ダンジョンに転生者がいるのは間違っているだろうか 作:ヘンリー発生
「それじゃあ、これからの事を確認しよう」
食事を終えた【ロキ・ファミリア】の面々が団長であるフィンに目を向ける。
「遠征の最大の目的である未到達階層の開拓、これに変わりはない。けれど、途中で冒険者依頼をこなしておく必要がある」
「冒険者依頼って……確か、【ディアンケヒト・ ファミリア】からのものですか?」
「そうだ。51階層にある『カドモスの泉』から要求量の泉水を採取する」
「『カドモスの泉』かぁー……面倒くさーい。何でそんなの引き受けちゃったの?」
「魅力的な報酬だったし、ファミリア同士の付き合いもあるからな、無視はできない」
「ちっ、あいつら面倒なやつよこしやがって……。 よりにもよってカドモスかよ……」
フィンとリヴェリアの説明にベートが悪態をつく。不満が出尽くしたところでフィンが計画を伝 える。
「『カドモスの泉』には少数精鋭のパーティを二組送る。無駄な消耗を避け、速やかに泉水を確保してこの野営地に帰還する。質問はあるかい?」
「はーい!何でパーティを二つにするの?」
「泉水の注文量が厄介でね、二つの泉を回らない と足りないんだ」
「それに物資にも限りがある。59階層に行くためにも時間をかけずに効率的に進めねばならんのだ」
フィンとガレスが説明する。
「『カドモスの泉』には大人数では行けないからね。戦力が低くなるけど小回りが利いた方がいい。他に質問があるかい?ないなら、メンバーを選出する」
ティオナが挙手して立候補する。
「はーい!あたしやる!アイズも一緒にやろ う!」
「うん」
「そもそも少数精鋭なんだからわたしたち実力者 以外に誰が行くのよ」
「じゃー、ティオネもこっち!」
「ちょ、まっ、私は団長と……!?」
ティオナがさっさと三人決める。
リヴェリアはフィンの指示で拠点に残って防衛。
先の戦いで魔力を消耗しているためその回復も兼ねている。
「レフィーヤ。私の代わりにアイズ達のパーティに入れ」
「はいっ!……って、えっ!?私ですか!?」
「レフィーヤもこっちだねー!」
ティオナに捕まり異議を封じられる。
「これじゃと残りで編成するしかないのう。フィン、ベート、儂じゃろ……後は」
「ラウル、サポーターでこっちに入れ」
「って、自分っスか!?」
「お前以外にラウルはいねぇだろうが」
こうして少数精鋭の各四人パーティが完成した。
一班:アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ
二班:フィン、ベート、ガレス、ラウル
「……おい、あいつら大丈夫か?」
「ンー……」
アマゾネスの狂戦士であるティオナ、
『戦姫』という非公式の渾名のあるアイズ。
猫をかぶっているがティオナ以上に凶暴なティオネ。
そんな彼女らを格下で気の弱いレフィーヤが御しきれることは不可能だ。
「……ティオネ、君だけが頼りなんだ。僕の信頼を裏切らないでくれ」
「——お任せくださいッッ!!必ずや団長の信頼に応えてみせますッッ!!」
「……ティオネちょろーい」
フィンにぞっこんのティオネは何のためらいもなく了承する。そんな姉を見て妹が呆れ顔で呟いていた。
「ねぇねぇ、今日あんまりモンスターと出くわさないよね」
「出くわさないならそれに越したことはないでしょ。戦わなくていいなら、願ったりよ」
数時間の休息を取り、51階層の『カドモスの泉』を目指して出発したアイズ達、モンスターとの戦闘を消化しながら進んでいた。
「そろそろ泉ね……今の内に注意事項を確認しとくわよ。目的は泉水を確保すること、だけどカドモスとの戦闘は避けられないわ」
「あの、カドモスってそのものすごく強いんですよね」
「パワーだけならこれまでのモンスターの中でも 一番かなー」
「やり過ごせないんですか?」
