艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
艦これアーケードのイベントで敵が2艦隊同時にエンカウントする、という擬似連合艦隊みたいな新要素がありましたが、そのうちブラウザー版でも敵が連合艦隊で来るというフラグなんじゃないかとビクビクしています。
実際敵が12体で来られたら確実に死ぬ。
もんじゃ屋に着いた2体は早速もんじゃを注文、瑞鶴はシーフードもんじゃで加賀は明太子餅もんじゃだ。
「瑞鶴、キャベツはもう少し細かく切った方がいいわよ」
「そうですか?ならもう少し…」
ヘラでキャベツをザクザク切りながら取り留めのない話をする。
「もうすぐ冬本番になるわね、今のうちに冬物とか出しておいた方がいいわよ」
「そう言えばもうそんな時期なんですね、寒くなるなぁ…訓練めんどくさい…」
「ちゃんとサボらないでやるのよ、あんまり怠けてばっかりだと翔鶴に稽古付けてもらうからね」
「それだけは勘弁して下さい!」
悪夢を思い出すような表情で瑞鶴は身体を震わせる、翔鶴は造船所時代の先輩で艦載機操作の教官をつとめていたのだが、あまりにも訓練が厳しくて瑞鶴の心にトラウマを残している、そのため翔鶴は瑞鶴が一番苦手としている艦娘だ。
「翔鶴さんの訓練だけは二度と受けたくないです…」
「そうは言いつつも去年翔鶴の戦闘訓練あなた受けてるのよね、リアルに血反吐を吐いてる姿を見るのは流石に初めてだったけど」
「コントロール・ランを7時間ぶっ続けでやったときは死ぬかと思いましたよ」
もんじゃをチビチビ食べながら瑞鶴は遠い目をして言う、コントロール・ランというのは艦載機を操作しながら相手の空撃をかわすという空母艦娘が行っている戦闘訓練の一つだ、手元で艦載機を操作しながら上空から来る空撃をかわさなければいけないため、かなりの技術と集中力を要する。
「私も出来るだけそれは避けたいけど、実戦で支障が出るようだったら考えるからね」
「はい…」
加賀にしっかりと釘を刺された瑞鶴はしょんぼりしながらもんじゃを口に運ぶ。
(まぁ、可愛い後輩があそこまでボロボロになるのは見たくないし、瑞鶴には頑張ってもらいたいわね)
そう心に思った加賀だったが、なんだか恥ずかしくて口には出さなかった。
◇
次に2体がやってきたのは原宿の雑貨屋だ、ファンシー系からゲテモノ系まで幅広い品揃えを売りにしている話題の店である。
「あ、これ加賀先輩に似合うんじゃないですか?」
そう言って瑞鶴はイルカのキーホルダーを手に取る。
「中々可愛いわね、なら瑞鶴はこれかしら」
加賀が手に取ったのは純白の翼を生やした天使の女の子のキーホルダーだ。
「えぇ~?私そんな純真な艦娘じゃないですよぉ…」
瑞鶴は気恥ずかしそうに言う。
「そう?ならこっちは…」
「天使の方でいいです」
なら代わりにと手に取ったグロテスクなスライムのキーホルダーを見て音速のスピードで天使のキーホルダーを受け取る瑞鶴、流石にそこまで心が汚れてはいない(たぶん)。
◇
雑貨屋を出た瑞鶴と加賀は原宿に移動した、目当ては雑誌で特集されていたクレープ屋台である。
「やっぱ原宿と言えばクレープですよね」
「例の屋台はこの先少し行った所にあるみたいよ」
「よーし、早速行きましょう!クレープが私たちを呼んでいる!」
「あんまりはしゃがないの、もう…」
ルンルン気分で先を行く瑞鶴にため息をつく加賀。
「あの~、すみません」
その時、2体のもとにひとりの男が近付いてきた、年齢は25代半ばといった辺りだろうか、スーツを着ており真面目そうなビジネスマンといった印象だ。
「…はい?」
突然見知らぬ男性に声をかけられ怪訝な顔をして振り向く。
「突然すみません、僕はこういう者です」
男はポケットから名刺を取り出して瑞鶴に渡す、彼は芸能プロダクションの人間で
「…しかもこのプロダクションかなり大手じゃない、有名なアイドルや役者なんかの著名人を多数輩出してるってこの間テレビの特集でやってたわよ」
