「ほんとに人間になってるわね……」
突然の変化の後……ルイズは闘夜の頭を見たりしてそう呟いた……
「でもなんで人間になったりするのよ」
「理由はよくわかないんです。ただ知り合いの爺さんが言うには純粋な妖怪や人間の間に産まれた半妖は人間の側面も妖怪の側面もどっちもある存在らしいんです。なので普段はどちらかと言うと妖怪寄りなんですけど同時に人間寄りになることがある。でも俺の場合人間の血が濃くなったせいで更に不安定らしいんです。お陰で何の前兆もなくいきなし人間に変化します」
「そうなの……それで?いつくらいに戻るの?」
そうルイズは聞く……だが闘夜は苦笑いを返した。
「分かりません」
「…………は?」
ルイズは闘夜の返しに口を開いた……それを見て闘夜は慌てて補則説明した。
「あ、普段は大体一週間くらいで戻りますよ?ただ俺変化するのがその時によって変わるんですよ……一ヶ月くらい人間だったこともありますし逆に変化したかと思った次の瞬間にはまだ妖力が戻るなんてこともありましたし……凡そ一週間前後が平均ですねって言う話なんです」
「つまりなるようにしかならないと……」
「そうですね。ま、その内戻りますよ」
と、闘夜はなんとかなるさの精神で居た。闘夜の図太い神経は案外こういったところで培われたものだ。不安ではある。いつもある爪や牙……それがないと言うのは普通では考えられない不安感を与える……
これはもう理屈とかではなく純粋な本能である。今襲われれば死ぬ可能性が高いと暗に訴えかけてくる……しかしそこで泣いて喚いても仕方ないのだ。ジッとして静かに過ごす……そうしている方が安全だと思っている……父も朔の日と言われる日の一晩は人間になる。昔とんでもない悪党がいてそいつは自分で好きな日を選べたらしい……それに比べ闘夜は何時来るかわからない上に何時戻るのかもわからない。しかしだからこそ精神的に太くなっていったのだろう……周りにはそう言ったときに守ってくれる頼もしい存在が多く居たと言うのも勿論のことが大きいが……
「まぁそれにガンダールヴの力はちゃんと使える感じみたいですしルイズ様は守れますよ」
と、闘夜は言う。それを見てルイズはため息を吐いた。心配したこっちが変みたいだ。
「なら……もういいわ」
そうとしか言えないのでルイズはベットに腰を下ろした。とりあえずもう寝よう……そう思った。そのときである。
『ん?』
部屋に響いたのはドアのノック音……二人はこんな時間に誰だろうと顔を見合わせた。そう思いながら闘夜はドアを開けた。
「すいません誰です……」
闘夜が誰かと聞こうとした瞬間ドアの隙間からフードを被った人物が滑り込んできた。
「おい……っ!」
闘夜が待てと言おうとした瞬間そのフードの人物は杖を引き抜いた。闘夜は半ば反射的に走り出してそのまま、
「おぉ!」
「きゃ!」
闘夜の体当たり……闘夜もずば抜けた体格と言うわけではないが男である……本気でぶつかれば生易しい威力ではない。
勿論そんな体当たりなのでその人物は杖を落とした。ルイズはそれを見て慌てて杖を奪う。その間に闘夜は取り押さえてフードをつかむ。
「一体なにもんだお前……」
闘夜はグイっとフードを剥ぎ取った。そして、
『へ?』
闘夜とルイズはビシッと石になった……何せその下にあった素顔には二人とも見覚えがある……そう、それは……
「ひ、姫さ……」
姫様……呼びそうになったルイズに向けてシッとアンリエッタは口を閉じるように指示した。それにルイズは従い眼で闘夜に離れるように言う。
闘夜もそれにしたがって離れると姫様……いや、アンリエッタは杖を返してもらい何かを呟いた……
「ディテクトマジックです……どこに耳があるかわかりませんから」
そう言って口を開くアンリエッタ……澄んだその美声……上から下まで闘夜は見るがプロポーションも目鼻立ちも何もかもがパーフェクトといって過言じゃなかった。そんな彼女はルイズの元に歩み寄った。
「久しぶりねルイズ」
「姫様……いえ!姫殿下!」
そう言ってルイズはあわてて頭を下げた……闘夜も一緒に下げる。姫とかに体当たりをかますとかどんな重大なことだか闘夜にだってわかる。だがアンリエッタは頚を横に振る。
「そんなに畏まらないでルイズ……そして昔のように呼んでちょうだい……姫様って」
