ある日のタルブの村上空には数多くの船艦が浮いていた。
さて、アンリエッタ姫とゲルマニアの現皇帝との婚姻も差し迫ったある日の昼下がり、今日はアルビオンからその祝いのための大使をのせた船とそれを警護する艦隊がやって来るためそれを出迎えにトリステインからも艦隊総司令官とこの船の艦長を乗せてやって来たのだ。だが、
「遅い……」
そう呟いたのは総司令官を務める男だった。既に約束の時間はとっくの昔に過ぎている。やはり自らの国王を殺すような輩は信用できない、と吐き捨て隣にいた艦長である男もそれに同調した。そこに、
「アルビオンからの大使をのせた船艦が来ました!」
そう言ってやって来た部下の言葉を聞きやっとかと二人は肩を竦めた。二人にとってアルビオンとは王に成り代わったものが取り仕切る格下の国でしかない。今回の出迎えだって
その程度の相手だ。適当でよいだろう。そう思いながら出ていくと決まり事である礼砲が放たれた。空気をビリビリと振動させる砲撃(勿論弾はでない音だけのもの)に二人は面倒くさそうに頭を振った。
こちらも答砲してやれ……と、総司令官である男が言うと部下たちは素早く準備し砲撃を返した……だが次の瞬間!
『なに!』
総司令官と艦長の男二人は一瞬我が目を疑った。それはそうだろう。何せ突然目の前にあったアルビオンの艦隊の船の一つが突然火を放ち爆発……そしてそのままゆっくりと高度を下げていったのだ。
そう、まるでこちらが砲撃を当てたように……
当り前だが弾なんかいれていない。さっきアルビオンが放った礼砲と同様だ。だが相手の船は炎上し爆発……
そして二人は悟った。アルビオンは祝いに来たのではない。戦争に来たのだ、と。
しかもあくまでも先に手を出したのはこっちだと言う既成事実を作るために自分達を利用したのだ。
「回避……──」
回避しろ……当然そんな言葉は最後まで口からでる前に、トリステインの艦隊はアルビオンの艦隊の一斉掃射により消し飛ばされる。
こうして、トリステインとアルビオンの血で血を洗う戦いの幕が上がったのだった……
「タルブが占領されただと!」
そう怒号を発したのはトリステイン王室の会議室でだった。
勿論アルビオンの攻撃はすぐに王室に届けられた。トリステイン艦隊の壊滅とタルブの村の占拠を一緒に添えて……
「と、とにかくまずは大使を派遣し誤解を解かねば」
「だが誰を向かわせる?事は緊急と同時に危険も伴う」
「しかし……」
そう言って無駄な時間だけが過ぎ去っていく。その様をアンリエッタは呆然と見ていた。
どうする?アンリエッタは思考を回転させた。何が正しいのか……どんな行動をするべきなのか……一つ一つを組み立てていく。
その時、ふと視界に風のルビーが入る。それを見て、アンリエッタの中に沸々と怒りが沸いてくるのを感じた。
奴等は自分の愛した男を奪っただけに飽き足らず、あまつさえ国まで奪おうと言うのかと……そう意識すれば怒りが増し更にその怒りがその意識を強く認識させていく。
「戦いましょう」
『…………』
アンリエッタの言葉は驚くほどその場に響いた。だがその場の全員が理解するのが遅れる。
「今……何と?」
静まり返った場を代表しマザリーニ枢機卿がアンリエッタに問いただした。それにたいして、
「この場で話し合っていたって解決はしません。アルビオンは我が領土に攻め混んできたのです!ならばやることは一つ、剣を……槍を……そして杖をもって戦うことです!」
そういうが早いかアンリエッタは鎧に着替えますと言って会議室を出た。それをマザリーニ枢機卿が追いかける。
「お待ちくだされ!婚姻前の大事な体ですぞ!」
「ならばあなたが結婚すればよろしい!」
そう言ってアンリエッタは歩きづらいとスカートの裾をビリッと破って歩きやすくする。長くて真っ白でそれでいて適度な肉付き……しかし太いとは思わせない絶妙なバランスの足を惜しげもなく晒しアンリエッタは走る。
その目に写るのは国を守るための女王としての覚悟か……愛するものを奪われた復讐の目なのか……それは彼女ですら分からない。
一方タルブの村での一件は学院にもすぐに届いた。勿論この魔法学院にも戦火が届くかもしれぬと言う不安も付きまとっている。
