艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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お久しぶりです、最近仕事が忙しくてすっかり遅れてしまいました…




第107話「篝の場合9」

川内と吹雪の奮戦もあり、雪衣たち避難住民は無事に避難用シェルターにたどり着くことが出来た、このシェルターは地下に造られている巨大な建造物であり、この地域の住民を全員収容しても余裕がある程の規模である、救護用の医療設備や炊き出し用の調理設備、さらには艦娘用の簡易ドックも完備されている最新鋭のモノだ。

 

 

「うわ、すごい人」

 

 

シェルターの中はすでにほとんどの住民が入っており、皆それぞれ不安そうな顔で身を寄せ合っていた、辺りには駐屯基地の海軍職員や艦娘たちが住民を励ましたり負傷者の救護にあたっている、中には炊き出しをしている艦娘もおり、温かいスープを作って配っていた。

 

 

「すみません、ドックの使用許可貰ってくるんで川内さんを少しお願いしてもいいですか?」

 

 

「えぇ、大丈夫よ」

 

 

吹雪は川内を雪衣ひとりに一旦任せると、ドック管理室に向かっていく。

 

 

(にしてもこの子、本当に重いわね…)

 

 

雪衣は川内を支えながら心の中でぼやく、今の川内は出血量を抑えるために艤装を展開させたままになっているので体重が重くなっている、そのため吹雪と雪衣のふたりで運んでいた。

 

 

(こんなになるまで私たちを…)

 

 

しかし、それを知っていながら吹雪の頼みを断らなかったのは雪衣なりに何かしら思うところがあったのだろうか。

 

 

「…ごめんなさい、こんな所で迷惑かけて…」

 

 

「…別に迷惑だとは思ってないわよ、昨日のことを許したわけじゃないけど、こんなになるまで私たちを守ってくれたことには素直に感謝してるし、ありがとね」

 

 

「雪衣さん…」

 

 

 

ツンケンしているものの、若干の照れ隠しが見て取れる雪衣の言葉を聞いて川内は自然と顔を綻ばせてしまう。

 

 

 

「雪衣!大丈夫だったか!?」

 

 

ふたりがそのまま吹雪を待っていると、高雅が雪衣のもとへ駆けてきた、高雅は近くの会社に勤めているらしいのでそこから避難してきたのだろう。

 

 

「っ!?お前…!何で雪衣と一緒にいるんだ!」

 

 

高雅は雪衣のそばに川内がいることに気付くと、親の敵を見るような目で川内を睨む。

 

 

「高雅、これには訳が…」

 

 

「とっとと雪衣から離れろ!」

 

 

高雅は雪衣の助け舟も待たずに川内を突き飛ばす、その反動で転倒した川内は尻餅をついたが、片腕が無いので上手くバランスを取ることが出来ずそのまま上半身を倒してしまう。

 

 

「ってお前、その腕…!」

 

 

ここで高雅は川内の左腕が無いことに今更気付く、破れた服の袖口で上手く隠されているが千切れた肉や骨の断面は中々にエグい事になっており、そこからは血液がポタポタと滴り落ちている。

 

 

「深海棲艦に持って行かれまして、でも入渠すれば治るので大丈夫です」

 

 

艦娘から見れば四肢欠損はままある(それでも重傷な事には変わりないのだが)事だが、人間から見れば卒倒ものの光景である、川内は高雅に気を使ってそう言ったが…

 

 

「別にテメェの心配なんかしてねぇよ、気持ちの悪ぃバケモノだと思っただけだ」

 

 

高雅は川内の心配などこれっぽっちもしていなかったようで、川内の発言を一蹴する、民間人からこのような言葉を言われることは初めてではないが、やはり面と向かって言われるとくるモノがある。

 

 

「川内さん、入渠ドックの使用許可もらってきたよ…ってどうしたの?」

 

「…いや、ちょっとバランス崩しちゃってね、転んじゃった」

 

 

倒れている川内を見て吹雪は怪訝な顔をするが、川内は適当にごまかす。

 

 

