異世界御伽草子 ゼロの使い魔!   作:ユウジン

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アンリエッタの依頼

「……」

 

最近闘夜は悩んでいた。それはルイズも接客に慣れ、闘夜も仕事に余裕が出てきた今日この頃……なのに悩んでいた。

 

何に悩んでいるのか?それは最近のとある症状である。

 

何かと言うと、ルイズを見ると顔が熱くなる。それだけじゃない。胸も動悸が激しくなって口が乾いて上手く喋れなくなる。そして何と言うか胸の奥から沸き上がる熱が自分をクラクラさせる。

 

それは闘夜の今までの人生にはなかった感情であり、それに対して闘夜は戸惑いの中にいた。

 

その為ここ最近今まで通りにルイズに接することが出来ない。どうしても顔を逸らしてしまったり会話ができなくなったり……とにかくこのままでは不味いと、思いつつ闘夜は仕事が一段落したので裏口から外に出て空を眺める。

 

「どうすっかなぁ……」

 

等と呟きながらいると、

 

「トーヤさん?」

「ん?」

 

名前を呼ばれその方向を見る。そこに立っていたのはフードを目深く被った謎の人物で、見るからに怪しい。とにかく警戒を……と身構えると、

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてください!私です!」

 

そう言ってフードの人物はフードを取りそれを見た闘夜は、

 

「ひ、ひめさもが!」

「シー!」

姫様!?っと声を漏らしそうになると謎の人物ことアンリエッタは慌てて闘夜の口を塞ぐ。

 

「も、申し訳ありません。今は理由を聞かずに匿ってください!」

「っ!」

 

理由は聞かずに匿ってくれ……と言うのは些か怪しい頼みである。だが彼女の切羽詰まった声音とアンリエッタの後方から聞こえるガチャガチャと金属音を鳴らし近づいてくる気配に闘夜は咄嗟にアンリエッタの手を引くと店の中に引っ張りこんだのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

魅惑の妖精亭は夜は酒場だが昼間もランチタイムのような事をしており勿論ルイズは昼間も働いていた。それも一段落し夜まで仕事は無くなったルイズはある一つの疑念について頭を悩ませていた。

 

それはここ最近の闘夜の態度である。どうも最近闘夜はどこか他人行儀で、避けられている……話していても上の空だし何か怪しい。

 

何かを隠している……とルイズは睨んでいた。

 

それについて今日こそは問い詰めてやるとズンズン階段を登り屋根裏部屋にやって来る。闘夜はもう仕事は終わってるはずだし夜まではお互い暇だ。たっぷり聞いてやろうじゃないか……

 

そう思いつついたのだが、

 

「居ない?」

 

そう、闘夜はいない。仕事は終わってる筈なのに闘夜がいない。更に、

 

「私の平民用の服までない?」

 

学園の制服は目立つため買った平民の服までない……嫌な予感がする。

 

「ったく!どこ行ったのよあのバカ!」

 

と、ルイズは杖を持ち、ローブを羽織ってスカロンに今夜の仕事の休みをもらってから雨の中店を飛び出したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裏切り者?」

 

日も暮れ、闘夜はランプに灯をともしながらアンリエッタの話を聞いていた。

 

「えぇ、アルビオンに情報を流している内通者です」

 

二人は現在とある安宿に身を隠している。

 

アンリエッタが言うには、現在アルビオンとの戦争が控えている中、トリステインの情報をアルビオンに流している輩がいるらしく、自分が突然行方不明になればそいつらは焦って尻尾を出すはず……だが護衛もつけずに行くわけにもいかないと言うわけでアンリエッタはルイズからの報告で聞いていたこの店にやって来て闘夜に護衛を頼んできたと言うのが真相。因みにルイズの平民の服はローブ姿で出歩くわけにも行かないのでアンリエッタが無理矢理着てきた。

 

最初はルイズにも伝えようと闘夜は言ったが、今は極力自分の所在を知ってる人物を増やしたくないと言われ、闘夜だけでアンリエッタの護衛をしている。

 

本来なら闘夜も巻き込みたくなかったらしいのだが、どうしても信頼を置けるものが居らず、闘夜だけを巻き込む形となったらしい。

 

「何て言うか……嫌な話ですね」

 

彼女を裏切った者がいて、それを探さなければならない……それは聞いていて余り喜べる話じゃない。皆仲良くと言うわけにいかないのは分かっているが、誰かを疑わなければならないと言うのは悲しい話だ。

 

「そうですね……」

 

そんな闘夜の言葉にアンリエッタは頷く。 きっと彼女には今回のような一件は初めてではないのだろう。流石にここまで大掛かりなのは初めてだろうが……

 

だが当然なのかもしれない。彼女はまだ若く、改革を推し進める姿は今まで自分の地位を鼻に掛けていた者達にとっては目障りだろうし、闘夜は知らないが彼女は優秀であれば平民でも登用しており、昔からの貴族と言う者達にとっては反感を買いやすい。

 

だがそれでも、彼女は彼女なりの国作りを進めてきた。それに対しては後悔はないが、信じれる者が殆どいない今の状況は精神的に辛いものがあった……そんなとき!

