艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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本編でも100話到達。

活動報告にて篝の深海棲器の募集を始めました。


第100話「篝の場合2」

厳しい戦いだった秋葉原防衛戦が終わり、季節は9月…秋に入った。

 

 

昼の時間が段々と短くなり、秋の夜長には鈴虫の鳴き声が心を穏やかにさせてくれる。

 

 

「うーん…」

 

 

しかし、そんな秋の夜長の情緒をすべて無視して鎮守府の食堂でうなり声を上げている者がいた、吹雪である。

 

 

「どうした吹雪、ひとりでうなったりなんかして」

 

 

「あ、司令官、実は今日Deep Sea Fleet全員で練度(レベル)を測定したんですけど…」

 

 

そう言って吹雪は測定結果の書かれた紙を海原に渡す。

 

 

「どれどれ…?」

 

 

・吹雪:Lv.151

・伊8:Lv.147

・暁:Lv.145

・三日月:Lv.144

・Z3:Lv.140

・大鯨:Lv.124

・雪風:Lv.91

 

 

 

 

「だいぶ上がったな、特に吹雪」

 

 

「140越えてから伸びが緩やかになって中々上がらないんですよ…」

 

 

そう言いながら151に乗せている吹雪に脱帽する海原だった。

 

 

「そう言えば、艦娘の練度(レベル)ってケッコンカッコカリするといくつまで上がるんですか?」

 

 

「確か155まで上がるってのは榊原所長から聞いたな、近い内に200まで引き上げるらしいけど」

 

 

「なら大演習祭(バトルフェスタ)までに155まで上げなきゃですね」

 

 

「おいおい、あんま無理しすぎるとかえって身体に毒だぜ?今の練度(レベル)でも十分高い位置にいるんだから…」

 

 

「それじゃダメなんです!」

 

 

海原がそこまで言ったとき、吹雪が声を荒げて海原の言葉を遮る。

 

 

大演習祭(バトルフェスタ)の演習は文字通り私たちの命がかかっているんです!私たちだけならともかく、司令官にもまた部下を失わせる事になってしまいます、私はもう司令官につらい思いをさせたくないんです!」

 

 

「吹雪…」

 

 

「司令官が私たちを心配してくれているのは分かっていますし、そのお気持ちはとても嬉しいです、だからこそ、私は司令官とみんながいるこの場所を、台場鎮守府を守りたいんです」

 

 

海原は何も言えずに吹雪を見つめていた、確かに大演習祭(バトルフェスタ)で勝たないと吹雪たちは雷撃処分されてしまう、それは海原としてももちろん避けたい事であるし、吹雪もそれを避けるために鍛錬に励んでいると思っていた。

 

 

でもそれだけではなかった、吹雪は自分の命のためだけではなく、自分のためにも頑張ってくれていたのだ、司令官として、家族の親として、これほど嬉しいことはない。

 

 

「…ありがとな、吹雪」

 

「いえ、司令官に受けた恩に比べれば些細なことです、絶対に大演習祭(バトルフェスタ)で勝利してこの場所を守って見せます、だから司令官は安心してどっかり構えていてください」

 

 

「あぁ、期待してるぞ、でも本当に身体には気をつけろよ?」

 

 

「それに関しては問題ありません、みんなの身体の限界はキチンと把握していますから!」

 

 

(それって裏を返せば限界ギリギリまで使い倒すって事だよな…)

 

 

スパルタっぷりに磨きがかかっている吹雪だった。

 

 

 

 

 

 

「敵艦隊発見!戦闘開始!」

 

 

その翌日、吹雪たちは出撃任務で戦闘海域に出向いていた、今回の出撃メンバーは吹雪、ハチ、大鯨、雪風、マックス、暁だ。

 

 

敵艦隊は軽巡棲艦3体と駆逐棲艦3体の水雷戦隊構成だ、Deep Sea Fleetなら余裕で勝てるだろうが、そうも言っていられない事態になった。

 

 

「…いるね」

 

「いるわね」

 

 

 

駆逐棲艦の1体が“面影”持ちだったのだ、話をしようと思ったが他の随伴艦が邪魔なのでそれを取り除かなければならない。

 

 

「総員敵艦隊を掃滅!“面影”持ちは傷つけるな!」

 

 

「「了解!」」

 

 

まずは前衛の吹雪、暁、雪風、マックスが敵艦隊へと肉薄する。

 

 

「せいやぁ!」

 

 

雪風が方天戟を横なぎに振って軽巡棲艦を攻撃、大ダメージを与える、軽巡棲艦が反撃として背中の主砲から砲弾を撃つが、雪風はギリギリまで身を屈めて姿勢を低くする事でそれをかわす。

 

 

その勢いで青竜刀を抜刀した雪風は逆袈裟を繰り出して軽巡棲艦を斬り上げる、軽巡棲艦が大破状態になり、攻撃動作が極端に遅くなる。

 

 

「これで…どうですか!?」

 

 

雪風が軽巡棲艦の頭部に主砲をぶち込む…が、軽巡棲艦はそれでも沈まなかった。

 

 

「まさか…司令艦(フラグシップ)…!?」

 

 