「そんなプロダクションの方が私たちに何用で?」
城崎の意図が分からず2体が首を傾げる。
「実は今、今度結成しようと思っているアイドルユニットの人材を探していてね、声をかけて回っているんだ」
「えっ、それってつまり…」
「スカウト…?」
2体の疑問に城崎は首を縦に振って肯定する。
(そう言えば原宿って芸能人のスカウトも多いって聞いてたけど、本当にスカウトってあるんだ…)
内心驚きながら瑞鶴は城崎の話を聞く。
「ちょっとそこの喫茶店で話だけでも聞いていきません?」
「せっかくのお話ですけど、お断りさせてもらいます、芸能界に興味は無いので…」
瑞鶴は城崎の話をやんわりと断る、スカウトを受けて嬉しくないわけではないが、自分は軍属の艦娘だ、そんな事は出来ない。
瑞鶴に断られた城崎は大人しく引き下がって人混みの中に消えていく。
「運が良かったわね、ああいうスカウトはネチネチ付きまとうタチの悪い人もいるって聞くし」
「そうなんですか?なら気をつけないとですね」
スカウトを受けたという驚きを胸に残しながら2体はクレープ屋台へと向かっていく。
◇
「んまーい!このイチゴホイップ最高!」
「このバナナチョコカスタードも中々いけるわよ」
瑞鶴と加賀は近くのベンチに座ると目的のクレープに舌鼓を打つ、互いのクレープを食べさせあう姿は色んな意味で微笑ましい光景だ。
「瑞鶴は本当に楽しそうね、ただあちこち歩き回ってるだけなのに」
「加賀先輩とだから楽しいんですよ、先輩と来れて本当に良かったです!」
クリームを頬に付けながら笑顔を向けてくる瑞鶴を見て、加賀も自然と顔を綻ばせる。
「…えぇ、私も瑞鶴と来れて良かったわ、あなたは私の大切な後輩で、親友だもの」
「はい!私も加賀先輩は大切な先輩で親友です!」
そう返してくる瑞鶴は、とびっきりの笑顔だった。
◇
空が夕焼けに染まり始めてきた頃、それぞれの鎮守府に帰ろうと再び東京駅に戻ってきた瑞鶴と加賀、すると瑞鶴が気になる光景を目にした。
「…ん?」
ひとりの少女が困った顔で地図を見ながら同じ場所を行ったり来たりしているのだ、おそらく迷ってしまったのだろう。
「先輩…」
瑞鶴は少女の方を指差しながら控えめに加賀に話し掛ける、それを見て瑞鶴の言わんとしていることを察した加賀は何も言わずに頷いた。
「君、どうしたの?」
瑞鶴はウロウロしている少女に声をかける、話を聞くと電車の乗り場が分からなくなってしまったらしい。
瑞鶴が乗り場まで案内すると言うと、少女がぱぁっと笑顔になってお礼を言う。
(本当に瑞鶴はお人好しね)
それを見ていた加賀はそう心の中で思ったが、それが瑞鶴の良いところなのだと、また同時に思っていた。
◇
「へぇ~、親戚の家に泊まりに行った帰りなんだ、見た感じまだ中学生くらいでしょ?それなのにひとりで来るなんて立派だよね」
「最近の子はこれくらい普通ですよ?」
「そうなの!?すごいな~」
乗り場までの移動中、瑞鶴と加賀は少女と他愛のない話をしていた、少しの時間だったが、外部の人間と話すのは久し振りだったので楽しかった。
「ほら、ここの電車に乗れば大丈夫だよ」
5分程で目的の電車乗り場にたどり着いた、時間にすればたいしたことはないが、東京駅は大きくて広い上に乗り場や乗り入れている電車の数も多いのだ、地図を見ても迷ってしまうのは仕方ないだろう。
「ありがとうございました、
少女はぺこりとお辞儀をすると乗り場の方へ向かっていった。
「それじゃ、私たちも行きましょうか、また予定が合ったら出掛けましょう」
「はい、今日はありがとうございました!また行きましょうね!」
瑞鶴も加賀と別れると、目的の電車に乗るために構内を歩く。
(…あれ?そう言えば、私が艦娘だって事、あの女の子に話してたっけ…?)
一瞬そんな事を考えた瑞鶴だったが、それはすぐに構内の雑踏の人の流れのように記憶の彼方へと消えていった。
初の番外編でしたがいかがだったでしょうか?
他にも番外編は考えているので気長にお待ち下さい(汗