「いやぁ、ありがとうございます。いきなり押しかけてスープまで出してもらって」
「ううん。気にしないでください」
ティファニアは首を横に振りつつ、シエスタに答える。しかしそうしつつも、横目で様子を伺うのは闘夜とルイズだ。
闘夜はルイズの方を見ないようにしつつ、取ってきた木の実をしまっている。
そんな闘夜にどう話しかけるか、ルイズは悩みつつも勇気を振り絞って、話し掛けようとするが足踏みをしている状態だった。
「ト……」
「俺ちょっと薪取ってきますね!」
明らかにルイズを避けた行動だ。そして闘夜が部屋を出ると、
「る、ルイズさん?」
「だ、大丈夫よシエスタ。ワタシアキラメナイカラ」
「なんか萎れたお野菜みたいになってますけど!?」
ダイジョーブダイジョーブとルイズは言いつつ、ちょっと散歩と言って家を出ていった。
「えぇと、二人共トーヤのお友達なの?」
「色々複雑な関係ですかね」
シエスタはティファニアに答えながら、ため息をつくのだった。
「ハァ」
闘夜は近くの川に来ると、近くの石に腰を下ろして息をつく。
正直ルイズを見た時嬉しかった。だが同時に、なぜここにいるのかが分からなかった。
困惑すると共に、どんな顔をすればいいのか分からず、結局逃げてきた。とはいえ、何時までもここにいるわけにはいかないし、どうしたものかと思っていると、
「っ!」
ドン!っと爆発が起き、地面が揺れた。
咄嗟に爆発音の方角を見ながら、闘夜は足に力を込めて走り出しながら叫ぶ。
「ルイズ様!」
爆発の少し前、ルイズは一人でトボトボと歩く。
ショックだった。自分がこんなに意気地なしだったとは。
闘夜に会った時、心の底から歓喜した。嬉しすぎて呆然とした。しかし、その結果今度は話しかけられなくなってしまった。それに闘夜が自分を避けていることは明らかだ。当たり前だろう。あんなことがあったんだから。
だから何としても自分から、と思うのだがうまくいかない。どうしたらいいだろう。そう思っていると、
《可哀想に。使い魔に嫌われてしまったね》
「っ!」
突然響いた声に、ルイズは杖を抜きながら身構えた。
「誰!?」
《さて。誰かしら》
声しか聞こえない。しかも声は反響してあちこちから聞こえてくるような錯覚を覚えさせてくる。
「なっ!」
すると木の間からゾロゾロと鎧が歩いて出てきた。
「人形ね」
《正解》
こんなのを出してどうするつもり?そうルイズが問うと、
《我が主の好敵手に相応しいか試させてもらう。それだけよ》
「つまり敵でしょ!」
そう言うが早いかルイズは杖を振り、
「エクスプロージョン!」
爆発を起こす。これは人形を吹き飛ばす為だけじゃない。何処かに隠れてるであろう声の主も炙り出すためだ。だが出てこない。
(何処かにいる筈!)
そう信じ、ルイズは続け様に爆発を起こそうとするが、
「なっ!」
勢いよく人形が突っ込んできた。
「この!エクスプロージョン!」
その人形を爆破するものの、他の人形達も次々突っ込んでくる。
(人形だから恐れるってことがないわけね!)
どんな強力な魔法でも、相手は壊されることを恐れることはない人形。
これは分が悪い。そう思った時、ルイズの目の前に降り立ち、腰から剣を抜いたのは、
「トーヤ!?」
「風の傷!」
風の傷で人形達を蹴散らし、闘夜はルイズの方を振り返ると、
「怪我はありませんか!?」
「え、えぇ」
駆け寄ってきた闘夜はルイズを見てホッと一息をつくと、今度は別の方を見た。
「おい。出てこいよ」
「あら、よく分かったわね」
闘夜の見ていた方向から出てきたのは、腰まで伸ばした黒髪と鋭い目つきの女性だ。
だがその目から伺える感情は、友好的には見えない。
「何者だお前」
「そうねぇ。貴方の姉弟といった所かしら?」
何いってんだ?と闘夜は怪訝な目を向けつつ、鉄閃牙を構えると、
「とにかくルイズ様の敵だな!」
そう言って飛び掛かりながら鉄閃牙を振り下ろしたものの、
「あれ?」
その場には既に女性は居らず、闘夜は辺りを見回しながら匂いを嗅ぎ、
「そこか!」
匂いに向かって飛び掛かる。しかし木の陰から顔を出したのは、先程ルイズを襲った人形で、
(違う!?)
「随分と鼻が利くようだけど、それに頼り過ぎてると痛い目に遭うわよ?」
そんな声が闘夜の耳に入ると同時に、肩に鋭い痛みが走る
「ぐっ!」
肩に刺さったナイフを引き抜き、飛んできた方を見えるがそこには誰もいない。
「トーヤ!」
「大丈夫です!」
ナイフはそこまで深く刺さったわけじゃなく、ダメージはない。
「へぇ、常人だったら一滴でも取り込んだら動けなくなる痺れ薬をたっぷり塗ってあったんだけど、この程度じゃ効かないようね」
「あぁ、だから傷口が何かヒリヒリするのか」
ゴキゴキと首を鳴らし、闘夜は鉄閃牙とデルフリンガーを構え直す。
どこから襲ってきているのか全くわからない。というか何者なんだ?と、闘夜は眉を寄せる。しかしそこに、
「ボーッとしてる暇はないよ!」
「っ!」
闘夜が上を見ると、無数のナイフが一斉に降り注いできた。
「風の傷!」
それを風の傷で薙ぎ払う。しかしその隙を突くように下から炎が巻き上がり、闘夜は咄嗟に飛び上がって避けた。
(相手はルイズ様と同じメイジなのか?)
