艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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大鳳編早くもクライマックス突入です。

読み切り小説として「艦隊これくしょんー空母棲艦赤城ー」を投稿しました、DSFの最初期設定が元になってます、ちなみに読み切りなので続きはありません。


第119話「大鳳の場合6」

虚像天体(プラネタリウム)の星空の下、吹雪と裏吹雪は戦っていた、この偽物の世界で彼女と戦うのはもう何度目になるだろうか、ひょっとしたら数えるのを諦めるくらいかもしれないし、案外片手で事足りるくらいかもしれない、この世界ではどうにも記憶が曖昧だ。

 

 

『それで、私のことは思い出してもらえた?』

 

 

裏吹雪はナギナタを振るいながら吹雪に問い掛ける。

 

 

「…どういう意味?」

 

 

吹雪は裏吹雪の言葉の意味が分からず首を傾げた、いや、分かりたくなかったというほうが正しいのかもしれない。

 

 

『そのままの意味よ、私はあなた自身なんだからすぐに思い出せそうな気がするんだけどね』

 

 

裏吹雪はどこかおちゃらけた態度で吹雪に言う、それを聞いた吹雪の顔には焦りの色が浮かんでいた。

 

 

「違う!私は私ひとりよ!あなたなんて知らない!」

 

 

『あらあら、随分な言われようね、私はあなたから生まれたのに』

 

 

「…えっ?」

 

 

裏吹雪の言葉に吹雪は目を見開いた、目の前の裏吹雪は、自分から生まれた…?

 

 

「ど、どういうこと!?」

 

 

『それはあなた自身がよーく知っているはずよ、本当は全部思い出してるんじゃないの?』

 

 

裏吹雪はそこまで言うと、“時間だ”と呟いて闇に溶けるように消えていく。

 

 

「……………」

 

 

偽物の世界から追い出されるまでの間、吹雪は裏吹雪がいた場所をずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うぅん?」

 

 

目が覚めると吹雪は布団の中で寝ていた、場所は青森の宿である。

 

 

(そっか…確か司令官と三日月で西村さんの奥様に…)

 

 

そこまで考えて吹雪は右を向く、そこには海原が気持ちよさそうな表情で眠っていた。

 

 

壁掛け時計を見るとまだ午前5時だった、起きるのには少しだけ早いだろう。

 

 

「…少しだけ、独り占めしてもいいよね」

 

 

そう呟くと、吹雪は海原が起きるまでの間、彼の寝顔を堪能していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~うめぇな、吹雪たちが作る飯も美味いけど、こういう宿で食う朝飯ってまた違った美味さがある」

 

 

「分かります、なんかこう、特別感があるんですよね」

 

 

「はい、とても美味しいです」

 

 

海原が起床したあとは食堂で朝食をとる、バイキング形式なので好きなモノをとれる、こういうホテルや旅館で食べる食事はいつもより美味しく感じる不思議な魔力がある。

 

 

「今日は雪風たちへの土産を適当に買って帰ろうと思うんだが、それでいいか?」

 

 

海原は吹雪の方を向くが、吹雪は箸を止めて何かを考え込むようであった。

 

 

「吹雪?吹雪~?」

 

 

「…はっ!?はい!」

 

 

「大丈夫か?なんか考えてたみたいだけど」

 

 

「は、はい!大丈夫です!」

 

 

吹雪はそう言って取り繕うが、内心は今朝の夢の事を考えていた。

 

 

(裏吹雪って…本当に何者なんだろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

売店で適当に留守番組への土産を買った海原と吹雪は台場鎮守府へと帰ってきた、行きも帰りも新幹線を使ったのだが、普段乗ることのない新幹線に吹雪と三日月がはしゃいでいたのはここだけの秘密である。

 

 

「お帰りなさい司令官、青森はどうでした?」

 

 

「ただいま雪風、別に観光とかはしてないよ、旅行目的じゃないし」

 

 

「あれ、そうだったんですか?別にもっとゆっくりしていっても良かったんですよ?」

 

 

「んなワケに行くか、それより大鳳はどうしてる?」

 

 

「大鳳さんなら、暁さんたちと提督室で桃鉄やってます」

 

 

「すっかり台場に馴染んでるな…」

 

 

海原は苦笑しながらお土産を雪風に渡すと、大鳳のいる提督室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…そうですか、提督は亡くなっていたんですね…』

 

 

海原の報告を聞いた大鳳は悲しそうに目を伏せる。

 

 

「すまない、でかい口叩いておきながらこんな事に…」

 

 

 

『いえいえそんな!ここまで調べていただいただけでも十分ですから!』

 

 

大鳳は慌てて首を振って海原に言う。

 

 

「それで、妥協案ってワケじゃないんだが…」

 

 

海原は大鳳に青森で考えていた事を話す、西村の墓がある霊園の場所を聞いたこと、墓参りの許可を西村の妻から貰った事を。

 

 

「…というわけだ、もしお前が西村さんの墓参りを望むなら、青森まで連れて行ってやる、どうする?」

 

 

『行きます!』

 

 

大鳳は海原の提案に即答で応じる。

 

 

『会えないのなら、せめてお墓の前であの人に気持ちを伝えたいです』

 

 

 

「…分かった、俺たちに任せろ」

 

 

 

 

 

 

その翌日、早速海原は大鳳を連れて再び青森までやってきた、今回は吹雪に加えて篝も連れている。

 

 

『あの…本当にこれで大丈夫なんでしょうか…』

 

 

「パーカーのフードは目深に被ってるし、深海棲艦の身体は長袖長ズボンの服で隠れてるからへーきへーき」

 

 

「そんな適当で良いのですか司令官…?」

 

 

すこぶる軽い海原の態度に篝は溜め息をつく、海原一行は西村の妻に教えて貰った霊園に来ていた、海原たち以外に墓参(ぼさん)客はいなかったので深海棲艦の身体が目立たないように変装させた大鳳が怪しまれることもないだろう。

 

 

「…ここだな」

 

 

海原がある墓石の前で足を止めた、場所もメモに書いてある通りだし、墓石にも西村の名前が書いてある。

 

 

『…提督』

 

 

大鳳は黙って西村の墓石を見つめていた、会いたいと切望していた人物がこんな姿になっている、そのショックは小さくはない。

 

 

海原が線香に火を付けて墓石に立てる、そして手を合わせようとしたとき、海原以外の墓参(ぼさん)客がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、あなたは確か…海原さん」

 

 

西村恭吾の妻…西村織恵(おりえ)だった。

 

 

 




次回「本当の娘のように」

キャリア~掟破りの警察署長~という刑事ドラマが面白い今日のこの頃。

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