「フレイムボール!」
「ウィンディアイシクル……」
辺りを襲う炎と氷と饗宴……だが元死体達には効果が薄い。キュルケの魔法くらいしか堪えず、タバサの魔法では精々足止めが限度だった。
つまりそれがどう言うことを産み出すかと言うと……
「ちぃ!」
敵はキュルケに殺到する……と言うことである。幾らキュルケがトライアングルクラスの強力なメイジとはいえ無限に魔法を放てるわけでもないし勿論詠唱する分次を撃つまでに時間が必要となり、更に皆を巻き込まぬために範囲のでかい魔法は使わず範囲を絞り且つ強力な魔法何度も放たなければならない。
キュルケが要な以上タバサやルイズ、闘夜もカバーするが数が多すぎる。
「はぁ……はぁ……」
そのためキュルケの徐々に息が荒くなり、詠唱に要する時間がかかり始めた。
(不味い)
闘夜は小さく舌打ちした。このままではじり貧……どうにかするしかない。
風の傷を使うか?だがそうするにはアンリエッタを殺すわけにいかないので放つ角度を考えなきゃならない。
(うまく誘導して……撃つしかないか!)
そう決心し、闘夜は叫んだ!
「ルイズ様!タバサ様!キュルケ様!集まってください!」
『っ!』
その言葉に三人は元々近くにはいたため、すぐに集まり闘夜を見た。
「どうしたの?」
「この角度だと巻き込むな……こっちに動きます!」
そう言って元死体達を鉄閃牙と更にデルフリンガーも抜いて斬りながら道を開いて強引に角度を変える。
「ん~?こいつは……」
デルフリンガーがなにか呟いてるがとりあえず無視だ。今は風の傷を撃つことに集中しよう。
(この角度なら巻き込まないだろ!)
そう内心で呟き闘夜は鉄閃牙を振り上げた……そして!
「風の傷!」
鉄閃牙が地面に降り下ろされた瞬間生まれた風と言うか衝撃波……それはこちらを追いかけてきていた元死体達をまとめて飲み込んでいき、木々も薙ぎ倒してく。
『なっ!』
見るのは2度目でもと言うのにルイズは驚く位だ。初めてみたキュルケにタバサですら目を見開いた。
「よし……」
もうもうと立ち上がった土煙が晴れるとそこには四肢がバラバラになっても動こうともがく元死体達が転がっている。ここまでやってもまだ動くのか……
だがそれでも動くことはできないらしく戦闘不能なのにはかわりないと言うことで納得しておこう。
そう思いながら四人はウェールズ?とアンリエッタを見た。
「もう死体たちは動けねぇ。まだやるのか?」
闘夜がそう言うとウェールズ?は勿論だと言わんばかりの笑みを浮かべ、その反応を見ると闘夜は鉄閃牙とデルフリンガーを構えた。
「闘夜、さっきのは……」
「わかってますよ。少なくとも姫様を巻き込むよう場所には撃ちません」
ルイズにそう返すと、ならいいけどとルイズも杖を握りしめた。
「大丈夫よ。あまり数は撃てなさそうだけど人を一人燃やす位の力は残って……え?」
杖を構え直し、いつでもルーンを唱えられる準備をしたキュルケの鼻先に滴が落ちた。なんだ?と四人が空を仰ぐと更に滴は降ってきて、あっという間に豪雨となる。
「これ……不味いわね」
「どう言うことですか?」
キュルケの呟きに闘夜は首をかしげると、ルイズは口を開いた。
「火の系統は雨の中や湿気の多い場所では使えないのよ」
「え?」
全く使えない訳じゃないけどね……とキュルケの注釈が入ったがルイズは続けた。
「そしてね……水の系統は力を増すのよ」
「……」
その言葉で闘夜は視線をルイズからアンリエッタに移す。
「さぁどうする?これで君たちの勝ち目は完全になくなったが?」
「舐めんな!」
そう言って闘夜は鉄閃牙を構え直す。魔法が使えなくたってウェールズ?をどうにか引き離して風の傷を叩き込めば良いのだ。
「やるしかない……わね」
ルイズもそう言い杖を構える。エクスプロージョンでも対したダメージにならないが闘夜の援護くらいならできる。
「……」
勿論それはタバサも同じだったようだ。しかしそんな様子を見てウェールズ?はやれやれと肩を竦めた。
「なら……こうするしかなさそうだね。アンリエッタ」
「え?でも……」
ウェールズ?が何をたくらんでいるのかをアンリエッタはすぐに気づいた。だからこそ躊躇う。しかしウェールズ?は耳元でそっとささやいた。
「大丈夫だ。僕に全て任せれば良い。愛してるよ、アンリエッタ」
「……」
そう囁かれ虚ろな目になるアンリエッタ……そしてそのまま二人は杖を構えルーンを口ずさむ。
「不味いわ!」
それを見たルイズは目を見開いた。どう言うことかと闘夜が見ると、
「あれは王家にのみ許された二人のメイジが放つヘキサゴンスペル……」
「とにかくヤバイってことですか?」
「そう言うこと!」
なら止める……そう思い走り出そうとすると、さっきとは違う元死体達が道を塞いできた。
「まだいたのかよ!」
鉄閃牙とデルフリンガーを振り回し進もうとするが、そいつらの目的はあくまで時間稼ぎ……そのためか闘夜に攻撃を加えてくることはないが体に飛び付き動きを抑えてくるため非常にやりにくい。すると、
「あ!思い出した!」
「なんだよデルフ!」
急に声を出したため驚いた闘夜はデリフリンガーを見る。
