新人妖精ルイズ
酒場。それは己の体を苛め抜きながら労働の対価……つまりお金を得た者達が集う憩いの場。
そこでは各々が好きな酒を片手に仲間内や、時には酔った勢いでこの場で初めて会ったような者同士で酒を酌み交わし互いの働きを称え会う。
そんな云わば戦士たちに酒やつまみ等々を注文されると出すのは可憐な妖精達だ。
酒とつまみと可憐な妖精……これこそが戦士たちの明日の活力となる……筈なのだが、
「どこさわっとんじゃぁあああああ!」
「ぐぇえ!」
バキィ!っと派手な音と共に酒を飲んでいた男は吹っ飛ぶ……まぁこの男は確かに今給仕をしていた娘のお尻を撫でた。
勿論前提として良いことではない。しかしそんな客など幾らでもいるのも現実だ。ましてやここの給仕娘こと妖精たちは揃いも揃って可愛い。
なので酔った勢いでそういった行為に及んでしまう気持ちが分からないとは言わない。故にここの妖精は皆それぞれ上手く躱す術を身に付けている。
ただ一人……つい先日入ったばかりで今お客を殴り飛ばした少女を除けばだが。
彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……現在城下町にある酒場。魅惑の妖精亭の新人給仕娘をしていた。
さて、何故こんな状況に至ったのかを説明しなければならいだろう。
元々は、アンリエッタからの依頼が始まりだった。
それは近い将来アルビオンと戦争になるだろうとのことで、その前に今の城下町の声を知りたいとのことことで、その潜入を任されたのが現在給仕をしているルイズと厨房で皿洗いをする闘夜である。
そのために勿論そこそこ纏まったお金も頂戴したし、 意気揚々とやって来たのは良いもののいきなりけっつまずいた
ルイズいわく、フカフカのベットに広い部屋、そして馬がないと奉公が出来るわけがない……だがこの程度の額では叶わないと。
勿論冷静に考えればそんなのは貴族として育ったルイズの間違いであり、そんな贅沢な暮らしをする平民がいるわけがない。しかし余りにも堂々というので
それならばお金はどうするか……そう考えながら町を歩いていた二人の前に現れたのはカジノ……そしてルイズは閃く。ここで一山当てれば良いじゃないか……と。
流石にこれは闘夜でも最初は止めた。これで外した場合どうするのか?……そう聞く闘夜にルイズは自信たっぷりに答えた。
「良いこと?ギャンブルは当てるか外すかの二つに一つしかないの。ようはその二つの内一つを取り続けるだけ……こんな単純な方法でお金を稼げるのよ?確率的に二分の一。勿論多少は負けても二分の一で勝ちを引けるのよ?」
きっと、このときのルイズは張り切りすぎて冷静さを欠いていたんだと思う……そうに違いない。そしてこれもまた堂々と言うものだから闘夜もあっさりそれを信じた。
まあ結果はご想像の通りで負けたのだが……
いや、正確には闘夜は勝ったのだ。ディーラーが泣くほどの野生の勘と強運で本当に一山当てた。だが問題はルイズだった。
読みは悉く外れ、こっちは別の意味でディーラーが泣くほど外しまくった。だがそれだけなら良かった。それだけなら差引きゼロどころか闘夜の当てた分でお釣りが来るほどだ。
しかしルイズは今さら言うまでもないが負けず嫌いである。当然負けたのを取り返すまで帰らないと言い始め挙げ句の果てに闘夜の分を奪い去り賭けた。次は来ると直感が言うのよ!と言う典型的なフラグを建てて……ちなみに闘夜は抵抗したがそれも虚しくボコボコにされてしまった。
勿論その後、全賭けという雄々しすぎる賭け方をしたルイズは見事に外し、闘夜共々トボトボとカジノから出てくる。
流石にこれは闘夜も機嫌が悪くなった。ボコボコにされた挙げ句全部スられたのだ。当然と言えば当然で、これに関してはルイズはぐうの音も出ない。
