「うぉおおおおおお!素晴らしい!」
タルブの村に到着し数日後……暫くその村でゆっくりとした生活を送っていたものの現在は魔法学院に戻ってきていた。
そして目の前にはキラリと頭を太陽に反射させ、興奮する男が一人……名はコルベール。使い魔召喚の際や闘夜のルーンをスケッチしに来たりと顔は知っていたが話したことがない男を背後から闘夜は眺めている。
何故こんなことになったのか……それはこの竜の羽衣をいただいたのは良いがここでは燃料が作れない。これを使おうにも飛べないのではただの鉄屑と変わらないのだ。と言う話になるとキュルケ達がならば心当たりがある……と提案したのがこの学院の教師であるこの人だった。
何でもこの人は授業の教え方はうまく、優しい先生なのだが私生活では変な発明品を作ったり眉唾な収集品を集めたりといい人なのだが変な先生……と言う評価を生徒や同僚から受けていた。
「これが飛ぶのかね!素晴らしいじゃないか!」
「あのぉ……それで持ってくるための代金なんですけど」
「そんなものは私が払うよ!それでどうやって飛ぶのかね!」
コルベールが鼻息を荒くして闘夜に聞いてくる。闘夜は苦笑いを浮かべつつまずこれには燃料がいると言うことを説明した。
「なるほどなるほど」
と、コルベールは燃料をいれる場所からわずかに残っていた燃料を採取しメモを取っていた。
「燃えてきましたぞぉおおおおおおお!」
ゴゴゴゴゴ……と彼の体からメラメラと炎が上がって見えたのは気のせいだと思う。幾ら炎蛇の二つ名を持ち、火の系統を得意とするとはいっても流石に体が燃えることはあるまい。
「早速まずはこの液体を分析せねば!ではトーヤ君、また会おう!」
と、挨拶もそこそこに走り去ってしまう……すっかり手持ち無沙汰になってしまった闘夜は取り合えずバケツと布を貰ってきてゼロ戦を拭き始めた。
とは言えこれには固定化と言う魔法が掛かっているらしく経年劣化はない。燃料が無事だったのもそれが影響してるのだろうが勿論闘夜はその辺はよくわかってない。
まあそれは置いといてだ。壊れはしてないがそれでも埃は被っている。それを縫螺した布で丁寧に拭き取っていく……それを暫しやり全体を拭き終えると一仕事終えた感じがして額を手の甲で拭く。さてと……
「なあ相棒……気づいてんだろ?」
「まぁ……」
闘夜はチラリとこっそり横目で背後の方を流し見る……すると遠くの影から僅かに桃色の髪が揺れて見えていた……
と言うかそもそも闘夜は嗅覚や序でに聴覚も人間より鋭敏だ……幾ら隠れてもこの距離では余裕で匂いで分かるしさっきからこっちに来ようとして慌てて戻ると言うのを見ずとも闘夜の耳は聞き逃さなかった……
「ど、どう話しかければいいと思う?」
「んなもん自分で考えろよ……」
と、ボソボソと闘夜とデルフリンガーが話していると土を踏む音が近づいてきた……足音から察するに、今さっきまで隠れていたルイズだろう……だがその足音はまさに戦を前にした戦士その物であり、闘夜は思わず背中に冷たいものが走った……そして、
「ね、ねぇ……」
「あ、はい……」
こうやって話すのは随分久し振りな気分で……もう長いこと顔を会わせていない気がする。だが実際にはそんな期間は空いていないのだが、今までそれこそおはようからお休みまで一緒にいたのだから少し顔を合わせないだけでもそう思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。
「こ、これなに?」
「ぜ、ゼロ戦って言う……まあ空を飛べる道具です。俺の国のものでしてね……」
ボクシングで言うとジャブの応酬のような会話であった。互いに距離を測る……そんな会話のせいか空気が重い。
「そ、それでなんか用ですか?」
そこに闘夜の強烈な右ストレートのように直球な問い掛けが炸裂。
「あ、あんたがここにいるって聞いてね……なのになんか居ないし……どこ行ってたのよ」
