「ダァアアアアア!」
グォン!っと空気を切り裂き真の姿となった鉄閃牙がワルドに向けて降り下ろされる。
「くっ!」
しかし闘夜の変化に多少戸惑ったもののワルドとて修羅場を幾度となく潜っている。すぐに冷静になり対処する。
鉄閃牙は巨大な形状である。それ故に振るのもどうしても大振りになってしまう。それを経験としても理解するワルドはまず回避に専念する。
そこから隙をみて魔法を放つがそれはデルフリンガーで防ぐ。
流石にキツいか……と思ったワルドはエアニードルを唱え突っ込む。近距離で鉄閃牙を振られるとものすごい迫力だが複数で突っ込むことで的を絞らせず……
「ちぃ!」
刀身のでかさゆえに二体の分身が横凪ぎで切られ分身が居なくなったが本体である自分が無事なら良いのだ。
「っ!」
ニィ!っと本体のワルドはエアニードルで闘夜の体を貫こうと狙う。既に懐に入られ鉄閃牙やデルフリンガーでは間に合わない。
「死ねぇ!」
「この!」
ガス!……と言う音がその場に響いた……
「あが……」
脳が揺れる感覚……世界が歪む……何が起きたのかワルドにわからない。
「うっらぁ!」
ドゴゥ!っと闘夜の足の裏を相手の腹に叩きつけるような蹴り……所謂ヤクザキックがワルドに叩き込まれる。
「くぉ!」
後方に大きく吹っ飛び転がりながらも素早く立ち上がる額に走る鈍痛が効いている。
「石頭も親父譲りなんだよ……」
コキコキと首を鳴らしつつ鉄閃牙とデルフリンガーを構え直す闘夜をみてワルドは歯を噛み締める。
頭突きか……そう理解するのは難しくなかった。みっともなく泥臭い一撃……だがその一撃を自分は喰らったのかと思うと情けなくなる。
「おい相棒……あいつ火が着いちまったようだぜ?」
「見れば俺でもわかるよ……」
ユラリ……とワルドは立ち上がると分身を再度だした。その数は最初と同じ三体……本体を合わせて四人のワルドが闘夜に飛びかかる。
「来たぜ相棒!」
「おうよ!」
飛んでくる魔法をデルフリンガーや走って回避しワルドに対抗する闘夜……妖力を取り戻し動きは比べ物になら無いほどの力強さがある。
だがワルドも同様だ。闘夜にはない武器、魔法と知恵……経験とも呼べるそれを用いて闘夜を殺すべくレイピア型の杖を振るう。
純粋な身体能力では闘夜の方が上だろう……だがそれを補う魔法と状況判断能力……これらが合わさりしかもそれが四人もいるのだ。闘夜も攻め手を欠く。
「必死だなガンダールヴ!」
「主人守らないといけないからな!」
闘夜がそう言うとワルドは笑う。
「本当にそれだけか?」
「なに?」
ワルドが放つ魔法をデルフリンガーで吸収しつつ闘夜は眉を寄せた。
「惚れたんじゃないか?」
「……」
ワルドの言葉に闘夜は更に眉を寄せた。
「使い魔に向ける愛情を勘違いしたか?無様だな……」
「そんなんじゃねぇよ……」
闘夜はそう吐き捨てた。
「わりぃがよ……まだ誰かに惚れた腫れたしたことがねぇんだ……でもな、俺はこの人守りてぇんだよ」
闘夜は後ろで気絶したルイズをみてそう言う。
「真っ直ぐで……誇り高くて……格好いい……俺はそんな人の使い魔だ。だから守る、ぜってぇ殺させやしない……」
闘夜は鉄閃牙を握る力を強める。
「俺は……ゼロのルイズの使い魔だ!だから……傷つけようとするなら容赦しねぇってだけだ!」
闘夜はそう言って走り出し、闘夜の左手のガンダールヴのルーンが煌々と輝く。
「いいぞ相棒!ガンダールヴは心を震わせて戦うんだ!怒りでも悲しみでも何でも良い!とにかく心を震わせて、そして戦え!」
「ウォオオオオオ!」
デルフリンガーの言葉通り闘夜は戦う。
壊させねぇ……例えどんなに自分が傷ついても……自分は彼女を守りたいから!
