アラクニドっぽい何か   作:タランチュラの末裔

9 / 12
組織と勧誘

時刻は早朝

 

蜘蛛が死んでから一週間が立った朝

 

一週間前起こったことが嘘のようにすら思えるほど穏やかな朝だった

 

 

 

「こんなこと言って変に思うかもしれないですけど・・・私 本当に殺し屋さん達に感謝してるんです」

 

家の中にいるのは一人の少女と一人の少年

 

 

 

「命を狙われたり、監禁されたりしましたけど・・・今はこうして一緒に暮らしていけてるんで・・・すっごく幸せなんです」

 

さっぱりした笑顔で笑う少女、有栖がそう言った

 

中々の手際の良さで料理を作る有栖は、作った料理をテーブルに運ぶ

 

 

 

「私がいると場所取っちゃって、家が狭くなっちゃいますけど・・・炊事とか洗濯とか、出来る限りの事はしますから・・・あ、先に食べていいですよ」

 

有栖は相手の返答を待たずに淡々と喋り続ける

 

その様を椅子に座って見ていた足高蜘蛛が一言発する

 

 

 

「有栖・・・いつまで〝三人分〟作るつもりだ」

 

足高蜘蛛がハッキリと言った

 

有栖は蜘蛛が死んで、自分と有栖の二人になった後も毎食一人分多く作っていた

 

 

 

「・・・ごめんなさい・・・でも・・・」

 

有栖の目から一筋の涙が流れる

 

これも一週間前からよく見る光景であった

 

 

 

「殺し屋さんの事・・・忘れられなくて」

 

俯いて枯れそうな声で言う有栖

 

 

 

「それはもう聞いた、謝る必要もない・・・だがな、いつまでも余分に作られちゃ食べきれないし食材がもったいないだろ」

 

「・・・ごめんなさい」

 

そう言った有栖はそれ以上喋ることをやめた

 

 

 

「だから謝るなって」

 

足高蜘蛛は浅くため息をつくと椅子から立ち上がり洗面所へ向かう

 

そして顔を洗いながら死んだ蜘蛛の事を考えていた

 

 

 

蜘蛛の存在は完全に消えてしまった

 

正確に言えば「組織」に消された、だから新聞やテレビやネットにも一切蜘蛛の死については触れられていない

 

ずっと一緒にいた人間の死がまったく無かった事にされている

 

蜘蛛が生きていたという「事実」を証明する為には、「足高蜘蛛」と名付けられた自分の本当の名前を探し出すこと

 

そして「蜘蛛として生きて、蜘蛛が残した有栖を守り続けていく事」、それが蜘蛛が生きていたという証になるはず

 

そんな事を考えながら、洗った自分の顔を拭く

 

 

 

「足高蜘蛛さん、またお手紙が・・・」

 

有栖が不意に顔を出し、足高蜘蛛に言う

 

足高蜘蛛はまた浅いため息をつくと既に察しがついている郵便物を開ける

 

 

 

「電気代か・・・」

 

「他にもガス水道、家賃もあります・・・」

 

請求書を片手に頭を悩ませる二人

 

足高蜘蛛の報酬口座は全て蜘蛛が管理していたので、自分で思う通りに動かす事が出来ない

 

有栖もまた一文無しの状態で蜘蛛に引き取られたため、当然のごとく手持ちの金は無い

 

 

 

「しかもオレ達は未成年・・・身分を証明できる大人がいないと雇ってすらもらえねえ」

 

「でも・・・親が許可してくれないのと、許可する親がいないのとでは話が違いますし・・・直接会って話せば分かってくれるかも」

 

有栖が淡い期待を持って話す

 

しかし足高蜘蛛は首を横に振って答える

 

 

 

「残念ながらそんな心優しい大人はいねえよ、身分を証明できる人間が周りに一人もいない奴をわざわざ雇うなんて、・・・そんなリスク犯す奴なんかいねえさ」

 

「そんな・・・」

 

ひどく落胆する有栖

 

しかしすぐに立ち直った様子で言う

 

