艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
「…確かこういうのを形勢逆転って言うのよね、逆転されてるのは私の方だけど…」
そんなことを言いながらエリザベートは顔をひきつらせる、そりゃいきなり3艦隊分の艦娘の前に出されたら焦りもするだろう。
「こうなったら、先手必勝!」
エリザベートが鉄球を素早く戻すと、それを摩耶たちに向けて飛ばす。
「おわぁ!?」
「何じゃありゃ!?」
エリザベートの白兵戦に摩耶たちは目を丸くする、暁はこんなの相手にあんなボロボロになるまで戦っていたのだ、摩耶は自然と拳を強く握っていた。
「
「「了解!」」
「かしこまり~!」
摩耶の指示に従い、紅葉型駆逐艦1番艦『紅葉』、2番艦『
「これは負けてられませんね、行くわよ長門!」
「ふぇ!?私もですかぁ!?」
第1艦隊
「だいたいね、あなたのその引っ込み思案な性格どうにかしなさいよ!世界のビックセブンが泣くわよ!」
「そんなの名前だけですよぅ!」
戦艦娘でありながら引っ込み思案で奥手な長門を金剛がたしなめる、これで全鎮守府戦果ランキングのトップ5に常駐しているのだからすごいものである。
「艦載機発艦です!」
そんなこんなしている間に嬌鶴が艦爆機を発艦させる、いくら鉄球を操るエリザベートでも80機近くある艦載機を全て撃ち落とすのは困難だろう。
エリザベートは鉄球と主砲を使って艦載機を撃墜させていくが、全てを撃ち落とすことは出来なかった。
「くっ…!」
エリザベートはリコリスを展開させて艦爆の攻撃を防ぐ、先程の駆逐艦娘の豆鉄砲とは比較にならないくらいの衝撃がエリザベートに降りかかる。
(やば…!リコリスが保たないかも…!)
相手は正規空母、ましてや
「このっ…!」
しかしエリザベートの能力も負けてはいない、ひとたびけん玉を振るえば戦艦さえも中破にさせ、太刀を振れば白兵戦慣れしていない艦娘たちを斬り伏せる、陸戦特化型のエリザベートだからこそ出来る芸当だ。
「影夜叉!」
そしてエリザベートが保有している艦載機の影夜叉、夜戦特化な上に機体の性能も牡丹雪に負けず劣らずという恐ろしい代物である。
「あいつって空母なのか?見た目からして姫みたいだし、空母棲姫か?」
「空母棲姫というよりも、あの盾みたいな艤装が何だか滑走路みたいだし、さしずめ
「飛行場姫か、そりゃぴったりだな」
金剛の言葉に摩耶が愉快そうにケラケラと笑う、敵の姫の
「摩耶、回復がてら暁ちゃんの所へ行ってあげなさい、ここは私たちが引き受けるから」
「えっ、でも
「何言ってるの、見知った顔を見せて安心させてあげるのも
「それじゃアタシが普段からワンマンみたいじゃないですか…」
「違うの?」
「違いますよ!誤解されるような言い方はやめてください!」
金剛の茶化すような言い方に脱力しつつ、摩耶は暁のいる救護所へと向かっていく。
◇
「もう身体は大丈夫なのか?」
「うん、高速修復材を使って治してもらったからもう平気」
救護所にいた暁はすっかり回復してマットレスに暇そうに寝転がっていた、特に後遺症なども残っていないとの事なのですぐに復帰できるだろう。
「それより摩耶さんその身体…」
暁は摩耶の身体を見て顔をしかめる、大破寸前のダメージを受けた摩耶はあちこちに傷をつくっていた。
「ん?あぁ、こんなの少し休めばどうって事無い…」
「あれだけお腹引っ込めなって言ったのに、さらにぽっちゃりしちゃってるじゃない!」
「そっちかよ!あと腹は出てねぇよ!あぁもう、来るんじゃなかった!」
口ではそう言いつつも、暁のいつも通りの様子に安心した摩耶だった。
◇
「はぁ…!はぁ…!」