「ですが……」
「お願いルイズ……ここには枢機卿も城のものも誰もいない……なら今は友人として接してちょうだい」
「………………」
ルイズは緊張を孕んだ眼でアンリエッタを見た……そしてゆっくり口を開いた。
「……お久しぶりです……姫様」
そう言って二人は抱き合う。それを闘夜はジィーっと見て……
「どういう関係なんですか?」
その一言でルイズはそういえばいってなかったと思い至ったらしくあわてて紹介する。
「姫様とは幼少の頃に遊び相手をさせてもらったことがあるのよ。ですが光栄ですわ、わたしを覚えてくださっていたとは……」
「忘れるわけありませんわ……今でも夢に見ますもの、あの時の……楽しい日々を……」
どこか憂いを含んだ表情をするアンリエッタ……ああいう表情も絵になるのだから大したものであった。
「ルイズ……私ね……結婚するのよ」
その言葉にルイズは眼を見開く……それから、
「おめでとう……ございます」
そうしながらアンリエッタ闘夜の目が合う……それからルイズと見比べる……そしてポンっと手を叩いた。
「あらごめんなさい。私邪魔だったわね」
「はい?」
ルイズはアンリエッタの言葉に理解ができずに首をかしげた。だがアンリエッタはにこにこ笑ったままだ。
「だって彼貴方の恋人でしょう?」
「んにゃ!」
ルイズはボブン!っと顔を真っ赤にして飛び上がった。闘夜はそれを聞いて首を横に振る。
「いや、俺そう言うのじゃないですよ?使い魔です」
それを聞いて今度はアンリエッタが唖然とする番だった。
「ええと……あなたは人間ですよね?」
「はい。(今は)人間です」
そう言うとルイズも、
「そうです、彼は……トーヤは私の使い魔なのです」
人間が使い魔……しかも平民……と言うのは流石のアンリエッタも聞いたことがない。しかしすぐに冷静さを取り戻した。
「ルイズ……貴女は昔からすごかったものね。人間の使い魔位じゃ大したことないのかしらね」
「そんな姫様……私なんかより姫様の方が魔法の才は……」
そんななんてことのない会話を続ける二人、しかしまた闘夜が口を開いた。
「あの……姫さんは世間話をしに来たんですか?」
「あ……」
アンリエッタはしまったと言う表情を浮かべた。あまりポーカーフェイスは上手くないらしい。それにルイズも違和感を覚えたようだ。
「姫様……何かあるのですか?」
「い、いえ……そんなことは……」
「おっしゃってください!私たちは友人なのでしょう?」
そう言われるとアンリエッタはした唇を噛み……口を開いた。
「今度の結婚……ゲルマニアの皇帝と結婚するのよ」
「そんな!あんな成り上がりの国に」
そう言うルイズ……だがアンリエッタは笑って言う。
「良いのよルイズ……私は好きな人と結婚なんてできるはずもないって思っていたから……でもね、問題はそこじゃないの」
「どう言うことですか?姫様」
ルイズが聞くとアンリエッタは続けた。
「この結婚を快く思わないものもいます……特にアルビオンの貴族たちは……」
この世界の情勢を知らない闘夜にはなんでそこでその国が絡んでくるのかわからないがルイズには通じたらしい。なのでアンリエッタは続けた。
「そうすれば間違いなくあの手紙を表に曝すでしょう」
「手紙?」
「はい……一通の手紙です。アルビオンの皇太子、ウェールズ様へ宛てた手紙がアルビオンにあるのです」
「どんな中身なのですか?」
「それは言えません……ただそれが曝されれば此度の婚姻は破棄されるでしょう」
いったいどんな内容の手紙なんだよと闘夜は頬が若干ひきつった。中身は相当ヤバイものらしい……少なくとも闘夜には理解できない内容の話だ。
「ならばすぐにでも取り返さなくては……」
「無理よ……城の者達は信用できないわ……私を影では何と言ってるかそれくらいわかりますもの……それにアルビオンは戦争中なのよ」
まぁ若いし色々あるんだろう……そんなことを思いつつ闘夜は頬を掻いて黙っておく……だが同時に確信にも近いこのあとの状況が思い浮かんだ。それは……
「でしたら私が行きます」
ですよねぇーっと闘夜は肩を落とした。何かアンリエッタとルイズがやり取りをしてるけど闘夜はいやちょっと待ってくださいよと真面目に口を挟む。
