゃあ、そうだな)

 

 大きく伸びをする弦十郎。残された記憶は既におぼろげだ。超獣ドリームギラス、夢の中での死闘、そしてその僅かな一時に力を貸してくれた、ウルトラマンレオ……。

 仔細な状況は記憶から大きく薄れているが、それでも確実に覚えていることがある。自らもまたウルトラマンの力を借り、その大いなる力を以て超獣を打ち倒した。誰にも見られず、気付かれることもない”夢の中”で。

 誰に語っても一笑に伏されるのは目に見えて明らかな荒唐無稽の夢話。それをただ自分の胸の内にだけ秘めて、弦十郎はまた今日も朝のシャワーを浴びに行く。その途中――

 

「おはようございます、司令」

「ああ緒川、おはようさん」

 

 この日最初に出会ったのは、タスクフォースの懐刀でもあり翼の公私を影で支えるマネージャー、緒川慎次だった。

 他愛ない朝の挨拶。だがその直後、慎次が優しく微笑みかけて来た。

 

「どうかしたか?」

「いえ、なにやら憑き物が落ちたかのようにスッキリとした顔をしていましたので」

「……昨日はそんなに酷い顔だったのか、俺は?」

「友里さん曰く、目のクマと眉間の皴がいつもより酷く、目頭も頻繁に押さえていたとか。あと普段よりコーヒーもよく飲まれていたそうですし」

 

 思わず苦笑いしながら額に手を当てる弦十郎。まったくこの有能な部下たちは、自分が思っている以上に自分のことをよく観ていたのだなと感心する。それは少しだけ自分が情けなく、だがそれ以上に有難いと思える言葉だった。

 

「やれやれ、俺としたことが……。あいつらに気取られてしまうようじゃ、まだまだだな」

「溜まった疲労は隠し切れるものではありませんから。翼さんもよく無理を押してしまいがちですし、風鳴の人間の癖なのかもしれませんね」

「かもな。ま、何はともあれ元気になったことは確かだ。心配をかけてしまったな」

「いいえ。司令は司令らしく構えていてくれるのが、みんなにとって一番の安心だと思いますよ」

「……そうか。そうだな」

 

 朗らかに言う慎次の言葉に軽い肯定を返しながら、シャワールームに入ろうとする弦十郎。と、その前で一度足を止め、慎次の方へと振り向き声をかけた。

 

「緒川、この後時間あるか?」

「? はい、特別急な仕事はありませんが……」

「そうか。少し二人で打ち合わせしたいと思ってな。付き合ってくれるか?」

「了解しました、そういう事でしたら。ですが、一体何を……?」

 

 不思議そうな顔をする慎次に対し、弦十郎はいつもの豪放な笑顔で答えていった。

 

「今度の特訓のメニューと、俺たちが自力で怪獣を倒す算段だッ!」

 

 そう言ってシャワールームへと消える弦十郎。残された慎次は一瞬思考が止まり、付けていた眼鏡が思わずズリ落ちそうな気がした。いや、実際少しズリ落ち傾いていた。

 すぐに気持ちと共に眼鏡をかけなおし元に戻す。溜め息を一つ吐いた慎次の顔は、何処か呆れるような微笑みを作っていた。

 

「……憑き物だけでなく、なにか素敵な夢でも見たのでしょうかね」

 

 呟きながらその場を立ち去る慎次。とりあえずはミーティングルームの準備だ。ヒトの身で怪獣を倒すなどという無謀、無いに越した事はないのだが、彼自身経験してしまったので安穏なことを言ってはいられない。

 戦いはまだ続く。親愛なる者と彼女の良き友を守護る為に、この心身を刃に変える時も訪れるやも知れぬ。その刃は何時如何なる時にも至高の斬れ味を保たねばならぬのだ。恐らくは弦十郎にも、そういった考えがより強くなったのだろう。そんなことを、慎次は歩きながら小さく考えていた。

 

 

 

 

 

 

 そんな大人たちの備えが結実するのはこの”今”よりもう少し先の話となる。

 だが奇跡を纏う少女たちに課せられるこの世のものとは思えぬ特訓は、もう目の前に迫っていた。

 

 そう、すべては弦十郎の夢の中……一時でも獅子(レオ)と一体化したことで起きた記憶の交流が、まるで天啓のように彼の脳裏に刻まれフラッシュバックしていたのだ。

 ”彼”自身に課せられた狂々たる特訓の数々と、”彼”が”弟子”に課していた苛烈にして厳しい鍛錬の一部始終を。

 

 

 

 

 真紅の獅子はただ遥か彼方より、己が”もう一つの故郷”と似て非なる彼の世界を、ただ見守っていた。

 

 

 

 end.

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