問題夫婦達の戦録 作:ボールペン
ではよろしくおねがいします。
「そ、そんな!? ダメ、ライトニング2人とも戦闘続行不可能です八神司令!? 」
「通達、全部隊退避! 隊長達にもすぐ」
「ダメです!? 通信通りません……なっ!? スターズ及びリイン曹長も戦闘不能!? そんな全滅って……」
「そんな……馬鹿な……想定外や。どうして突然Sランク並の強敵が……」
八神はやては部隊の最高責任者としてこの場に立っていた。任務も途中まではなんの問題もなく、問題のレリックを回収し、全ては丸く収まる筈だったのだ。しかしその直後、突如現れた3人の敵。ランクも隊長並の魔力量を保有し、とても新人だけで対処するには荷が重すぎる状況になった。おかげで司令室は混乱、次々に戦闘不能にされ、拘束されるフォワードメンバーをはやてはモニター越しに見ているしかない。あまりにもはやく、強すぎる敵に対応が追いつかないのだ。
すると同じく同行していたリイン曹長が使っていた通信を通して敵の1人が司令室へコンタクトを取り始める。
【すいませんです……】
【ご苦労。お前は邪魔だ】
【あがっ!? ぐっ……い゛ぎゃぁぁあああああああああ!? 】
「リイン!? くっ……目的はなんや? 」
敵は小さなリインを片手で掴むと魔力を込めた手で握り締め始める。普通の力ではない為、ミシミシと嫌な音がし、リインは大きく目を見開きながら悲鳴をあげた。
【我々の目的は1つ! エデン……そこに所属していたザ・シークレットファイブの1人、No.1を探し出す事。それがボスの目的。だからそのための情報を我々に全て公開し、知らない場合はその男を探し出す為に管理局の力を借りたい】
「エデン? それに協力って管理局がそんな要求」
【おっと! 拒否権があると思うなよ? このチビや他の奴を殺すことくらいわけない。それに情報だけでいいんだ。安いものだろう? 」
はやては苦しむリインの顔を見ながら唇を噛み締めた。決断を下さなければいけないのは理解している。でもどんな理由にせよテロに屈するのは許されない。仲間の命と管理局としてのあり方、それは確実の彼女を苦しめる。これ以上握れない拳はワナワナと震えていた。
「わ、わかった……その……そちらの要求を」
【ぐっ、あがぁっ!? な、なんだ!? て、手が……い゛っ、ぐあっぁあああああああああああああああああああああああああああああ!? 】
「え…………」
グシャリと人から出てはいけない音が聞こえ、その後すぐに敵の悲鳴が響き渡った。はやても他の人間も、声すら出せない。状況がまるで呑み込めなかったのだ。今まで優位に立っていた敵の1人が、突如としてリインを握りしめている手を肘から下を弾き飛ばされ、おびただしい量の血液がその腕から噴き出す。
【い゛つ゛っ!? グソっ!? 誰が……誰の仕業だ!? ……ハッ!? …………】
血が止まらない腕を押さえながら敵は辺りをキョロキョロとし、これをやった人間を探す。すると敵はゾクリという悪寒を感じると共に自分の後ろに気配を感じた。気づかないはずはない。自分の真後ろに立たれるまで気づかないなど信じられず、敵の男はゆっくりと後ろを振り返る。
「……き、貴様は……」
「俺に用があったんだろ? 聞いてやるよ……」
「ひ、1つ眼の……仮面……お、お前まさか」
「もしお前が生き残れたら……なぁ? 潰れろ……《グラビティクラッシュ》! 」
「クソっ!? 何だこれは!? あぐっ!? や、やめろ!? やめっ!? うわぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁ…………」
仮面の男は右手の手のひらに黒い球体を出現させ、それと同時に手を失った敵の周りを黒く湾曲させ始めた。さらに少しずつその手を閉じていき、完全に拳ができた所で目の前の男はただの肉塊と化す。原型が残らない程ぺしゃんこに潰れ、その瞬間男がこの世から消えたのは明白だった。
「くっ、よくも。だが、俺達2人を相手に……なっ!? これは……」
「ま、周りの空間が歪んで……」
「お前ら程度の魔導師に……俺の相手が務まると思うな。《ツイングラビティクラッシュ》! 」
「あぐぁっ!? こ、この……化けもぶぁっ!? 」
「ひっ、た、たすげばっ!? 」
今度は2人同時に……はやてやフォワード陣営が何もする事ないまま、仮面の男はSランクはあろう魔導師を3人葬り去る。だがこの時誰もが思った。躊躇がなさすぎると。