この気持ちが……恋なのか、それとも闘夜の使い魔としての気持ちなのか……彼自身はわからない。だがそこにあるのは、臭い言い方かもしれないが……慈しみ、想い、その者のためにならどんな苦難も乗り越えよう、そう言う感情。
何物にも変えがたい大切な心……その名は【愛】だ。それが【友愛】なのか使い魔としての【敬愛】なのか異性への【恋愛】なのかはおいておくとして……
「だから全て凪ぎ倒す!悪意も殺意も邪気も……ルイズ様を傷つけるもんは全て俺がぶったぎってやる!」
俺の目が届く範囲なら……絶対に守る!そう闘夜の心に生まれた覚悟……それに呼応するかのように鉄閃牙がドクン!と脈を打つ。
「え?」
それと同時に鉄閃牙の周りを何か……いや、何とはなんだと言われても説明できないのだが、敢えて言うなら裂け目?
そんなものが鉄閃牙に巻き付いたのだ。その間もドクン!ドクン!と鉄閃牙は脈を打ち続ける。
(振れってことか?鉄閃牙……)
そう思いながら闘夜は半ば本能で鉄閃牙を掲げた。
理由はわからない……でもそうしろと鉄閃牙がいってるような気がしたのだ。
「ウォオオオオオオオオオオオ!!!」
闘夜は鉄閃牙の刀身を振り下ろす……次の瞬間!
「なに!」
ワルドが眼を見開く……そう、何と突然鉄閃牙を中心とした扇状に衝撃波が走り出したのだ。
「くそ!」
ワルドは咄嗟に分身たちを前に置き魔法で障壁を築く……だが頑丈な障壁を築く暇なんぞあるわけがなくその脆い障壁……更に分身たち……そしてワルド本体を飲み込んだのだった……
(これは……)
闘夜はその衝撃波を見ながら思う。この技は一度だけみたことがある。たしか父が鉄砕牙を使ってやった技……
一振りで百の妖怪を凪ぎ倒すと呼ばれる鉄閃牙の技……たしか名前は……
「風の傷……」
「ゼィ……ゼィ……」
風の傷でワルドを吹き飛ばした直後、闘夜は鉄閃牙が錆びた状態に戻ると同時に膝をついて息を吐いた。
「限界だな……流石にガンダールヴの力を爆発させすぎだな」
「かもな……」
それに人間状態の時からけっこう負担かけたまくったんだ……そりゃこうなるわな……
そう思っていると、
「っ!」
闘夜は眼を見開く。何と……立っていたのだ。今放った風の傷で吹っ飛ばしたと思っていたワルドが……
「ごぶっ!……ごぼっ!」
喉に血が絡みそれを吐き出す。ヒューヒューと言う呼吸音、更に全身に刻まれたまるで爪に切られたような傷、左腕は千切れ、眼も虚ろ……どう贔屓目に見ても半死半生と言ったところだろう。だがそれでも立った……
やはり分身や魔法による未完成の衝撃でも多少は効果あったのか……
「まさ……か……その……まけんに……そんなちからが……あったとはな……」
そう言いながらワルドは千切れた手から杖を取り何かを唱えるとゲートのようなものが開く。
「まぁ……いい……すぐにここに……も……きぞくはの……ぐんぜいが……くる」
そう言い残しワルドはゲートを潜る。
「っ!待ちやがれ!」
闘夜はそれを逃がさんとばかりに立とうとするが体がピキっ!と言って同時には叱咤鋭い痛みに顔を顰め逃がしてしまう。
「くそ!」
闘夜は舌打ちしながら鉄閃牙とデルフリンガーをしまう。それからルイズに駆け寄った。
「気絶してるだけか……良かった」
そっと顔についた埃を取りつつ闘夜は安心した表情を浮かべた。
「んで?どうするんだ?相棒……これからここも戦場になるみたいだぜ?」
「逃げるぞ……ルイズ様つれてな」
そう言いながら闘夜はウェールズの方を見る。
「ウェールズ様……」
闘夜はそっとウェールズの元に行くと指から指輪を抜き取る。
「姫様もなんか形見あった方がいいと思いますし……これ貰っていきます」
そう言って指輪をポケットにしまいつつルイズの元に戻り優しく抱き上げる。
「だけどよ相棒、何処に逃げんだ?」
「何処でも良いよ。取り合えず戦場から離れて……──っ!」
