艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
いい加減榛名来てください、第四艦隊が解放できません。
「ちょっと…!何あれ!?」
「吹雪…だよね?大丈夫なの?あれ…」
反転した吹雪を見て瑞鶴たちが揃って目を剥いている、かく言う台場メンバーもこの事態に多少の焦りを感じていた、また前のように暴走したらどんな事になるか分からない。
「ん?司令官、あそこ…」
そう言って雪風が吹雪の方を指差す、すると吹雪がこちらを向いて親指を上に立てていた、俗に言うグッジョブの仕草である。
「吹雪さん、ひょっとして自我がある…?」
その吹雪の仕草を見て暁がぽつりと呟く、他の台場メンバーも暁と同意見のようで、どこか安心した表情になる。
「…詳しい事情は分からないけど、どうやら大丈夫なようね」
台場メンバーはホッと胸をなで下ろし、三日月は未だに事態を飲み込めていない瑞鶴たちに反転の事情を説明していた。
◇
「吹雪…さん…?」
突然の反転に大鳳が呆然として吹雪を見つめる、大鳳は以前三日月たちから反転の話を聞いたことがあった、そのときは突然人が変わったように好戦的になり、一種の暴走状態になっていたと聞く。
「大鳳さん、多分驚いてると思うけど、今の私はちゃんと自我も正気もあるから、安心して」
そう言ってにっこり笑う吹雪の顔は、確かに反転前に見せるあの笑顔だった。
「…はい、分かりました!」
その笑顔を見て大鳳は安心した、大丈夫、いつもの吹雪だ、何らかの事情があってその姿になったのだろうが、ちゃんと吹雪だ、何も心配する事はない。
「大鳳さん!援護よろしく!」
「任せてください!」
「リーザ!行くよ!」
『オーケー!思いっきりやっちゃえ!』
大鳳に援護を任せて吹雪は武蔵に向かって突撃する。
「どんな手を使おうが無駄なことだ!この武蔵には勝てないぞ!」
武蔵は主砲と副砲による砲撃を行うが、弾丸斬りとスピードによって全てかわされてしまう。
「さっきよりも速い…!」
武蔵はあっという間に距離を詰められ、
(ぐっ…!さっきよりも重い…!?)
耐久値の減りが先程よりも激しいことに武蔵は驚きを隠せない、やはり姿が変わった事が理由のようだ。
「調子に…乗るなぁ!」
武蔵は反動から立ち直った主砲で吹雪を狙い撃ちにする、弾丸は吹雪に直撃し、凄まじい轟音が鳴り響く。
「はははは!どうだ!我が主砲の威力は!?」
武蔵は高らかに笑いながら立ち込める硝煙が晴れるのを待つ。
しかしそこにあったのは、戦闘不能になっている吹雪などではなく…
「そうですね、一つ言わせてもらうなら…“この程度ですか”?」
大型のタワーシールドで武蔵の主砲撃を防ぐ大鳳の姿があった。
「何だと…!?」
「装甲空母の防御力…ナメてもらっては困りますよ!」
そう言って大鳳は驚いて固まっている武蔵に向かってフルスロットルで突進する、それに遅れて反応した武蔵は副砲で迎え撃とうとするが間に合わない。
「
大鳳が左右の手に装着しているタワーシールドで武蔵を思い切り殴りつける。
「がっ…!?」
重い一撃を食らった武蔵は意識を持って行かれそうになるが気合いで踏ん張る、一般的に盾は攻撃から身を守るための防具であるが、その材質は鉄や鋼などの金属類だ、十分鈍器としても扱える。
(…大破か)
大鳳の攻撃で武蔵の耐久値が大破相当になる、もう何発か食らえば戦闘不能は免れない。
「
「
吹雪のナギナタと大鳳の
「これでトドメ!」
吹雪は渾身の右ストレートを武蔵にぶつけようと右腕を振りかぶる。
「…へ?」
しかし拳が武蔵に当たる瞬間、武蔵は装着していた
それによりスピードが上がった(というより元に戻った)武蔵は吹雪の攻撃を紙一重でかわす。
「いつまでも同じだと思っていたら大間違いだぞ?」
吹雪の右ストレートは空を切り、勢い余って前面によろける、いわゆる“空振り”というやつだ。
「これでトドメだな」
武蔵は主砲、副砲を全て吹雪に向けて狙いを定める、その後ろでは大鳳が砲撃妨害のためにボウガンを展開させているが、矢の装填が間に合わない。
「終わりだ」
吹雪がやられる、誰もがそう思ったそのとき…
『終わり?それはどうかしら?』
吹雪が拳銃を展開させ、背後を一切見ずに武蔵を正確に狙撃した。
「何!?」
銃撃に怯んだ武蔵は砲撃に失敗、その隙に吹雪は武蔵の背後に回り込む。
「ありがとうリーザ!」
『これくらいどうってことないわよ』
リーザはどこか誇らしげに言った、武蔵に砲撃される寸前、リーザが吹雪の身体を操作して武蔵を銃撃したのだ。
「このクズがあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
ことごとく攻撃の邪魔をしてくる吹雪に武蔵は完全に頭にきたらしく、素早く後ろを向くと吹雪のいる方へとにかく砲撃をしまくる。
「ぐああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
狙いも定めていないデタラメな砲撃だったが、そのうちの一発が命中して吹雪は大きく吹き飛ばされる、深海棲艦の反転による能力上昇と
何とか反撃の一手を考えなければ、そう思っていた吹雪は吹き飛んだ先に大鳳がいることに気づく、このままでは大鳳に激突してしまうが、大鳳がタワーシールドを持ったままなのを見てある作戦を思いつく。
「リーザ!やれる!?」
『任せて!』
直接口に出さなくても以心伝心で吹雪の作戦はリーザに伝えられる、そしてリーザからオーケーをもらった吹雪は身体の操作権を一部リーザに任せる。
「大鳳さん!タワーシールドをそのままにしててください!」
「えっ、えっ!?」
突然そんなことを言われて困惑する大鳳をよそに、吹雪は大鳳の所までたどり着くと…
『いっけえええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!』
大鳳のタワーシールドを思い切り踏みつけ、その反動を利用して再び武蔵に向かって飛んでいく。
「何だと!?」
さすがにこれには武蔵も口をあんぐりと開けて呆然とするばかりであった。
(マズい!反撃しなければ…!)
武蔵は砲撃を行おうとするが…
(しまった!反動が…!)
主砲も副砲も同時に撃ってしまったため、どちらもまだ反動から立ち直っていないのだ、つまり今の武蔵は何も出来ないただの的である。
「これで本当にトドメよ!」
『手加減なんかせずに思いっきりやっちゃいましょう!』
吹雪とリーザは
「や、止めろ!よせ!私は、私は!最強の艦娘、大和型の…」
「『
吹雪とリーザ、2体の力がこもった一撃が武蔵の顔面を捉える。
「ごぼぉ!」
武蔵-戦闘不能。
勝者-台場鎮守府「Deep Sea Fleet」。
「…………」
勝った。
目の前で倒れている武蔵を見ながら、吹雪はその現実を受け入れる、勝った、駆逐艦ばかりの、それこそ舐めプとしか思えないような艦隊が、戦艦空母のガチ編成艦隊に勝った。
直後、観客席から拍手と歓声が沸き起こった。
次回「表彰式」
第二章も終わりが近づいてきました。