親
「ルイズゥゥウウウウ!でてきなさぁああああい!」
外から聞こえる怒声に、ルイズは全身を震わせる。
「と、とにかく一旦出ないと、船壊されちゃいますよ」
「そ、そうね」
ルイズは闘夜に言われ、渋々外に向かうと、
「やっと出てきたわね」
「は、はひぃ」
既に最初から腰が引けている。確かにオーラが恐ろしい。
キツめの美人といった風情だが、背中に般若が見えた。
「まさか、貴女が王家に反逆するとは思わなかったわ」
「ちちち違うのお母様!これには理由が」
「だまらっしゃい!」
言い訳無用と言わんばかりに、ピシャリと言ってくる母に、ルイズが竦む。
「まずは貴女をしつけ直し、改めて王家に謝罪します」
そう言って杖を構える彼女の前に、闘夜が立ちふさがる。
「どきなさい!」
「どきません!」
互いににらみ合う両者。だが次の瞬間杖が振るわれ、闘夜は鉄閃牙で受け止める。
「トーヤ!」
「大丈夫です!」
闘夜は風を鉄閃牙で受けながら、ルイズの母と距離を詰めるが、素早く離れられ、続けざまに打ってくる。
(やりづらい!)
まずは杖を奪って無力化したいが、一定距離を絶対に破らせない。
「成程。中々に早い。ですが、動きが読みやすい」
ルイズの母は杖を振り、鎌鼬を作り出すと、闘夜の頬を切り裂く。
「この!」
それでも気にせず、闘夜は杖に手を伸ばすが、ギリギリ届かず、空気の塊が闘夜を吹き飛ばした。
「暫くこれで寝て……え?」
「ゲホッ!」
腹部に思いっきり喰らい、普通の人間なら暫く意識を奪う一撃のはずだが、闘夜は咳き込みながら立ち上がる。
「意外と頑丈ね」
「お母様!」
そこにルイズも杖を抜き、母に向ける。
「それ以上トーヤに危害は喰わえさせられません!」
「っ!」
しかし母は迷わず杖を構えて魔法を発射。
「エクスプロージョン!」
ルイズも魔法の爆発で相殺した。
「視界をっ!」
視界を塞がれ、ルイズの母は目を細めつつ杖を振って煙を払おうとするが、
「っ!」
視界外から飛んできた氷の礫で、杖を落とされた。
「……」
そして、タバサが頷くと、
「喰らえ!」
「なっ!」
煙の中から闘夜が飛び出してジャンプ。そのまま、
「フライングボディプレス!」
ドッシーン!と大きな音と共に、闘夜のボディプレスでルイズの母は、ひっくり返り、
「あがっ!」
その反動で、倒れた拍子に後頭部を打ち気絶。
「い、生きてるわよね?」
ルイズは気を失っている母の頬を杖でつつき、意識を確認。
「これからどうします?」
「一旦……逃げるべきかしら」
「駄目です」
闘夜とルイズがそんな事を言っていると、背後から声をかけられて振り返る。そこに居たのは、アンリエッタだ。
「陛下!?」
「姫様!?」
二人が驚きながらいると、
「詳しい話は聞きました。一度ここから移動しましょう」
アンリエッタに促され、闘夜達は頷くと、
「これどうする?」
『あ……』
ルイズ母を指差すタバサに、二人はすっかり忘れていたのか振り返りつつ、闘夜が背負って連れて行くのだった。
「ルイズが、虚無の担い手ですと?」
最も近いのと、真相を明かす為、とアンリエッタに、ヴァリエール家の屋敷にルイズ達は連れられてきた。
そして、ルイズの父にアンリエッタは真実を告げる。その場に同席した、意識を取り戻したルイズの母と姉二人も、驚きで声を失っている。
「はい。彼女はあの伝説の系統に目覚めたのです」
父は、居心地悪そうにしているルイズを見た。
「成程。合点がいきました。先の大戦でルイズの力を求めたのは、それを利用するためだったと」
「ち、違うわお父様!あれは」
ルイズはアンリエッタを弁護しようとしたが、父の鋭い眼光によって、黙らされてしまう。そしてアンリエッタは、
「はい」
素直にそれを認めた。
「私は、ルイズの力があれば、戦争に勝てると考えた。それは紛れもない事実です」
「そうでしょうな」
