「んで?どう言うことかしら?」
ゾッとするほど冷たい声を発するルイズの前に居るのは正座した闘夜……部屋には二人きりでなぜこんなことになったのかと言うと時間は少し遡る。
それはルイズが授業を終え、学院の庭にあるベンチで編み物をしていたときのことだった。
「何してるのよ」
「あ!」
ひょいっと背後から伸びた手に自分の力作を奪われ振り返ると目の前にあったのはボン!っと巨大な果実が二つ……思わず引きちぎりたい衝動に耐えつつ上に視線をずらすと褐色の肌のキュルケの顔である。隣にはいつものごとくタバサもいた。
「なにこれ?」
「みればわかるでしょ!返しなさいよ!」
ルイズはピョンピョン飛ぶがキュルケは女性としては身長がかなり高くルイズは逆に低い。少し上に持ち上げてしまえばそうそう取り返せないのだ。
「見ればわかるって……捻れた毛糸のオブジェ?」
「セーターよ!まだ完成してないだけで!」
そう言ってルイズは深く腰を落とすと大ジャンプ……その体からは想像もつかないほどの驚異的な跳躍力を見せてキュルケの手から力作を奪い取った……が、短いスカートでそんなことをやれば勿論、
「あなたもうちょっと可愛い下着を履いた方がいいわよ……流石にガキっぽいわ」
「なんだっていいでしょ!」
なにか大事なものを失ったような気がしたがそんなのはどうでもいいのだ。取り合えずセーター?の無事を確認しホッと一息……だがキュルケとしてはあれがどうなっていけばセーターになるのか全く理解できない。編み物をしない自分でもあれが失敗作なのは一目瞭然であった。もしあれがきちんとセーターの形となった暁にはそれこそ魔法である。
まず間違いなく下手な錬金より高度な魔法なのは確かだろうがせっせと編み続ける姿にキュルケの悪戯心がうずく。彼女の隣にいたタバサの目にはキュルケの腰から先の尖った悪魔の尻尾が見え隠れしているような錯覚に陥ったが何時もの事なのでスルーした。
「それ、誰にあげるの?」
「……………………………………誰でもいいでしょ」
ギクリと固まったあと、たっぷり間を開けた後にルイズは口を開いた。だがキュルケはニーっと笑ってからかうような口調になる。
「赤い毛色のセーターねぇ~。きっと彼に似合うでしょうね」
「はぁ!?べべべべべ別にこれはトーヤに作ってる訳じゃないわよ!」
「別に私はトーヤのことをいってる訳じゃないわよ?」
「あ…………」
見事なまでにあっさりとキュルケの誘導尋問に引っ掛かりルイズは口を開けてしまう。まあ勿論キュルケは確信犯であり、その証拠にお腹を抱えて笑っていた。
ゴゴゴと腸が煮えるような感覚がルイズを襲うがグッと歯を噛みしめガマンガマンと自分に言い聞かせる。こいつに関わるとロクなことがないのはいい加減自分でも学んだ。
そう反芻するとルイズは荷物を纏め立ちあがるとさっさと歩き出す。
「ちょっとちょっと!そんなに怒らなくてもいいじゃない」
「怒ってない!」
怒気たっぷりの台詞にキュルケは笑う。ホントにこの子はからかうと面白い。
そんなやり取りをずっとしながらルイズは部屋に戻ってきた。こいつと来たらホントに……と歯軋りをしながらドアを開ける……そしてそこに広がるのは……
『あ……』
「あんたたち……何してんの?」
驚きが強かったのか……ルイズは自分でもビックリするほど間の抜けた声音が出た。
「あら……」
「……」
後ろにいたキュルケも驚いた声音をだし、タバサはいつもと変わらない。
「あんたたち……何してんの?」
ルイズは沸々と沸き上がる怒りを隠すことなく聞いた。台詞の内容は同じなのに迫力が段違いだ。
だが驚くのも無理はない……何せ中にいた闘夜が何故か居たメイドのシエスタを……
しかしなぜこうなってるのかと言うとさっきと同じくまた時間を戻そう。
それはルイズがまだ編み物を始めるより少し前の時間まで戻る。ルイズが授業を受けに行ったのを見送って暫くは部屋の中で寝てたり本棚の本を捲ってみたりしてたが流石に暇になってきていた。しかし洗濯もしなくて良いと言われてしまったしなぁ……しかしせめて掃除くらいするかと立ち上がったときだ。
「ん?」
コンコンと部屋をノックされた。来客か?だがルイズはいない……とは言え一応開けるかと闘夜はドアノブを回して開けた。そこには、
「トーヤさん」
「シエスタ!?」
何故か素朴な笑顔をしながら手にバスケットを持ったシエスタがそこに居た……
「どしたの?」
「それはこっちの台詞です!最近厨房に顔を出さないから皆寂しがってるんですよ!」
「あー……」
闘夜はしまったと天を仰いだ。最近ご飯事情が改善されたため厨房にめっきり顔を出さなくなってたんだった……
「ごめん。今度顔出すよ……」
「はい、それでトーヤさん……お腹すいてませんか?」
そう言ってシエスタはバスケットを闘夜に見せる。闘夜の並外れた嗅覚を擽るその美味しそうな香り……
