アラクニドっぽい何か 作:タランチュラの末裔
有栖がスレッドを貰ってから15日後
蜘蛛と足高蜘蛛は有栖のいる地下室へ入る
地下室の奥には、姿勢よく立つ有栖の姿があった
「(・・・!)」
有栖の姿を見て足高蜘蛛は少し目を開く
つい最近まで一般人の少女とは思えない、静かな殺気を放った一人の「殺し屋」の姿がそこにあったからである
蜘蛛は間髪いれずに有栖へと攻撃を仕掛ける
有栖は即座にスレッドを取り出して刃を蜘蛛の方へ飛ばす、同時に糸が伸びていく
しかしスレッドの刃は蜘蛛の頬にかすっただけであり、おまけに壁にも刺さらず弾かれた
それを確認した蜘蛛は容赦なく有栖へと接近する
「!?」
次の瞬間、蜘蛛が驚いた表情を見せる
「(いつの間に・・・!!)」
同じく足高蜘蛛も驚いた様子である
何故なら、蜘蛛の足にはスレッドの糸が巻きつかれてあり身動きがとれなくなっていた
有栖はどこからか取り出したナイフを蜘蛛の顔ギリギリまで振り下ろす
「私の勝ち・・・ですよね?」
有栖はどこか嬉しそうに言った
「すげぇ・・・!!」
足高蜘蛛も思わず声に出して言った、口が開きっぱなしである
「・・・何故止めた」
笑みを浮かべる有栖と驚く足高蜘蛛に対し無表情の蜘蛛は言う
すると有栖はスレッドの糸を戻しながら言った
「理由は二つ、「利用する価値があるから」と「いつでも殺せるから」・・・でしたっけ?」
「・・・思ったより早くスレッドを飼い慣らしたな」
蜘蛛は銃を取り出して言った
「後は銃の使い方だが、そいつに比べれば使い方は・・・」
「簡単でした」
蜘蛛が言葉を言い終える前に有栖が口を挟む
見ると有栖の手には小型の拳銃が握られており、銃口は蜘蛛に向けられていた
「どうやって見つけた?」
「換気口の中」
「死角に置いてあったはずだ」
「換気口付近の空気の流れが変だって糸が教えてくれたから、フタを外して念入りに調べたら・・・」
蜘蛛の問いに有栖は少々自慢げに答える
「(本当にすげぇ・・・糸を完全に使いこなしてる)」
有栖の行いに足高蜘蛛は驚くばかりだった
自分が出来るまで何カ月もかかった事を有栖はたった2週間ほどでやってこなしていたのだから
「・・・いいだろう、撃て」
「そうします」
有栖はすぐさま発砲した
「なっ・・・!?」
それを見た足高蜘蛛の表情が驚きから焦りに変わった
しかしその焦りの表情はすぐに消えた
見ると有栖は蜘蛛の頭ではなく、後ろの壁を撃っていたのだ
「これで復讐は終わり」
すっきりした様子の有栖
「貴方が叔父さんを殺した事と、私を監禁した事は忘れてあげます」
有栖が足高蜘蛛の方に視線を向ける
「だから後は私を励ましてくれた足高蜘蛛さんと、生きる手段を与えてくれた殺し屋さんへの感謝の気持ちしか残ってません」
そう言い終えると、真剣な表情に変わった有栖が言う
「雀蜂を殺します・・・何でもします、作戦を教えてください」
「・・・分かった」
拳を強く握りしめる蜘蛛
「明日0時、4丁目の廃工場まで来い・・・段取りはそこで話す」
「分かりました」
蜘蛛の言葉に有栖は強く頷いて答えた
すると蜘蛛は足高蜘蛛へと視線を移して言った
「足高蜘蛛・・・お前は明日、ここで待機だ」
「はっ・・・!?」
蜘蛛がそう言うと、足高蜘蛛は大きく口を開けて驚く
「な、何故ですか!?」
「隠れる場所や万が一作戦がバレた時の事を考慮した時、どんな状況でもすぐに対応できる人数は二人までだ・・・お前ならよく分かるだろう」
「・・・」
蜘蛛の言葉に返す言葉が無くなる足高蜘蛛
蜘蛛の言う事は正論であった
万が一作戦中に予想外の事が起きても人数が二人なら互いの動きを把握し、行動の伝達がしやすい
これは足高蜘蛛が長年蜘蛛とペアを組んできて十分に学んだ事である
「それにお前の戦術は暗殺向きではないしな・・・」
「大丈夫ですよ、足高蜘蛛さん」
何とも言えない表情を浮かべる足高蜘蛛に対し、有栖が笑顔で言う
「私 自分でもこの数週間で大分戦えるようになったと思っています、殺し屋さんの作戦だってきっと成功させて見せます」
「有栖・・・」
足高蜘蛛が有栖に対して何かを言いかける
しかし足高蜘蛛は言葉をぐっと飲み込み、微笑を浮かべて言う
「そう・・だな・・・頑張ってくれ、有栖」
有栖は足高蜘蛛の言葉に黙って頷く
「それじゃあ明日に備えて早く寝ろ、相手は雀蜂だからな・・・何が起こるか分からん」
「はい」
「・・・おやすみなさい、蜘蛛さん」
足高蜘蛛と有栖が返事したのを聞くと、蜘蛛はハシゴを使い地下室を出て行った