 

 

「でもこのままじゃお金を払えません、 私 ちょっと行ってきます」

 

決意を固めた表情で出かける準備をする有栖

 

足高蜘蛛は冷めた様子で有栖を見ていた

 

 

 

「やめとけよ、それより俺が組織の仕事を探してくる」

 

「私は組織で稼いだお金で暮らすなんて嫌です、これからは自分の力で稼がないと」

 

足高蜘蛛の提案を一蹴して外へ出る為靴を履く

 

すると足高蜘蛛は急いで上着を羽織って有栖の方へ向かう

 

 

 

「待てよ、俺も行く」

 

「え・・・ついてきてくれるんですか!?」

 

少し驚いた様子で足高蜘蛛を見る有栖

 

足高蜘蛛は目を細めて抗議するような形で言った

 

 

 

「組織はまだお前を狙ってるって事を忘れんな、一人で出かけさせるわけにはいかねえんだよ」

 

その言葉を聞いた有栖が笑顔で答える

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

「・・・お礼なんかいらねえよ」

 

若干照れながら言う足高蜘蛛

 

二人は朝から街へ出て、一件ずつ雇い先を探した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は進んで夜

 

一日探し回った二人だが、やはり足高蜘蛛が朝言った通り、身分を証明できなければ社会では雇ってもらえない

 

行く先々で弾かれて有栖の精神は既に折れそうであった

 

 

 

「やっぱり・・・駄目でしたね」

 

「ま、分かってた上でやった事だ・・・駄目だったからってそう凹むな」

 

足高蜘蛛は何とか励ましの言葉を見つけて言うと、玄関からリビングの方へと進む

 

言った本人はさほど気にしてない様子であったが、有栖は落ち込んでいた

 

 

 

「(でも・・・本当にこれからどうしたら・・・)」

 

有栖は本気で悩んでいた

 

世話になった足高蜘蛛にこれ以上の負担はかけたくない、だから何としても自分が稼ぎたいのだが、身分が証明できないので働けない

 

 

 

そんな事を延々と考えていると、不意に家のインターホンが鳴った

 

 

 

有栖がおそるおそるドアを開ける

 

そこにはスーツを身にまとった優しそうな長身の青年が立っていた

 

 

 

「・・・どちら様ですか?」

 

有栖の問いに青年は眉一つ動かさず答える

 

 

 

「組織の者です」

 

「!!」

 

青年の言葉に有栖は目を見開いて驚く

 

 

 

「(まさか・・・私を殺しに・・・!?)」

 

嫌な予感が頭をよぎるあまり、鋭い目つきで青年を睨みつける

 

しかし青年は両手を上下させて言う

 

 

 

「まあまあ、そんな睨まないで下さい、物騒な話をしに来たのではありません」

 

笑顔を浮かべた青年から思いもよらない一言が告げられる

 

 

 

「『組織』にお迎え致します、藤井 アリス様」

 

青年の言葉に有栖はただただ驚いていた

 

動揺を隠せないまま、少し声を震わせて言った

 

 

 

「・・・え・・・ど、どういう意味ですか」

 

「ボスは『蜘蛛』の死を大変悼まれております、そして・・・『蜘蛛』を倒すほどの貴方様の技量を高く評価しています」

 

青年は笑顔を崩さず淡々と話しを進める

 

 

 

「死んだ『蜘蛛』の穴を貴方に埋めて頂きたいのです」

 

有栖は青年の言葉を聞いて考えた

 

 

「組織」というのは要は人殺しの集団であるが、自分自身その誘いを拒む資格はない

 

何故なら既に自分も「蜘蛛」を殺した人殺しだからだ

 

それでなくても社会から拒絶されているこんな私を受け入れてくれるというのなら、他に選択の余地はない

 

「足高蜘蛛」と同じく自分も組織に入ってしまえば全て丸く収まるのかもしれない

 

 

 

そんな事を考えていると有栖の背後から声がかかった

 

 

 

「そんな提案に乗ることないぞ、有栖」

 