ジュルリ……と思わずよだれが垂れそうになり更に腹までグゥ~っと自己主張を始めた。
「すげぇ減ってる」
「じゃあ準備しますね」
そう言ってシエスタは部屋に入ると床にシートを敷いてその上にバスケットを置いて持ってきた食べ物を広げた。中からは色鮮やかな具材を挟んだサンドウィッチに果物にお茶まである。
「さ、どうぞ」
「いただきます」
闘夜はそう言うが早いかモゴモゴサンドウィッチを口にいれ始めた。うん、美味しい。
しかしこうやって手に持って食べるとおにぎりを思い出す……こっちに来てから食べてないが思い出したら食べたくなった。だがこっちに米の飯はない。そう思うと帰りたくなってくる。
「美味しいですか?」
「うん」
ゴクンとサンドウィッチを飲み込みつつ闘夜はうなずく。するとシエスタはクスリと笑い、
「口についてますよ」
そう言って持ってきた布で闘夜の口を拭いてくれた。しかしここまで至れり尽くせりだと中々居心地が悪い……だが食べ物をくれたのだし相変わらずいい人だよシエスタは……
「ごちそうさま」
そんなことを考えながらも闘夜は無事完食……食べ終わった挨拶をするとシエスタはまた優しい笑みを浮かべる。
「どうでした?」
「うん。すげぇうまかった」
闘夜がそういうとシエスタはパァッと表情を明るくする。
「ホントですか!」
ズイッとシエスタに顔を近づけられる……こうやってみるとシエスタってずば抜けた美人と言う感じではない。美人度合いだけならルイズの方が上だろう。
だがそれとは違うどこか穏やかと言うか優しい顔立ちだ。落ち着くと言うか……不思議と一緒にいてほしいって思ってしまうような……懐かしいような……そんな感じだ。
「あ……」
するとシエスタも顔の近さに気付いたんだろう、顔を赤くして離れた。微妙……と言うかぶっちゃけ気まずい空気が流れる。
「こ、これはですね……私が作ったんです」
「え?シエスタが?」
シエスタが空気を変えるように話題を振ってきたので闘夜もそれに乗る。しかしこれはシエスタお手製だったのか……
「シエスタ料理するんだね」
「はい、弟や妹たちがたくさんいるのでお母さんを手伝ったりしてたら自然に……」
「いいなぁ……俺兄弟が居ないから弟とか妹ってのに憧れるんだよね」
まあ兄貴分である七宝兄さんとかはいたが血の繋がった兄弟は居ない……それを聞いたシエスタはまた笑った。
「トーヤさん見てると弟たちを思い出しちゃうんですよね……でも」
「ん?でも?」
シエスタの言葉尻に闘夜は首をかしげた。そして、
「でも、助けていただいた時や他にもお話ししたりこうやってご飯を一緒に食べたりすると……ドキドキして、あぁ……弟じゃないって思うんです」
頬を染ながら言うシエスタに闘夜は言っていることの真意は全く分からないが不思議な高揚感と言うか恥ずかしさと言うかよくわからない感情が渦巻く。そんな空気に耐えられなくなったのかシエスタが慌てて立ち上がる、
「お、お茶いれますね!きゃあ!」
「シエスタ!」
だが慌てて立ち上がったシエスタがバランスを崩してしまい、闘夜は慌てて立ち上がるとシエスタをキャッチ……したのだが、
「大丈夫か?シエス……タ……?」
モニュン……っと手が何かを掴んでいる……え?なにこれ?と闘夜は視線を手の先に持っていくと右手がガッチリとシエスタの服の上からでも分かる豊満な胸を鷲掴んでいた。
「うわ!ごめん!!」
闘夜は慌てて体を離そうとする。だが同時扉が開け放たれ……
『あ……』
「あんたたち……何してんの?」
と、戻るわけである。
「んで?どう言うことかしら?」
ルイズの冷たい声に寒いわけではないはずなのに闘夜はさっきから悪寒が止まらない。
因みにシエスタも付いてきていたキュルケやタバサもルイズによって追い出しを喰らっている。それが何時もの癇癪であればキュルケは上手く避けたかもしれない。
だが今回は違う。体がメラメラと燃え上がり髪がゴーゴンのようにうねり感情を消して闘夜を見る様子は怖いとか恐ろしいとかそういう次元ではなくもっと別の……もっとヤバイ何かを彷彿とさせた。と、後にキュルケは語った程である。
「いえ、ですからね……」
とりあえずまず素直に事情を説明した……と言うかやましいことは何一つ無いのだ。別段嘘を言う必要はない。あの人にはご飯を貰っただけだと闘夜は言う。しかし、
「ふぅん……言い訳はそれでおしまい?」
「いや言い訳とかじゃなくて「うるさい!」……」
言葉を遮られ闘夜は固まる……と言うかこの人は何を怒っているのだろう?何か気にさわるようなことをしたのだろうか……
「あんたね……貴族の部屋をなんだと思ってるわけ?ご飯を食べるくらいならまだ良いわ……そしたら今度はメイド連れ込んでイチャコリャイチャコリャと……」
「シ、シエスタとはそんなんじゃ……」
ブチッ……とルイズは何かがキレた音がした……シエスタ?今こいつはシエスタと言ったのか?
