問題夫婦達の戦録 作:ボールペン
ではよろしくお願いします!
俺は罪深い男だ。彼女をいつでも悲しませる事が出来る爆弾を秘密にしている。言ってしまえば、確実に俺達……夫婦という関係は壊れるだろう。いずれ必ずバレる日はやってくる。ならせめてそれまででいい。それまででいいから彼女にはこれ以上ない幸せを与えてやりたい。
俺にそうまで想わせる彼女の笑顔は俺の一生の宝だ。どんな人間にも曇らせたくない。俺は……この血だらけの汚れた手で……愚かにもそれを欲してしまった。俺だけにその笑顔を向けてほしい。俺にその眩しい光を少しでも分けてくれるなら、俺はどんな事でもする。
俺は人殺しだ。どんなに仕事だと割り切っても、人を殺す事に違いはない。殺し屋なんてものはなるものじゃない。おかげで俺は彼女に言えない秘密を抱えてしまっているのだから。
ましてや彼女は限りなく善の人間。対して俺は闇の底も底。殺し屋の中の殺し屋だ。だから俺には勿体無い。はじめは断ろうと思った。俺なんかの人生で彼女を不幸にはしたくない。だが……真っ直ぐに向けられた彼女の気持ちは……俺に断る勇気を失わせてしまった。
単縦な話、嬉しかった。最初会った時はあんなにも壊れそうでチンチクリンだったのに、数年経てばこんなにも別嬪さんになる。女とは分からないもの。そんな彼女に好きと言われ、俺は断れなかったのだ。
「俺は……幸せ者だな。君みたいな子に好意を抱かれて。いいよ……この先の俺の人生……全て君の為に生きよう。俺なんかでよければ、喜んで」
「え……や、やた! あ……そ、その……これからよろしくお願いします! 私は高町なのはって言います。なのはです! 」
思わず小さく飛んで喜ぶ彼女は今でもよく覚えている。可愛すぎる生き物だともこの時思ったのは印象的だ。
そして……俺は自分の素性を隠したまま、また罪を重ねた。ただただ彼女が愛おしい。一緒にいたい。この先どんな事があって守ってやりたい。この時俺は……そんな事を思っていた。
彼女の為にこれ以上手は汚さない。遅いかもしれないが、これからはいい人間であろう。そう俺は自分に誓いを立て、彼女の前に小さな箱を差し出しながら開けた。
「これ……え……その……どういう? 」
「俺と残りの人生……一緒に歩んでくれ。愛してるなのは」
「トモ君……そ、そんな……う、嬉しすぎて……なんて言えばいいか……う、うん! はい! 不束者ですがよろしくお願いします! えへ」
当然のことながら金はある。しかし汚い仕事で稼いだ金など彼女には相応しくない。俺は殺し屋をやめ、サラリーマンという職業を選んだ。一から全ての仕事を覚えるのは中々にしんどかったが、なのはの為と思えばなんてことはない。
また話は違うが、なのはには親友がいた。フェイトという女性だ。彼女も結婚していて、その旦那を見た時、正直心の中で腹を抱えて笑ってしまった。何故ならその旦那。俺と昔仕事をしていた組織のメンバー。それも相当腕の立つ男だ。同じ時期に組織を抜けたと思ったらこんな所で俺と似たような境遇になっているとは笑いが止まらない。こちらは正体がわかっていてもこの男は俺には気づかないだろう。なら喋る理由はない。
このまま友人として最後の最後まで接しよう。こいつが困っていたなら助け、俺が困ったなら相談でもしようか。
俺の中ではこれが普通の生活なんだと心にしみる。昔……1人で人を殺めていたのが嘘のように、俺は幸せだった。
だが許されるのか。俺が殺した人間には当然家族のいた者も少なくないだろう。そんな人間の命を奪っておきながら俺はこんなに幸せでいいのだろうか。俺は普通の生活をするにつれてそんな罪悪感を抱くようになった。すっかりなまくらになった俺の鉄の心は完全にスポンジに違いない。
「今日はなのはの奴遅いって言ってたっけ? 夕飯何作ってやろうか……ん? 虹色の……ネックレスか。……そういや……もうすぐなのはの誕生日か。結婚記念日でもあるな? そうだな。これが丁度いい」
ふと目に入ったガラスに展示された品はあるブランド品のネックレスだ。俺はもうすぐ彼女の誕生日だと思い出し。彼女の笑顔が見たいとそれを手紙と一緒に包装して用意した。まだ誕生日まで3日はあると言うのになんと気の早い男だと自分でも思う。