自分達を助けてくれたのは間違いなく仮面の男だ。しかし人を簡単に殺したこの人間を信用するにはあまりにも仮面の男は悪だった。命乞いも聞かず、感情のこもらない声で人を殺す。それははやて達が見てきた犯罪者の中で見たことがない程冷酷な物であった。
一方、なのは達は今起きた事を聞きながらも敵と交戦中のため、確認に向かうことができない。2つ眼の仮面をした男と共闘し、槍の入れ墨をした男と対峙する。
「くっ、みんなが心配だ。はやく行かないと……でも」
「ここは俺がやる。お前らは行け! 」
「何言ってるの!? 1人で勝てる相手じゃない!? 」
「そうだよ! みんなが無事なのは確認したから。だから今は3人で」
「お前らに俺の相手が務まるかよ! 」
「っ!? ……」
「なのは!? 」
ゴチャゴチャともめている中、入れ墨の男は我慢できずになのはの方へと突っ込む。スピードはフェイトより上。いくら反応が早くてもなのはは間に合わなかった。気がついた時には槍は自分の喉に突き刺さる瞬間。なのははゆっくり感じる。自分が死ぬとわかる走馬灯を。
「トモくん……」
しかし押し出された槍はなのはの喉元で止まり、それ以上先へは進まない。なのはがそれに気づき視線を落とすとそこには見覚えのある空間の歪みが発生しており、槍の進行を完全に止めていた。
「これ……あの時の…………」
「 ……は? んだこれ? ……ぷっ……はは! あははは! そうか! お前がそうなのか? やっと会えた。やっと見つけた! そうなんだろ? お前がそうなんだろう? ザ・シークレットファイブ最強の殺し屋! No.1さん、よぉ!!! 」
槍の男はそう叫びながら後ろへと槍を横からなぎ払うように回し、その瞬間パシッと槍が受け止められる。そこにいたのはさっきまで列車の方にいた筈の1つ眼の仮面の男であった。
これ以上ないほど槍の男は笑みを浮かべ、対する仮面の男は無言を貫く。互いに睨み合ったまま止まり、槍の男の額から汗が流れ落ちた瞬間、2人は一斉に動き出した。
「薙ぎ払え!! クシャナギ!!! 」
《ヤー! 》
「《グラビティゲート》! 」
「っ!? ……ハンっ、そこだぁぁあああああ!!! 」
槍の男の視界で捉えられない高速の槍さばきにNo.1は空間を歪めて逃げ、その場から消える。だが、槍の男は気配を探り右真横に槍を放つ。自分の元から離し、投げる要領でその場所へと槍を届かせた。しかし槍は空間の歪みと共に停止し、その場からNo.1が姿をあらわす。
「ちっ! 面倒な。だが……最高だ。お前はまだ生きている。やっぱりお前だ! お前だけが俺の飢えを満たしてくれる。さぁ〜続きを……っ!? 」
「お前のくだらない遊びに付き合う気はない。大人しく消えろ……ふぬっ、ぁぁぁああああああ!!! 《グラビティバインド》」
「うがっ!? ……ぅぅくっ!? 重力場で俺の動きを……封じるつもりか? 」
No.1の手に黒い球体が出現し、その瞬間槍の男は空間の歪みに捕らわれた。普通なら指一本動かせない程の重力場の中だが、槍の男は何でもないようにその手に槍を出現させる。
「潰せ……《グランドグラビティ》!!! 」
今現状、見ているしかないなのは達はありえない光景を見ていた。No.1はあんだけの化け物じみた怪物を相手にその動きを封じ、更には槍の男を中心として半径5メートルはあろう巨大な重力場を発生させると。圧倒的な力で殺しにかかる。開いていた手を閉じ、その重力場が小さく縮小し始め、更にはその重力場に巻き込まれた鳥や大気中の空気や水、その全てを押しつぶし始める。
「ぐっ!? 潰れろ!!! うくぅぅ……っ!? 」
「全てを斬り裂け……クシャナギ!《次元断頭》!!! 」
強大な魔力とそれを収束させて放たれた一閃は、重力場を斬り裂き、その空間を消滅させる。
「うっ、きゃっ!? ……ぐくっ……こ、こんなの……人の戦い方じゃない…………」
フェイトは重力場すら両断する一撃を衝撃波という形で体感し、心底恐怖した。とてもじゃないが、人と人が戦っているようには見えない。怪物と怪物。化け物同士の戦い方。
「はぁ……はぁはぁ。ちっ」
「はぁ、はぁ……はは! あっはは! 最高だ! こんな気持ち初めてだ!? 君を探してよかった! 君を求めてよかった!! さぁもっと! もっと俺を楽しませてくれ!! 感じさせてくれ! 戦ってる感覚を!!! 死線を!!! 」