冷静に、落ち着いてるような声音。だが分かる。奥歯が軋むほど、今父は怒っている。
「そしてこれは見たわけではありませぬが、ルイズの使い魔。彼が7万の兵と戦い、打ち破ったと言う話。あれも本来はルイズが立ち向かい、そして死ぬ作戦だったのでは?」
「……はい」
アンリエッタの返事と同時に、父は杖を抜き、それをアンリエッタに向けた。
「お父様!」
慌ててルイズがその前に立つが、
「国に忠義を尽くし、その命を散らすのは名誉ある事だ。分かるなルイズ」
「は、はい」
そう。貴族の名誉だ。今はそれよりも大切なものがあるが、それは言わない。だが父は、
「だがな、それでも、子が死んで悲しまぬワケがないのだ!」
「っ!」
泣いている。思わず今まで見たことのない父の泣き顔に、ルイズは驚いた。
「名誉ある行為。貴族の本懐を遂げることに、誇らしさは感じましょう。だが、子を見送る親の気持ちはそんなもので晴れることはない!」
父はルイズをどかし、アンリエッタに詰め寄る。
「陛下は、我が娘を戦争の道具として使った。あの戦争は、陛下の復讐だった!アマツはルイズを犠牲に撤退しようとしてただと?ふざけるでないわ!」
「あ、あれは陛下が命じたわけじゃ」
「良いのよルイズ。全ては私の責任」
例え直接命じなかったとしても、現場でそういう判断がされる可能性があった。
その上でルイズを送り出したのは自分だと、アンリエッタはルイズの父を見て、
「申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げる。その行為に、その場の全員が凍りついた。
幾ら王族の血を引く上級貴族とはいえ、それを相手に女王陛下本人が頭を下げるなど前代未聞だ。
だがそれを見た父は息を吐き、
「頭を上げてくだされ陛下」
椅子に座り直し、そういう。
「取り乱しました。こちらこそ申し訳ない」
「いえ、親として、当然の言葉です」
アンリエッタの言葉に、父は頷きながら、
「陛下は、これからどうしようというのですか?」
それは、ルイズの力をどうするのかという問いかけだ。それに対して、
「分かりません。ですが、先の大戦で、私は多くのものを失いました。そして、失わせてしまいました」
アンリエッタの言葉を、父は黙って聞く。
「ルイズの力は強大です。ですが同時に、それが現れたのにはなにか意味があるのではないかとも思っています。その意味を、考える必要があるとも」
アンリエッタは、静かにそう言うと、父も成程と頷く。
「ですがこれだけは言えます。ルイズは兵器ではありません。この世界を生きる一人の人間です」
「わかりました」
父は再び大きく息を吐き、天井を見上げる。
「返答如何によっては、歴史を捨て、杖を向けるつもりでした」
「お、お父様!?」
突然の宣言に、ルイズは驚くが、
「当然だ」
と返す父。とはいえ、
「ルイズが狙われている。と言うのは本当ですかな?」
「はい」
相手は不明。と言っているが、ほとんど予想はついた。だがそれでも、まだこの場で言うわけにはいかない。
「相手は未だ謎に包まれています。ですが、ルイズの級友を利用し、良からぬことを考えているものがいるのも事実。ですから、今日はこれを持ってきました」
「これは」
アンリエッタが出した書類。そこにあったのは、ルイズを自身の妹にすると言うものだ。
「本気ですか!?」
「えぇ、勿論書類上ではありますが、ルイズを王家の末席に入れます。血筋的には問題はありませんしね。こうすることで、なにか行動を起こされれば、国として動きやすくなります」
そりゃそうだ。書類上でも王家にいれるということは、それは王家への攻撃と同じ。
しかしそれは同時に、ルイズに王家の力を与えるということでもある。
「ルイズ。此度の件ですが、もう二度と同じことはしないでください。これはその為の枷でもあります」