「無理よ。泉水だけ手に入れて逃げようってんなら間違いなく、死ぬわ」
「あたしなんて吹っ飛ばされてさー、体中がぐちゃぐちゃになったことあるしねー」
ティオナの体験談に血の気が引くレフィーヤ。そんな彼女を見てティオネは作戦を伝える。
「アイズとティオナ、私の三人がカドモスを抑え込む。レフィーヤはでかい魔法を撃ち込んでちょうだい。魔法で怯んだところを私達が畳みかけて仕留める。それから泉水の採取よ」
「……分かった」
「レフィーヤ、期待してるよー!」
「は、はいっ」
泉へと続く道の終わりは目と鼻の先だ。この先の——ルーム——にカドモスの守護する泉がある。 ティオネを先頭にして進む一行。パーティに緊張が走り、ティオネの合図を待つ。
だが、アイズが違和感に気付く。
「……おかしい」
「えっ?ちょ、ちょっと、アイズっ」
「静か過ぎる」
違和感を確かめるべくルームに足を踏み入れる。 その先には惨状が広がっていた。生えていた木はほとんどがへし折られ、地面や壁には何かが暴れたような罅が入り、破片が散乱していた。
さらにルームの至るところに溶かされたような跡がある。濃い紫に変色した木々からは今も黒煙と一緒にすさまじい異臭が漂っていた。 ルームの奥には破壊の爪痕が全くなく、まるで聖域のように守られた泉があった。神秘的な光景を創り出している泉の前には、大量の灰。
「……カドモスの、死骸?」
莫大な量の灰はここを守護していたはずの竜の巨体の規模とほぼ等しい。周囲の状況から見てもこの灰が強竜だったものに違いない。
「ドロップアイテムが回収されてない……」
「どういうこと?」
「このカドモスを殺したのが冒険者じゃないってことよ。つまり、冒険者じゃない何かがここにいたのよ、しかも強竜を殺せるほどの奴がね」
沈黙が落ちる。
「とにかく、嫌な予感がするわ。早いとこ戻りましょう」
ティオネの言葉に従いルームを出た直後——
『——あああああああああああああああああああ ああああああああああああああっっ!?』
凄惨な人の絶叫が迷宮に木霊する。その悲鳴にア イズ達は弾かれたように加速する。
「今の声って!」 「ラウル……!」
通路を幾度も曲がり、悲鳴の方角へと走る。するとアイズ達の視界にモンスターの姿が飛び込んできた。
ぶくぶくと膨れ上がった柔らかそうな黄緑色の表皮に、ところどころには極彩色が刻まれておりそ の毒々しさを増している。
下半身は無数の短い多脚からなり、芋虫と似た形状をしている。
上半身 は小山のようで扁平状の腕が左右から伸びてい る。そんなアイズ達ですら見たことのないモンス ターが迷宮の壁や天井を削りながら進んでいた。
「団長っ!?」
「っっ!」
「止せ、ティオナ!」
フィン達がモンスターから逃げているのを見て ティオネが叫ぶ。ティオナはモンスターの進撃を 止めようと制止を振り切り、斬り掛かる。しかし ——
じゅぅっ。
彼女の愛用している
ウルガ 大双刃の片方の剣身が敵の体に埋まったことにより跡形もなく溶けたのだ。
『——————————————————ァァ!!』
モンスターが咆哮を上げ、腐食液を吐き出す。 ティオナはすぐさま回避しフィン達と共に逃げ出 す。
「ちょっと何あれー!?何で教えてくれなかったのー!?あたしの大双刃が〜!?」
「フィンが止めてただろうが、この馬鹿ゾネス!!」
精鋭集団全員での猛退散、内一人にいたっては涙目である。
「僕達もあのモンスターの突然襲われてね、こうして逃げてきたんだ。それにあのモンスターは近付いたものは何であれ全て襲っている、モンス ターでもお構い無しだ」
「団長、実は私達が向かった『カドモスの泉』が荒らされていました。 強竜も倒されてドロップアイテムだけが」
「強竜まで倒すとはね。これは決まりかな。とりあえずラウルの治療を早くしないと。 このまま速度を限界まで上げてあのモンスターを振り切る。そのまま野営地点まで撤退するぞ」