そういった次の瞬間……背後からの物音に闘夜は振り返った。すると、
「おや?」
「あ?」
そこにあったのは先程までなかったはずの穴……そしてその穴から顔をだしていたのはなんとギーシュ、キュルケ、タバサにギーシュの使い魔のでかいモグラ……
「な、何でここに!」
闘夜は思わぬ人物の登場に驚いているとキュルケが応えた。
「別れた後でダーリン達を追ってタバサの使い魔で追いかけてきたのよ……ギーシュの使い魔の案内でね」
「ヴェルダンテだよ。ルイズがつけている宝石の臭いを追いかけてきたのさ」
そういえば宝石の臭いに敏感だとかそんなことを言っていたような気がする……
「それよりこの惨劇はなんだい?まるで嵐でも通りすぎたみたいだ」
「事情は後で話します」
闘夜はルイズを抱き上げたままギーシュ達が来た穴の方に駆け寄る。
「取り合えずまずはここを離れましょう」
ルイズは夢を見ていた……
昔の……まだ小さく幼かった頃の夢を。
両親に怒られ逃げ出して……でも誰も迎えに来ない。ひたすら真っ暗な世界を走り続ける。ひとりぼっちの夢を……
「ルイズ様……」
そんな時に後ろから声をかけられ振り替える…… そこに立っているのは自分の使い魔である闘夜だ。いつのまにか人間から白髪の状態に戻っておりニッと笑うその口から牙を覗かせる……
人懐っこいその笑みにルイズも釣られて笑う。
「お迎えにあがりましたよ」
その言葉と共に世界は真っ白になり……
(ん……)
ゆっくりとルイズは意識が覚醒していくのを自覚した。
(そうか……夢か……)
ゆっくりと眼だけ動かすと自分は闘夜に抱き寄せられタバサの使い魔の背中にいたのに気付く。他にもタバサやキュルケにギーシュ……
「あぁ、ヴェルダンテ……もうちょっとだから我慢しておくれ……」
と、地面の方に顔だけだしてギーシュは喋っており恐らくギーシュの使い魔はタバサの使い魔の足にでも捕まっているのだろう……って!
(闘夜!?)
段々意識がはっきりしてくると自分の今の状況にルイズはギョッとした。
先程言ったようにルイズは今、闘夜の胸に顔を当てて抱き寄せられているのだ。
(な、なんで……)
だが冷静になってみれば意識を失っていた自分をそこら辺に転がしておくわけにいかないのは明白で特に意味はないことに気付く。だが……
(…………)
ソッとルイズは闘夜を見た。見てみれば白髪に戻っている……やはりこうやってみてもあどけなさが抜けてない顔立ち……
だがこうやってくっつくと分かるがやはり体はゴツゴツとした男の体であり抱き締められている力も強い……安心させる不思議な力だ。
「っ!」
ドキン!っとルイズの心臓が痛む……
(か、顔が熱い……)
自分でも驚くほど頬が熱を孕む。ドキン!ドキン!っと音が外に出ているんじゃないかと思うほどルイズの心臓は暴れ始める。
「ん?」
闘夜は一瞬ルイズが動いたような気がしてそっちを見たがルイズは目を瞑って気を失ったまま?だ。
だが顔が赤い気がするのだが……気のせいか?それとも変なところをぶつけて熱でも出たか?
「ん~」
「っ!」
ルイズは飛び上がらなかった自分を誉めたかった。何せいきなり闘夜が自分の額をルイズの額にくっつけたのだ。
「ちょっと熱がある……かな?」
「っ!っ!っ!」
身を捩って逃げようにも今自分は気を失ってる事になっているのだ……動くに動けない。
なんで自分がこんな目に……とルイズは内心歯を噛み締める……そして至った結論は、
(そう、闘夜が悪いのよ!)
まああながち間違ってはいない結論だった。
心臓が痛むのも顔が熱いのも……全部闘夜のせいだ。自分が意識してるのではない。きっと闘夜から何か変な成分でも出ているんだと必死に自分へ言い聞かせる。
自分の好みはもっと大人っぽい男だ……闘夜とはまるで違う!そう暗示をかける。
だからきっと違うのだ……
(助けに来てくれた時ちょっとかっこよく見えたけど……)
絶対に違う!と。