「そうそうだ。いや~、やっと思い出した」
「だからなにが!」
闘夜が怒鳴るとデルフリンガーはわるいわるいと言う。
「こいつらはな。俺と同じなんだよ」
「は?」
突然のデルフリンガーの告白に眼が点になる闘夜……だがデルフリンガーは言葉を続けた。
「俺もこいつらも先住魔法の力で動いてる。ブリミルもこれには手を焼いたもんだ。つうわけで嬢ちゃん!祈祷書をちゃんと見てみな!アイツはちゃんとこれ用の対策も講じてたぜ!」
「っ!」
デルフリンガーの言葉にルイズは急いで懐から祈祷書をだしページを捲る。するとそこには……
「
「それだ!」
ルイズはそれを見ると急いで杖を握り直しルーンを唱え始めた。そして、
「相棒!ガンダールヴの仕事は敵を倒すことじゃねぇ!主人の詠唱時間を稼ぐこと……それだけだ!」
「っ!」
デルフリンガーがそういっている間にウェールズ?とアンリエッタは魔法を発動させる。
そこに生まれたのは水と風で作られた巨大な竜巻……元死体ごと飲み込みながら来るそれを闘夜は鉄閃牙とデルフリンガーを十字に交差させそれを受け止めた。
「ぐぎぎ……」
腕がプチプチ音たて、竜巻の周りに生じた鎌鼬のような真空の刃が闘夜の頬を切り裂き鮮血が散り、闘夜の頭に巻いていたバンダナが吹っ飛ぶ。
だが闘夜は一歩も引かなかった。不思議なことにルイズの声を聞くと勇気が湧いてくる。この程度……何ともないと言われているような気がする。
「おぉ……」
闘夜は一歩前に出る。
「おぉぉ……」
更に一歩、一歩と少しずつ……しかし確実に前に出ていた。
「そんな……」
アンリエッタは信じられないものを見ている気分だ。ヘキサゴンスペルの魔法は自分ですら精神力を使い切る程力を注ぎ込んだものだ。それを平民の男が止める。いや、止めるだけではなく歩いてくるのだ。それを見て驚くなと言う方が無理である。
「オォォォラァアアアアアアアアアア!!!」
闘夜は咆哮し、鉄閃牙とデルフリンガーを更に押し込み強引に進んでいく。
口に広がる鉄の味も気にせず、体に走る痛みも気にも止めず進んでいく。そして、
「はぁ……はぁ……」
竜巻は収まり、その場に闘夜は立っていた。通常であれば人を跡形もなく細切れにしていくヘキサゴンスペルの魔法は立った一人の男に止められ、その後方にいるルーンを唱えられる主人や仲間達を一人も傷つけることはなく、守りきったのだ。だが、
「ちぃ!」
闘夜は走り出す。闘夜は相手から目を離さなかったからすぐに気づいたのだがウェールズが既に詠唱に入っていた。恐らく精神力が無制限にでもなっているのか?どちらにせよ止めねばならない。
闘夜はそう判断し飛びあがりウェールズに向けて鉄閃牙を降り下ろし……たのだが!
「なっ!」
「っ!」
阻んだのは水の壁……半ば無意識に?いや、殆ど意地で魔法を発動させたアンリエッタのウォーターシールドは闘夜の鉄閃牙を止める。
「いい加減にしろよ!まだ分かんないの……」
まだ分かんないのか……そう叫ぼうとした闘夜の目に飛び込んだのは見間違いではないアンリエッタの涙であった。そして闘夜は気づいたのだ。
とっくに彼女もこんなのが間違っていることくらい……止まらなきゃならないことくらい既にわかっている。
それでも止まれない。彼女はそんな器用に生きられるような人間ではない。いや、人間であるからこそなのかもしれない。分かっててできるなんて言うのは夢物語で……現実と言うやつは結局誰かが間違ってるぞバカ野郎と、ぶん殴ってでも止めなきゃ止まれないのだ。
その人物が道を踏み外すか否はかきっとそう言うところなのだろう。力付くでも止めてくれる相手がいるかどうか……踏み外して落ちそうなとき咄嗟に腕を掴んで引っ張りあげてくれる人がいるかどうか……
だったら止めてやる。そう闘夜は思うと鉄閃牙を持つ手に力を込め、ドクンと鉄閃牙が応えるように脈を打つ。
アンリエッタを止めるため……何よりも後ろでスペルをまだ唱えている
「断ち切れ!鉄閃牙ぁああああああああああああ!!!」
ドックン!っと鉄閃牙が一際強く脈を打ち、突如その刀身がまるで血の様に真っ赤に染まる。
「っ!」
アンリエッタは信じられないものを見た。
それは闘夜の赤くなった鉄閃牙は幾ら精神力の残りカスで作ったとはいえ雨の中で強化されたウォーターシールドを易々と正面から破壊したのだ!
「だぁあああああああ!」
そしてそのまま闘夜は鉄閃牙を降り下ろすと、ザンッ!と肉を切った感覚が手に伝わる。
「っ!」
あと少しで詠唱が終わると言う瞬間杖を持っていた方の腕を斬り落とされウェールズ?は目を見開いた。そしてそのお陰で先に詠唱を終えることができたルイズが杖を向け……
「
ルイズがそう唱えた次の瞬間ウェールズ?は光に包まれ、次の瞬間まるで糸が切れた人形のように地面に倒れた。
「ウェールズ様!」
それを見たアンリエッタはウェールズ?駆け寄り抱き上げる。すると、
「アン、リエッタ……」
先程とは違う優しげな声にさっきとは違う光の灯った瞳、
「めいわくを、かけたみたい、だね」
その言葉に闘夜たちもウェールズが正気に戻ったことを理解したのだった……