「はぁ……」
パカパカと馬を駆りながらため息をつくのはモンモランシー……それを見た横でルイズをおんぶしながら並走していた闘夜は首をかしげた。
最初こそ馬に走って追い付けるわけがないとギーシュとモンモランシーはいったが闘夜は馬に乗れないため走ると言ってきかず二人はおれる形で今の状況なのだが結果としてそれは間違ってなかったらしい。本当に馬と並走している。
まぁそんなことは余談だ。まずは何故モンモランシーがため息をついているのかと言うと、
「どうしたんですか?」
「どうしたじゃないわよ……まさかホントにラグドリアン湖に行くなんて……」
「何かあるんですか?」
そう闘夜が聞くと更にそのとなりを勿論馬で並走していたギーシュが答えた。
「昔モンモランシーの実家は水の精霊との橋渡し役をやっていたんだよ」
「やっていた?」
「昔いろいろあってね……」
モンモランシー曰く……実家が貧乏になった要因なので思い出したくないとのこと……
「なにも面倒ごとが起きなきゃいいけど……」
と、ため息を吐きながらモンモランシーは言った。
ついでに言うとモンモランシーの一言は、まさにフラグというやつなのだが……まぁそれはおいておくとしよう。
ラグドリアン湖……それは今闘夜達がいるトリステインとガリアと言う国の境にある湖で、別名【誓いの湖】とも呼ばれる小さい……と言うこともないが大きいとも呼べないそんな湖である。だが誓いの湖とも呼ばれるだけあって、そこで愛を誓った男女は永遠に結ばれるとかなんとか言う噂もあるがそれは余談。
それよりも大事なのは、
「大きい……」
そう、事前に説明を受けていた大きさとは似ても似つかぬ大きさの湖……見渡す限りまで水の光景に闘夜は唖然としていた。
とは言えモンモランシーの説明が間違っていたわけではない。なんでも地元の人間に聞くと最近突然ラグドリアン湖が増水し始めたらしい。
今ではすっかり湖の底になってしまった家も結構あり、ホトホト困り果てていたといっていた。
「取り合えず水の精霊を呼びましょう」
そう言ってモンモランシーは懐から蛙を出すと針で自分の指に傷をつけ蛙に垂らす。
「か、かえる!?」
と、蛙が苦手らしいルイズに抱きつかれつつ闘夜は首をかしげている。何故ここで蛙なのか?と……
「精霊を呼んでるのよ」
だが聞く前に闘夜の様子を見たモンモランシーは教えてくれた。それをきき成程と闘夜が首をかしげた次の瞬間!
『っ!』
突如ラグドリアン湖の水が揺れ、見ているとそれがうねうねと動いている。するとモンモランシーがそれに向かって、
「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ……使い魔に付けた血に覚えはあるかしらあるなら私たちに分かる言葉で返して頂戴」
そう言うとうねうねした水が更にうねり、モンモランシーそっくりな姿に変わる。それから様々な表情を作り、最終的に無表情で落ち着くと、
《覚えている……単なる者よ。貴様と最後に会ってから月が52回交差した》
それを聞きモンモランシーはホッと息をつく。それから、
「お願いがあるの。貴女の体の一部を分けてちょうだい」
「何で体の一部なんですか?」
こっそり闘夜はギーシュに問う。自分達が貰いに来たのは精霊の涙だったはずである。それを体の一部と言うのは可笑しくないだろうか……だがギーシュはそれを聞いてやれやれと肩を竦める。
「精霊の涙って言っても別に本当に泣かせる訳じゃないんだよ。あくまでも精霊の涙って言うのは通称で、あれは精霊の体の一部なんだ」
ほぉ~。っと闘夜は納得する……が、
《残念だがお前たちに分けてはやれぬ》
「はい残念とっとと帰るわよ」
くるっとマントを翻し撤収の指示を出すモンモランシーに闘夜はオイ!っと突っ込んだ。そして、
「待ってくれよ!俺の主を戻すのにどーしてもあんたの体の一部が必要なんだ!この通り!」
そう闘夜は頭を下げて願う。それを水の精霊はジィっと見つめていた。
「ちょっと!相手が嫌だって言ってるんだからやめなさいよ!機嫌でも損ねたら……」
《面白いな……》
『え?』
突然の水の精霊の呟きに闘夜たちは眼をパチクリさせる。
《単なる者にあらず。だが単なる者でもある……汝の体に流れる水は我の関知せぬもの。まずは単なる者の水……次に獣、そしてこれは、単なる者たちが使う魔法……いや、どちらかと言えば我らに近い性質か……さしずめ
と、水の精霊は勝手に納得してしまう。恐らく単なる者とは人間の血のことだろう。そして獣とは妖怪の血のこと。だが最後のはなんだろう……もしかして母の血のことだろうか?