そんな時だ。
「トーヤ!聞いたかい!?」
「え?」
ルイズと闘夜が外に出たときのことだ。ギーシュが慌ててやって来たのは……
「どうしたんですか?」
こんなに慌ててやってくると言うのは何かあったのだろうかと首をかしげていると、ギーシュは言葉を発した。
「戦争だ……アルビオンが攻めてきた!しかも占拠されたらしい……タルブの村を!」
『っ!』
ギーシュの言葉にルイズと闘夜は目を見開き驚愕する。タルブの村にはシエスタや勿論その家族もいる。お世話になった闘夜やシエスタの事を知らないわけではないルイズは落ち着いてなどいられなかった。そして、
「って、おい!トーヤ!?」
闘夜はギーシュを無視して走り出す。行き先はもう決まっていた。しかし、
「トーヤ!」
「え?」
そう叫ばれ闘夜は振り替えるとそこに肩を上下させて追いかけてくるルイズの姿があった。
「ど、どこいく……のよ!」
「タルブにゼロ戦で飛んでいって助けに行きます」
その言葉にルイズは本日2度目の衝撃を受けた。だが素早く正気に戻ると慌てて待て待てと止めに入る。
「なに考えてるのよ!タルブの村は占領されたのよ!?あんた一人で行ったって何もできないわ!」
そうルイズは一気に捲し立てた。そして息を荒く整えると闘夜の目をまっすぐ見詰める。
「直ぐに王国から軍が派遣されるはずよ。心配しなくたって平気よ」
だが闘夜はその言葉にたいして首を横に振った。
「ルイズ様……確かに危ないのは分かってます。でもね、俺ここで行かなかったら後悔すると思うんです。あそこの村にはシエスタも、そしてその家族もいて、俺は優しくしてもらいました。何より……」
好きだって言われましたから。
闘夜の言葉にルイズの時間は完全に停止した。
「え?」
「いや、シエスタに好きだって言われたんです。まぁ俺はシエスタの事を友達としか思ってないんで断ったんですけど……俺を好きだっていってくれた彼女を見捨てたくないんです」
何より友達を見捨てたくないって言う気持ちはルイズ様もわかりますよね?続けて発せられたその言葉にルイズはグッと二の句を告げなくなる。
自分もそういう気持ちがあったからこそアルビオンに行くことになった。そう言われてしまってはルイズは何も言えない。
「じゃ、俺急ぐんで!」
そういった闘夜はルイズを置いて走り出す。人間を遥かに上回る脚力で地面を蹴り、ついたのはコルベールの住んでいる小屋だった。元々学校の寮内にコルベールの部屋はあったのだが研究のために度重なる爆発と異臭に苦情が出てここに追いやられてしまった。まぁ本人は好きなだけ研究できるので寧ろ好都合なのだがそれはおいておこう。
その小屋を闘夜は開けると中にいたコルベールが飛び上がった。
「ど、どうしたのかね!?」
「今すぐゼロ戦で飛びたいんです!燃料出来ました!?」
突然の事にコルベールは一瞬戸惑うものの闘夜の切羽詰まった言動に何かあるのだと感じとり頷く。
「一応燃料は出来てる。行けるよ」
「じゃあお願いします!」
闘夜がそういうのを合図にコルベールは杖を取って二人は外に飛び出しゼロ戦の元に駆け出す。
そして着くと直ぐに闘夜は操縦席に乗りコルベールは燃料を確認、大丈夫なのを確認すると飛び立つ準備を開始した。
ゼロ戦はその場から垂直には飛び立てない。ある程度滑走しなければならないのだが学園の敷地内一杯を走っても結構ギリギリなのだ。しかし文句をいってる場合じゃない。時間が惜しいのだ。
「よし!」
闘夜は気合いを一発いれてエンジンを点火し順番にスイッチを押しレバーを倒す。それに合わせゼロ戦は何十年かぶりに動き出した。その動きは段々と早くなっていきゆっくりとゼロ戦は地上から離れていく……が、
「ダメだ相棒!やっぱり距離がたらねぇ!」
「そう言ったってもうおセェよ!」
そう闘夜が叫んだときだった。突然ガクン!っとゼロ戦が急激に高度を上昇させた。勿論それはコルベールが魔法で援護してくれたのだがそれは後で聞いたことである。とにかく無事飛び立ったゼロ戦はそのままタルブの村へ飛んでいったのだった。闘夜とデルフリンガーと、
「凄い!ほんとに飛んでるわ」
「え?ルイズ様!?」
いつのまにかこっそり乗り込んで隠れていたルイズを乗せて……