雪風は驚愕したように目を見開く、 実は深海棲艦の能力にも個体差が存在し、その差はかなりピンキリだ、駆逐棲艦が軽巡棲艦のスペックを上回るような例も報告されている。

 

 

そのような特に能力の高い個体を“部隊長(エリート)”、さらに能力の高い個体は“司令艦(フラグシップ)”と呼ばれている。

 

 

部隊長(エリート)司令艦(フラグシップ)の発見例はほとんどない、Deep Sea Fleetも海原から話に聞いていただけだったのだが、今回はその司令艦(フラグシップ)に遭遇してしまったらしい。

 

 

目の前の軽巡棲艦はすでに大破のダメージを受けているだろうが、油断は出来ない。

 

 

「攻撃される前に倒す!」

 

 

雪風は装備を包丁に換装させ、大破になった軽巡棲艦に何度も突き刺す。

 

 

 

「死ね…!死ね…!死ね…!死ね…!」

 

 

雪風は取り付かれたように軽巡棲艦をメッタ刺しにして殺しにかかる、とにかく相手に何もさせない、何かされる前に殺す、司令艦(フラグシップ)はそれだけ脅威となる個体なのだ。

 

 

「死ねえええええぇぇぇ!!!!!!」

 

 

雪風が魚雷を軽巡棲艦に零距離でぶつける、凄まじい衝撃が軽巡棲艦を襲い、今度こそ軽巡棲艦が撃沈となる。

 

 

雪風が吹雪の方を見やると、すでに“面影”以外の敵艦を片づけていた、どうやら司令艦(フラグシップ)は自分が戦った軽巡棲艦だけだったらしい。

 

 

「…さて、あとは目の前の“面影”だけだね」

 

 

吹雪たちは目の前の“面影”を見やる、特に攻撃するような素振りは見せず、ただ波の動きに実を委ねていた、“面影”が動いていない間に吹雪はポケットからメモ帳とペンを取り出し、“面影”のスケッチを始める。

 

 

身長は吹雪と暁の中間くらいだろうか、背中を覆う長い髪は漆黒の黒髪、うつむきがちな目は妖しげな雰囲気を思わせる紫色、黒を基調とした和服には赤色のゴシック風アレンジが施されている、和ゴス…と言うのだろうか。

 

 

「あの~、聞こえますか?」

 

 

吹雪が近づいて声をかけてみるが、“面影”は何も言わずに俯いていた、それ以降も“面影”は何の反応も見せなかったため、吹雪たちは帰投することにした。

 

 

 

 

 

 

帰投後、“面影”に遭遇した事を海原に報告し、電子書庫(データベース)で検索をかけてもらった。

 

 

「…出た、この艦娘だ」

 

 

海原はディスプレイを回転させると書いてある内容を吹雪たちに見せる。

 

 

 

 

○艦娘リスト(轟沈艦)

・名前:(かがり)

・艦種:駆逐艦

・クラス:暁型5番艦

練度(レベル):77

・所属:佐世保鎮守府

・着任:2048年12月30日

・轟沈:2050年3月10日

 

 

 

「篝…ですか、暁型なんですね」

 

 

吹雪がそう言うと、海原は顎に手を当てて眉根を寄せる。

 

 

「妙だな、史実じゃ暁型駆逐艦は4隻までだったはずなんだが…」

 

 

「造船所のオリジナルとかでは?」

 

 

「もし本当にそうなら時代錯誤もいいとこだろ、オリジナル艦艇なんて…」

 

 

そう海原は言うが、艦娘と過去の軍艦は名前だけの繋がりで史実とは一切関係無いので別段弊害があるわけではない。

 

 

(後で榊原所長にでも聞いてみるか)

 

 

そう思いながら海原は佐世保鎮守府の電話番号をダイヤルする。

 

 

 

 

 

「つーわけだから、篝に関して色々教えろ」

 

 

『いきなり電話してきたと思えばずいぶんエラそうだな、今の時間俺結構忙しいんだぞ』

 

 

「んなもん年中ヒマな台場には関係ないね、いいからとっとと情報吐け」

 

 

佐世保鎮守府提督の奥村は苛つき気味に返すが、海原はそんな事全く気にとめていない。

 

 

『…まぁ、篝は主力艦隊で活躍してた駆逐艦だったよ、真面目でいい子だった』

 

 

「へぇ~、何で轟沈しちまったんだ?」

 

 

『詳しい事は長くなるから省くが、篝の轟沈には川内(せんだい)が関係してるな』

 

 

「川内…川内型軽巡の1番艦か、何があったんだ?」

 

 

海原にそう聞かれた奥村はそれから先の言葉を躊躇うように無言になったが、やがて意を決したように口を開いた。

 

 

『篝が轟沈した理由は、夜戦中の川内による味方誤射(フレンドリファイア)が原因なんだよ』

 

 

 

「………は?」

 

 

海原は暫し無言になった後、気の抜けた声をあげていた。




次回「夜戦嫌いの川内」

エリートとフラグシップは暁編にも一度登場しましたが、まだ設定固まる前に出してしまっていたので今回の話で設定組み直しました、見切り発車怖い。

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