母は類稀なる霊力を持っている。なので闘夜の中にその血があっても可笑しくはない。だが闘夜は生まれてこの方その力を自覚したことはなく、周りからも妖力はあるが霊力はないと言われてきた。
そのため考えたこともなかったがこの水の精霊がなにかを感じたのは間違いないらしい。
ってそこは問題じゃない!
「なぁ!ちょっとでいいんだよ!あんたの体をくれ!」
再度願う闘夜……これでもダメなら力付くで奪うしかないか?そう思った時……
《良いだろう。混沌なる者よ》
『っ!』
水の精霊の言葉に三人は目を見開く。だが、
《ただし条件がある。最近我に敵意を向けるものが現れている。其奴は中々の風の使い手で少々手を焼いている。そいつを見事打ち倒せればやろう》
そういう水の精霊に……頷くしかなかった。
「はぁ……」
「今日はずっとため息ついてますねぇ」
ハグハグと持ってきた携帯食糧を食べる闘夜がそう言うとため息を吐いた張本人、モンモランシーは睨み付けてきた。
「当たり前でしょ!水の精霊に少し精霊の涙分けてもらう筈が精霊に喧嘩売れるレベルのメイジと戦うなんて……」
「ヤバイんですか?それ」
「当たり前でしょ!しかも水の精霊と言えばその水に触れただけで精神を喰われるのよ!つまりその水に触れないだけの強力且つ繊細な風の魔法を使える……考えただけで嫌になるわ……ギーシュは役に立ちそうにないし」
そう言ってモンモランシーが見た先にはスワイン瓶を抱えてイビキをするギーシュ……因みにルイズは闘夜の膝を枕に寝ているのだがそれは余談として、真面目に関係を考え直した方がいいかもしれないと思っていたその時!
「誰か来た……」
そう闘夜は呟き鉄閃牙とデルフリンガーに手をかける……
「ほんとに!?」
声を殺しながらモンモランシーも杖を抜いた。ギーシュやルイズは寝ているし起こしても役に立たないだろう。
『……』
抜き足差し足忍び足……と言わんばかりに静かに木の影から顔を覗かせる二人……そこには確かに暗いため姿形は分からないが二人ほどいる……すると、闘夜は鼻をヒクヒクと動かし、
「あれ?この匂い……」
「どうしたの?……ってちょっと!」
モンモランシーが首をかしげる中闘夜は警戒心を解いてその人影に声をかける。
「キュルケ様にタバサ様?」
『っ!』
声をかけられた二人は杖をこちらに向けたが、こっちの姿を視認すると……
「え?ダーリン?」
「なぜここに……」
驚いたような口調で言うのは闘夜が呼んだようにキュルケとタバサであった。闘夜的にも何故ここに二人がいるのだ?という感じであるが、とりあえず大丈夫だと安心して出てきたモンモランシーがこっちに来ながらそれを聞く。
「私達はこの水の増水止めなきゃいけないのよ。タバサの実家がガリアの貴族で被害受けちゃったらしくてね」
「もしかしてここ最近水の精霊にちょっかい出してたのって……」
「ちょっかいって言うか……まぁ多分私たちよ」
あちゃー……っと闘夜とモンモランシーはコメカミを抑えた。これはまた面倒な事態に陥ったという感じである。
「どうしたの?」
「それがですね……」
カクカクシカジカと精霊の涙を手に入れるために水の精霊に攻撃を仕掛ける輩を退治すると約束した旨を伝えるとキュルケの方も、うわぁ……っと言う表情をした。
「でも何で精霊の涙が必要なわけ?」
「ルイズ様が間違って惚れ薬飲んじゃって……解除薬のために必要なんです」
「ほれぐすりぃ?禁制品のを何で……っていいわ、大体理解したから」
「何で私を見るのよ!」
普段の二人の関係を見てれば分かると言わんばかりのキュルケにモンモランシーは地面をダンダン踏む……ってそういうことをしてる場合ではない。
「そういうわけ何で申し訳ないんですけど水の精霊への攻撃をやめてもらうわけにいきませんかね?」
「そうもいかないのよねぇ。タバサの面子もあるし……」
うーん……と頭を捻る。闘夜達は水の精霊を守らねばならない。だがキュルケ達は増水を止めなければならない……ん?待てよ。
「ようは水の増水さえ収まれば良いんですよね?」
闘夜がそう聞くとタバサはコクりとうなずいた。それならば……
「じゃあ水の精霊にお願いしてみましょう」
「は?」
闘夜の言葉にモンモランシーは眉を寄せる。
「いや、何で増水させてるのか聞いてやめてもらえるように頼んでみるんですよ」
「いやいやいや!あんたバカじゃないの!今度こそ機嫌損ねようものなら……」
「大丈夫ですよ~。話してみれば分かりますって」
マジでこいつ絡むとろくな目に会わない……そうモンモランシーはため息をつきながら理解したのだった……