 

「ドアを開けろ!王軍巡羅の者だ!現在逃亡犯を追って宿を全て調べている!」

 

ドアを乱暴に叩かれ、闘夜とアンリエッタ体を強張らせるとそう叫ばれ、アンリエッタは思案する。

 

(まだ見つかるわけにはいかない……)

 

時間はない。早く決めなければとアンリエッタは頭を働かせながら闘夜を見ると、

 

「トーヤさん、失礼します!」

「え?むぐっ!」

 

突然アンリエッタは闘夜をベットに押し倒すのと、王軍の巡羅達が入ってきたのは、ほぼ同時。そして彼らが見たのは……

 

「チュ……レロ……ハァ……ンチュ……」

『……』

 

目の前にいる女性は男を押し倒し、服をはだけさせ露わになった胸を押し付けている……そんな光景に王軍の巡羅達は気まずそうに顔を背けながら、

 

『し、失礼した……』

 

と、スゴスゴと退出する。そして足音が遠ざかっていくのを聞きつつ……

「プハッ……」

 

アンリエッタは闘夜の唇から自分の唇を離す。それから闘夜を見て、

 

「すみません。咄嗟でしたので……あれ?」

「はにゃぁ……」

 

闘夜は顔を真っ赤にして目をグルグル回していた。ディープキスは流石に刺激が強すぎたようで、それを見たアンリエッタは慌てる。

 

「と、トーヤさん!?大丈夫ですか!?」

 

ブンブンと、闘夜の肩を掴んでアンリエッタは振り回すと、闘夜はハッと我に返り、それを見たアンリエッタは安堵し、それから頭を下げた。

 

「すみません」

「いえ……あの、バレる訳にはいかなかったんですし……」

 

ドキマギとルイズに感じる高鳴りに似た物を感じ、何と言うか微妙に照れ臭い空気がその場に流れる。するとそんな中、アンリエッタは意を決したように口を開く。

 

「ならもう少しだけ……お願いを言って良いでしょうか?」

「え?」

 

そういったアンリエッタはシャツを脱ぎ捨て、闘夜の目を見つめると、

 

「アンと呼んでください……今夜だけで構いません、恋人のように……抱いてください」

 

その言葉に闘夜はポカンとする。言葉の意味を理解するのに時間を必要とし、

 

「ど、どうしたんですか?急に……」

「先程も言ったでしょう……?王宮では信用できるものが殆ど居らず、私はひとりぼっちなのです。ですがたまには、誰かの温もりがほしいのです……」

 

そんな彼女の言葉に、闘夜は少し目を伏せ……それから、

 

「分かりました」

 

と頷く。それを合図とばかりにアンリエッタは目を瞑り、闘夜に全て任せると意思を示した。ドクンドクンと心臓が鳴る。それはこれから起こることに対する不安か期待か……それは分からないがどうでもいいことだった。

 

そんなとき、

 

「え?」

 

ギュウっと少し痛いくらい強く抱き締められ、アンリエッタは驚いて目を開けた。

 

「あの……トーヤさん?」

「え?こうして欲しかったんですよね?」

 

アンリエッタの声に闘夜はニコッと笑って答えた。そんな姿にアンリエッタはもしやと頬をひきつらせる。

 

恐らく闘夜は抱いて欲しいを、抱き締めて欲しいと勘違いしたんじゃなかろうか。そうでなければこの状況でこの行動はないだろう……その証拠にアンリエッタの困惑に闘夜は首を傾げつつ、

 

「きっとウェールズさんだったらもっと良いんでしょうけど、俺はウェールズさんじゃないしなるわけにもないですし……でもこうして欲しいなら幾らでもします」

「っ!」

ズキン!っとアンリエッタは自分の心臓を痛みが走ったような感覚を感じた。そして気付く。今自分は……ウェールズの代わりを求めていただけだった事に。

 

それに気付くと、闘夜への申し訳なさと様々な感情が混ざり合い、涙があふれでてきた。

 

「ごめんなさい……トーヤさん」

「うぇ!?あの?痛かったんですか?」

 

力込めすぎたかな……と呟く闘夜にアンリエッタは首を振り顔を闘夜の肩に付ける。

 

「もう少しだけ……このままでお願いします」

「は、はぁ……」

 

そんなアンリエッタの言葉に闘夜は困惑しながら頷くと、少しだけ力を緩める。そうされると、罪悪感と同時に安心感を感じていることにアンリエッタは気づく。

 

誰かにこうやって抱き締められる。それが堪らなく幸せなのだと言うこと……それもまた変えようのない事実で、こんな状況にときめいている自分にアンリエッタは、自嘲気味の笑みを泣きながら静かに笑みを浮かべたのだった……


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