アラクニドっぽい何か   作:タランチュラの末裔

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境遇

蜘蛛が拳銃の引き金を引く

 

しかし銃弾は足高蜘蛛と有栖には向かわず、天井に放たれた

 

 

 

「どういうつもりだ・・・蜘蛛」

 

雀蜂が顔をしかめる

 

 

 

「すまない雀蜂、こいつだけは勘弁してくれ」

 

そう言った蜘蛛が拳銃を懐にしまう

 

それを見た雀蜂は静かに言う

 

 

 

「命令に背いたことは、ボスに報告しておく」

 

「・・・・・」

 

「失せろ」

 

雀蜂の言葉と共に、蜘蛛たち三人は大部屋をあとにした

 

足高蜘蛛は少しほっとした様子で歩き、有栖は心配そうに蜘蛛を見ていた

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

組織の地下室を抜けだした蜘蛛たちは塒へ向かうため夜道を歩いていた

 

 

 

「あの・・・足高蜘蛛さん・・・?」

 

呼びなれない妙な名前を有栖はやりにくそうに呼ぶ

 

 

 

「なんだ?」

 

「さっきはありがとうございました・・・私が撃たれそうになった時に庇ってもらって」

 

「あー・・まぁ、どういたしまして・・・」

 

有栖のお礼に対し、ハッキリしない様子で答える足高蜘蛛

 

人からお礼を言われ慣れていないのでどう返していいのか分からないということもあったが、何より何故さっき自分が有栖を庇ったのかよく分からないのである

 

 

 

「でもお礼は蜘蛛さんに言えよ、あの状況で俺みたいな下っ端がでしゃばったところで何も変わらなかったんだ・・・蜘蛛さんが撃たなかったおかげでお前は今生きてるんだぜ?」

 

「はい・・あの・・ありがとうございました、殺し屋さん」

 

自分の前を歩く蜘蛛にお礼を言う有栖

 

しかし蜘蛛は何の返事も返さずただ黙って歩き続ける

 

 

 

「・・・・・」

 

すると有栖が一つの疑問をぶつける

 

 

 

「なんで撃たなかったんですか?」

 

有栖の問いにより、蜘蛛がようやく口を開いた

 

 

 

「言ったろう、お前にはやってもらう事がある」

 

「で、でも・・・」

 

「厄介なのは『雀蜂』だ、組織でただ一人・・・正体不明の『ボス』と話すことが出来る男、あの男がいなければ事実上「組織」は壊滅する」

 

蜘蛛の言葉を聞き、有栖の脳裏に一つの考えが浮かぶ

 

 

 

「もしかして・・・『始末してほしい奴』っていうのは・・・」

 

「・・・・・」

 

蜘蛛はそれ以上、口を開くことはなかった

 

その様子を足高蜘蛛は少しの悲しみを秘めた目で見ていた

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「食べ物だ」

 

蜘蛛は塒に戻った後、近くのコンビニに出かけて飲食物を買ってきた

 

無論、有栖が食べる為の物である

 

 

 

「他に欲しいものがあったら言え、一人で外に出す訳にはいかないからな」

 

有栖はコンビニの袋の中身を見ると、大体の食べ物が揃っていた

 

 

 

「・・・!」

 

その袋の中には有栖の好物であるプリンが一つだけ入っていた

 

有栖は人数分ないプリンを見て食べていいものかどうか頭を悩ませる

 

 

 

「おい、足高蜘蛛」

 

「はい?」

 

「俺はこれから出かける予定がある、俺がいない間アリスの世話をしろ」

 

「了解です」

 

命令に二つ返事で承諾する足高蜘蛛

 

すると蜘蛛は玄関の扉を開け、外に出る

 

 

 

「いいか、絶対に一人で外に出させるなよ」

 

「分かってます」

 

玄関の扉が閉まり、静まり返る部屋

 

 

 

「(ん・・? なんでこんなに静かなんだ・・・?)」

 

ダイニングの方からは先ほどまで聞こえていた袋を探る音が聞こえない

 

かといって物を食べている音も聞こえない

 

何事かと思った足高蜘蛛が有栖に視線を向ける

 

 

 

「・・・・・」

 

足高蜘蛛の視線の先にはプリンの横のラベルをじっと見つめる有栖の姿があった

 

 

 

「どうした、食べたいなら食べていいんだぞ?」

 

「・・・・・」

 

返答がない

 

しかし足高蜘蛛は有栖の沈黙が意図的ではないことを知っていた

 

何故ならそれは自分と長年一緒に過ごしてきた蜘蛛と同じ「集中状態」の症状であったからだ

 

 

 

「有栖!!」

 

足高蜘蛛は大きな声で呼びかけると同時に拍手の要領で両手を合わせる

 

それを聞いた有栖はハッとした表情になり、「集中状態」が解かれる

 