だが喧嘩していられる状況ではなかった。文字通り無一文となった二人はこのままでは安宿に泊まることもできない。下手すれば野宿だ。
だが稼ぐ手立てもない二人はどうするかと焦っていたその時、
「そこの二人。困ってるならちょっと私の話を聞いてみ・な・い?」
と、時間を戻し魅惑の妖精亭の厨房に眼をやれば闘夜は皿を洗っていた。
最初こそ慣れずモタモタと皿を洗っていたが三日も経てば男子は変わると言わんばかりに要領を掴んだのか中々手際よく洗っていく。そんな時だ。
「頑張ってるじゃな~い。トーヤ君」
そう言いながら腰をクネクネさせ出現したのはこの魅惑の妖精亭の店主にして、先日トボトボと歩いていた闘夜たちに声をかけてきた……
「あ、スカロン店長」
「ノウ!仕事中はミ・マドモワゼルでしょ!次言ったらお仕置きにブチュッとしちゃうわよ!」
「み、ミ・マドモワゼル!」
唇を突き出しながらそう言うスカロン店長に闘夜は慌てて言い直した。何せこの男?はガタイがよく、タンクトップは今にも弾けそうムキムキの男……しかしこれでも本人曰く乙女らしい。
まああまり深く突っ込むのはよそう。トボトボと歩いていた自分達が困ってそうだったからという理由だけで声をかけ、お金がないならうちに来いと言ってくれた恩がある。失礼なことを考えるのは恩義に反するというものだ。
「ン~!トレビア~ン!」
そんなことを叫びつつまた客の相手をしに戻っていくスカロン店長を見送ると今度はまた別の方から声をかけられる。
「ヤッホー。お疲れ様」
「ん?ジェシカさん?」
彼女の名前はジェシカ。黒い髪に豊満な胸、そして愛嬌のある笑顔を武器にこの店の看板娘として働いているスカロンの娘である。大切なことなのでもう一度言うが、
遺伝子が仕事をサボったとしか思えないレベルで似ていない彼女だが面倒見がよくここにお世話になり出してから何度も助けられた。
親子共々お世話になりっぱなしである。なんて思っていると、
「それでさ、ルイズがまたお客をぶん殴ったから後であんたからも言っといてちょうだい。すぐに客に手をあげるのやめなさいって」
「あ、はい。ちゃんと言っておきます……」
ジェシカに頭を下げながら闘夜はトホホと内心呟いた。ここで働き始めてまだ数日……たった数日なのだが既にルイズにぶっ飛ばされた客は数知れず、割った皿も数知れず、序でに客をぶっ飛ばした際に破壊された椅子やテーブルも数知れず……このままでは給料よりルイズの出した損害の支払いの方が多くなってしまう。
ただまあルイズの場合口で言って変わるならとっくに変わってる。やはり貴族のプライドというやつなのか、今のこの状況に馴染めていない。唯一の誉められるところと言えばまだ魔法をぶっぱなしてないと言う一点くらいで、こればかりは周りがどうこう言っても仕方のない部分だ。さてどうするか……なんて闘夜が考えていると、
「それでさ、ルイズって結局何者なのよ?」
ムニュっという感触が右腕に走り、闘夜はギクッと体を固めた。くっついてきたジェシカの方を見れば鼻がくっつきそうな程近くにその顔はある。
「い、いやぁ……前にも言ったように俺の姉で……」
「いや全然似てないじゃん」
ぐっ!と闘夜は思わず顔をひきつらせた。
「個人的にはだけどさ。ルイズって実はどっかのお偉いさんであんたは従者。んでなんかの仕事でこっちに来てたけどお金が無くなってお父さんに拾われた……なーんてね」
冗談冗談と笑いながらジェシカは言うが闘夜はもう冷や汗が止まらない。鋭すぎて心臓に悪すぎる。
「まあ基本的にこういう仕事してるから余り深追いはしないけどさ……真面目にルイズの手が出るのだけは何とかしてね?」
「は、はい……」
ポリポリと頭を掻き闘夜は言う。しかしさっきからジェシカは闘夜の顔を見てくるのだが……何だろうか?