しかしそれと同時に俺はこの幸せな時間が終わるを迎えようとしていると、思いもしていなかった。全ては俺がおこなってきた過去の罪。自業自得だ。でもその事でなのはを苦しめる事はもっと堪え難い。俺がいなくなれば、あいつは確実にその笑顔を曇らせるだろう。だがどうしようもない。だから俺は決心した。あいつを……なのはを傷つけてでも彼女を守ろうと。死なせるわけにはいかない。俺がこの世で一番愛した彼女を。
何故俺がそんな決心をしたかと言えばなのはの誕生日の前日の事。俺のところに身に覚えのないメールが届いたのが始まりだ。それは単純な呼び出しのメール。無視するのは簡単だが、そのメールの最後に俺が昔所属していたエデンと呼ばれる組織のマークが刻まれていた事で、俺はそれを無視するわけにはいかなくなった。もし無視をすれば、どんな手でくるかわからない。もしかしたらなのはを危険に晒すかもしれない。俺はそんな思いもあり、その呼び出しに応じた。
場所はミッドの侵入禁止区画。俺は呼び出したと思われる肩に槍の刺青をした男とその場所へ入り込んだ。誰もいないこの場所で俺達は会話を始める。
「要件はなんでしょうか? 見ない顔ですね? 」
「はは! 用なんて大層な事じゃないんだがぁ〜俺と戦ってくれねぇか? お前見た事あんだよ。戦場で! だからそんな繕った喋り方やめろ! 俺は本当のお前と話をしに来たんだ! 」
「……貴様、エデンの人間じゃないな? 組織の人間じゃない奴があのマークを使えばどうなるか知らないわけじゃないだろう? 悪い事は言わない。さっさと消えろ! じゃないと本当に殺されるぞ」
「プクク……いいね〜? 殺せるもんなら殺して貰いたいもんだ。俺はエデンのシークレットファイブ。そのNo.1を探している。知らねーか? もう俺を満足させられるのはそいつしかいねー! 頼むよ! 知ってんだろ? 教えろ! そしたら殺さないでおいてやる」
「……悲しい奴だ」
俺は呼び出した男と話して理解した。この男はただ戦いを楽しむ狂った戦闘狂。だからNo.1を探すために組織に絡みのある俺に接触した。こういう輩は会話が成り立たないのが困る。俺は知らないといい、シカトするようにそこから立ち去ろうとしたが、そうそう上手くいく相手ではない。
「やめておけ。ヤンチャなのはいいが……相手を間違えるな」
「アッハハ! なんだよその余裕〜? お前俺より強いとか思っちゃってるわけ? 笑える。超笑える! なら時間をやるよ。明日、お前にもう一度チャンスをやる。そこで知ってる事全て話せ。じゃないと……殺す。お前の周り全てな! クク、ははは! 精々考えな。何が正しいのか」
そう言い残し、奴は消えた。おそらく明日奴は俺のところに来るだろう。殺すのは簡単だ。しかし俺は2度と殺さないと誓った。ならば殺さずにどうにかするしかない。ただ、奴はそこらへんのチンピラとは違う。あの目は確実に人を殺し、果ては死線を何度も潜って来ている。
俺は悩んだ。どんなに理由をつけてもなのはを悲しませる結果しか生まない。俺の正体が露見すれば彼女の心に消えない傷をつけてしまう。ましてや、彼女は事務とは言え、管理局員。そんな彼女の栄光あるキャリアに泥をかけたくない。だからこそ俺は決心した。綺麗事ではもうすまされない。
ここが潮時だ。
でも最後ぐらい……俺は彼女に愛を伝えたかった。
「ごめんな……なのは……」
「ちゅっ、トモ君んっ!? ちゅっ、ちょっ、待っちゅっ!? んっ! あむっ!? 」
俺は深夜に帰った。そして帰るなり、なのはを抱いた。意味は言わずともわかるだろう。最後だ。これが俺が伝えられる彼女への最後の愛。これだけは許して欲しかった。
「なのは……俺と別れてくれ」
この言葉を聞いて、彼女が青ざめたのがとても苦しかった。本当はこんな事言いたくはない。許されるならいつまでも一緒にいたい。けど俺にその資格はもうありはしない。いや、最初からないのだ。たくさんの罪を抱えた俺なんかでは。
