艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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ソフトを買ってから約7ヶ月、ようやく艦これ改をクリアしました、丁作戦(一番低い難易度)でこんな時間かかるとは思いませんでした。


今回の話の内容と103話の最後の会話の内容で矛盾が発生してしまったので103話の最後を少し書き直しました、見切り発車怖い(学習しろよ)。


第104話「篝の場合6」

事の起こりは造船所での出来事まで遡る。

 

 

 

 

 

「天使夜衣の住所が知りたい?」

 

 

吹雪と海原たちが合流して鎮守府へ帰ろうかという話になったとき、川内が榊原にそうお願いしたのだ。

 

 

「うん、教えてほしいの」

 

 

「聞いてどうするつもり?」

 

 

「実際に行ってみるの、夜衣の事が何か分かれば夜嫌いを克服するヒントが見つかるかもだから」

 

 

「…川内の言うことは確かに理にかなってるけど、あんまりおすすめは出来ないかもね」

 

 

「えっ?どうして?」

 

 

「他の艦娘ならともかく、川内は素体に容姿が似すぎてる、夜衣の知人に見つかったらトラブルになる可能性も無視できない」

 

 

榊原はそう言って腕を組む、艦娘によって個体差はあるが、艦娘の容姿は素体の容姿と似る事がある、素体を分解&再構成しているので似るのは当然なのだが、どの程度似るかは艦娘によって異なる。

 

 

川内のように瓜二つに建造される艦娘もいれば、まるで別人のようになってしまう艦娘もいる。

 

 

「トラブルにならないように注意して行動するから、なんなら監視をつけてもいいし、お願い!私の夜嫌いのせいで篝が轟沈しちゃったのに、このままじゃいけないと思うの!」

 

 

両手を合わせて頼み込む川内に榊原はどうしたものか…と頭を悩ませる。

 

 

「いいんじゃないですか?」

 

 

ここで川内に助け船を出したのは海原だった。

 

 

「篝を助けるために夜嫌いを克服する必要があるかどうかは微妙な所ですけど、それが原因で篝が轟沈してるのであれば放置するのも得策ではないと思うんで、何なら俺も付き添いますし」

 

 

その言葉が後押しになったのか、榊原が首を縦に振る。

 

 

「…分かった、ただし軽率な行動は絶対に慎むようにに、海原くんの同行の判断はそちらに任せるよ」

 

 

「あ、ありがとう!」

 

 

川内は榊原に頭を下げてお礼を言う。

 

 

「…はい、これが天使夜衣の住所、都内だからそんなに遠くはないと思うよ」

 

 

榊原から住所の書かれた書類を受け取ると、海原一行は造船所を後にする。

 

 

 

 

その翌日、早速川内は夜衣の住所を訪ねるべく都内某所へと向かった、詳しい場所はプライバシー保護のため伏せる事にする。

 

 

「…東京都内って聞いたから都会かと思ったけど、結構田舎なのね」

 

 

「東京=都会ってイメージ持ってる人多いけど、実際都会なのは23区の中心くらいだからね、そっから外れればほとんど片田舎だよ」

 

 

川内の愚痴に同行人の吹雪が返す、本当は海原が行ければ良かったのだが、大本営が緊急の司令官会議を行うとかで行けなくなってしまったので提督代理で吹雪が同行している。

 

 

ちなみに海原には三日月がついているのだが、その同行人は誰にするかでじゃんけん大会という名の殴り合いがあったのは海原は知らない。

 

 

「それで、そこが夜衣の通ってた高校だね」

 

 

吹雪が資料を見ながら目の前の校舎を見る、授業中なのかとても静かだ。

 

 

「…こうして(ゆかり)の場所を辿れば何か頭にビビッとくるモノがあるんじゃないかって思ったけど、何にも感じないや」

 

 

「そりゃ記憶を抹消されてるからね、上書きされる前のセーブデータはどうやったって復元できないよ、今の川内が持ってる前世(トラウマ)は言わばバグみたいなモンだし」

 

 

川内もその辺予想ついてたでしょ?と吹雪は他人事のように言う。

 

 

「だよねぇ…こうなったら夜衣の力を借りるしかないか」

 

 

「?」

 

 

川内の言葉の意味が分からず吹雪が首を傾げる。

 

 

「実際に夜衣の両親に会ってみるんだよ」

 

 

川内のその言葉を聞いた吹雪はこれといったリアクションはしなかったが、その目にはわずかに驚きの感情が見て取れた。

 

 

「私の姿って夜衣にすごくそっくりみたいだから、それを利用して両親に近づくの、姿が同じなら疑わないだろうし、事件のショックで記憶喪失になったって言えば色々情報吐いてもらえそうじゃん?」

 

 

川内は得意げに自分の計画を吹雪に語る、正直あまり誉められた方法ではないが、この時の川内はそれが最善の方法だと思っていた、それに加えて訳の分からない前世(トラウマ)を残していった夜衣に対する怒りや当てつけのような感情なんかもあり、ちょっとくらいこの姿を利用したって罰は当たらないだろうと考えていた。