「顔になんか付いてます?」
「あ、いやね?あんたってやっぱり顔立ち整ってるわよね……こりゃあと2、3年後には相当なイケメンになるわ」
「?」
ブツブツこっちの顔を見ながらジェシカは呟き、闘夜は首をかしげる。闘夜としては自分の容姿がそんなに優れてるとは思ったことはない。
だが闘夜は気づいていないが、実家がこう言う家業のジェシカは幾らでも男を見てきている。それこそ醜男からイケメンまで幅広くだ。そんな彼女が商売としてではなく、素で容姿を誉めると言うのは殆どない。だからこそ闘夜への評価と言うのは相当高いと分かる。まあ何度も言うように誉められてる本人が気づいていないのだが……
何て言うやり取りを二人がしていると、闘夜は突如背後から何か薄いものが空気を切って飛んでくるのを感じ、素早く振り返った次の瞬間!
「ぷぎっ!」
鼻に何か固いものが直撃し闘夜は一瞬世界がチカチカしたような感覚に襲われ、何事かと床を見るとそこに転がっているのは料理を運ぶ際に使うお盆……何でこんなものが?と思っていると、ドン!っと床を踏み鳴らしフリフリのスカートを揺らしながら登場したのはルイズ。因みに機嫌がものすごく悪い……
「……」
「あの……どうしぶ!?」
どうしました?と言おうとした次の瞬間、闘夜の顔面にルイズの足裏がめり込み後ろにひっくり返った。
「うっわ……容赦ないわね~」
「良いのよ。甘やかすとすぐデレデレするんだから」
フンッと鼻を鳴らし闘夜を見下ろしながら睨み付けるルイズを見てジェシカはヤレヤレと肩を竦めた。
「全く、
「なんですって?」
ジェシカの含みを持たせた言い方にルイズはピクンと眉をあげながら言う。そんな様子にジェシカはクスクス笑い、
「おっと失礼」
「何よ、なんか文句あるなら言いなさいよ!」
ジェシカの態度にイラッときたのか、ルイズは食って掛かる。そんな様子も面白いのかジェシカはニヤリとしながら、
「そうね、まず客に暴力を振るなかしらね。ぶん殴ったり皿を叩きつけたり瓶で殴打したり……」
「ぐっ!」
「あともうちょっと愛想良くしなさいよ。あんな仏頂面じゃ楽しく飲ませられないわよ」
「うぐっ!」
「なにか反論があるならどうぞ?」
とジェシカに返されるがルイズはまさにぐうの音も出ない。ルイズとて自覚はある。だが思わず手が出ると言うか……
「こんなんじゃ明日からのチップレースも結果が見えてるわね」
「ちっぷ……れーす?」
聞きなれない単語にルイズは反応を示すとジェシカはまたニヤニヤしながら答えた。
「そう。明日から三日間かけて行われる毎月の恒例行事でね。三日間で一番チップを稼いだ子に我が家の家宝である《魅惑の妖精のビスチェ》を着る権利を一日貰えるのよ。何でも昔の王族と恋仲だったうちのご先祖様が貰った物らしくてね?魅了の魔法がかかったそれは着た人間のサイズに勝手に合わさり、見るものを魅了する……ま、あんたには関係のない話か」
「なんですってぇ!」
ブチッ!っとルイズは自分の堪忍袋の緒が切れるのを感じると、ジェシカを睨み付ける!