「気をつけなきゃダメだよ?じゃあドック行こうか、雪衣さん、ありがとうございました」

 

 

吹雪は雪衣に軽く会釈をすると、川内を連れて入渠設備のある部屋へと向かう。

 

 

「…何であいつと一緒にいたんだ?」

 

 

「シェルターに着くまであの子が守ってくれたのよ、あんなにボロボロになってまで…ね」

 

 

「ハッ!それがあの艦娘(バケモノ)の仕事だろ?何を当たり前のことを…」

 

 

高雅はバカバカしいといった様子で言うが、雪衣だけはどこか浮かない顔をしていた。

 

 

 

 

高速修復材を使ってドック入りした川内はすぐに完全復活した、千切れた腕も完全に元通りになり、後遺症なども見られなかった。

 

 

「はーい!スパイスの香りが決め手の海軍特性カレー、配膳はこちらとなっておりまーす!」

 

 

そして今、川内は吹雪と一緒に夕食のカレーの配膳を手伝っていた、ちなみに警備艦隊の報告によると侵攻してきた敵艦は全滅が確認されており、明日には避難住民を帰しても大丈夫だろうという結論が出た。

 

 

「…これで全員に行き渡ったかしらね、あなたたちも食べてきなさい」

 

 

一通りカレーの配膳が終わった頃、駐屯基地所属の艦娘…雲龍型航空母艦3番艦の『葛城(かつらぎ)』が川内と吹雪に言う。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「お先に頂きます」

 

 

吹雪と川内はカレーの乗ったお盆を受け取ると、適当な場所に座って食べ始める。

 

 

「そう言えば川内さん、雪衣さんの説得はどうするの?」

 

 

「うーん…出来れば続けたいけど、こんな状況じゃ話聞きたくても無理だよ…」

 

 

「だよねぇ…」

 

 

その後もうんうん頭を悩ませていたが、結局いい案は浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「川内さん、大丈夫?」

 

 

「うん、カンテラあるからなんとか」

 

 

その日の深夜、川内と吹雪は見張りのためにカンテラ片手にシェルター内を歩き回っていた、深海棲艦の夜襲を警戒した方がいいという葛城の意見からシェルター周辺とシェルター内での見張りを行っているのだ。

 

 

「吹雪、今何時くらい?」

 

 

「えーっと…午前2時だね、草木も眠る丑三つ時~」

 

 

「私の心臓にダメージ与えてくるのやめてくれる!?カンテラあるから多少は大丈夫だけどかなり怖いんだからね!?」

 

 

「ごめんごめん…」

 

 

てへぺろ☆と吹雪は可愛く謝ると、2体はそのまま見張りを続ける。

 

 

「…ん?」

 

「誰か泣いてる…?」

 

 

それから10分程たった頃、子供の泣き声が聞こえてきた。

 

 

「こんな状況だし、小さい子とか泣いてるのかもね」

 

 

「えーっと…どこだろう?」

 

 

泣き声の発信源に行ってみると、未就学児くらいの女の子が不安そうに泣いており、女の子の母親が必死にあやしていた、その隣ではなぜか雪衣も一緒になってあやしていた、多分泣き声に起こされて手伝っているのだろう。

 

「どうしたんですか?」

 

 

「それがこの子、急に泣き出して止まらなくなっちゃって…」

 

 

「どうしたのかしら…」

 

 

母親と雪衣がほとほと困り果てた様子で女の子を見る、泣き声はそれほど大きくはないが、周りの迷惑になっているのは間違いないだろう、現に近くにいる何人かの人が睨むようにこちらを見ている。

 

 

「…すみません、私にやらせてもらってもいいですか?」

 

 

ここで協力を申し出たのは意外にも川内だった。

 

「えっ?あんた子供あやせるの?」

 

 

「こう見えても自身あるんですよ、子守歌を使ってあやすのが得意なんです」

 

 

「今時子供が子守歌で寝るのかしらね…」

 

 

半信半疑といった様子で雪衣は川内を見るが、川内は気にせず子守歌を歌い始める。

 

 