「焦らなくても殺してやる」
「クク。釣れない事言うなよ。楽しもうぜ? でも……そこのギャラリーは邪魔だな? 」
「っ!? よせっ、相手は俺だ!? 」
「集中できないんだよ!!! 」
「くっ! 」
槍の男にとって今の戦いは今までの人生で2つとない程志向のものであった。故にNo.1以外の者はこの場では邪魔でしかない。No.1との戦いが自分にとっての生き甲斐と感じてしまった瞬間、それ以外はそこに存在する事ですら槍の男にとっては邪魔だった。
「No.2、2人を連れてこの場から離脱しろ!! 」
「は? おい何言って!? ……っ!? 」
「もう遅い……クシャナギ」
《ヤー! 空間座標固定。……断裂斬》
3人の四方八方から無数の魔力刃が襲いかかる。当然No.2やフェイトとなのはもそれを片っ端から相殺するが、数があまりにも多い為、相殺しきれずにあふれた一太刀がフェイトの方へ飛ぶ。体勢やタイミング。そのどれもが避けられる状態ではなかった。
「ぁ……」
「フェイちゃん!? ……あかっ!? 」
愛する人が傷つく。No.2……もとい、ハルキはとっさにフェイトを呼びながらその攻撃を背中に受けた。さっきなのはを呼んだミスで正体がバレかかってる中、ハルキは構わずフェイト庇う。この世で彼が1番守りたいと思う人故に。
「あ……はは。よか……った」
「ちょっ!? なんで……っ!? ……ハル……キ? どうして……ハルキ!? ハルキーー!? 」
背中に重傷を負ったハルキは気を失い。倒れそうになった所をフェイトが支えたが、その衝撃で仮面が取れ、正体があらわになった。フェイトもなのはもその顔を見て驚くばかり、特にフェイトは愛する人が重傷を負ったことがショックで珍しく取り乱していた。
「ハ、ハルキくん!? ……ハッ!? しまっ!? 」
「《グラビティゲート》」
止まらない攻撃が続き、あまりの事で油断していた2人は完全に無防備になったが、攻撃を受けず寸前にNo.1がなのは達を巻き込み空間事転移する事でその場から離脱した。その場に残されたのは無表情でNo.1が消えた場所を見つめる槍の男だけ。
「またやろう……No.1。いや……俺の永遠のして最後の好敵手」
「ハルキ!? お願い目を開けて!? ハルキぃぃ…………」
「フェイト隊長、なのは隊長!? 」
「スバル、ティアナ……それにエリオとキャロもみんな無事みたいだね、よかった」
「「「「はい! 」」」」
なのは達が転移した場所は列車の上、No.1が元々いたであろう場所だった。フォワードやリインもなのは達に気がつくとその場に集まってくるが、そこでフォワード達が見たのはフェイトが寝ているハルキに泣きついている所であった。
「ハ、ハルキさん!? 」
「嘘…………」
ティアやスバルはハルキの事を知らない。勿論フェイトやなのはが結婚していると言う事実も。しかしフェイトに引き取って貰ったライトニングのエリオとキャロはそうではなかった。むしろ何度も遊びに連れてってもらい、2人はハルキの事をまるで本当の父親のように慕っていた。だから今のハルキの姿は2人にはこの上ない悲しみに違いない。
「あ……待って!? 」
なのはは1人、何も言わずに去ろうとしたNo.1を引き止めた。彼女にとっては複雑で、人を殺している以上助けてくれた恩人でもここで逃すわけにはいかなかった。でもそれ以上にNo.1から他人とは思えない懐かしい感覚を感じていた為。
「助けてくれた事には感謝してます。でも……どんな事があっても人を殺める事は許されません。お願いします。大人しく私達と」
「断る! 俺は殺し屋だ。だからそんな願いは聞けん」
「なら……力づくでも! ……っ!? 」
「なのはさん!? 」
No.1は力ずくという言葉を使ったなのはに近づくと右手を伸ばしなのはの頬に手を添える。なのはに危害を加えると思ったのかティアナはデバイスを向けてなのはの名を叫んだ。
「嘘……ついてたんだな。でも……だからかますます……いや」
「え…………」
「《グラビティゲート》」
「あ、待っ……逃げちゃった。……なんだろう……この……痛いの…………」
自分の胸に手を置き、No.1が消えた後もなのははわからない胸の痛みを考えていた。No.1とは何者なのか。自分はどうしてこんなにも気になるのか。
なのはは出ない答えをいつまでも考えていた。
次回もよろしくおねがいします。