「は、はい」
王家の人間が、他国に行って大暴れなんて、外交問題も良いところだ。それをさせないための楔。ルイズを守るための盾であり鎖でもある。
「良いですね?」
「か、畏まりました」
ルイズは恭しくそれを受け取った。それを見た父は、
「お前が国を飛び出したと聞いて、全員驚いたのだぞ」
「ご、ごめんなさい」
「カリーヌ等、我先にと飛び出してな。自分が先に仕置をし、陛下に頭を下げさせれば、赦しを請えるとな」
母が来たのは、そう言うことだったのか、とルイズはジンと来た。厳しく恐ろしい母だが、それは自分を守るためだったのだと。仕置きは確定だったわけだが。
「余り私達を不安にさせるような無茶はしないでおくれ。まぁカリーヌも昔は良く無茶して心配を何でもございません」
背後から殺気を飛ばす母に、父は冷や汗を流しながら言う。
すると、
「ルイズ。少しお話したいのですがいいですか?」
「私も話したいことがありますわ」
アンリエッタからの問いに、ルイズは頷くと、二人だけで話すため、一度移動するのだった。
「いやぁ。全快全快」
ヴァリエール家に運び込まれたギーシュは、高名な水系統のメイジを呼んでもらい、怪我を治して貰っていた。
「それにしてもルイズの実家はデカいなぁ。流石ヴァリエール家だ」
「ヴァリエール家ってやっぱ凄いんですか?」
「君は良くわかってないかもしれないけど、このトリステインでも五指に入るほど大きな家だよ」
「ふぇ〜」
屋敷を見上げながら闘夜はホケーっとする。
「それにしても、あのエルフと戦って生きてるなんて未だに信じられないよ」
ギーシュは笑いながら言うと、闘夜も笑う。すると、
「なに読んでるんですか?」
「ゲルニカ建国物語」
闘夜は隣で静かに本を読んでいたタバサに問い掛けると、タバサは表紙を見せながら教えてくれた。
「平民生まれのゲルニカが、功績を建てて出世し、最後には王になる物語。ゲルニカは勿論だけど、それを彩るキャラクターの数が豊富で、全員個性的で魅力的」
「へぇ〜」
タバサの解説を聞き、成程となる闘夜。それを見てギーシュが目を丸くする。
「タバサが、喋ってる?」
「そりゃ喋りますよ」
「い、いやそうなんだけどね」
あの無口で何を考えているのかイマイチ分からない。というのが評価のタバサである。話し掛けても聞いてるのか分からない。会話が成り立っているのはキュルケ位である。厳密に言えば、一方的にキュルケが話しかけているが正しいが。
「あらここに居たの?」
「あ、キュルケ様に先生!」
そこにキュルケとコルベールが戻ってきた。後ろではキュイキュイと言いながら人の姿をしたシルフィードが蝶を追い掛けている。
「やっと来れたわ。あー喉乾いた」
と、置いてあったお茶をカップに注ぎ、一人で口に含む。それを見ながら、闘夜はタバサの本を覗き込む。それに気づいたタバサは、
「読みたければ貸す」
「ブフゥ!」
タバサの言葉に、キュルケはお茶を思い切り吹き出した。
「ちょ!汚いな君は!」
「ご、ごめんなさい」
キュルケはギーシュに誤りながらも、驚き眼でタバサと闘夜を見る。シルフィードも、呆然としながらこちらを見ていた。
「あ、ありがたいんですけど自分字が読めなくてですね」
「それなら字を教える」
『……』
コルベールですら、目を見開いて驚く。あのタバサだ。いつも無口で、他人に興味がなく、交流を持とうとしない彼女が、今闘夜に字を教えようとしている。
他者の為に時間を使うことを、無駄とするタバサがである。
「え、いいんですか?」
「いい。学園に帰ったら、勉強に使いやすい本を持っていく」
「いやぁ、ありがとうございます。字くらい読めたほうが良いかなぁとか思ってたんですけど、中々タイミングがなくて」
「構わない」
とはいえ、当の本人が、この状況の意味をわかっておらず、ニコニコしていたのは、余談である。