「遠い昔の記憶~波間に揺蕩(たゆた)う~」

 

 

 

正直あまり子守歌っぽくない歌詞だが、歌の出だし聞いた瞬間雪衣が目を剥いた。

 

 

「…嘘、何で…?」

 

 

ありえない、彼女がこの歌を知っているわけがない、だってこの歌は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜衣が小さかった頃に聞かせてた、私のオリジナルの子守歌なのに…

 

 

 

 

(川内、あんたはやっぱり…)

 

 

 

 

 

その翌日、避難住民の帰宅が済んだ頃、吹雪と川内は再び天使家を訪れていた。

 

 

『今日この後うちに来て、話したいことがあるの』

 

 

今朝雪衣からそう言われたときは驚いた、一体何を話してくれるのだろうか…?

 

 

「まさか雪衣さんからお呼びがかかるとは思わなかったよ」

 

 

「本当だよね」

 

 

川内がインターホンを押すと、玄関から雪衣が出て来た。

 

「いらっしゃい、入って」

 

 

そう言って雪衣は2体を家の中に招き入れる、そこには昨日の怒りや憎しみといった感情は見られなかった。

 

 

リビングに入ると高雅が既に席に着いていた、それを見た川内は一瞬苦い顔をするが、すぐに元に戻す。

 

 

「それで、お話というのは…?」

 

 

吹雪と川内、雪衣と高雅が向かい合うように席に着くと、早速川内が本題に入る。

 

 

「そうね…じゃあまず川内、あなたには夜衣の記憶が多かれ少なかれ残ってるのよね?」

 

 

「はい、といっても殺されるときの恐怖くらいしか残ってないですけど…」

 

 

川内はそう苦笑しながら言うと、雪衣は次の質問を投げかける。

 

 

「あなたは、それが嫌だって思ったことがある?」

 

 

「それは…」

 

 

雪衣にそう聞かれた川内は答えに詰まる、確かに川内は最初夜衣の前世(トラウマ)をよく思っていなかったし、はっきり言って夜衣に対する怒りの感情すらあった。

 

 

「はい、最初の頃はそういった感情もありました、夜衣の記憶のせいで自分が夜嫌いになって、それで怒りを感じることもありました」

 

 

でもここでそれを隠すことは許されない、川内は包み隠さず全てを打ち明ける。

 

 

「…でも、今は違います、夜衣の過去を知った今はこの前世(トラウマ)も理解できるし、あなた方と会って夜衣は確かにいたって事も分かりました、それに私と夜衣は同じ存在です、私が夜嫌いを克服出来れば、私の中の夜衣も恐怖の記憶を乗り越える事が出来ると思っています、だから私はもう夜衣から逃げません、私は夜衣と一緒に生きていきます」

 

 

そして、今の自分の本音を余すところ無くふたりに伝える、せっかく雪衣が用意してくれた最後のチャンスをふいにしたくはない。

 

 

「…そう、ありがとう、やっぱりあなたに話を聞いて正解だったわ」

 

 

そう言って雪衣はテーブルの上に何かを置く。

 

 

「…髪飾り?」

 

 

それは髪飾りだった、赤いリボンに銀色の球のようなモノが付いている、比較的シンプルなデザインの髪飾りである。

 

 

「…あれ?」

 

 

それを見た瞬間川内はある違和感を覚えた、このような髪飾りを見るのは初めてなのに、なぜか初めて見たような感じがしない、デジャヴ…というやつだろうか?。

 

 

「それは夜衣が生前身に付けていたモノなのよ、つまりあの子の形見」

 

 

「あぁ、それで…」

 

 

それを聞いた川内は納得する、自分の中にある夜衣の記憶にこの髪飾りは琴線に触れるものがあったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたに、これを受け取ってほしいの」

 

 

「…えっ?」

 

 

川内はそのまま固まってしまっていた。




次回「招かれざる客」

ちなみに雪衣が出した夜衣の髪飾りは川内改二が付けているアレを想像してもらえれば分かりやすいと思います、ずっと花の髪飾りだと思ってたんですけど、画像見たら全く違った。

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