すると有栖が地下室の床に寝ころんで言う
「・・・やっぱり殺し屋さん、雀蜂を殺すのが目的だったんだ」
「えっ・・?」
有栖の急な発言に対し、足高蜘蛛は思わず聞き返した
「私、気づいてたんです・・・殺し屋さんに『お前にはやってもらう事がある』って言われた時から、この人は雀蜂を殺そうとしてるんじゃないかって」
「・・・・・」
足高蜘蛛は黙って有栖の言葉を聞き続ける
「殺し屋さんってやっぱり悪い人には思えないです・・・雀蜂を殺して、組織を壊そうとしてるなんて」
「(雀蜂を殺そうとしている・・・か)」
有栖の的外れな推理を聞く足高蜘蛛
すると有栖は足高蜘蛛に視線を向けて言った
「そういえば私、殺し屋さんの本当の名前を知らないです、何て言うんですか?」
有栖の問いに足高蜘蛛は首を横に振ってこたえる
「さぁな、俺も蜘蛛さんの本当の名前は知らない・・・組織に入ると名前も戸籍も奪われて本当の「蟲」になっちまうんだ」
「じゃあ足高蜘蛛さんの本当の名前は何て言うんですか? 自分の名前なら覚えてますよね?」
足高蜘蛛はまたもや首を横に振って答える
「俺の本当の名前は俺自身も知らない、両親捨てられたのか売り飛ばされたのか知らないが、物心ついた時から組織にいた」
「・・・!!」
足高蜘蛛の返答に対し、有栖は申し訳なさそうな顔で立ちあがり頭を下げる
「す、すいません・・・失言でした」
「別に気にしてない、慣れてるからな」
そう言うと、足高蜘蛛は地下室のハシゴを上り、扉を開ける
「俺はもう休む、お前も蜘蛛さんの言うとおり早めに休め」
「はい、分かりました」
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その翌日、有栖は学校の女子トイレに呼び出され女子生徒三人から「いじめ」を受けていた
「―――!!」
女子生徒二人に抑えられ、膝をつかされ、無理やり便器の中の水に顔を押し付けられる有栖
有栖にとってこれは珍しい事ではなかった
煩わしい精神疾患を持つ有栖はクラスの生徒から忌み嫌われ日常的にいじめを受けていたからだ
「―――ブハッ!」
「どうだ? ウメーかよ便所の水はよ」
有栖がいじめを受けている様子をニヤつきながら眺めている黒髪の女子生徒が言う
前髪を後ろにかき上げているため、意地の悪い表情がよく見てとれる
「なァ、藤井アリス・・・どうしてこういう目に遭うのか・・・自覚ある? 育ちの悪い貧乏人がクラスにいるだけで空気が悪くなんのよ」
黒髪の女子生徒に便乗し、有栖を取り押さえてた二人も品の無い言葉を並べる
「ただでさえブスでダサくて運動音痴なのにくせによォ・・・」
「キャハハハ、言えてる!」
三人の暴言を有栖は抵抗せず聞いている
すると黒髪の生徒が有栖の目の前に立ち、目を合わせて
「ほんっと頼むからさぁ・・・死んでくんない?」
有栖を思い切り見下した目でそう言った
すると有栖は目を瞑り、しばらく黙った後に言う
「蜘蛛は・・・本来・・・害虫ではないんです」
「あ?」
いきなり虫の話をし始めた有栖に「意味不明」と言わんばかりの表情で黒髪の生徒は口を開いた
「でも見た目の気持ち悪さとか、鬱陶しさが気に障るってだけで忌み嫌われている・・・でも その本質は「捕食性の肉食動物」、襲われれば・・・牙を剥く」
有栖は立ちあがり、女子生徒たちの前に立った
すると女子生徒の内の一人が言う
「へっ・・・何ワケのわかんねーことを―――」
その言葉は途中で遮られた
有栖が女子生徒の顔面にひじ打ちを食らわせたのである
「ぶえッ・・・」
ひじ打ちを食らった生徒が倒れる、すると有栖は休まずもう一人の生徒のこめかみに拳を繰り出す
「え・・・え?」
拳を食らった生徒も倒れる
あっという間に一人になった黒髪の生徒は、逃げることもせず、自分の目の前の光景に動揺しているだけだった
有栖は何のためらいもなく、黒髪の生徒の腹に自分の身体をぶつける
「がッ」
黒髪の生徒がそのままトイレの壁を背に倒れ込む、有栖はその様子をただ黙って見ていた
「あんた本当に・・・藤井アリス?」
「丁度良かった・・・私、人を殺す予定があるんです」
「・・・は?」
「でも、いきなり本番だと不安なんで・・・」
生徒の問いに答えない有栖は制服のポケットから小型の拳銃を取り出して言う
「予行演習、しておきたいんですよね」
有栖は銃を生徒に向けて言った
アラクニド1巻のカラー扉絵の雰囲気大好き。(鏡張りの床に有栖と蜘蛛が背中合わせで立っている絵)