闘夜はそう思いながら、ルイズの方を振り返ると、
「ルイズ様!今のナイフが降ってるやつとかどういう魔法なんですか!?」
「そんなのわからないわよ!」
姿が分からなくする魔法にナイフを降らせる魔法。一体どんな魔法を使ってるんだと思う。
(姿を隠す魔法だったら幾つか思いつく。だけどナイフを降らせるとしたら風?でも降らせるにはまず浮かび上がらせなきゃいけない。でもいつ浮かばせたの?)
ルイズは必死に自分の知識を掘り起こすが、いい考えは浮かばず、
「主人にばかり気を取られてて良いのかしら?」
「くっ!」
そこにどこからともなく現れた女性が剣を手に突っ込んできて、闘夜は咄嗟に受け止める。
すると突然剣の刀身が伸び、鉄閃牙に絡みつきながら闘夜の体に巻き付く。
「さて、このまま刃を元に戻せば、凄く面白いことになると思わない?」
「やれるもんならやってみろよ」
言われなくても!女性が剣を操作して刀身を戻す。普通であれば、刀身が戻ったときにそのまま体が切れてバラバラになるはずだ。しかし、
(刀身が戻らない!?)
そう。闘夜が刀身を戻そうとした瞬間に、全身を込めて筋肉で刃を止めると、
「オラ!」
「ぶっ!」
顔面に頭突きを叩き込み。怯んだ所にヤクザキック。
「これで……どうだ!」
そして後ずさった女性に向けて、鉄閃牙とデルフリンガーを交差させると、バツを描くように斬るが、
「危なかったわね」
「っ!」
確かに斬った感触はあったのに、女性は違う場所に立っており、闘夜の目の前には別の先程ルイズを襲っていた人形が転がっていた。
(頭突きもキックも確かに人間にぶち当てた感触だった。なのにあんな遠くまで……一体何なんだこいつの力)
「さて、ここまでにしときましょうか」
すると女性はヒラヒラと手を振り、
「悪いんだけど、今日は様子見の予定だったから在庫が少なくてね。ここで帰らせてもらうわ。ガンダールヴ」
「なんだと?」
突然のガンダールヴ呼びに、闘夜は眉を寄せ、ルイズも息を呑む。
「あらゆる武器を使いこなし、戦場を駆け抜け主を守る盾。ガンダールヴ。勿論貴方の力はガンダールヴだけじゃないようだけど」
なにか嫌な予感がする。闘夜はそんな予感を感じ取っていると、
「あぁ、名乗り忘れてたわね。私はシェフィールド。そしてまたの名を」
そう言いながら、シェフィールドと名乗った女性は前髪をあげて額を見せると、そこにはルーンが刻まれており、
「神の頭脳・ミョズニトニルン。貴方と同じ、虚無の使い魔よ」
『っ!』
闘夜とルイズは、シェフィールドの告白に思わず目を見開く。
「知らなかったのかしら?始祖・ブリミルは自らの力を3人の子供と1人の弟子に継承した。そしてそれぞれが国を起こし、その血筋と力は今尚受け継がれ続けている」
その言葉に闘夜はハッとすると、
「じゃあやっぱり使い魔は……」
「えぇ、いるでしょうね。担い手と使い魔は4人ずついる。あなたの主と私の主。そしてあのハーフエルフともう1人。あぁ、でも彼女はまだ召喚してないわね。となると使い魔はまだ3人かしら?まあまだ2人かもしれないけどね」
え?どういうこと?とルイズは困惑する。ルイズはティファニアが担い手ということを知らないからだ。
「いつの世も虚無の担い手は4人居た。でもそれが揃うことはなかった。まるでまだその時ではないというようにね。でもそれでは我が主はつまらないと言った。だからゲームをご所望なの。担い手と使い魔が一同に介したバトルロワイヤルなんて最高のゲームでしょう?」
「ふざけんな!」
闘夜はシェフィールドを睨みつけ、
「要は結局、お前の主の暇つぶしってことだろ?そんなことのためにルイズ様を危険な目に合わせたのか」
「我が主と戦うのに相応しいか。それを見定めただけよ。まぁ結果はまだまだ。今後に期待といった所かしら」
ただ、とシェフィールドは闘夜を見ながら笑みを浮かべて、
「ガンダールヴの坊やは面白い力を持ってるわね。差し引きで二人共合格ね」
そう言うと、シェフィールドの周りに霧が立ち込み始め、姿を消していく。
「待て!」
闘夜それを見て逃さないと言わんばかりに風の傷を放つが、土煙が舞い上がり、それが晴れた頃には、シェフィールドはその姿を消していた。
(感触的に当たってない。逃げられたか。匂いも完全に消えてる)
闘夜は鉄閃牙とデルフリンガーを鞘に戻しながら、内心苦々しく思うと、
「と、トーヤ」
「ルイズ様」
ルイズに声をかけられ、闘夜も振り返りながら声をかけると、
「怪我はないですか?」
「うん」
闘夜は駆け寄りながら、ルイズに聞くと、ルイズ頷きを返しながら、
「ありがとう。トーヤ」
「い、いえ……」
素直に礼を言われ、闘夜が思わず照れていると、
「トーヤさーん!ルイズさーん!」
『ん?』
そこに走ってくるのはシエスタとティファニアだ。するとそれを見たルイズは笑みを浮かべて、
「さ、行きましょ」
「え?あ……」
ルイズは闘夜の手を握ると、そのまま引っ張りながら歩き出すのだった。