 

 

「本当に蜘蛛さんと同じなんだ・・・すげえな」

 

口元を吊り上げる足高蜘蛛

 

有栖は自分が「集中状態」に入ってしまっていたという事を自覚し、申し訳なさそうに謝る

 

 

 

「あ・・す・・すみません」

 

「別に謝ることねえさ、わざと無視してたわけじゃないんだし」

 

そう言うと足高蜘蛛はお湯を沸かし、紅茶の用意をした

 

 

 

「蜘蛛さんもお前と同じでさ、『先天性集中力過剰』って能力のせいで人から疎んじられ、蔑まれて生きてきたらしいぜ」

 

「殺し屋さんも・・・?」

 

「第一・・・「組織」に入ろうなんて奴、普通の人生送ってないんだ・・・皆お前や蜘蛛さんと同じような苦しみを味わって生きてきたんじゃねえかな」

 

足高蜘蛛は有栖の前に淹れたての紅茶を差しだす

 

 

 

「とにかく今日は早めに休め・・・多分、明日からお前は蜘蛛さんに『殺し』を教わる事になる」

 

「で、でも・・・私、殺しなんて・・・」

 

困った様子で顔を伏せる有栖

 

それを見た足高蜘蛛は紅茶を一口飲み、励ますように言う

 

 

 

「お前の今思っている事は間違いじゃないぞ、有栖」

 

「え・・?」

 

有栖は顔を上げて足高蜘蛛の方を見る

 

自分の今思っていること、すなわち「恐怖」と「不安」

 

殺し屋にとって捨てなければならない感情だと有栖は思っていたが、足高蜘蛛はそれらを必要だと言っている

 

この時点で有栖は足高蜘蛛の言っている事の意味がいまいち理解できなかった

 

 

 

「いくら殺し屋って言っても『鬼』や『悪魔』じゃねえんだ・・・人を殺すなんて最初は誰でも怖いと思う・・・いや それ以前に人殺しなんてやりたくない、これは人間なら当たり前の感情さ」

 

「で・・でも・・・殺し屋さんは義雄叔父さんを殺して・・・私だって簡単に殺そうとしたじゃないですか!!」

 

有栖は疑問に思っていたことをそのまま足高蜘蛛に言った

 

足高蜘蛛は有栖の目を見て話す

 

 

 

「それは蜘蛛さんが「一流の殺し屋」だからだ、どんな事だって経験を積めばそれなりになるってもんだ・・・蜘蛛さんはこれまで何人もの人を殺して自分自身の「恐怖」や「不安」といった感情までも殺してきた」

 

「感情までも殺す・・・殺し屋さん」

 

足高蜘蛛の言葉に有栖は絶句していた

 

それほどの殺し屋になる為に一体何人の人を殺したのだろうか

 

 

 

「いいか有栖、お前が殺し屋になりたくないって気持ちは俺にはよく分かる・・・俺もお前と同じだったから・・・」

 

「(私と・・・同じ・・・?)」

 

「でも俺から言わせてもらうと、今からお前が教わる「殺し」は自分の力で生きていく為の「手段」だ! つらい選択だと思うが、覚悟を決めろ」

 

「・・・・・」

 

「まぁ、結局何が言いたいのかって言うと・・・人を殺すのが怖いのは最初のうちだけって事だ・・・こんな事言うのもどうかと思うけど、お前「殺し屋」に向いてるよ」

 

暗い表情を見せる有栖に自分の思っている言葉を嘘偽りなくぶつける足高蜘蛛

 

足高蜘蛛は自分の分の紅茶を飲み干し、ダイニングを出ようと自室の扉の前に立つ

 

 

 

「俺はもう休むけどお前もできるだけ早めに休めよ、何度も言うようだけど明日から「殺し」の訓練が始まる・・・蜘蛛さんは殺しの事になると容赦ないからな」

 

「はい・・・あの!」

 

扉に手をかける足高蜘蛛を引き留めるかのように有栖が声を発する

 

 

 

「ありがとうございました・・・少しだけ・・・ほんの少しですけど・・・心が落ち着きました」

 

有栖のお礼を聞くと、足高蜘蛛は右手を上げて返事をする

 

自室の扉を開け、中へ入るとすぐに扉を閉めた

 

 

 

「(そっか・・・あの人も私と同じなんだ・・・)」

 

素性までは分からないが、とにかく自分と同じ境遇の人間が近くにいる

 

それだけでも有栖の心が落ち着ける十分な理由であった

 

 

 

「(もしかして・・・足高蜘蛛さんなりに励ましてくれたのかな・・・)」

 

そんな都合の良いことを考えながら有栖は足高蜘蛛が淹れた紅茶を飲んでいた

 

 

 

 




少しずつ足高蜘蛛の出番が増えるスタイル
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