アラクニドっぽい何か   作:タランチュラの末裔

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スレッド・コントロール

 

 

蜘蛛の塒には地下室があった

 

一見普通の一軒家であるが、床に点検窓のような扉があり、そこからハシゴを使って地下室へ行ける

 

有栖はその地下室で蜘蛛から「殺し」を教わっていた

 

 

 

そして数日がたったある日

 

 

 

 

「集中しろ」

 

蜘蛛が目を閉じている有栖に言う

 

有栖の手には一本の糸が握られている

 

糸は壁の方に伸びていて、糸の先端には刃が付いて壁に刺さっている

 

 

 

「糸の振動のみを集中的に感じるんだ」

 

どうやら有栖は糸の振動によって外の様子を探っているようだ

 

目を閉じているのは視覚を遮断して触角を鋭くし、より糸の振動を感じ取るためであろう

 

 

 

「何が見える?」

 

「・・・・・」

 

蜘蛛の問いに対し、有栖の返答がない

 

集中状態という事もあるが、何より握っている糸のもつ力に驚いて言葉が出なかった

 

 

 

 

「(す・・すごい・・・糸を通して色んな事が見える)」

 

有栖は握っている糸の振動を通して普通では感じられない事を感じ取る

 

空気の流れ、雨音、電車の轟音、人の足跡と会話、動物の鳴き声

 

糸一本でここまで色んな事が分かるなんて考えもしていなかった

 

 

 

「蜘蛛糸(スレッド)」

 

蜘蛛は有栖が握っている糸の名称を教える

 

 

 

「太さ5μmの蜘蛛の糸19万本分を特殊なパターンで編んだものだ、微細な振動を感知するセンサーでありながら600キロの重量と1500度の熱に耐える」

 

蜘蛛の糸は「強さ」と「柔らかさ」を兼ね備えた自然界最強のファイバーである

 

同じ太さであれば鋼鉄をも凌ぎ、人間の毛髪の十分の一の太さで400度の熱にも耐える

 

更にはわずかな振動さえも逃さず感知するセンサーの役目を果たす

 

現に「ハラフシグモ」というマレーシアの熱帯雨林に生息する蜘蛛は、巣穴の周囲に糸を巡らせその僅かな振動で獲物の存在を感知して巣穴から飛び出し獲物を捕食するという

 

 

 

「スレッドは操者の力加減で切断する事も自由自在に動かすこともできる・・・だが、少しでも集中を欠くと・・・」

 

そう言った蜘蛛は両手を叩き、有栖の集中を遮断させる

 

有栖の意識がスレッドから反れる

 

すると壁に刺さっていたスレッドの刃の部分が自動的に外れ、有栖の身の回りを勝手に回り始める

 

 

 

「ウグ・・・!?」

 

糸が有栖の身をきつく縛る

 

バランスを崩した有栖はその場に倒れた

 

 

 

「(な・・何コレ!? まるで生き物みたいに絡みついて・・・!!)」

 

倒れた有栖に追い打ちをかけるように、スレッドの刃の部分が有栖を襲う

 

そして刃が有栖の首元に迫ったところで、蜘蛛が自らの右腕を盾にスレッドから有栖の身を守る

 

スレッドの刃はそのまま蜘蛛の腕に浅く突き刺さった

 

 

 

「蜘蛛は単眼の節足動物、目で獲物を追うのは難しい・・・だから糸を巡らせ感覚を研ぎ澄まし、4億年を生き抜いた」

 

蜘蛛はスレッドを元に戻した

 

刃が蜘蛛の腕から外れ、糸が柄の部分に仕舞いこまれていく

 

 

 

「スレッドの操作は至難、だが・・俺と同じ先天性集中力過剰を患うお前なら出来る」

 

元に戻したスレッドを有栖に手渡しながら言う

 

 

 

「今日からこれはお前のものだ」

 

「え・・・」

 

「俺は出かけてくる、暫くの間そいつで遊んでろ」

 

そう言った蜘蛛はハシゴを上り地下室を出る

 

 

 

「・・・・・」

 

一人地下室に残った有栖はスレッドの糸を伸ばし、もう一度外の様子を感じ取る

 

そして気が抜けたのか、その場に寝ころんで目を閉じる

 

 

 

「(・・・叔父さんもこの糸で吊るされてたんだろうな・・・つまりこれは・・・人殺しの道具)」

 

蜘蛛に貰ったスレッドを握りしめ自分は人殺しの道具を受け取ったことを再認識する

 

しかし心の「恐怖」や「不安」の中に、少しの「喜び」がある事に気づいた

 

 

 

「(そういえば私・・・お母さん以外の人に何かを貰ったのって・・・始めてかもしれないな)」

 

有栖はしばらく横になったまま眠りについてしまった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

同時刻、蜘蛛の塒のリビングに蜘蛛と足高蜘蛛の姿があった

 

 

 

「それじゃあ出かけてくる、俺の分の夕食は用意しなくていい」

 

「あの・・・蜘蛛さん」

 

足高蜘蛛がいつもとは少し違った調子で声をかける

 

少し元気がないような、不安になったような顔をしている

 

 

 

「なんだ?」

 

蜘蛛はそれに気づきながらもいつもと同じ調子で答える

 

 

 

「どこに行くんですか?」

 

「・・・珍しいな、お前が俺の行先を聞くなんて」

 

表情を崩さない蜘蛛が言う

 

 

 

「自分から他人に干渉しようとしなかったお前が・・・アリスにでも毒されたか?」

 

「質問に答えてもらっていいですか?」

 

話を反らそうとする蜘蛛だったが、足高蜘蛛は最初に聞いた質問の返答を求める

 

 

 

「・・・兜蟲と約束があってな」

 

「もしかして・・有栖の事を兜蟲さんに頼みに行くんですか?」

 

足高蜘蛛が思っていたことを正直に言う

 

しかし蜘蛛はいたって冷静に否定した

 

 

 

「ただの世間話だ」

 

「・・・・・」

 

蜘蛛の返答を足高蜘蛛は信じていなかった

 

 

 

「これは俺の勝手な推測なんですけど・・・」

 

何やら言いづらそうに言葉を発する足高蜘蛛

 

蜘蛛は黙ってその様子を見ている

 

 

 

「もしかして蜘蛛さん・・・死ぬ気ですか?」

 

「・・・何の話だ」

 

「直接関係ないとはいえ有栖はターゲットの姪です、今まで完璧に仕事をこなしてきた蜘蛛さんが気まぐれで有栖を生かすとは思えません」

 

足高蜘蛛は休むことなく喋り続ける

 

 

 

「俺、何となくだけど思うんです・・・蜘蛛さんは殺しの才を持つ有栖を育てて、自分を殺させようとしてるんじゃないかって・・・」

 

「・・・・・」

 

蜘蛛はしばらく黙った後、足高蜘蛛に背を向けて言う

 

 

 

「お前の考えすぎだ」

 

そして玄関を開け、外へ出る

 

 

 

「なるべく早く帰る、有栖の世話を頼んだ」

 

「・・・はい」

 

いつもの調子の蜘蛛を前にして、足高蜘蛛もそれ以上問う事をやめた

 

 

 

「いってらっしゃい、蜘蛛さん」

 

蜘蛛は「あぁ」と一言返事をした後、ゆっくりと玄関の扉を閉めた

 

 

 

「・・・やっぱり死ぬ気なんだね・・・蜘蛛さん」

 

誰もいなくなった玄関で足高蜘蛛は一人呟いた

 

 

 




そろそろ一話あたりの文字数増やそうかな

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