リビングに戻ったハズの足高蜘蛛が、こちらを向いて立っていた

 

 

 

「組織に入るという事は、『名前』を捨てるという事だ」

 

「!!」

 

足高蜘蛛の言葉に対し、有栖の顔つきが変わった

 

 

 

「お前がこれまで生きてきた人生を全て無かったことにされ、一匹の『蟲』として組織の一部に成り下がる」

 

足高蜘蛛は有栖に歩み寄って言う

 

 

 

「お前がそんな風になるなんて・・・蜘蛛さんは望んじゃいないハズだぜ」

 

有栖の肩を軽く叩いて青年の方を見る

 

そしてハッキリとした顔つきで言い放った

 

 

 

「そういうわけで、有栖は組織に入りません」

 

「バカな」

 

青年は足高蜘蛛の返答に対して少し驚く

 

 

 

「蜘蛛の望みはその子を自由にすることだったはず・・・」

 

「名前を捨てる時点で自由とは言えねえな、そんなモンは自由じゃなくて組織が作った虫籠だ」

 

「足高蜘蛛さん・・・」

 

足高蜘蛛がそう言いのけると、青年は返す言葉がない様子である

 

一方、有栖は自分の言いたい事を代弁してくれた足高蜘蛛を黙って見つめていた

 

 

 

「・・・まあ、いいでしょう・・・無理強いは出来ません、それも選択の一つです」

 

そう言うと青年は足高蜘蛛たちに背を向ける

 

 

 

「貴方達の意向は私から「雀蜂」にお伝えしましょう」

 

「あ、あの・・・よろしくお願いしま―――」

 

帰っていく青年に対し、頼みこもうと前に出て頭を下げる有栖

 

 

 

「何やってんだ!! 下がれ有栖!!」

 

有栖の行動を見て足高蜘蛛がすごい剣幕で叫び、有栖の着ていた服の首根っこを掴むと、自分の方へ引き寄せた

 

すると、有栖の目の前を鋭い刃が通り過ぎた

 

有栖は足高蜘蛛にその身を引かれ、刃が自分の体を斬るよりも一瞬早く逃れる事ができた

 

 

 

「これは・・・!?」

 

しかし有栖の服が真っ二つに切り裂かれた

 

見ると青年の袖からは巨大で鋭利な刃物が飛び出ており、顔つきも先ほどの優しい感じとは打って変わって凶暴な殺し屋の表情に変化していた

 

 

 

「ほお・・・この『蟷螂』の鎌(サイズ)に気づくとは・・・流石にあの『蜘蛛』の一番弟子と言われるだけはあるようだな・・・足高蜘蛛」

 

蟷螂と名乗った青年は鋭い目つきで足高蜘蛛を見る

 

 

 

「・・・有栖、お前は向こうで待ってろ・・・コイツは俺がやる」

 

足高蜘蛛は有栖の前に立ち、落ち着いた様子で話した

 

 

 

「で、でも・・・」

 

有栖が動揺した様子で足高蜘蛛を見る

 

有栖の視線に気づいた足高蜘蛛は口元を綻ばせて言った

 

 

 

「心配するな、これでも蜘蛛さんの傍で何年も戦ってきたんだ」

 

そう言って有栖の頭に手を置くと、蟷螂の方を睨みつけた

 

そして有栖の頭から手を離すと、蟷螂の方に数歩近づいて言う

 

 

 

「蟷螂って言ったな・・・せっかく来たところ悪いけど、帰ってくれや」

 

「!!」

 

凄まじい殺気を放って蟷螂に言い放つ足高蜘蛛

 

蟷螂は体中に足高蜘蛛の殺気を感じると、舌を少し見せて笑った

 

 

 

「これ以上、有栖を組織に巻き込むことは許さねえ」

 

 

 




余談ですが、「蜘蛛」は全ての蜘蛛の能力を使えるのに「蟷螂」は全ての蟷螂の能力使えないのか・・・と当時は読んでて思いました

「擬態」とか「複眼」とか強い要素いっぱい詰まっているのに・・・(泣)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。