エリザベートは確実に追い詰められていた、最初こそ有利に戦っていた彼女だったが、艦娘のローテーションによる持久戦はエリザベートでもハードルが高いものであった。
「持久戦に持ち込むなんて、艦娘共も中々えげつないことしてくれるじゃない…」
そう吐き捨てるとエリザベートは自分の兵装を確認する、主砲の残弾数は残りわずか、影夜叉もだいぶ落とされてしまい残りはそう多くない、リコリスは所々に穴が空いていていつ限界を迎えるか分からない。
(引き際…って所ね)
今回の計画で新型
エリザベートは影夜叉を飛ばすと、艦爆の爆弾とはまた違う黒い弾のようなモノを落とす。
「うわっ!?煙が…!」
エリザベートが使ったのは
その隙にエリザベートは出てきた穴に再び飛び込む、その際に吹雪たちが何か言っていたような気がしたが無視、そのまま水路の奥へと姿を消した。
煙が晴れたときには当然エリザベートの姿はなく、残された艦娘たちは何ともいえない表情をしていたのだった。
その後、地下に残された台場の面々も摩耶たちの手によって助け出され、高速修復材による治療を受けて事なきを得た。
敵の撤退という幸か不幸か分からない結果に終わったが、秋葉原防衛戦は終結した。
◇
「で、これが新しく拾ってきた艦娘擬きか」
地下水路から救出された吹雪たちは瑞鶴や摩耶たちと談笑したのち、南雲から呼び出しを受けた、理由は秋葉原防衛戦中に
「お前はこれをどうするつもりだ?」
「鎮守府に連れ帰って台場の一員として迎えるつもりです」
吹雪が迷わずそう言うと、南雲は少しだけ考えるような仕草をし、やがて口を開く。
「まぁいいだろう、好きにしろ」
「…随分とあっさり引き下がりますね」
「どうせ
やけに南雲の物わかりの良い発言に吹雪が首を傾げるが、その理由を聞いて納得してしまう。
「ではその言葉、そっくり元帥にお返ししましょう、我々は
「こりゃまた随分大きく出たものだ、それなりに期待させてもらおう」
期待の感情など全くこもっていない調子で南雲は言うと、足早にその場を去っていく。
「シャクに触るのは変わらないけど、雪風の件は現状お咎め無しって事にしてもらえたし、儲けモンだね」
小さくなっていく南雲の背中を見ながらそう呟くと、吹雪も仲間たちのいる場所へと歩みを進めた。
◇
「改めまして、陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です、これからよろしくお願いします!」
吹雪たちが台場鎮守府へ戻った後、雪風の自己紹介が行われた、綺麗な白髪を揺らして敬礼をする姿はとても絵になる。
「お帰り雪風、またよろしくな」
「司令官、また貴方にお会いできるのを楽しみにしてました」
雪風は愛おしそうな目で海原を見ると、何の迷いもなく海原を抱き締める。
Deep Sea Fleetはその感動の再開に水を差すような真似はせず、何も言わずにそれを見ていた。
◇
「…何でこんなのがあるの?」
「私にも分かりません…」
吹雪と三日月が怪訝な顔をして口々に言う、例のごとく雪風にも深海棲器を選ばせた、今回雪風が選んだのは3つ。
1つ目は『
2つ目は『
そして3つ目が…『包丁』だ、サイズも刃の長さも一般的な家庭にある普通の包丁と変わらない。
「何で包丁なの?」
「室蘭時代に見てたお昼の恋愛ドラマで女性がこれを使って男性をバラバラに切り刻んでるシーンがあったので、きっと強い武器なんですよ!」
「そのドラマ絶対違うベクトルの恋愛劇だと思うよ!?」
雪風の中の恋愛観がどうなってるのかが地味に気になる吹雪だった。
次回「前世、あるいは蘇る事のない記憶」
雪風の深海棲器募集でアイデアを送ってくださった皆様、ありがとうございました!