だが彼女は納得などしてくれない。仕事に行くと行ってもしがみついて離さない。わかっていた事だが、彼女の涙はこれほどまでに俺を苦しめる物だとは想像を超えていた。でもダメだ。折れるわけにはいかない。
「なのは……帰ったら話をしよう」
「かえ……ったら? 本当? 約束だよ? 絶対だからね? いなくなっちゃ……いやだ……よ? 」
「ああ、約束だ! 」
勿論守るつもりなんかない。俺はどこまでクソ野郎なんだと、この時ヘドが出た。やはり相応しくなんかない。俺なんかはなのはのそばにいる資格はない。
そしてなのはが帰宅する少し前、俺は先に家へと帰宅し、それを見越してやってきた男と対峙した。勝手に人の家に上がり込み、笑いながら槍を俺へ突きつける。
「さぁ〜? 答えを聞こうか? 」
「俺は何も知らないと言ったはずだ! だからすぐっ!? ……あぐっ!? 」
「そんな答え……聞いてない」
この時俺は1つ勘違いをしていた。ぬるく……甘ったるい環境が、昔と比べ、判断力を鈍らせていた。おかげで俺は左手を飛ばされた。なのはとの思い出がつまった結婚指輪が左手と共に宙を舞い、俺の思考はその瞬間覚醒した。俺は選択を間違えた。この男は……殺さずに済ませられる相手ではないと。
「はは! いい様……あ゛? なに……っ!? 」
「くっ……アホ! 相手の力はキチンと見極めるもんだ。この青二才!!《グラビティブラスト》!!! 」
俺は自分の足元へ圧縮した重力場を叩きつけ、その場を火の海にした。俺のなのはの家。心苦しいが、俺はここでその存在と共に消える。俺がここで死んだという証を残す。その為に、俺は自分の左手を拾い、窓ガラスを突き破る勢いでその左手を放り投げた。
「うっ!? ……ぁ……ごほっ!? ……貴様……」
「チェックメイト! 弱過ぎるよお前」
一瞬とは言え、敵に背を向けたのがマズかった。俺は胸を貫かれ、口から血を吐き出す。そして刺さった槍からこいつは俺を引き抜く為に、真後ろへとぶん回しながらぶっ飛ばす。タンスにぶつかり、壁を破壊し、俺は瓦礫の下敷きになった。もしこれが普通の相手なら俺は死んでいるだろう。でも残念ながら俺は普通ではない。
俺は空間を湾曲させ、その場を別の空間と繋げる事でその場から逃げ出した。今日の所は逃げる以外の選択肢がない。でもあの男は後悔するだろう。俺に喧嘩を売った事を、今日俺を殺さなかった事を。
俺も見誤ったが、あいつも俺を見誤った。何故ならこいつが喧嘩を売った相手は後にも先にも負けを知らない殺し屋。この俺だ。今となっては自分の事などどうでもいい。その存在はあってもなくてもいい。だが、このままいけばなのはの親友の夫。元シークレットファイブNo.2にまでしわ寄せがいくだろう。そうなればなのはの親友であるフェイトまで悲しませる事になる。当然、なのははその事でも傷つくだろう。
だから……
そんな事は絶対に許さない。
最初は殺すつもりはなかった。話し合いであいつが消えてくれるなら、俺はそれでいいと思った。昔を思えばなんて甘い考えなんだと笑えてくる。でも仕方がない。そんな甘い俺の申し出をあいつは力ずくで拒否した。愚かな事だ。まして、あいつはなのはの幸せを壊した。このまま野放しにすればなのはの周りにもっと被害が出るだろう。
「はぁ……はぁ……うぐっ……フフ。まったく。こいつを……またかぶる日が来ようとは……つくづく俺は悪人だ。だが……No.2は殺らせないし、フェイトを悲しませる事もさせない。何よりこれ以上なのはを巻き込んで苦しめる行いを俺は許さない。その為に俺は……ごほっごほっ!? ……その為に俺は!? 」
重傷を負った俺はフラフラと歩いた。もう自分はこの世にいない。存在しない人間。記録上は死んだ。ならこの顔は晒すわけにはいかない。そしてあの男を殺した後、俺はこの世から消える。自ら死を選ぶ。そうする事でなのはの人生から消える。高町トモと言う人間として消える。もう彼女の幸せ以外は望まない。自分の幸せはどうでもいい。それが彼女を騙し続けて来た俺のせめてもの罪滅ぼしだからだ。
故に……その為に俺は………
『今一度……No.1の仮面をかぶる』
次回もよろしくお願いします。