いや、前々から呼び捨てでそう呼んでいたのだが何故か今回に限っては腹が立った……と言うかムカついた。そんなに親しげに呼びあってるのかと。いや、様付けで呼ぶようにいったのはもちろん自分なのだがそれを冷静に判断できる理性は既に彼女にはなかった。
「出てって……」
「はい?」
「出てって!クビよクビ!もうあんたの顔もみたくないわ!」
そう言ってルイズは机の上にあった分厚い本を手に取り闘夜にぶん投げる。
「あが!」
ガッ!と角が闘夜の顔面に炸裂したがそこで終わるわけがなく次から次へと別のものが飛んできた!
「あっぶね!」
闘夜は慌てて立ち上がるとそのままデルフリンガーと鉄閃牙を手にして部屋を飛び出す……
足音が遠ざかっていくのを耳にしルイズは荒く息を整えた。すると、
「バカ……」
ポトッ……と床に滴が落ちた。眼から涙が止まらなかった。
「何でよ……」
自分には同じベットで寝てもなにもしなかった癖に……よりによってこの部屋であのメイドに手を出すとは……結果的にとは言えルイズの心中はボロボロである。
「ばかぁ……」
そう呟きながらルイズは一人……涙を流すのだった……
「いってぇ……ったく、何であそこまで怒られんだよ……」
一方、外で闘夜はルイズによって受けたダメージが大丈夫か水を張った桶で顔を確認したりしていた。
「まぁそういうなよ相棒。確かに嬢ちゃんも話は聞かねぇが幾ら事故でもあそこだけ見ちまったらそりゃ誤解するぜ?」
と、カチャカチャと鍔元をならしながらしゃべるデルフリンガーに闘夜は口を尖らす。
「何を誤解すんだよ……ちょっと俺がシエスタに乗っかっちまっただけだぜ?」
「あ?」
そこでデルフリンガーは固まった。いやそりゃその通りではあるけどもよ?
「なあ相棒。ひとつ聞きたいんだが……お前さん……子供ってどうやってできるか知ってんのかい?」
「あ?コウノトリが運んでくるんだろ?」
もしデルフリンガーに体があったら恐らく見事にずっこけただろう。そういう意味では良かったのかもしれない……
だが前にもいったように性欲はある。しかし闘夜はその先を……所謂男女の営み的なことを知らないのだ。性欲があってもそこからどうするのかと言う部分がない。元々そういった知識への興味とは異性への興味がきっかけになることとが多い。つまり誰かを好きになると言うことだ。
異性を好み、そして自分の血筋を彼女に残させたいと言うのが男の根底にある本能である。 そういった感情が沸くからこそキスから先の事への知識を無意識に着けようとし、本能で理解していくわけである。だが扇情的な格好とかを見ればドキドキはするが、誰かを好きになったことの無い闘夜にはそこから先の事への興味等といったものが欠けているのである。
だからこそ昨晩ルイズと一緒に寝てもなにもしなかった理由なのだろう。気まずいとか恥ずかしいといった感情は持てても男女が一緒に寝ると言うことの意味やそれこそ押し倒すといった事への意味が分からない。そういった方面の知識があまりにも欠如した結果と言うわけである。
「んまぁ……なんつうかおめぇさんこれから大丈夫なのかね……」
「?」
デルフリンガーの言葉に闘夜はひたすら首をかしげるしかないのだった……