フィンの指示に従い速度を上げる第一級冒険者達。
「ただの杞憂だといいんだけど……」
そう言ってフィンは自身の右手の親指をぺろりと舐める。その顔はとても深刻なものだった。
野営地に戻ったアイズ達を待っていたのはおびただしい程の数の芋虫型のモンスターだった。
キャンプを襲っているモンスターを全て倒すも、 新たに人形のモンスターが現れる。芋虫型と同じ下半身だが、上半身は滑らかな線を描く人型。二対四枚の扁平状の腕、後頭部からは管のような物が何本も垂れ下がっている。さらにその攻撃は厄介なものがあり、四枚の扁平状の腕から出る爆発する鱗粉に芋虫型モンスターと同じ腐食液攻撃を繰り出してくる。
フィンはこのモンスターを相手に撤退する事を決定し、アイズに時間稼ぎを命令していた。そして 撤退完了し、今目標撃破の許可が出された。
その途端にモンスターを圧倒し出すアイズ。片側の足を全て斬り落とし、更には腕も斬り落とす。 落ちた衝撃で鱗粉が舞い上がり、爆発。その爆発 が更に爆発を呼び、女体型モンスターが炎に包まれる。
その隙にアイズは己の魔法『エアリアル』を最大出力にする。
キャンプがあった一枚岩に着壁し、 一気にその嵐を身にまとい開放する。
「リル・ラファーガ」
一撃必殺の矢はまさに、神風。
残った腕を重ねて盾にするも、それごと貫き穿 つ。風穴を開けられた女体型はその全身を膨張させ、芋虫型モンスターとは比べものにならない、 桁外れの大爆発を起こした。
アイズの戦闘を見守っていた【ロキ・ファミリ ア】にまでその余波が届くほどの爆発。50階層が 火の海になる。
その炎を風で割りながら歩み出てくるアイズ。その少女の姿を目にした途端、空気が割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
顔をほころばせるレフィーヤ。
そんなレフィーヤ に抱き着くティオナ。
その妹の様子に呆れるティオネ。
若干不満そうだがうっすらと安心が見え隠 れしているベート。
大声で笑うガレス。
微笑を浮かべるリヴェリア。
軽く息を吐き安堵の笑みを浮かべるフィン。
様々な反応を示す皆の顔は喜びと安堵の表情だ。
だが——
ピシッ
その音は小さいものだったが、この深層まで到達できる冒険者達の耳には充分聞き取れる音量だ。 その音はどんどん増え、大きくなっていく。今まで幾度となくダンジョンに潜ってきた彼らにとっ てその音はとても馴染み深く、そして不吉の前触れの様なものだった。
『————————————————————————————————ァァァァ!!!!』
アイズが女体型を撃破して出来た火の海が治まっ てきた場所の地面が割れ、先ほどと同じ女体型が姿を現し、同時に芋虫型モンスターも溢れ出てきた。さらには今から通ろうとしていた49階層へと 繋がる道も芋虫型モンスターで埋め尽くされてしまった。
「おいおいおい!?何でまた出てくるんだ よ!?」
「ここは安全階層じゃなかったの!?」
「異常事態ってこと?」
「まずいな、退路が塞がれた」
「どうするんじゃ?もう武器も物資もほとんど残ってないぞ」
「アイズも戦闘を終えたばかりだ、精神力が回復していない」
「アイズとリヴェリアは出来るだけ精神力を回復させるんだ。それ以外は時間を稼ぐんだ、急げ!」
ロキ・ファミリアの面々が驚愕しているなか、 フィンが冷静に指示を出す。女体型とは距離があるためすぐに戦闘になる事はないだろうが、芋虫型モンスターは背にしていた通路から出現したためすぐさま接敵するだろう。
ロキ・ファミリアと芋虫型モンスターの距離が10 メドル M になった時——
「<蒼乱煉獄>!!」
炎が弾けた。
蒼い炎。
その炎は芋虫型モンスターを呑み込み焼き尽くした。呆気にとられるロキ・ファミリアを前に炎は治まっていきその奥から2人の人影が歩み出てきた。