 

 

「…ふーん、上手くいくといいね」

 

 

「絶対に上手くいくよ!」

 

 

川内は自信満々に言うが、川内の計画は最悪の結果に終わるということに吹雪は既に気付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(身を持って経験しないと、分からない事もあるしね)

 

 

 

 

 

しかし吹雪は何も言わず、哀れみにも似た目で川内を見ることしかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は川内と雪衣が対面したときに戻ってくる、雪衣は玄関に立っている川内を見るや否や目に大粒の涙を浮かべて飛びかかってきた。

 

 

(何て言うか、ここまで喜ばれると本当のこと言い辛いや)

 

 

人目もはばからず大泣きで抱きついてくる雪衣を見て騙している事に対する罪悪感を抱かないわけでもなかったが、川内はそれでも許してくれると思っていた。

 

 

(人格や記憶は変わっても身体は夜衣と同じだし、別に問題ないよね)

 

 

騙しているというわずかな罪悪感と、家の外で大泣きされているというどうしようもない気まずさをない交ぜにしながら、川内は雪衣に手を引かれて家の中に入っていく。

 

 

「…取り合えずば順調みたいね」

 

 

 

玄関先での様子を見守っていた吹雪は川内が出て来るのを待つために天使家から少し離れた曲がり角に座る。

 

 

 

「…さてと、川内はどんな顔をして出てくるかな」

 

 

口ではそう言う吹雪だが、絶対に笑顔ではないだろうと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にあなたが帰ってきてくれるなんて夢のようだわ」

 

 

「その言葉さっきも聞いたよ~」

 

 

無事天使家に潜入した川内は夜衣を演じながら雪衣と取り留めのない話をする、父親は仕事に行っているらしく、今家の中にいるのは雪衣と川内のふたりだけだ。

 

 

「それで夜衣、事件のショックで記憶が無いって本当?」

 

 

雪衣は心底悲しそうな顔をして川内を見る、雪衣には死亡した自分の身体をとある医療施設の人が頑張って蘇生してくれて、記憶喪失はその影響だと説明した、自分でもかなり苦しい言い訳だと思ったが、雪衣はそれをなんの疑いもなく信じてくれた。

 

 

(チョロいお母さんだなぁ…)

 

 

 

川内はそんな事を考えていたが、当の雪衣からしてみればひどい話である、見ず知らずの通り魔に娘を殺されかけ、あまつさえ記憶まで無くしてしまったのだ、これほど悲しいことはないだろう。

 

 

「うん…お母さんの事も、私自身のこともほとんど覚えてないの、ごめんね」

 

 

「そんなこと無いわ!これからゆっくり思い出していけばいいのよ!」

 

 

雪衣は笑顔で振る舞っているが、内心は穏やかではないだろうと川内は思う。

 

 

「それでお母さん、聞きたいことがあるんだけど…」

 

 

「何?何でも言って!」

 

 

「実は私、目覚めてから夜が怖いの」

 

 

川内はいきなり核心を突いて雪衣に問い掛ける、それを聞かれた雪衣は取り繕った笑顔に影を落とした。

 

 

「暗くなると何でか知らないけど急に怖くなるの、施設の人は殺されたときのトラウマみたいなモノだって言うんだけど、私は何か別の理由があるんじゃないかなって…」

 

 

川内がそう言うと、雪衣はその口を恐る恐る開いた。

 

 

「…今の夜衣は覚えてないかもしれないけど、あなたは元々夜…というより暗いところを怖がる子だったのよ」

 

 

「暗いところを?」

 

 

つまり夜衣は死ぬ前から夜嫌いだったということだろうか…?よく分からなかったので続きを話すように促す。

 

 

「夜衣は小学生の頃お父さんにお仕置きとして床下収納に閉じ込められたら事があったのよ、それがよほど怖かったのか、その日以来あなたは暗い場所を怖がるようになったの」

 

 

雪衣の話を聞いた川内はあっけらかんとした様子で雪衣を見る、つまり川内の夜嫌いのルーツは夜衣で、その原因を作ったのは両親ということになる。

 

 

(まさか私の夜嫌いに二段重ねの原因があったとは…)

 

 

まだ見ぬ父親に密かな怒りを沸かせる川内であった。

 

 

「今日はお父さんも早く帰ってくるだろうから、あなたが帰ってきたお祝いをしましょう、お父さんも絶対喜ぶわよ」

 

 

「…うん、そうだね」

 

 

嬉しさのあまり小躍りする雪衣を見て、川内はその罪悪感を少しずつ大きくしていった。

 

 

(…ひょっとして私、大変な事をしてるのかも)

 

 