「あのルイズ様……マジで言ってます?」
「当たり前でしょ。こんなの冗談で言うわけないじゃない」
たしかにそうだが……今回は腹を据えて文句を言わせてもらおう。
「はっきり言いますよ?俺は反対です」
「は?何でよ」
何でって当たり前だろう……と闘夜はまた肩を落とした。 だがここでおれるわけに行かない。
「あのですね……そのアルビオンって言う国は戦争中なんですよね?」
「そうよ。姫様が言ってたじゃない」
「いやだからですよ!そんな危ないところに向かう気なんですかって!」
闘夜は若干声が荒くなった。戦争育ちじゃない。だがそれでも戦国時代と言う時代だからかそういったものは割りと身近にある。
命が軽い時代だ。だからこそ闘夜は反対だった。ルイズにそんな危険なところに行ってほしくなかったこのトリステインが滅びても良い……事はないがルイズが危険な目に遭う方が問題だった。しかしルイズは闘夜の眼を見て言う。
「大丈夫よ」
「なんでそういえるんですか……」
闘夜は呆れながら言う……それにルイズはしっかりと返した。
「使い魔のアンタが……闘夜が……守ってくれるんでしょ?」
「………………はい?」
いやいやいや!と闘夜は内心焦った。言っとくけど!今人間なんですけど!いつもと違うんですけど!ガンダールヴ使えるけどそれでも戦場なんて危険なんだよ!っと色々浮かんだがその前にルイズが早かった。
「アンタが何になったって……私の使い魔なんだから……信用してるのよ?感謝しなさいよね」
そう言うルイズと闘夜の視線が交差する……そして、
「わかりましたよ……俺も行きます……」
闘夜はそっぽを向いて答えた。
くそったれ……あんな眼で見られて撥ね付けられるやつがいたらそれは男じゃねぇぞ……そう闘夜は内心ドキマギしていた……実は前の舞踏会から変なのだ……何だろう……病気か?生まれてこのかたなったことないけど……
「あの……ですからルイズ……」
「いいえ姫様!私と闘夜はその手紙を取り戻しに行きます……取り戻して見せます!」
そういったルイズとそれを聞いてため息をつく闘夜……だが少なくとも二人とも行くことに決めてるのはわかった。それに対しアンリエッタは……
「……分かりました。この一件はあなた達二人に……」
そう口を開いた次の瞬間である。
「それならば僕も一緒に!」
ドアをぶち開け入ってきたのは金髪のクセっ毛に細身のヒョロ男……それを見て闘夜が口を開いた。
「あぁ!同時に二人の女に手を出して振られた揚げ句ぶっ叩かれた奴!」
「ぶふ!」
ルイズは闘夜の隣で吹いた……ついでに入ってきた同時に二人の女に手を出して振られた揚げ句ぶっ叩かれた奴ことギーシュ・ド・グラモンは顔を真っ赤にして怒った。
「ギーシュ・ド・グラモンだよ!おぼえたまえ!」
ガルルと唸るギーシュ……同時に闘夜に変化に首を傾げた。
「君……黒髪だったかい?」
「色々ありましてね」
「ふぅん……っておい!ルイズ!何時まで笑ってるんだ!」
ルイズは闘夜の言葉が妙にはまったらしく震えていたがとりあえず落ち着く。アンリエッタが誰だこの男は……みたいな目になってもいたし……
「グラモン……と言うことはあのグラモン元帥の……」
「そうです姫殿下……グラモン家四男、ギーシュ・ド・グラモンです!その任務……私にもお任せください!」
そんな光景を見ながらソッと闘夜はルイズに耳打ちする。
「あの人って結構凄いんですか?」
「ギーシュのお父さんは陸軍元帥って言う役職に就いててしかもギーシュのお兄さん達もエリートコース行ってるのよ。軍人の家系としては有名ね」
ふぅん……っと闘夜は頷く。色々あってぶん殴ったもののあれ以来顔を会わせてないし特に何もないので忘れかけていたが結構凄い人なんだなぁと思った。そんな中……
「分かりました」
と、アンリエッタは口を開いた。
「この一件、皆さんにお任せいたします」
そう言って出したのは一通の手紙と宝石を嵌め込んだ指輪だ。
「これを見せればウェールズ様はわかると思います。ルイズ、これはあなたにお任せいたします」
そう言ってアンリエッタは手紙と指輪をルイズに渡すと今度は闘夜とギーシュを見た。
「私の友人を……よろしくお願いします」
アンリエッタの言葉に二人は任せてくださいと頷いて返したのだった……