「バカにすんじゃないわよ!今までのは様子見よ様子見!私が本気を出せばチップだけで庭付きのお屋敷一軒建つくらい集めてみせるわ!」
「へぇ?そう?ま、言うだけなら誰でもできるしタダだからいいんじゃない?」
ホホホとわざとらしく手を口元に持ってきて笑うジェシカにルイズはワナワナと体を震わせ、背を向けた。
「見てなさい!吠え面掻かせてやるんだから!」
と、闘夜を引っ張って自分の部屋にと与えられた屋根裏部屋に引っ込んでいく。そんな姿を見ながらジェシカは、
「完全に小物悪党の去り際だったね……」
等と呟いたのだが、それは誰にも聞かれることはなかった……
「あぁー!ムカつくムカつくムカつくムカつく!!!」
部屋に入るなり早々ルイズはボスボスと枕を殴る。そんな姿を後ろから復活した闘夜はみているばかりで、君子危うきになんとうやらとばかりに近づかない。まだ闘夜も命が惜しいのである。
だがグリン!っと振り返ったルイズがそれを許さない。
「大体あんたもなにデレデレしてんのよ!」
「デレデレなんてしてないですよ……」
こうなったルイズには何を言っても無駄なのだがそれでも一応言っておく。だが、
「良いトーヤ?ああいう女は気を付けなさい。ああいうのは近づきすぎるとぺんぺん草一本も残らないほど有り金を絞り尽くされてポイされるのよ!」
「ジェシカはそう言う人じゃ……」
「顔と胸に騙されちゃダメよ!」
闘夜はルイズの余りの剣幕にたじろぎながら曖昧に頷く。すこしくらい落ち着いた方がと思うがそれを言うと火に油なのは流石に分かるので向こうが勝手に落ち着くのを待つしかない。
「ふぅ……ふぅ……まあいいわ!明日からのチップレースでギャフンといわせてあげるんだから!と言うわけで着替えるから後ろ向きなさい!」
「は、はい!」
ルイズに言われるがまま回れ右をした闘夜を見てからルイズは店の制服を脱ぐと寝間着代わりの服を手に取り自分の胸をみた。
余りにも慎ましく主張する自分の胸にルイズは先程の怒りがまた再燃しそうになるが取り合えず落ち着く。まだ自分は成長期……のはずだと言い聞かせ、もっと大きくなるし背も延びるはずだと暗示をかけるかのように心の中で呟きまくる。
ジェシカのなんか目じゃないほど大きくなるのだ!とルイズは服を握り締め決意した。
これからの伸びしろを考えれば顔立ちと言う点では今の時点でも負けていない自分なら将来的には絶対こっちの方が上である。今のうちに精々勝者の気分を味わっておくが良い……最後には私が勝つとルイズは邪悪な笑みを浮かべ、寝間着代わりの服を着る。
それに……と内心呟きながら胸に手を当てて、
(それに谷間くらい私にだって……)
と、無駄に谷間を強調してくるジェシカを思い浮かべながらグググと胸を寄せて谷間を作る。
(ほら……ね?)
全身に力を込めて、プルプルと震えながら谷間を強引に作ったルイズは満足げに手を離した。まあ胸を力付くで寄せるのはちょっと……いや、かなり痛かったがルイズの心は満足感が包み込んでいた。
「よし、トーヤ。明日もあるんだしさっさと寝るわよ」
「あ、はい」
と、ルイズは闘夜に声をかけながらベットに入ると、闘夜もそれに続いて入る。
「それじゃおやすみ」
「はい、お休みなさい」
そう言葉を交わし目をつぶる二人……そんなとき、ふとルイズの脳裏に最近出た新作のブラジャーの話が浮かんだ。何でもそれは、着けるだけで胸のカップサイズを一つ……人によっては二つもあげると言う代物で、それを使えばもっと楽に谷間を作れるのではないかとルイズは考えた。
(これは別の日に要検討ね)
と、心の中で呟きながらルイズが眠りの世界に落ちていく……
因みにこれは余談なのだが、今ルイズが思い出したブラジャーは、体についている胸以外の場所から胸に肉を集めてブラで押さえてカップをあげると言う使い方のため、良い意味でも無駄肉が一切ないルイズでは使えないものだったのだが、それを知るのは大分先の話であった……