だがルイズの素直に聞くと言う普段ならしてこないだろう返事できた。その様はまるでクロスカウンター……
「シエスタの実家に行ってました」
しかしそのクロスカウンターに対して闘夜も素直に答えると言う痛撃を放つ。
「──っ!な、何でよ」
闘夜の言葉のクロスカウンターがルイズに決まる……だがルイズはすぐに持ち直し問い掛け直した。
「ルイズ様にクビになって……金がなかったんでシエスタの実家にあったお宝を貰ってきてお金にしようと思ったんですよ」
ほんとはそのお金で貴族になるという考えもあったのだが結局うやむやになってしまい闘夜自身も忘れているのはルイズは知らない。
それより深い意味はなかったのだと知るとルイズのメンタルも復活。またファイティングスタイルを構え直すように精神を奮い立たせた。
「へ、へぇ……そう。あのメイドとはなにもないのね?」
「え?……あ……う……はい……」
ルイズの不意打ち右ストレートのような言葉が闘夜を完璧にとらえた。もしこれが本当のボクシングであればKOものの一撃だったがこれは言葉の応酬である。だが明らかな狼狽をルイズは見逃さず一気に追い詰める。
「ちょっと!何があったのよ!」
「い、いや別に……」
まるでコーナーに追い詰められたような状態と言えばいいのだろうか?精神的には闘夜はまさにそれだった。審判がいれば引き離されるだろうが二人しかいない……そのためルイズの強襲は止まらない。
「やっぱり……あの時だってそう言うことだったんでしょ!最低!」
ルイズの言葉に闘夜は「いやそう言うことってなに?」といった状態ではあるものの完全に不利だと悟った……だがふと思う……何故自分はルイズに責められなきゃならないのかと?
「べ、別にルイズ様に関係ないですよね!?」
シエスタに告白されたけど……態々言う必要はないしそもそもルイズには関係ない。と、ハッキリと闘夜は拒絶した。
「っ!」
その拒絶にルイズは目を見開き硬直する。闘夜もハッと正気に戻り気不味い沈黙がその場に流れた……
「その……態々文句言いに来ただけなら帰って貰えますか?俺これ拭くんで……」
その沈黙から逃げ出すように闘夜は背を向ける。だが、
「グズ……」
「え?」
鼻を啜るような音に闘夜は振り返った。するとそこには……
「だって……あんたが悪いんじゃない……」
ポロポロと双眸から大粒の涙を流すルイズがいた。
「ちょ!え!何で泣いて!」
闘夜は目を限界まで見開いて驚愕しているとドン!っと闘夜の胸に衝撃が走る……ルイズが抱きついてきたのだ。
「急にいなくなるんだもん……そりゃ私だって言い過ぎたって思う……でも急にいなくなる事ないじゃない!」
ポカポカと闘夜の胸を叩いてくるルイズ……しかしその手には力がなく、ひたすら泣きじゃくっていた。
「もう帰ってこないんじゃないかって……もう会えないんじゃないかってずっと不安だったのよ!」
「ルイズ様……」
ヒックヒックとしゃっくりを繰り返しながら叫ぶルイズに闘夜は胸が締め付けられるような感覚を起こす。
後悔?罪悪感?いや……全くないとは言わないがそれとは違う……思わず抱きしめたくなるようなそんな感覚。その感情に闘夜はどうすればいいのか分からない。
「こんなに心配させて……もう謝ったって許さないんだから!」
遂にはワンワン泣きながら闘夜の胸に顔を埋めるルイズ……いや言い返したいことはたくさんあるのだが、
(昔弥勒おやじが言ってたっけ……)
闘夜は、ふと昔言われた言葉を思い出す。
《闘夜、良いですか?もしいつか
と、遠くでキャンキャン喧嘩する父と母を膝の上に座らせた自分に見せながらそういう弥勒おやじ……そういやあの後母が涙を浮かべた途端、父は勢いを失ったんだっけ……
とは言え幼い頃はよくわからなかったが、今ようやくわかった。確かにこれは……敵わん。
(今なら弥勒おやじの言葉の意味が少しわかる気がするよ)
トホホと闘夜はルイズを宥めつつも、静かに肩を竦めたのだった……