そう思い始めた川内だったが、もう事がその程度では済まなくなっていることに、川内はついに気づく事は無かった。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、父親の天使高雅(こうが)は帰宅するや否や娘がいることにひとしきり驚いた後、男に似合わない大粒の涙を流して喜び、川内を抱きしめた。

 

 

(…お父さんも帰ってきたことだし、そろそろ本当のことを伝えよう)

 

 

川内は両親を呼ぶと、何の脈絡もなく真実を突きつける。

 

 

「ごめん、実は私、夜衣じゃないんだ」

 

 

開口一番に出た娘の台詞にふたりは固まってしまう、一体何を言ってるんだ?そう言いたげに川内を見つめている。

 

 

それを皮きりに川内は次々と真実を両親に突きつけていく、夜衣はあの日に間違い無く死んでいる事、自分はその夜衣の身体から作られた艦娘で、深海棲艦と戦うために軍に所属している事、そして“夜衣”の記憶や人格はその際に抹消され、今の自分は軽巡洋艦“川内”だということ。

 

 

「………」

 

 

 

全てを打ち明けられた両親は茫然自失といった様子で川内を見ていた、つまり、もう夜衣は…

 

 

「…てことは何?夜衣はもうこの世のどこにもいないって事?」

 

 

「はい、でも私は夜衣さんの身体から作られました、だから…」

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけないでッ!!!!」

 

 

 

 

川内が説明を続けていると、突然雪衣が声を上げて川内に掴みかかる。

 

 

 

「あなた…!今まで私たちを騙してたの!?」

 

 

「だ、騙してたことは悪いと思ってます…」

 

 

「“悪いと思ってます”?そんなモンで俺たちが許せると思ってんのか!?」

 

 

川内の言葉が高雅の逆鱗に触れたらしく、高雅も川内に迫って声を荒げる。

 

 

「俺たちは死んだと思ってた娘が、家族が生きてたって知ってめちゃくちゃ嬉しかったんだぞ!これでまた3人一緒に暮らせるって、なのにお前はそれを…!俺たちの気持ちを弄んだんだぞ!その自覚があんのか!えぇ!?」

 

 

「っ!!」

 

 

高雅にそう怒鳴りつけられ、川内はようやく自分がしでかした事の重大さに気づいた、自分は夜衣の容姿を利用して両親を…遺族の心を悪戯に傷つけたのだ、前世(トラウマ)を残した夜衣への怒りと当てつけという身勝手な理由で…。

 

 

「で、でも…先ほども言いましたが、私は夜衣さんの身体をもとに建造されました、姿だってそっくりでしょう…?それならあなたたちの娘って事に…」

 

 

自分の軽率さと浅はかさが招いた結果に身を振るわせながら、川内は弁明を続ける。

 

 

「まだ分かってねぇみてぇだな」

 

 

高雅は川内の胸ぐらを掴んでぐいっと引き寄せる、怒りに満ちた顔で迫られた川内は恐怖で身を竦ませる。

 

 

「姿形は夜衣でもその記憶や人格は全くの別人、それを夜衣って言えんのか!そんなもん、夜衣の皮を被った偽物じゃねぇか!」

 

 

「…あ」

 

 

川内は自分の認識がまだ甘かった事を自覚する、確かに川内の容姿は夜衣そのものだ、しかし夜衣の記憶や人格、その他諸々の情報はすでに抹消されている、つまり、“天使夜衣”という自我はもうこの世のどこにも存在してないのだ、その空っぽになった夜衣の中に存在しているのは“川内”という全くの別人格、そうなってしまえばもう夜衣ではなくなってしまう、高雅の言うとおり夜衣の皮を被った“何か”だ。

 

 

「…申し訳ありませんでした」

 

 

高雅から解放された川内はそのまま土下座をして雪衣と高雅に謝罪する、当然こんな事で許されるものでないというのは重々承知しているが、今の川内にはこれしか思いつかなかった。

 

 

「…出ていけ、二度とその面を見せんじゃねぇ」

 

 

高雅は静かに川内に言った、そう言われた川内はゆっくりと立ち上がったが、すぐに出て行く気にはなれなかった。

 

 

「あの……本当にごめんなさ…」

 

 

「出ていけって言ってんだよ!夜衣(にんげん)の皮を被った艦娘(バケモノ)が!」

 

 

「っ!」

 

 

高雅から浴びせられたその言葉は、鋭いナイフのように川内を貫いた。

 

 

「…お邪魔しました」

 

 

川内はそのまま回れ右をしてリビングを後にする。

 

 

「今回の事は、本当に申し訳ないと思っています…」

 

 

去り際に川内はせめてもの思いでその言葉を口にしたが、ふたりからは何も返ってこなかった。

 

 

天使家を出た川内は吹雪と合流するために歩き始めたが、堪えきれなくなったモノが目から溢れ出して視界を塞ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、最低だ…」

 

 

今の川内に、涙を堪えることは出来なかった。




次回「たとえ偽物でも…」

そう言えば川内が出て来るまで吹雪何してたんだろう…

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